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地球
その頃…
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「鈴華の奴、何処へ行っちまったんだ…」
これは相川鈴華の伯父、相川嘉人が漏らした言葉である。鈴華の両親にして弟夫婦の葬式の後、片付けの手伝いに行ったところ、そこに鈴華の姿は無かった。財布や携帯なども置きっ放しだった事から、まさか、と嫌な考えがよぎり、念の為と警察にも連絡した。たが、依然行方は知れないままだった。
「鈴華が姿を消してから、もう1ヶ月半か…」
可能な限りの知り合いに声をかけた。鈴華の元同級生、同じ大学の子達にも。それなのに誰一人として鈴華の行方は知らなかった。
まさかという思いが強くなる。軽く頭を振って、その考えを隅へと押しやる。大丈夫、あの子がそんな選択をする筈がない。大丈夫、必ず見つかる。いや、見つける。そうでなければ死んだ弟に顔向け出来ん。そう考え直して家の扉を開ける。
「ただいま」
「お帰りなさい。あの…っ、ちょっと、相談したい事が…あるの…」
出迎えてくれた妻の様子が、その相談事が只事では無い話だという事を匂わせていた。
「どうした?何かあったのか?」
「それが…今日、和人さん達の所に掃除に行ってきたんだけど…」
和人とは鈴華の父にして、私の弟の事だ。
「鈴華か?鈴華の、何か解ったのか?」
「それが…そう、とも言えるんだけど、その…」
何とも煮え切らない態度だ。何があったと言うのか。
「ハッキリしろ。何だって言うんだ?」
私の言葉にもまだ何か迷ったような態度の妻にやや苛立ちながらも先を促す。
「あの…これが郵便ポストに入っていて…」
そう言って手紙、だろうか、一通の封筒を差し出す。ひっくり返しても見たが、封筒には何も書かれていない。中身を確認すると様々な大きさ、形容の文字の切れ端で、【相川鈴華は男と暮らしている】と書かれていた。
「……っ!誰だ!?こんな悪戯をするのは!?」
こんな状態の今、こんな真似をするとは!悪戯にしても度がすぎると言うものだ。しかし妻の続けた言葉に唖然とする。
「それが、和人さんの所だけじゃないみたいで…」
「なんだと?!」
こんな物を他の所にも配っているのか?
「どうしたら良いのかしら…」
「しっかりしろ!」
弱気な妻を叱咤する。
「ありえん!あの子がこんな時にそんな事をする訳がない!」
そう。あの子が小さい頃から見てきたのだ。居なくなった時の状況を考えてもそんな事は有り得ない。まだ「でも…」と言い募る妻には警察に連絡して取り締まってもらうと言って話を切った。一体誰がこんな事をしたのか知らんが絶対に許さん。思い知らせてやる。そのままリビングに入り、受話器を取ったのだった。
今村優香は今年大学に入学したばかりだ。だが今日は午後の講義をサボって早目に帰宅している。高校の同級生である本庄千佳からLIMEが入っていたのだ。「今日、逢えない?」と。約束した時間まではまだ余裕があるので、一度帰って荷物を置いていこうと思ったのだ。アパートに取り付けられている集合ポスト、自分の部屋のそれを開ける。何通かあるそれらを掴んで部屋まで真っ直ぐだ。鍵を開けて、中に入り、ポストから持ってきたのを軽くチェックする。と、何も書かれていない封書があるのに気付いた。
「え~、何これ。直接投函したって事?うわ、キモっ」
そんな得体の知れない物を誰が開けると言うのか。そのままゴミ箱にポイだ。そして簡単にメイクを直す。
「待ち合わせスマバだし、早目に行ってお茶しながらこの間買った本でも読んでよっかな」
部屋を出る時にはもう謎の封筒の事は頭になかった。
「優香ぁ、ゴメンね~。待ったぁ?」
「ん~ん、本読んでたし、大丈夫」
今日の待ち合わせは彼女、千佳の呼び出しによるものだ。
「最近、どぉ~お?大学、カッコいい人とかいたぁ?」
「何それ。授業についてくのでやっとで、そんなドコロじゃないんだけど」
「マジメかっ!」
「真面目だし~」
笑いながら軽口を言い合う。慣れない大学生活にちょっと疲れてきていたので、こんな事が凄く楽しい。暫くはお互いの近況を笑いながら報告しあう。ふと思い立って
「そう言えばどうしたの?いきなり逢えないか?とか。何かあったの?」
そう聞きながら、私はある事を思い出す。親友のスズの事を。すると…千佳が、さっきまでの楽しげな雰囲気をガラリと変えて下を向いてしまった。
「ど、どうしたの?何かあったの?」
「…手紙…届いてない…?」
下を向いたまま。
「手紙?手紙って何の?」
「茶色いね、封筒なの。表には何も書かれてない、茶色い封筒の手紙」
何も書かれてない茶色い封筒…?さっき来てたアレ!アレの事だろうか。
「あぁ、うん。何か今日、ポストに入ってたけど…それがどうかしたの?」
突然。真剣な表情で目の前に迫るように寄ってくる千佳。
「読んでないの?!ねぇ!読んでないの?!」
「ちょっ、落ち着いて!どうしたのよ?」
「読んでないの?!」
本当にどうしたと言うのか。普段のおっとりとした彼女からは考えられない只ならぬ雰囲気だ。
「…読んでない…」
「何で?」
「いや、何でも何も…あんな怪しい手紙なんて読むまでも無くゴミ箱にポイよ」
さっきのそっくりそのまま、自分の行動を説明する。
「読んでよ、バカ!」
「何でバカとか言われなきゃならないのよ!?あんたがバカでしょ、あんなの…」
思わず言葉を止める。千佳が目に涙を浮かべてこっちを見てたから。
千佳がバッグから茶色い封筒を出してきた。
「読んで」
その様子に、ただ黙って封筒を開ける。その中身は──
「……何よ、これ…」
【相川鈴華は男と暮らしている】
スズが…男と暮らしているって…有り得ない!誰よ、こんなの寄越したのは!
これは相川鈴華の伯父、相川嘉人が漏らした言葉である。鈴華の両親にして弟夫婦の葬式の後、片付けの手伝いに行ったところ、そこに鈴華の姿は無かった。財布や携帯なども置きっ放しだった事から、まさか、と嫌な考えがよぎり、念の為と警察にも連絡した。たが、依然行方は知れないままだった。
「鈴華が姿を消してから、もう1ヶ月半か…」
可能な限りの知り合いに声をかけた。鈴華の元同級生、同じ大学の子達にも。それなのに誰一人として鈴華の行方は知らなかった。
まさかという思いが強くなる。軽く頭を振って、その考えを隅へと押しやる。大丈夫、あの子がそんな選択をする筈がない。大丈夫、必ず見つかる。いや、見つける。そうでなければ死んだ弟に顔向け出来ん。そう考え直して家の扉を開ける。
「ただいま」
「お帰りなさい。あの…っ、ちょっと、相談したい事が…あるの…」
出迎えてくれた妻の様子が、その相談事が只事では無い話だという事を匂わせていた。
「どうした?何かあったのか?」
「それが…今日、和人さん達の所に掃除に行ってきたんだけど…」
和人とは鈴華の父にして、私の弟の事だ。
「鈴華か?鈴華の、何か解ったのか?」
「それが…そう、とも言えるんだけど、その…」
何とも煮え切らない態度だ。何があったと言うのか。
「ハッキリしろ。何だって言うんだ?」
私の言葉にもまだ何か迷ったような態度の妻にやや苛立ちながらも先を促す。
「あの…これが郵便ポストに入っていて…」
そう言って手紙、だろうか、一通の封筒を差し出す。ひっくり返しても見たが、封筒には何も書かれていない。中身を確認すると様々な大きさ、形容の文字の切れ端で、【相川鈴華は男と暮らしている】と書かれていた。
「……っ!誰だ!?こんな悪戯をするのは!?」
こんな状態の今、こんな真似をするとは!悪戯にしても度がすぎると言うものだ。しかし妻の続けた言葉に唖然とする。
「それが、和人さんの所だけじゃないみたいで…」
「なんだと?!」
こんな物を他の所にも配っているのか?
「どうしたら良いのかしら…」
「しっかりしろ!」
弱気な妻を叱咤する。
「ありえん!あの子がこんな時にそんな事をする訳がない!」
そう。あの子が小さい頃から見てきたのだ。居なくなった時の状況を考えてもそんな事は有り得ない。まだ「でも…」と言い募る妻には警察に連絡して取り締まってもらうと言って話を切った。一体誰がこんな事をしたのか知らんが絶対に許さん。思い知らせてやる。そのままリビングに入り、受話器を取ったのだった。
今村優香は今年大学に入学したばかりだ。だが今日は午後の講義をサボって早目に帰宅している。高校の同級生である本庄千佳からLIMEが入っていたのだ。「今日、逢えない?」と。約束した時間まではまだ余裕があるので、一度帰って荷物を置いていこうと思ったのだ。アパートに取り付けられている集合ポスト、自分の部屋のそれを開ける。何通かあるそれらを掴んで部屋まで真っ直ぐだ。鍵を開けて、中に入り、ポストから持ってきたのを軽くチェックする。と、何も書かれていない封書があるのに気付いた。
「え~、何これ。直接投函したって事?うわ、キモっ」
そんな得体の知れない物を誰が開けると言うのか。そのままゴミ箱にポイだ。そして簡単にメイクを直す。
「待ち合わせスマバだし、早目に行ってお茶しながらこの間買った本でも読んでよっかな」
部屋を出る時にはもう謎の封筒の事は頭になかった。
「優香ぁ、ゴメンね~。待ったぁ?」
「ん~ん、本読んでたし、大丈夫」
今日の待ち合わせは彼女、千佳の呼び出しによるものだ。
「最近、どぉ~お?大学、カッコいい人とかいたぁ?」
「何それ。授業についてくのでやっとで、そんなドコロじゃないんだけど」
「マジメかっ!」
「真面目だし~」
笑いながら軽口を言い合う。慣れない大学生活にちょっと疲れてきていたので、こんな事が凄く楽しい。暫くはお互いの近況を笑いながら報告しあう。ふと思い立って
「そう言えばどうしたの?いきなり逢えないか?とか。何かあったの?」
そう聞きながら、私はある事を思い出す。親友のスズの事を。すると…千佳が、さっきまでの楽しげな雰囲気をガラリと変えて下を向いてしまった。
「ど、どうしたの?何かあったの?」
「…手紙…届いてない…?」
下を向いたまま。
「手紙?手紙って何の?」
「茶色いね、封筒なの。表には何も書かれてない、茶色い封筒の手紙」
何も書かれてない茶色い封筒…?さっき来てたアレ!アレの事だろうか。
「あぁ、うん。何か今日、ポストに入ってたけど…それがどうかしたの?」
突然。真剣な表情で目の前に迫るように寄ってくる千佳。
「読んでないの?!ねぇ!読んでないの?!」
「ちょっ、落ち着いて!どうしたのよ?」
「読んでないの?!」
本当にどうしたと言うのか。普段のおっとりとした彼女からは考えられない只ならぬ雰囲気だ。
「…読んでない…」
「何で?」
「いや、何でも何も…あんな怪しい手紙なんて読むまでも無くゴミ箱にポイよ」
さっきのそっくりそのまま、自分の行動を説明する。
「読んでよ、バカ!」
「何でバカとか言われなきゃならないのよ!?あんたがバカでしょ、あんなの…」
思わず言葉を止める。千佳が目に涙を浮かべてこっちを見てたから。
千佳がバッグから茶色い封筒を出してきた。
「読んで」
その様子に、ただ黙って封筒を開ける。その中身は──
「……何よ、これ…」
【相川鈴華は男と暮らしている】
スズが…男と暮らしているって…有り得ない!誰よ、こんなの寄越したのは!
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