物語は突然に

かなめ

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日々早々

知るべき事

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「古代竜自らがわざわざアールヴ大陸から出てきて騒ぎを起こすなどとは考えられん。何かがある筈だ」
「そうですね…。確かに、もしも本当に古代竜を見たと言うなら、何かがあったと思うのが妥当でしょう」
「で、だ。同じ古い言語を使う彼女は突然何者かに召喚でもされたかのように、いつの間にか此処にいたと…」
「成る程…古代竜がわざわざアールヴ大陸から出てくる必要があるが彼女であるかもしれない、という事ですね」
「あくまで可能性、だけどな」
笑顔で談笑してるかのようにスゴイ話をしている二人。
ちょっ、待って?待って待って待ってぇぇ?!何その古代竜とかって!私、関係ないよ?!いや、関係ないよね?!あるの?!何で?!知り合いでも何でも無いんですけど?!
いや。まさか。
私を召喚した誰かが、古代竜の何かに私を使うつもりなんだろうか…?何かって何だ?だいたい、そんな事ありえるんだろうか?私なんて何も無い普通の一般人なんですけど?そんな私を一体、何に…何に…何って…まさか…触媒………とか…?髪とか、目とか、心臓なんかも触媒になるって。そう、言ってた。
ゴクリと。無意識のうちに喉を鳴らしていた。思考が一瞬停止していたのか、何か、何か考えなくちゃと思ってるのに、考えようとしてるのに何故か酷く時間がユックリと流れているかのような感覚になって、変に
(あぁ、これ、思考が麻痺するギリギリ一歩手前なんだ)
と理解した。理解した途端、グルリと思考が何やら逆回転でもしてるかのような錯覚に囚われる。
「アイリンさん?」
──────?
あ?何か、あれ?今、あれ?
「アイリンさん!?」
グルリと、また思考が一回転した気がした。
「え?はい。何でしょう?」
返事をしながら、あぁ、今、ジリスさんに呼ばれたのか、なんてバカみたいに思った。
「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが、何処か具合でも悪いのですか?」
「え?」
「真っ青ですよ?大丈夫ですか?」
本当に、心配そうに覗き込んでくる。
あぁ、そう言われれば。何かクラクラするかも。食べ過ぎかな?
でも大丈夫。
そう、言おうと思ったのに。顔をあげたらまたグルリと、今度は視界が一回転して、次にはもう意識が飛んでた。







──きゃああああっ!──
ガバッと飛び起きて急いで今の自分を確認する。お腹、手、足、顔…何とも無い…。良かった。何とも無い…っ。
ホッとしていると、ジリスさんに声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込んでくる。
「大…丈夫です…」
深い深い溜息が出た。
「何か…怖い、スゴイ怖い夢を見て…覚えてないんだけど、スゴイ怖くて…っ」
泣きそうになるのを深く息を吸って堪える。
「夢…そうですか…。そうですね、今朝あんな事も有りましたし、まだ心に残っているのかもしれませんね…」
今朝?あんな事…あぁ、アレか。確かにアレ怖かった。痛かったし。でも。
「大丈夫ですよ。ユックリと休んでください。そうだ、リラックス出来るお香も焚きましょうか」
本当にゆったりとした気分になれるんですよ~とか言いながら、窓際の引き出しから色々と取り出している。
夢…夢の内容は本当に覚えていない。ただ怖くて怖くて、その感情だけが残っている。今も心の奥のほうに得体の知れないモヤモヤした黒い塊があるような感覚。ヤダな。そもそも何で私、寝てたんだっけ?
いや。いや、寝てたんじゃない。寝てない。ちゃんと起きてた。話も聞いてた。古代竜がどうとか。私…触媒エサにされるために此処に召喚された呼ばれたんだろうか。何て勝手な。何て理不尽な。何て…。何で私が。
グルグルと同じ思考が巡る。答えが出ない事を何度も何度も頭の中で繰り返す。ダメだ。この考え方はダメだ。そう思うのに、解っているのに、延々とループする。そんな時にふと、何かがフワリと香ってきた。何だろう?顔を上げて香ってくるほうを見れば、香炉だろうか、少し煙も立ち昇っているソレ。爽やかなのに少し甘さも感じる香り。いい匂い。
「タンベラの花の香なのですが、如何ですか?」
「いい香りですね」
素直な感想をそのまま口にする。本当にいい匂い。ユックリと深呼吸するようにその香りを楽しむ。
「まだ時間は有りますから、ゆっくり休んでいてください」
いつもの笑顔。変な気分だ。そのを知ってしまったからだろうか。
「大丈夫です。それよりジリスさんが仕事してるところ見ててもイイですか?」
「えっ?えぇ…構いませんが、休んでなくて大丈夫ですか?それに…見てても面白くはないと思いますよ?」
意外だと言わんばかりの顔。別にイイのだ。面白い面白くないの話ではなく。気遣ってくれているのは有り難いが、知らなくてはいけないと思ったのだ。いや、正しくは、か。
何も知らないまま、利用されるだけなんて、まっぴらゴメンだ。
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