家族から苛められていた私が、大会の賞品に選ばれてしまった結果

しきど

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 ──迎えた決勝戦の朝。

 控え室で私は静かに祈りを捧げていました。

 どうやら昨日よりは、幾分か落ち着いております。決勝戦。勝てば平和な日々を取り戻せる。

 「サレナ選手、準備が出来ました。会場へ」

 案内に軽く頷き、私は立ち上がりました。もうここまでくれば、なるようになるだけです。

 「東はサレナ選手! 前へ!」

 剣を携え、闘技場に上がります。

 「西はヴィンセント選手! 前へ!」

 対する西から現れたのは、派手な金色の甲冑に身を包んだ男。今まで戦ってきた筋肉自慢と比べれば、やや小柄です。

 このナリでよく残れたものだと、私は自分の事を棚に上げてそう思いました。

 「それでは、はじめっ!」

 構えをとります。相手も静かに身構える。

 構えからして既に、今までの相手とは違うなと感じました。

 雰囲気が──空気が重い。流石に決勝まで残った戦士ですから、相応の実力はあるのでしょう。でもそれはこちらも同じ事です。

 臆してなるものか。恐怖は昨日で断ち切ったのです。前へ──。とにかく前へ、剣を振り、当てる、それだけを考えて──。

 同時に、足が出ました。

 否、こちらの方が僅かに遅く──。

 「っ──!?」

 気がつけば私は、大歓声の中で地に伏していました。

 斬られた──? それすらも分かりません。慌てて立ち上がろうとしましたが、視界がまだ揺れていました。

 「勝者! ヴィンセント選手!!」

 そして何も分からぬまま、審判が私の敗北を告げてしまったのです。

 ……そんな。

 ここまでやってきて。あと一歩のところで──。

 「大丈夫ですか?」

 金色の甲冑が爽やかに私に手を差し伸べます。

 この声……?

 私は彼を見返したまま、固まってしまいました。

 「いやぁ、見事見事!!」

 専用観客席から、勝者を讃えるべく義父らが、闘技場に足を踏み入れました。

 「凄まじい強さであった! 我が領土にこれほどの達人がいるとは、夢にも思わなかったぞ!」

 義父はニヤニヤとしながら、金色の甲冑に近付き、その耳元で囁きます。

 (これで我が娘ルミーナはお前の物だ。末永く、よろしく頼むぞ)

 「いいえ男爵、その必要はありません」

 彼は兜を脱ぎ、義父と向かい合いました。

 やはりそれは、先日の宿屋を案内した青年だったのです。

 「え……? あ、あ……?」

 義父の顔が、みるみる青ざめていきます。

 「い、イーゲル公爵っ!!?」

 義父はそう叫ぶと、周りの目など気にもせず彼の前で土下座をしました。義母も義姉も、よく分からないといった様子でおたおたとしています。

 「ど、ど、どうしてこんな所に!!?」

 「陛下が杞憂されていた為、視察に上がりました。男爵が下らぬ余興に国税を裂かれているようでしたので」

 「い、いえいえ滅相もありません! この通り大会は大盛況、資金もお返しして余りあるものだと──」

 「自分の娘を賞品にかけるなどという破廉恥な行為で集まった金でしょう」

 「そ、それは……」

 神にすがるような眼差しで、義父は公爵にすがりつきました。

 「ど、どうかこの事は陛下にはご内密に……!」

 「黙れ!!」

 「ひいっ!」

 金色の甲冑──イーゲル公爵が、模造の剣を義父の首もとに押し付けました。

 「人道に悖る下劣な行為、神の名において赦せぬものだ! 残念だが貴方は、おおよそ領土を治める者に相応しくない!! 陛下にはそうご報告致します──」

 「お、お待ち下さい──閣下!!」

 そう言ってイーゲル公爵は踵を返し、立ち去りました。

 こうして剣術大会は、ざわめきを残したままその幕を閉じたのです──。



 ────



 ──真相は瞬く間に国中に広がりました。

 義理とはいえ娘を賭けた、恥知らずの田舎男爵──世間からの謗りは免れず、義父は爵位を剥奪されました。

 そうして私達は領土を失い、一家離散する事になったのです。

 無一文同然となった父と母は、故郷に戻り一からやり直すそうです。義姉は一か八か元婚約者の所に駆け込んでみるとか。

 勿論私は、誰にもついていきませんでした。

 家族も家もなくなり、私に残されたのは僅かなお金のみ。何か商売をしてみようにも、知識もコネもありませんし。

 王都にでも渡って、真面目にこつこつ働いてみましょう。貴族の堅苦しい生活よりは性に合っているかもしれません。

 一人、王都に渡る馬車を待ちます。晴れ渡った空を眺めていると、全部終わった事を改めて実感してしまいます。

 これで良かったのです。

 あんな家、なくなって当然だった──。

 「やあ」

 そろそろ馬車が来そうだという頃に、私は不意に背後から話しかけられ、肩を震わせました。

 それはあのイーゲル公爵でした。

 どうしてこんな所に──私が尋ねるより先に、彼が言葉を続けました。

 「貴女がまさか、あのサレナだったとはね──ルミーナ・ワードバーン男爵令嬢?」

 私は嘆息しました。

 「もう男爵令嬢ではありません」

 「そうでしたね」

 行いは正しかったとはいえ、全く非はないとはいえ、私にとって彼は今や、家を滅ぼした悪魔のような存在です。

 「何をしにいらっしゃったのですか?」

 私はわざと冷たく言い放ちました。

 「私を笑いに?」

 「優勝賞品をまだ頂いていなかったので」

 虫も殺さぬような優しい顔でそう言います。

 「どういう意味です」

 「さあ? 普通は、告白と受け取って頂ければいいんじゃないですか?」

 「人を賞品にする行為は、破廉恥でしたね」

 「同意を求めているんですよ?」

 「哀れみならば、結構ですが」

 「強い女性が好きで」

 「強いと粗暴とは違います」

 「宿を案内してくれる優しさも」

 私は、また溜め息をついてしまいました。本当に掴み所のない方です。何処まで本気なのか全く分かりません。

 そうしてあの印象的な、イタズラっ子っぽい笑顔を見せてこう言いました。

 「改めまして、僕とお付き合い頂けませんか、ルミーナ嬢──」

 本当に──。

 全くどうしたものでしょう──。




 ──了。
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