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4.怠惰(次女視点)
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アリアがイルの後を追って、屋敷の門から出ていくのを、私は二階にある自室の窓から眺めていました。
どうやら本当に、犬だけ連れて屋敷を出ていくようです。
口元がニヤけてしまっている事を自覚します。
ああ、本当に、馬鹿な義妹だこと──。
アリアは昔っからそうでした。意気地がなさすぎて、自分の主張というものを殆どした事がありません。何もかも私やお義姉様、くそじじいラーバートの言いつけ通り。
いくらお義父様の意思とはいえ、あんな無茶苦茶な内容の遺言書、しかるべき場所に提出すれば協議を主張出来ます。まだ彼女にだって、正当な遺産を得られるチャンスはあったというのに。
……でもまぁ、それを教えてあげるほど、私はお人好しではありません。だってもし遺産の分配が変わってしまえば、大変ですから。
そうではなくとも、犬は論外としても、こんな資産と借金のどちらが多いかも分からぬ貧乏男爵家、とっくに未練などなかったところです。だから、私が一番、当たりクジを引いていたのです。
「うふふ……待っていて下さいね、エスメリオ様っ」
思わず、小躍りしてしまいます。
もういけすかない義姉やラーバートの顔を見なくて済む、その事実だけでも夢のよう。
何よりエスメリオ・ガンフォー子爵令息とは、以前舞踏会で一度ご一緒しただけの間柄ではありますが、十代の若さですでに何冊もの魔導書を世に送り出しているほどの秀才魔導士です。おまけに女性とも見まごう美貌の持ち主。
まさに才色兼備。私と彼との婚約が知れ渡れば、彼を狙っていたそこいらの公爵令嬢は、悔しさのあまり卒倒してしまう事でしょう。
優越感で頭がおかしくなりそうです。ああ、私ったら、国で一番の果報者なんだから!
鼻歌をうたいながら、荷物をまとめます。その時の私は有頂天で、まさか、この先に待ち受けているものが地獄のような結末だなんて、想像もしていなかったのです……。
────
「ミルリア……すみませんが、あなたとの婚約は破棄させてもらいます」
──ガンフォー子爵家にお世話になってから、三ヶ月ほどが経ったある日……。
会食の場で不意に切り出したエスメリオの言葉に、私は固まってしまいました。
思わず、周囲を見渡します。メイド達は何も聞かなかったような顔で皿を下げ、食後のワインを用意しています。
もう一度エスメリオの顔を見ました。あるいは珍しく、冗談を言って私の困る顔を楽しむつもりだったのかと思いました。
「……嘘、ですよね?」
「すみません」
けれど彼の顔付きは、至って真剣そのものでした。
「理由は簡単です……これは魔術を生業とする家同士の婚約。しかしあなたには、全くといっていいほど魔導士としての才能がない」
「そ、それは、何度も言うようですが、勉強中で……少しずつですが、成果は出ていますでしょう?」
「ミルリア、申し訳ありませんが、才能がないと言っているんです」
彼はこう続けました。
「今の調子で勉強をしても、いっぱしになる頃にはもう君は子供も産めないような年齢になってしまうでしょう。魔導士の家の政略結婚とは、より才能のある子供を産む事を一番の目的としています。分かりますか?」
「い、一人前になるまで、待って下さると言ったのに……」
「死にものぐるいで勉強してくれるというなら考えると、そう言ったのです。けれどあなたはどれだけ鞭を入れても、自分のペースを崩さないようだから」
「そんな……」
「こういう結果になってしまった事は申し訳ありませんが、これは父の意向です。覆りません」
「お、お義父様の意向って……エスメリオ様は……? エスメリオ様はどうお考えなのです? 何もかもお義父様の言いなりで、あなたご自身のお気持ちはないのですか──!?」
私は瞳を潤ませ、エスメリオ様にすがりつきます。私は、私自身の武器というものを承知しています。多少魔術の才がなくったって、どんな男も、私の涙は無視できないのです。
「……僕の気持ち、ですか」
──その筈でした。
聞かなければ、良かった。その瞬間のエスメリオの目が、何より一番こたえた。
「僕は魔導士の家の息子です。やがて家督を継ぐ者」
まるで汚物でもみるかのような、心のそこから面倒臭がっているような瞳。
「だから、あなたには何の魅力も感じません」
どうやら本当に、犬だけ連れて屋敷を出ていくようです。
口元がニヤけてしまっている事を自覚します。
ああ、本当に、馬鹿な義妹だこと──。
アリアは昔っからそうでした。意気地がなさすぎて、自分の主張というものを殆どした事がありません。何もかも私やお義姉様、くそじじいラーバートの言いつけ通り。
いくらお義父様の意思とはいえ、あんな無茶苦茶な内容の遺言書、しかるべき場所に提出すれば協議を主張出来ます。まだ彼女にだって、正当な遺産を得られるチャンスはあったというのに。
……でもまぁ、それを教えてあげるほど、私はお人好しではありません。だってもし遺産の分配が変わってしまえば、大変ですから。
そうではなくとも、犬は論外としても、こんな資産と借金のどちらが多いかも分からぬ貧乏男爵家、とっくに未練などなかったところです。だから、私が一番、当たりクジを引いていたのです。
「うふふ……待っていて下さいね、エスメリオ様っ」
思わず、小躍りしてしまいます。
もういけすかない義姉やラーバートの顔を見なくて済む、その事実だけでも夢のよう。
何よりエスメリオ・ガンフォー子爵令息とは、以前舞踏会で一度ご一緒しただけの間柄ではありますが、十代の若さですでに何冊もの魔導書を世に送り出しているほどの秀才魔導士です。おまけに女性とも見まごう美貌の持ち主。
まさに才色兼備。私と彼との婚約が知れ渡れば、彼を狙っていたそこいらの公爵令嬢は、悔しさのあまり卒倒してしまう事でしょう。
優越感で頭がおかしくなりそうです。ああ、私ったら、国で一番の果報者なんだから!
鼻歌をうたいながら、荷物をまとめます。その時の私は有頂天で、まさか、この先に待ち受けているものが地獄のような結末だなんて、想像もしていなかったのです……。
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「ミルリア……すみませんが、あなたとの婚約は破棄させてもらいます」
──ガンフォー子爵家にお世話になってから、三ヶ月ほどが経ったある日……。
会食の場で不意に切り出したエスメリオの言葉に、私は固まってしまいました。
思わず、周囲を見渡します。メイド達は何も聞かなかったような顔で皿を下げ、食後のワインを用意しています。
もう一度エスメリオの顔を見ました。あるいは珍しく、冗談を言って私の困る顔を楽しむつもりだったのかと思いました。
「……嘘、ですよね?」
「すみません」
けれど彼の顔付きは、至って真剣そのものでした。
「理由は簡単です……これは魔術を生業とする家同士の婚約。しかしあなたには、全くといっていいほど魔導士としての才能がない」
「そ、それは、何度も言うようですが、勉強中で……少しずつですが、成果は出ていますでしょう?」
「ミルリア、申し訳ありませんが、才能がないと言っているんです」
彼はこう続けました。
「今の調子で勉強をしても、いっぱしになる頃にはもう君は子供も産めないような年齢になってしまうでしょう。魔導士の家の政略結婚とは、より才能のある子供を産む事を一番の目的としています。分かりますか?」
「い、一人前になるまで、待って下さると言ったのに……」
「死にものぐるいで勉強してくれるというなら考えると、そう言ったのです。けれどあなたはどれだけ鞭を入れても、自分のペースを崩さないようだから」
「そんな……」
「こういう結果になってしまった事は申し訳ありませんが、これは父の意向です。覆りません」
「お、お義父様の意向って……エスメリオ様は……? エスメリオ様はどうお考えなのです? 何もかもお義父様の言いなりで、あなたご自身のお気持ちはないのですか──!?」
私は瞳を潤ませ、エスメリオ様にすがりつきます。私は、私自身の武器というものを承知しています。多少魔術の才がなくったって、どんな男も、私の涙は無視できないのです。
「……僕の気持ち、ですか」
──その筈でした。
聞かなければ、良かった。その瞬間のエスメリオの目が、何より一番こたえた。
「僕は魔導士の家の息子です。やがて家督を継ぐ者」
まるで汚物でもみるかのような、心のそこから面倒臭がっているような瞳。
「だから、あなたには何の魅力も感じません」
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