物語は突然に

かなめ

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今、ここにいる疑問

可能性はひとつじゃない

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「本当に戦争にはならないと…そう、思いますか?」
さっきまで考え事の海に勢いよくダイビングしてたジリスさんが前のめりになって聞いてくる。
「ならないです。思う、じゃなくて、ならない、です」
一番の理由は世界が違うからですが。
「何と…もし、もし、本当に戦争の心配がないのなら、これを機に是非国交を結びたいところです…」
何か…目をキラキラさせながら握りこぶし作ってる。さっきの盛大な誤解のせいかと思うと、なんかもう誤解を解くの面倒くさくなってきた。…うん、よし。放っとこう。ゴメンね、ジリスさん。希望には添えないよ。
「あの~」
「はい?何でしょう」
さっきまでの鋭い眼光は何処へやら、目がキラキラしたままですよ、ジリスさん。
「他の可能性は…?」
「あっ!」
ゴホンと咳払いをしつつ、姿勢を正している。
「んん…失礼しました。
他の可能性ですが、古代魔術言語を使う者を触媒として利用しようとしている、なども考えられます」
立ち直りが早いのか、さっきまでのキラキラした目は何処へやら。
「触媒?」
「ええ。大量の魔力を消費する古代魔術言語を常に使用する者は、その身に多くの魔力を宿していると言えます」
そうなの?
「ハイエルフや古代竜などの種族は正にそうです。その所為で彼等を触媒として、自らの魔術の底上げをしようとする者もいるのです…」
「え…っ、それってまさか…」
「はい…。彼等の角や羽根、髪や瞳、………心臓…なども触媒となります」
ジリスさんの顔。その表情から解るその意味。最初に私をバスケットで隠して移動しようとした時のその理由。最初から、そういう事も考えて、その上で行動してくれていたんだ…。
「まだあります。今の二つが最も可能性が高いと思われるものですが、それ以外にも希少種収集家コレクターが関わっている場合などもありますし」
「コレクター?」
「珍しい種族…場合によっては魔物や聖獣なども含む収集家の事です」
どちらであっても、もし召喚した犯人に見つかったら生命はないって事だね…。
「他にもありますが、それらは確率的に大変低いと思われますし、問題無いでしょう。問題なのは今上げた三つ…。どれも無視出来ない大きな問題です」
戦争になるか、生命を失うか…。まあ戦争は無いとして。
「アイリンさんの言葉を信じて戦争は無いとしても、国として、種族として大きな問題になる事は変わりません」
「ん?国やら種族として?」
ジリスさんが何とも言えないような顔になる。
「例えば、貴女が魔術の触媒として無惨にその身を切り刻まれたら。例えば、貴女が珍しい種族だと剥製にされて見世物のように扱われたら。貴女と同じ種族であるニンゲンの方々はどう思うでしょうか。もしくは、それを行なった種族の事を他の種族はどう見るのか、その後の交流はどうなってしまうのか…。想像するだけでも、とても恐ろしく大きな問題となる事でしょう」
………そうか。そうかも。これは…自分だけの問題じゃなくなるかも。もしも私が殺されたりしたら。私と同じ人間が他にもいるかどうかは置いとくとして、少なくとも他種族の者を殺した、なんて話が他の種族に広まったら。例えばそれにジリスさん達イスタル人は関わっていなかったとしても、場所は此処なのだ。他から見たら、無関係とは思わないだろうって事なんだ。
「誰が何の為に」
ハッとして視線を上げたら、ジリスさんと目が合った。
「今回の画策をしたのかはまだ解っていませんが、ウォードも色々と調べてくれています」
あの笑顔で。
「大丈夫ですよ。約束したでしょう?貴女が帰れるように出来る限りのお手伝いをしますと」
…信じる。信じられる。彼には彼の理由があるんだから。
「よろしくお願いします」
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