物語は突然に

かなめ

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神の書を求めて

問題発生

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あ~、クラクラする…。
目をシパシパさせつつも(ぶっちゃけ戦闘も終わってた)周りを見ると、デッカイ熊が倒れてた。いやツノとかあるから熊ではないんだろうけど。魔獣ってヤツだね?
しかし…デカイ。
三メートルはありそう。
それにしても…どこが〝デルタ〟なのか。
そんな疑問に気を取られてる間、ジリスさん達は、どうする?とか困ったとか話している。何がどうして困ると言うのか。
「どうかしたんですか?」
しまった。つい、口に出して言ってしまった。
「あぁ…。う~ん、そうですね…まあ、これは我々の問題と言うか…」
苦笑いしながら教えてくれた。
「気付いていると思いますが、先程からアチコチに爪痕が残されてたでしょう?」
「爪痕?」
あったかな、そんなの?
「えぇ、ほら、木々がなぎ倒されるようになっていたのがそうです」
「あぁ!」
あの小競り合いでもあったのかと思ってたアレか!?
「あれはデルタベアが自らのナワバリを主張する跡なんです」
「そうなんですか…」
随分と激しいナワバリ主張だなぁ。
「夜になってからはあの爪痕がある中で一度も魔物も魔獣も出て来なかったでしょう?」
「はい」
それは確かに不思議だったんだよね。
「デルタベアは通常、二メートルほどの大きさです。なのに、はそれ以上。そして今の今まで他の魔物も魔獣も出てきていない。となると…」
「となると?」
がこの辺り一帯のである可能性が高いのです」
そう言って倒れている熊を指差す。
「はあ…」
それが何だって言うんだろう?
疑問が顔に出てたんだろうか、ジリスさんがちょっと困ったような顔で笑っている。
「まぁ…ここからが我々の問題なのですが、ヌシとなっているものを倒してしまうと、その辺り一帯の魔物や魔獣が次のヌシの座を巡って覇権争いが始まるんです。で、その間、活性化した魔物達のせいで近隣の村などに被害が出る可能性が高くなってしまうんです」
「なるほど…」
それは確かに困る事態だ。しかもジリスさん達は国に仕える騎士だったり魔術師だったりする訳だし。魔物を活性化させちゃいました、テヘペロ♫じゃ済まないんだろう。
「まぁ、ヌシを倒してしまった事は仕方ないとして」
仕方ないんだ!?
「問題はですね、ヌシを倒してしまった場合、という規則の方なのですよ」
別に…規則だって言うなら報告すればイイと思うけど、何がダメなんだろうか。
「本来ならこの辺りのヌシはデザートウルフだった筈なんですよね」
「…はあ…」
さっきの熊がデルタで狼はデザートとは。
どこら辺がデルタでどこら辺がデザートなのかをちょっと問いたいが今は我慢する。
「ですから、デザートウルフだけ注意すれば良いと思って…その………持ってきていないんですよね…」
何故か視線をスル~っと逸らしていくジリスさん。
「何をですか?」
「通信機を…」
「通信機?」
「ええ」
「持ってきてない?」
「ええ」
「えっと…持ってきてなかったら…どうなるんでしょう…?」
少しの沈黙。
ん?何で黙ってるの?
「…引き返して報告しないといけない……と言いましょうか…その、なんというか」
「えっ!?」
引き返す?此処から?何処に?
え~……二日目ですよ?しかも夜ですよ?もう結構な距離を進んできてますよ?…え…っ?戻るの?
ジリスさんは目を逸らしたまま、口元を手で押さえている。よく見たら首筋に汗が…。 
「…色々と失態続きで済みません…」
はぁ、とメッチャ深い溜め息を吐いてる。
…まぁ、戻らなきゃならないってのは日数的には痛いかもしれないけど、決まりだって言うなら仕方ない事だし、そこまで気にせんでも。ジリスさん達の職種的にも無視して進んだらダメなところだろうし、それに被害が出る可能性が高いって解ってて放置するのもどうかと思うし。
大体、失態続きって言うけど、通信機の事はともかく何かそんなに失態と言えるような事あったっけ?
特に思い当たるところもないけど…まあ、本人が気にしてるんだし、私が気付いてないだけで、ジリスさん的に何か思うところがあったのかもしれない…。
いまいち想像出来ないけど。
「取り敢えず、報告すべき事なら報告しないと。手段がないなら戻るのも仕方ないと思いますし」
「しかし……良いのですか?」
イイも何も。
「規則なんでしょう?それに…放っておいて、そのせいで誰かが犠牲になってもイヤな気分になりますし」
「申し訳ありません…」
またも謝罪の言葉を告げて、深くうな垂れてる。別に本なんか逃げやしないんだから、そんなに凹まなくてもイイと思うんだけど。
「あのっ、げ、元気出してください!別に二~三日位どうって事ないですよ」
「あの…私の場合、上に立つ者の職務として各所への手続きなどもありますので、三~四日ほど掛かる事になるかと思うのですが…」
おうふ。そうなのかー。
上に立つ人って大変なのねー。
なんて考えてたら、ますますジリスさんが凹んできたー!あわわ。
「だ、大丈夫ですよ、それくらい、どうって事ないですって」
フォローしたくてもどう言えばイイのか解らないので、取り敢えず大丈夫を連呼する。
「あの、ジリス様、ちょっと良いでしょうか…?」
レオンがおずおずと声をかけてきた。
フォローか?フォローですか?
よし、きた!お願いします!
「ジリス様は司祭職ですし、三~四日では無理では…?」
「うっ!それは…っ!」
フォローじゃないのかーい!
呻き声上げて尚の事凹んじゃったやん!
何をしてくれてるんだ、レオンめっ!
レオンの株が一気に下がったところで、更に続く言葉にちょっと目を見張る。
「あの、もし許可を頂けるなら、僕が報告に参りますが」
えっ?僕がって…一人で行くって事だろうか。
「あっ、済みません、私が、です。私が報告に参ります、です」
言い直した。
うん、やっぱりというか、いまいち格好良くないよね…。残念なイケメンというか、なんというか。
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