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第18話 洋二の愚行
しおりを挟む朝の朝食を終えて、美羽と遊んでいるとインターフォンが鳴った。マンションの外部フォンからだ。
「河西専務。お迎えに参りました」
「ご苦労様です。直ぐに参ります」
香澄が応答した。時計は朝の七時を指している。
「香澄、行って来る」
妻に口付けをしながら背中に腕を回す。お尻までしっかりと撫でると唇を離した。そして、美羽を抱き上げて…そろそろ重い。ほっぺにキスをすると
「お父さん行ってらっしゃい」
と可愛い声で言ってくれた。
マンションの下まで行くと運転手がドアを開けて待っている。このマンションで、車の送迎が有るのは僕だけだ。最初はちょっと恥ずかしかったが、セキュリティの関係上、交通機関を使う訳にはいかない。
中田産業のビルの玄関について、運転手がドアを開け、お辞儀をした。
「ありがとう」
と言って、ドアに入ろうとした時だった。
「死ねぇぇっ。河西」
後ろ左脇腹に鋭い痛みが入った。
「ぐあっ」
「「「きゃー」」」
「「「うわー」」」
同じ時間に出勤してくる人たちの声が遠くに聞こえた。
俺は、馬乗りになろうとした時、玄関に居た警備員が、金属の警棒を持って、俺に向かって来た。
深く刺さった。包丁が取れない。もう一度強く引くと物凄い血と一緒に包丁が抜けたが、血で俺の手から滑り落ちた。
警備員二人では相手にならず簡単に捕まってしまった。
「止血キット。早く。救急車。警察も」
遠くで何か声が聞こえた。
「先生、夫は助かるんですよね」
「先生。康人さんは助かるんですよね」
今にも泣きそうな顔で二人の女性が主治医に詰め寄っている。
「分かりません。包丁が肝臓を刺して突き抜けています。抜くときにも肝臓を傷付けました。今日一杯持つか分かりません。チームで最善を尽くします」
「中田どういう事だ」
「洋二の馬鹿が、河西君に逆恨みして、出勤したばかりの彼を後ろから刺した。刃渡り三十センチ。肝臓を貫通したそうだ」
「洋二君は」
「君なんぞ付けないでくれ。あいつは、今、殺人未遂の現行犯で丸の内警察署にいる。これで、万が一有ったら、私は、君にも、薫さんにも、ご家族にもどんな責任を取ればいいのか、分からない。あの時、今の職に就けた私の責任だ」
「中田、そこまで自分を貶めるな。河西君は、なるべくしてなったポジションだ。わが社で働いていても同じだ。とにかく今は彼が回復することを祈ろう」
「ああ、そうだな」
日本を率いる中田産業の社長が肩を落としていた。
「うーっ」
ぼんやりしている。体が固定されている。どうしたんだ。ここはどこだ。そうだ。出社した時、後ろから誰かに刺されて。
起きようとして、痛烈な痛みが、左脇腹に走った。
「ぐあっ」
「あ、あなた。目が覚めたの」
急いでナースコールボタンを押した。
廊下を走って来る足音が聞こえた。
「どうしました」
「夫が目を覚ましました」
「奥様。少しの間、どいて下さい」
「血圧低い。輸血圧上げて。酸素フォワード八十。血圧四十-六十。急いで先生を呼んできて」
「もうこちらに向かっています」
「河西さん。分かりますか」
「……」
「血圧上昇しません」
「緊急手術用意。再オペだ。直ぐに行くぞ。ストレッチャー用意」
あっという間の出来事だった。
それから、三時間後、
「先生」
「なんとか、命は取り留めましたが、まだ油断できない状況です。ICUで二十四時間看護師付き添いとします」
「私は、居ていいでしょうか」
「構いません。むしろいてくれた方が」
「ありがとうございます」
直ぐに薫さんに電話した。夫が、目が覚めた事。緊急で再手術をし、一命を取り留めたが、まだ分からない事。
直ぐに薫さんも駆けつけてくれた。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
まるで深い海の底から海面を見る様な。段々、意識が目覚めて来ているのがわかる。
ぼーっとした頭の中で、薄く目を開けると、白い天井が有った。意識がはっきりしてくる。
目を大きく開けると
「あなた、あなた。目が覚めたのですか」
私は、急いでナースコールボタンを押した。
廊下から走って来る足音が聞こえる。二人の看護師が入って来た。
「奥さん、少しどいて下さい」
「酸素飽和度九十八、血圧七十五-百十四。バイタル安定」
「河西さん。私の指を見て下さい」
僕の目の前に看護師の指が出された。
「指を目で追いかけて下さい」
左右に指が二度三度振られる。そのまま目で追いかけた。
「河西さん。落着いたようですね。良かったです」
「香澄。今日は、何日だ」
「あなた、今日は九月二十五日です。十日も眠っていました」
「十日もか」
医者が来た。
「主治医の望月です。河西さん。体の状態はどうですか」
「お腹全体が、鉛のように重いです。先生僕は?」
「肝臓を刺されました。その時、あばら骨も傷つけられました。肝臓は、三分の一を切除しました。あばら骨は、補助材で補強してあります」
「どの位で退院出来ますか」
「河西さんの回復次第ですが、一ヶ月程度と考えて下さい」
「そんなに」
「何を言っているんです。生きている事だけでも奇跡だったんですから」
先生と看護師が病室から出て行った後、
「香澄、美羽は」
「実家に預けています」
「そうか」
「あなた、あなた。本当に心配で、心配で。もしもの事が有ったらと思うと…」
目にいっぱいの涙が、頬に流れ出ていた。
「薫さんに連絡してきます」
「会社の方にも頼む」
「はい」
直ぐに薫が美香を連れてやって来た。
「康人さん。本当に良かった。私、心配で、心配で…」
薫も香澄と同じように僕の顔を見るなり目にいっぱいの涙を浮かべて頬に零れ落ちて来ていた。
「社長。河西専務の奥様から電話です」
「なに、直ぐつなげ」
「もしもし、中田です」
「河西です。夫が目を覚ましました」
「本当ですか。容体はいかがですか」
「先生がもう大丈夫だと言っていました」
「良かった。本当に良かった。近日中にお見舞いに伺わせて頂きます。愚息の失態、どうやってお詫びをすれば。誠に申し訳ありません」
「夫にその様に伝えます」
「宜しくお願いします」
口には出さないが相当に怒っておられる様だ。当たり前か。しかし、洋二の馬鹿が。とにかく見舞いに行かなくては。
金田にも連絡はいっているだろう。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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