物語は突然に

かなめ

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神の書を求めて

帰るという事

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またジリスさんの胸ポケに戻った。
うん。何か落ち着く。あの後、暫くゴトゴトと馬車に揺られていたけど…めっきり魔物が出てこなくなった。
何故?
竜か?竜とか出てきたせいで、他の魔物がビビって隠れちゃったとかそうゆう事なんだろうか?それで考えたら、竜様々ってところか!?
………いや、無いわ。竜に出くわしてる時点でもう色々と無いわー。
そもそも竜ってそんなにアチコチ闊歩してるもんなの?普通は山とかにいるんじゃないの?違うの?
いや!
よく思い返せば古代竜は大陸が違うみたいな事を言ってた!…たぶん、言ってた。うん。やっぱりそこらへんに竜がいたりはしないもんよね?そしたら、やっぱり今、魔物が出てこないのは竜にビビってって事なのかな?誰もその辺のこと、何も言わないのはそういうモノだって事なのかな…?おかしかったら、おかしいって言うだろうし。
まぁ、魔物が出てこないのは良い事だよね。
それにしても…竜か…。
大きかったなぁ…。想像してたより、もっとずっと大きかった。いや、私が今、チビッコいせいかもしれないけど!それでも、ジリスさん達と比べたってかなり大きかったし。怖いし。思い出すと怖い、しかない。アレ、本当に日本語とか話すの?仮に話せたとしても、次に遭う時は一も二もなく逃げる自信あるわ。怖いし。て言うか…あの竜は何処へ行ったんだろう…。また出てきたらヤダなぁ。あんなのとガチバトルとか無理!ラノベの勇者ナメてたわ…。無理無理、真似できない。
何かなぁ…。
異世界とか来ちゃって、魔法とか使えるようになっちゃって。イイ気になってたんだ、きっと。よくもまぁ、ラノベの主人公達はあんなのと戦う気になるなぁ。私は…無理。怖いもん。
………帰りたいなぁ。
早く、帰りたい。
お母さん、お父さん。
帰りたいよ。
「はぁ……」
小さく溜め息が出た。
………ああ、ヤダなぁ。
帰ったって誰もいないのに。
帰りたくても帰る方法なんて解らないのに。
何で私がこんな目に遭わなきゃならないの。
こんなふうに考えちゃうのもヤダ。
何も出来ないのに。助けてもらってばかりのくせに。ヤダヤダ言ってる自分もヤダ。
諦めたくない、頑張りたいって思ってるのに、思ってるつもりなのに、色んな事から逃げようとしてる自分がヤダ。
…泣きたくなってきた。
これもヤダ。
簡単に泣きすぎじゃない!?こんな事で泣くとか、絶対ヤダ。
涙が溢れそうになるのを唇を噛み締めてグッと我慢する。鼻をすすりあげたところで、いつの間にか体育座りしてる事に気付いた。
何これ。
自分が凄いイジケてるみたいじゃん!
そんな事ないし!イジケてないし!
叫びこそしなかったが、今の状態を思いっきり否定するべく両手を振り上げると、そのままジタバタと上下させる。
しかしよく考えれば今は胸ポケの中だった。
「ど、どうかしましたか?」
ジリスさんの驚いた声が聞こえる。
「ごめんなさい、何でも無いです…」
あ゛あ゛あ゛…
もうなんていうか、ジリスさんには迷惑しかかけてないわ、私…。気を付けよう。本当に、本当に、気を付けよう。
ふと、胸ポケからヒョコリと顔を出して声をかける。
「ジリスさん、あの…」
でも言葉が見つからない。自分でも何が言いたかったのか解らなかったのだ。
「どうしました?」
いつもの、ジリスマイル。いつもの、優しい口調。でも…。
「何でも無いです…。ごめんなさい…」
何でだろう。無性に哀しいやら寂しいやら、変な気持ちになる。
帰りたい。
帰りたい、帰りたい、帰りたい。
でもそんな事を言えるはずもなくて。
胸ポケに潜って膝を抱えて丸くなる。
帰りたい。
何でだろう。
いや、帰りたいのは元々だけど、こんな気持ちになるなんて。
ダメだ。これ以上は考えたらダメだ。
必死に〝帰りたい〟という気持ちを押し殺す。逃げてたらダメなのだ。先延ばしにしてるだけなのかもしれないけど、諦めないと決めたのだ。
諦めない。頑張れる。頑張る。
何度目になるか忘れたが、その言葉をまた心に刻む。そんな決意を胸に──とかやってたら…何か煩い。
何だろう?
よく聞いてみたら、たぶん妖精が何か話しかけてきているらしい。ねぇねぇ、だの、出ておいでよ~、だの聞こえる。煩い。寝たフリしようかと考えたところで、今さっき顔を出してた事を思い出す。その間にも妖精達は話しかけてくるし…仕方ない、顔だけ出すか…。
ヒョコッと頭だけ出すと、待ってましたとばかりに声をかけてくる。
「出てきたー」
「ねぇねぇ、お喋りしようよー」
「せまくないのー?」
「そこ、好きなのー?」
「外のほうがイイのにー」
「広いしー」
「踊れるしー」
「歌うほうがイイよー」
「イタズラのほうが面白いよー」
「レオンに?」
「しよしよ♫」
「一緒にやろー♫」
「お尻に火をつけちゃう?」
「えー!あそこの草むすんでおくほうがイイって!」
「それ、最近ひっかからないじゃーん」
顔を出しただけなのに、お喋りが止まらない…。妖精、スゴイな。マシンガントークってやつか。しかもこっちは返事なんてしてないのに、勝手に巻き込まれつつの話が進んでるところが怖い。
て言うか、レオンてそんなに毎回イタズラされてるのか…。ちょっと優しくしてあげようかな…。
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