魔法学園の令嬢ですが、婚約破棄され悪魔に囁かれました

しきど

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2.末永くお幸せに

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 ──数時間後の昼休み、私は実技館へ赴いた。

 名の通り、主に実技練習を目的とするここは、学園内で唯一生徒が本格的な魔法の行使を許される空間である。

 今日び流石に、手からファイアーだとか、エクスプロージョンだとか、そんな類いの非生産的かつ非人道的な魔法の行使は無免許の魔導士だってやらないだろうけれど、それでも、魔法には予期せぬ事故というのもつきものだ。

 あらゆる事態を想定され、ただひたすら頑強に造られたこの建物は、華やかな学園にあって一際異彩──というか禍々しさを放っている。

 正直私は、ここが好きじゃあない。人々の暮らしを豊かにするため存在する筈の近代魔法、その本質である危険性をまざまざと見せつけられている気分になる。

 「……」

 建物の裏に回ると、約束通り彼はそこで待っていた。……別の女生徒と一緒に。

 「やぁ、来たか──」

 彼は私の存在に気付くとニコリと笑みを向けてみせた。──正直、彼が私に向けた微笑みというのは、これが初めてだった気がする。

 私は彼より、連れの女生徒を注視した。

 海のように艶やかなウェーブヘア。小動物のように大きな翡翠色の瞳は、眠たいのか知らないが何処か虚ろである。何処か気弱そうな、儚そうな、如何にも男子が護ってやりたくなるといった風の女生徒。

 隣のクラスの子ではあるが、その貴族のように洗練された容姿から、学園内ではアイドルの扱いを受けている。

 私自身、友人とまでは言わないが、文化祭の時の縁があり、何度か話した事がある。私が提案するイベントの内容に一々丁寧に受け答えしてくれて、真面目な人なんだなぁ、ってその時はそういう印象だったのだが。

 「紹介するまでもないかなフレア、リイネだ。僕の新しいさ」

 「……あ?」

 「僕はこのリイネへの愛に目覚めたんだ。おままごとではない、本当の愛にねっ!」

 「いやだわ、ヴァンフォート様ったらぁ……」

 芝居がかったような仕種で、ヴァンフォートはその女生徒の髪を撫でてみせた。何を言われているのか、何を見せつけられているのか、目の前の状況を理解するのに数秒も要してしまった。

 私の訝しげな視線に気付いたリイネは、肩を強張らせてヴァンフォートにすがり付いた。

 「やだぁ……睨んでらっしゃるわヴァンフォート様ぁ。わたし、こわいっ!」

 あ?

 殴りてえな、と思う。

 前言撤回だ。全然真面目じゃあない。こいつ、こんなにしたたかな女だったか?

 「おいおい、虐めるなフレア。流石犬っころは品性も劣るから困る」

 「一々指摘するのも面倒なのですが」

 私は続けた。

 「とりあえず、どういう事かご説明頂けますか? 」

 「理解力も乏しいのか。まぁいい、よく聞け。僕はこのリイネを新たな婚約者として迎え入れる──」

 まるで翼のように腕を広げる──鳥肌が立つほど芝居がかった仕草をし、彼は私を指差してこう続けた。

 「然るに! 穢らわしいケダモノの血を持つ君との恋愛ごっこは、これでおしまいという事だ!」

 「……要するに、好きな人が出来たから別れてくれというわけで?」

 「然り」

 彼の言葉を十分に咀嚼し、息を吐き出す。

 「お父様とお母様はこの事を?」

 「それは君の心配するところじゃあない」

 「……分かりました。ああはい、分かりましたよヴァンフォート・バルト。全て貴方の意思において決められて、全て貴方の責任において処理して頂くというのであれば、私からは何も申し上げる事は御座いません。大人しく身を引く事にします」

 彼は、ほう、という顔をしてみせた。

 「随分あっさりしているじゃないか」

 無様に泣きつき、すがりついて欲しかったのだろうか。どうか捨てないで下さいと。

 「結構、どうぞ末永くお幸せに」

 我ながら気の利かない捨て台詞だったけど、それ以上を口にすると自分でも思わぬ言葉が飛び出しそうだった。

 しかしこれでも令嬢の端くれだ。みっともない真似はできない。

 「フレアっ!」

 彼は最後に、私を呼び止めこう言った。

 「一週間後、僕の家でダンスパーティーを開く! クラスメイトもみな招待して、その場でサーラとの正式な婚約発表を行う予定だ! 良ければ君も参加してくれよ──ハッハッハッハ!!!」

 去り際、ヴァンフォートは勝ち誇ったように笑っていた。私は屈辱を背で受けながら、黙ってその場を立ち去った。

 拳を握った手のひらが、爪で傷付き血を滲ませていた。
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