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動き出した未来
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ママが入院することになった。
最近のママはずっと夜のお仕事に出かけていて、お化粧をしてきらきらしたお洋服に身を包んで家をでていく。そんなお姫さまみたいにきらきらしているママの姿はわたしの憧れだった。
だけど、お姫さまはいつもいつもわたしにお弁当を残していく。コンビニで買ったお弁当。ハンバーグが入っているお弁当。
「いい? うさぎちゃんはもう七歳だからお姉さんなの。だからママのいない間いい子にしてるのよ?」
「うん!」
ドアをしめて鍵をかけるママを見送る。
夜はいつでもひとりぼっち。宿題をして、明日の学校の準備をしてひとり布団に入る。ママは太陽が空にのぼる頃に帰ってきて、たまーに美味しいお寿司を持って帰って来る。ママの嫌いなサーモンのお寿司を食べるのがわたしの役割。
だけどそんなお姫さまのママは入院することになったんだって。ママが帰って来なくて、でもわたしは学校に出かけた。だって今日で学校は一旦おしまい。明日から夏休みだ。今日は給食を食べないで家に帰る。家に帰ったらママが寝ているから、わたしはママのお財布を持ってママの好きな食べ物であるハンバーガーとポテトを買いに行かなくちゃ。
「おかえり、うさぎ。あたしのこと覚えてる?」
だけど家に帰ったら知らないおばさんがいた。ちょっと釣りあがった目。よく見るとママに似ていた。
「あんたの伯母の周子。ママのお姉さん」
「ママの?」
「そう。礼子……ママは入院することになったから。うさぎは夏休みの間あたしの家に来ることになったの」
この人はフシンシャじゃないとすぐにわかった。ママに似ているし、言われてみれば小さい頃に遊んでもらった記憶があったから。
「勝手に荷物まとめさせてもらったけど、一応中身みて。他に欲しいものがあったら取ってきて」
目の前に、ママの大きなバッグが置かれていた。中身を見るとわたしの服や下着が入っている。わたしはリュックから(ランドセルは買って貰えてない)夏休みの宿題とペンケースを取り出してその大きなバッグにそれらを詰める。
「ママの病院に寄ってから行くからね」
「ママ、大丈夫なの?」
「うん。着替えだけ届けに行くよ」
流されて、流されるがままにわたしは周子おばさんの車に乗り込んだ。車に乗ることがほとんどないわたしはとても緊張したけど、おばさんはよく喋ってくれた。主に、わたしが赤ちゃんだった頃の話を。
おばさんと大きな病院の入口をくぐった。おばさんに着いて行って病院のエレベーターに乗る。ドアが開いて、とある階で降りると看護師さんが駆け寄って来る。
「三屋玲子の家族ですが荷物を届けに……」
「お待ちしてました。お預かりいたします」
「はい。よろしくお願いします」
おばさんは看護師さんに向かって深々と頭を下げた。わたしもそれを見て、真似して頭を下げる。
荷物を渡すと看護師さんは重そうな、鍵のかかったドアの向こうに消えて行った。わたしはおばさんに連れられてまたエレベーターに乗る。
ママには会えないまま、わたしの夏休みは始まってしまった。
おばさんは、わたしが赤ちゃんの頃はここで過ごしていたんだよって言った。海のある町の一軒家。おばさんは結婚してないの? と尋ねると「もう別れたよ」とだけ言われた。おばさんはこの大きな家に一人で住んでいるそうだ。
「うさぎの部屋だよ」
そう言われてわたしは大喜びした。
だって自分の部屋があるなんて夢みたいだった。それに、その部屋はまるでお姫さまのようだった。ピンクや白で家具は統一されていて、ベッドはお姫さまのようなカーテン? がついていて。憧れのお姫さまになれた気分。ママに憧れるんじゃなくて、自分がお姫様になったみたい。
「あたしも忙しいからあんまり構ってあげられないかもしれない。だけどこの町は安全だしみんな知り合い……友達のようなものだから。海でも公園でも、好きなところに遊びに行きな。ただし海に入ったり道路に飛び出したりしないこと」
「うん!」
町の人がみんな友達なんて楽しそう。
その日、わたしはわくわくしながらおばさんの家を出てまず海へ行った。海へ行ったことも一人で好きに出かけられることも楽しくてわくわくして仕方がなかった。
家にいる時は学校とコンビニ、ハンバーガー屋さん以外の場所へ出かけるのは禁止されていたし。
手をあげて道路を横断する。砂浜に降り立つと深い青いろがきらきらしていて、不思議な香りがした。
海に入るのはダメって言われたから、わたしは砂浜の上を歩いた。ここへ来る前におばさんが買ってくれたピンク色のスニーカー。前に履いていた水色のスニーカーはとっくに穴があいていたから。新しいスニーカー、嬉しい。
「あっ」
木の枝に躓いて砂浜の上に転んでしまった。砂の上は柔らかいから体は平気。でもちょうど手をついたところに貝殻が落ちていて、手のひらに一本の傷が出来てしまった。
じっとみていると段々と血がぷっくりと形を作り始める。反対の手でスカートのポケットの中を探ってみたけど今日はハンカチもティッシュも置いてきてしまった。
どうしよう……服で拭ったら服が汚れちゃう。海で手を洗う? でも、そんなことをしたら水がしみて痛そう。どうしよう、と考えている間にも血はぷっくりから手のひらに溢れてくる。
「ねぇ……大丈夫?」
その声に顔をあげた。知らないお姉さん……ううん、お兄さんかな。髪が長いけど、男の子の服を着ているから。
「傷? ちょっとまって……はい、これ」
お兄さんはリュックからティッシュを取り出すと一枚引き抜いてわたしに渡してくれた。そのおかげで血はティッシュに吸い込まれて、止まる。
「きみ、どこから来たの? 誰かのお孫さんかな? おばあちゃんかおじいちゃんか、ママかパパは?」
お兄さんはしゃがんでわたしに目線を合わせてくれた。優しそうなお兄さん。わたしに声をかけてくれた優しいお兄さん。
「えっと……おばさんの家に来てるの」
「おばさん?」
「うんと、三屋……しゅうこおばさん」
おばさんの名前が咄嗟に思い出せなかった。
「あぁ、三屋さんの」
どうやらお兄さんはおばさんのことを知っているみたいでほっとした。おばさんの言う通り、おばさんは本当にこの町じゅうの人とお友達なんだ。おばさん、すごい。
「姪がいたんだ。知らなかった。おばさんはどこに?」
「おばさんは家でお仕事だから、わたしは一人で遊びに来た」
「そうなんだ。名前、なんていうの?」
「み、三屋うさぎ、です」
「みやうさぎちゃん?」
聞き返されて頷いた。ちょうど頭の、ずっとずっと上を白い鳥がきゅーきゅー鳴きながら飛んでいく。
「俺は三野都真。よろしくね、みゃうちゃん」
みのとーま。とーまお兄さん。
名前、間違って伝わっちゃったかな? そう思ったけど別に嫌じゃなかったから訂正しなかった。あだ名? かもしれない。
「みゃうちゃんはここで何してたの?」
何してた、何してたのかな。
ただ海が珍しくて、それで何も考えずにただ砂浜を歩いていて……それをどう伝えて良いかわからなくてわたしは首を横に振った。
「……暇つぶし?」
そう言われて頷いた。遊んでたわけでもなくて、頷く以外の方法を思いつかなかった。
「そっか。ねぇ、もし良かったら俺の話聞いてくれない?」
「お話?」
「うん」
「いいよ。聞くよ」
お話を聞くのが好きだ。ママはよく仕事の話をしてくれる。聞くに、ママはお店でお酒を飲みながら男の人とお話する仕事をしているみたいで、その男の人たちがどんな人だったかとか一緒に仕事している人がどうとか、そんな話をよくわたしに聞かせてくれる。
とーまお兄さんに促されてわたしたちは石で出来た階段に座った。とーまお兄さんは今十三歳で、中学一年生なんだって。わたしは小学一年生だからおんなじ一年生だ。六年生よりも一個上のお兄さん。
「さっきまで学校に行ってたんだ」
「とーまお兄さんは夏休みじゃないの?」
「夏休みなんだけど試験……テストの日に休んじゃったから今日テストを受けに行ったんだ」
あぁ、と思い出した。国語のテストの日に休んでいた子が中休みにテストを受けていたから、それときっとおんなじ。
「中学校は、勉強もむずかしいの?」
「うーん、小学校よりは難しいかな」
その言葉を聞いてわたしはまだまだ先の、中学校が怖いなと思った。勉強は好き。でももし、中学校に入って勉強が苦手になっちゃったら、ママに怒られるかもしれない。
「でも勉強より人間関係が怖いかなぁ」
「人間……カンケイ?」
「うん。友達のこと。俺、友達がほとんどいないんだ」
「じゃあ、わたしと友達になろうよ!」
良いアイデアだと思った。わたしもとーまお兄さんと友達になれたら嬉しいから。
「そうだね。ありがとう、みゃう。俺とみゃうは友達」
とーまお兄さんはびっくりしたような顔をしたけど、でもすぐに笑ってくれた。
「うん!」
こうしてわたしはこの町……桃果町に友達ができた。嬉しかった。わたしも学校ではあまりみんなと仲良くできなかったから、夏休みに遊ぶ友達ができた! と思って。
七歳の頃の記憶は曖昧だった。
きっとみんな七歳の記憶なんてあんまり残っていないだろうし、当たり前だ。でもとーまお兄さんがわたしの前でよく泣いていたこと、それは段々と思い出して。大人(当時のわたしからすれば中学生は大人だった)がわたしみたいな子どもの前で泣いているのは珍しくって。
それで、多分。記憶の奥底に残っていたのだと思う。
「みゃうだけだよ、俺に優しくしてくれるのは」
「とーまお兄さんも、優しいよ」
優しいの定義は曖昧だったけどわたしにとって怒鳴ったり叩いたりしてこない人は「優しい」だった。それでいえばおばさんも優しいだったけどそれとはまた少し違うと思う。
最近のママはずっと夜のお仕事に出かけていて、お化粧をしてきらきらしたお洋服に身を包んで家をでていく。そんなお姫さまみたいにきらきらしているママの姿はわたしの憧れだった。
だけど、お姫さまはいつもいつもわたしにお弁当を残していく。コンビニで買ったお弁当。ハンバーグが入っているお弁当。
「いい? うさぎちゃんはもう七歳だからお姉さんなの。だからママのいない間いい子にしてるのよ?」
「うん!」
ドアをしめて鍵をかけるママを見送る。
夜はいつでもひとりぼっち。宿題をして、明日の学校の準備をしてひとり布団に入る。ママは太陽が空にのぼる頃に帰ってきて、たまーに美味しいお寿司を持って帰って来る。ママの嫌いなサーモンのお寿司を食べるのがわたしの役割。
だけどそんなお姫さまのママは入院することになったんだって。ママが帰って来なくて、でもわたしは学校に出かけた。だって今日で学校は一旦おしまい。明日から夏休みだ。今日は給食を食べないで家に帰る。家に帰ったらママが寝ているから、わたしはママのお財布を持ってママの好きな食べ物であるハンバーガーとポテトを買いに行かなくちゃ。
「おかえり、うさぎ。あたしのこと覚えてる?」
だけど家に帰ったら知らないおばさんがいた。ちょっと釣りあがった目。よく見るとママに似ていた。
「あんたの伯母の周子。ママのお姉さん」
「ママの?」
「そう。礼子……ママは入院することになったから。うさぎは夏休みの間あたしの家に来ることになったの」
この人はフシンシャじゃないとすぐにわかった。ママに似ているし、言われてみれば小さい頃に遊んでもらった記憶があったから。
「勝手に荷物まとめさせてもらったけど、一応中身みて。他に欲しいものがあったら取ってきて」
目の前に、ママの大きなバッグが置かれていた。中身を見るとわたしの服や下着が入っている。わたしはリュックから(ランドセルは買って貰えてない)夏休みの宿題とペンケースを取り出してその大きなバッグにそれらを詰める。
「ママの病院に寄ってから行くからね」
「ママ、大丈夫なの?」
「うん。着替えだけ届けに行くよ」
流されて、流されるがままにわたしは周子おばさんの車に乗り込んだ。車に乗ることがほとんどないわたしはとても緊張したけど、おばさんはよく喋ってくれた。主に、わたしが赤ちゃんだった頃の話を。
おばさんと大きな病院の入口をくぐった。おばさんに着いて行って病院のエレベーターに乗る。ドアが開いて、とある階で降りると看護師さんが駆け寄って来る。
「三屋玲子の家族ですが荷物を届けに……」
「お待ちしてました。お預かりいたします」
「はい。よろしくお願いします」
おばさんは看護師さんに向かって深々と頭を下げた。わたしもそれを見て、真似して頭を下げる。
荷物を渡すと看護師さんは重そうな、鍵のかかったドアの向こうに消えて行った。わたしはおばさんに連れられてまたエレベーターに乗る。
ママには会えないまま、わたしの夏休みは始まってしまった。
おばさんは、わたしが赤ちゃんの頃はここで過ごしていたんだよって言った。海のある町の一軒家。おばさんは結婚してないの? と尋ねると「もう別れたよ」とだけ言われた。おばさんはこの大きな家に一人で住んでいるそうだ。
「うさぎの部屋だよ」
そう言われてわたしは大喜びした。
だって自分の部屋があるなんて夢みたいだった。それに、その部屋はまるでお姫さまのようだった。ピンクや白で家具は統一されていて、ベッドはお姫さまのようなカーテン? がついていて。憧れのお姫さまになれた気分。ママに憧れるんじゃなくて、自分がお姫様になったみたい。
「あたしも忙しいからあんまり構ってあげられないかもしれない。だけどこの町は安全だしみんな知り合い……友達のようなものだから。海でも公園でも、好きなところに遊びに行きな。ただし海に入ったり道路に飛び出したりしないこと」
「うん!」
町の人がみんな友達なんて楽しそう。
その日、わたしはわくわくしながらおばさんの家を出てまず海へ行った。海へ行ったことも一人で好きに出かけられることも楽しくてわくわくして仕方がなかった。
家にいる時は学校とコンビニ、ハンバーガー屋さん以外の場所へ出かけるのは禁止されていたし。
手をあげて道路を横断する。砂浜に降り立つと深い青いろがきらきらしていて、不思議な香りがした。
海に入るのはダメって言われたから、わたしは砂浜の上を歩いた。ここへ来る前におばさんが買ってくれたピンク色のスニーカー。前に履いていた水色のスニーカーはとっくに穴があいていたから。新しいスニーカー、嬉しい。
「あっ」
木の枝に躓いて砂浜の上に転んでしまった。砂の上は柔らかいから体は平気。でもちょうど手をついたところに貝殻が落ちていて、手のひらに一本の傷が出来てしまった。
じっとみていると段々と血がぷっくりと形を作り始める。反対の手でスカートのポケットの中を探ってみたけど今日はハンカチもティッシュも置いてきてしまった。
どうしよう……服で拭ったら服が汚れちゃう。海で手を洗う? でも、そんなことをしたら水がしみて痛そう。どうしよう、と考えている間にも血はぷっくりから手のひらに溢れてくる。
「ねぇ……大丈夫?」
その声に顔をあげた。知らないお姉さん……ううん、お兄さんかな。髪が長いけど、男の子の服を着ているから。
「傷? ちょっとまって……はい、これ」
お兄さんはリュックからティッシュを取り出すと一枚引き抜いてわたしに渡してくれた。そのおかげで血はティッシュに吸い込まれて、止まる。
「きみ、どこから来たの? 誰かのお孫さんかな? おばあちゃんかおじいちゃんか、ママかパパは?」
お兄さんはしゃがんでわたしに目線を合わせてくれた。優しそうなお兄さん。わたしに声をかけてくれた優しいお兄さん。
「えっと……おばさんの家に来てるの」
「おばさん?」
「うんと、三屋……しゅうこおばさん」
おばさんの名前が咄嗟に思い出せなかった。
「あぁ、三屋さんの」
どうやらお兄さんはおばさんのことを知っているみたいでほっとした。おばさんの言う通り、おばさんは本当にこの町じゅうの人とお友達なんだ。おばさん、すごい。
「姪がいたんだ。知らなかった。おばさんはどこに?」
「おばさんは家でお仕事だから、わたしは一人で遊びに来た」
「そうなんだ。名前、なんていうの?」
「み、三屋うさぎ、です」
「みやうさぎちゃん?」
聞き返されて頷いた。ちょうど頭の、ずっとずっと上を白い鳥がきゅーきゅー鳴きながら飛んでいく。
「俺は三野都真。よろしくね、みゃうちゃん」
みのとーま。とーまお兄さん。
名前、間違って伝わっちゃったかな? そう思ったけど別に嫌じゃなかったから訂正しなかった。あだ名? かもしれない。
「みゃうちゃんはここで何してたの?」
何してた、何してたのかな。
ただ海が珍しくて、それで何も考えずにただ砂浜を歩いていて……それをどう伝えて良いかわからなくてわたしは首を横に振った。
「……暇つぶし?」
そう言われて頷いた。遊んでたわけでもなくて、頷く以外の方法を思いつかなかった。
「そっか。ねぇ、もし良かったら俺の話聞いてくれない?」
「お話?」
「うん」
「いいよ。聞くよ」
お話を聞くのが好きだ。ママはよく仕事の話をしてくれる。聞くに、ママはお店でお酒を飲みながら男の人とお話する仕事をしているみたいで、その男の人たちがどんな人だったかとか一緒に仕事している人がどうとか、そんな話をよくわたしに聞かせてくれる。
とーまお兄さんに促されてわたしたちは石で出来た階段に座った。とーまお兄さんは今十三歳で、中学一年生なんだって。わたしは小学一年生だからおんなじ一年生だ。六年生よりも一個上のお兄さん。
「さっきまで学校に行ってたんだ」
「とーまお兄さんは夏休みじゃないの?」
「夏休みなんだけど試験……テストの日に休んじゃったから今日テストを受けに行ったんだ」
あぁ、と思い出した。国語のテストの日に休んでいた子が中休みにテストを受けていたから、それときっとおんなじ。
「中学校は、勉強もむずかしいの?」
「うーん、小学校よりは難しいかな」
その言葉を聞いてわたしはまだまだ先の、中学校が怖いなと思った。勉強は好き。でももし、中学校に入って勉強が苦手になっちゃったら、ママに怒られるかもしれない。
「でも勉強より人間関係が怖いかなぁ」
「人間……カンケイ?」
「うん。友達のこと。俺、友達がほとんどいないんだ」
「じゃあ、わたしと友達になろうよ!」
良いアイデアだと思った。わたしもとーまお兄さんと友達になれたら嬉しいから。
「そうだね。ありがとう、みゃう。俺とみゃうは友達」
とーまお兄さんはびっくりしたような顔をしたけど、でもすぐに笑ってくれた。
「うん!」
こうしてわたしはこの町……桃果町に友達ができた。嬉しかった。わたしも学校ではあまりみんなと仲良くできなかったから、夏休みに遊ぶ友達ができた! と思って。
七歳の頃の記憶は曖昧だった。
きっとみんな七歳の記憶なんてあんまり残っていないだろうし、当たり前だ。でもとーまお兄さんがわたしの前でよく泣いていたこと、それは段々と思い出して。大人(当時のわたしからすれば中学生は大人だった)がわたしみたいな子どもの前で泣いているのは珍しくって。
それで、多分。記憶の奥底に残っていたのだと思う。
「みゃうだけだよ、俺に優しくしてくれるのは」
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