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動き出した未来
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「じゃあ行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
とーまお兄さんに手を振ってアパートを出る。
わたしたちが仮住まいとして選んだのはいわゆるベッドタウンにあたる町だった。電車に乗ればすぐに都会へ辿り着く。一年間はここで暮らそうと、ちょっぴり古くて狭いアパートに二人で住んでフリーター生活をしている。海のない町だけどそこは少しの辛抱だ。
木を隠すなら森の中。
下手に田舎に住んでしまうと人がそもそも少ない上に情報網が限りなく広い。どこから情報が洩れてわたしたちの居場所が知られてしまうかわからない。だからあえて、人口の多い都会により近い町を選んだ。都会なら人と人との繋がりは薄いから。
これなら仮にわたしやとーまお兄さんの元家族が探していてもバレにくいだろう。そう考えた。
「おはようございます」
「みのちゃん。おはよう」
バイト先は住宅街の中にあるコンビニだった。夜勤なのでお客さんの数も少なくてほとんど品出しばかりしている。
「今日旦那さんは?」
「旦那……も、これから仕事です」
「二人とも夜勤って珍しいよねぇ」
あはは、と誤魔化すように笑った。
物件を探す際にわたしたちは関係を聞かれることが多かった。ただわたしたちは恋人でも友達でもなく、とはいえ男女二人であると同棲をするカップルだと思われることが多い。
そこでひとまず、夫婦になってしまった方が色々と上手く進むことからわたしたちは書類上の夫婦になった。
夫婦というよりもパートナーだし、わたしは自分の養子としてとーまお兄さんを迎えて家族になることを提案したけど諸々の手続きを考えると結局は婚姻届けを書いてしまう方が早かったから。
わたしはコンビニ、とーまお兄さんは夜間の警備員の仕事をしていた。お金をため来年には海の見える町へ移住するつもり。既にいくつか目星はつけていて、いずれも国内だ。それはとーまお兄さんの病気のこともあって、いきなり海外に行くのは不安ということから。一旦、国内で海の見える町に住む。それが目標。
スナック菓子の陳列をしながらぼんやりと考えごとをする。最近はずっとこのままで良いのかと考えている。わたしはとーまお兄さんの傍にずっといたいから何があっても一緒にいるつもりではいる。だけど一番怖いのはとーまお兄さんが変わってしまうことだった。
もしも、わたしと一緒にいることに嫌気がさしてしまったら? わたしの前からいなくなってしまったら?
そんな考えが頭の中で渦巻いている。とーまお兄さんにもわたしにも互いが唯一無二だけどこの先思わぬところで別の人が現れてしまったら……可能性を考えたらキリがないけれど、でも考えてしまう。
「レジお願いしまーす!」
「あ、はい!」
その声でハッと我に返り小走りでレジに向かった。
このバイトは退屈で余計なことをたくさん考えてしまう。もっと忙しいバイトに変えた方が良いのかな? とはいえ時給が良くて忙しいバイトとなると……あ、派遣ってやつをしてみればいいのかな?
ともかくわたしは未来のことだけを考え、心配していればそれでいいはずだった。
「ねぇ、みのちゃん」
「はい?」
朝。早朝シフトの人が出勤しバックヤードで着替えている時に先輩の柚月さんに声をかけられた。
「すごく申し訳ないんだけど……時間潰すのに付き合ってくれない?」
申し訳なさそうに両手を合わせる柚月さんにわたしは戸惑ってしまった。柚月さんは金髪に近い茶髪を一つに結んでいていつでも化粧がばっちり、ここで働く前はスナックで働いていたという。
「えっと?」
「実はあたし鍵持ってくるの忘れちゃってさ! 今日彼氏が朝だから家に入れなくて……一時間くらいでいいの! それにみのちゃんともっと話してみたくて」
柚月さんはわたしに対して良くしてくれて、前のバイト先にいたお姉さんを彷彿とさせる。もう、名前も忘れてしまったけど。
「彼氏さん、ホストでしたっけ」
「そう! 今日は朝ホストの日ですっかり忘れてて」
別に柚月さんのことは嫌いじゃない。だけど彼女ともいずれ疎遠になる仲だ。
いずれ疎遠になる。それなら別に嫌われてもいいか、と最低なことを考える。
「構いませんけど……あっでも」
今日の朝ごはん当番はわたしだ。とーまお兄さんは朝八時に仕事が終わって九時前には帰って来るからそれまでに朝ごはんを用意しなくてはいけない。
「彼氏さんが帰って来るのは何時ですか?」
「昼の十一時に店が終わるから一時間でも二時間でも付き合ってくれると嬉しいんだけど……ダメかな?」
今は七時だから四時間もある。こんなに必死にお願いされては断りにくい、けど。
「えっと、今日わたしが朝ごはん当番なので朝ごはん作ってる間、うちに来ますか?」
そう提案してしまった。とーまお兄さんが帰って来るまでに家を出れば大丈夫。幸い、わたしたちの住むアパートはここから近いし。
「え、お邪魔していいの?」
「どうぞ。朝ごはん、作らなきゃいけないので、他に何も出来ないですけど、それでよければ……」
「行く!」
「うん。いってらっしゃい」
とーまお兄さんに手を振ってアパートを出る。
わたしたちが仮住まいとして選んだのはいわゆるベッドタウンにあたる町だった。電車に乗ればすぐに都会へ辿り着く。一年間はここで暮らそうと、ちょっぴり古くて狭いアパートに二人で住んでフリーター生活をしている。海のない町だけどそこは少しの辛抱だ。
木を隠すなら森の中。
下手に田舎に住んでしまうと人がそもそも少ない上に情報網が限りなく広い。どこから情報が洩れてわたしたちの居場所が知られてしまうかわからない。だからあえて、人口の多い都会により近い町を選んだ。都会なら人と人との繋がりは薄いから。
これなら仮にわたしやとーまお兄さんの元家族が探していてもバレにくいだろう。そう考えた。
「おはようございます」
「みのちゃん。おはよう」
バイト先は住宅街の中にあるコンビニだった。夜勤なのでお客さんの数も少なくてほとんど品出しばかりしている。
「今日旦那さんは?」
「旦那……も、これから仕事です」
「二人とも夜勤って珍しいよねぇ」
あはは、と誤魔化すように笑った。
物件を探す際にわたしたちは関係を聞かれることが多かった。ただわたしたちは恋人でも友達でもなく、とはいえ男女二人であると同棲をするカップルだと思われることが多い。
そこでひとまず、夫婦になってしまった方が色々と上手く進むことからわたしたちは書類上の夫婦になった。
夫婦というよりもパートナーだし、わたしは自分の養子としてとーまお兄さんを迎えて家族になることを提案したけど諸々の手続きを考えると結局は婚姻届けを書いてしまう方が早かったから。
わたしはコンビニ、とーまお兄さんは夜間の警備員の仕事をしていた。お金をため来年には海の見える町へ移住するつもり。既にいくつか目星はつけていて、いずれも国内だ。それはとーまお兄さんの病気のこともあって、いきなり海外に行くのは不安ということから。一旦、国内で海の見える町に住む。それが目標。
スナック菓子の陳列をしながらぼんやりと考えごとをする。最近はずっとこのままで良いのかと考えている。わたしはとーまお兄さんの傍にずっといたいから何があっても一緒にいるつもりではいる。だけど一番怖いのはとーまお兄さんが変わってしまうことだった。
もしも、わたしと一緒にいることに嫌気がさしてしまったら? わたしの前からいなくなってしまったら?
そんな考えが頭の中で渦巻いている。とーまお兄さんにもわたしにも互いが唯一無二だけどこの先思わぬところで別の人が現れてしまったら……可能性を考えたらキリがないけれど、でも考えてしまう。
「レジお願いしまーす!」
「あ、はい!」
その声でハッと我に返り小走りでレジに向かった。
このバイトは退屈で余計なことをたくさん考えてしまう。もっと忙しいバイトに変えた方が良いのかな? とはいえ時給が良くて忙しいバイトとなると……あ、派遣ってやつをしてみればいいのかな?
ともかくわたしは未来のことだけを考え、心配していればそれでいいはずだった。
「ねぇ、みのちゃん」
「はい?」
朝。早朝シフトの人が出勤しバックヤードで着替えている時に先輩の柚月さんに声をかけられた。
「すごく申し訳ないんだけど……時間潰すのに付き合ってくれない?」
申し訳なさそうに両手を合わせる柚月さんにわたしは戸惑ってしまった。柚月さんは金髪に近い茶髪を一つに結んでいていつでも化粧がばっちり、ここで働く前はスナックで働いていたという。
「えっと?」
「実はあたし鍵持ってくるの忘れちゃってさ! 今日彼氏が朝だから家に入れなくて……一時間くらいでいいの! それにみのちゃんともっと話してみたくて」
柚月さんはわたしに対して良くしてくれて、前のバイト先にいたお姉さんを彷彿とさせる。もう、名前も忘れてしまったけど。
「彼氏さん、ホストでしたっけ」
「そう! 今日は朝ホストの日ですっかり忘れてて」
別に柚月さんのことは嫌いじゃない。だけど彼女ともいずれ疎遠になる仲だ。
いずれ疎遠になる。それなら別に嫌われてもいいか、と最低なことを考える。
「構いませんけど……あっでも」
今日の朝ごはん当番はわたしだ。とーまお兄さんは朝八時に仕事が終わって九時前には帰って来るからそれまでに朝ごはんを用意しなくてはいけない。
「彼氏さんが帰って来るのは何時ですか?」
「昼の十一時に店が終わるから一時間でも二時間でも付き合ってくれると嬉しいんだけど……ダメかな?」
今は七時だから四時間もある。こんなに必死にお願いされては断りにくい、けど。
「えっと、今日わたしが朝ごはん当番なので朝ごはん作ってる間、うちに来ますか?」
そう提案してしまった。とーまお兄さんが帰って来るまでに家を出れば大丈夫。幸い、わたしたちの住むアパートはここから近いし。
「え、お邪魔していいの?」
「どうぞ。朝ごはん、作らなきゃいけないので、他に何も出来ないですけど、それでよければ……」
「行く!」
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