王様とメイド

立花すずな

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29 遊馬が正式に執事になりました

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 「…ずいぶんと急ですねえ」ルシアが呆れたように言った。

 「アンドレア様もしかして、刀職人だったら誰でもよかったのでは?」

 そんなオリヴィアの言葉を聞いたアンドレアの眉は一瞬ピクッとした。


 「あーあ、図星でしたよ」ルシアはさっきより呆れている。

 「べ、別にいいだろう。彼は優秀な人間だしな」アンドレアは冷や汗を垂らしている。

 「そんな!優秀だなんて!光栄です!!」そんな遊馬は大興奮である。

 

 「まぁいいや。…アンドレア様、明日にでも来てもらいましょう」

 「そうだな」

 「よろしくお願いしますね、景千代さん」オリヴィアはニコリと笑って言った。






〇〇〇

 朝5時。大きなお屋敷のベルが鳴る。


 「ん…」玄関に一番近い部屋で寝ていたルシアが目を覚ます。

 
 「何なの、もう朝?…ってまだ5時じゃない」

 ルシアは重たい足を引きずってベッドから起き上がる。

 廊下に出ても二人が起きてくる様子は無かった。


 「いいわよねぇ、二人は玄関から遠い部屋で。いやだわぁ郵便かしらねぇ」

 トボトボとルシアは玄関へ向かう。


 「はーい、待っててください」

 ルシアが扉を開けた途端。


 「おはようございます!」とどデカいであいさつをする遊馬がいた。


 「あ、遊馬さん…?なぜこの時間に?」途端にルシアは仕事モードに入る。


 「え?今日から執事としてこちらに就かせていただくのに遅い時間に来るのも…」

 「日本人は早起きなんですね…」ルシアは苦笑い。


 「まぁそうですね!体操もしますしね!美味しい朝食を作るために早起きする奥方もいますし!」

 「…そうですか。取り敢えず寒いので入りましょうか。皆さんを起こしてくるので靴を脱いでくつろいでいてください」
 ルシアは玄関にある大きなソファを指さした。

 「では、しばしお待ちを!」ルシアは走っていった。



 「はーい…」遊馬は言われた通り靴を脱ぎ、ソファに座った。

 「ヨーロッパなのに靴を脱ぐのか。…というか」

 「ふわっふわ」遊馬は感動したような声で言った。






 「改めてよろしくお願いします!」ダイニングで朝食を囲みながら遊馬が言った。

 「こちらこそ」
 「仲良くしましょーね!」
 「さて仕事だが…」

 「「おい!」」二人がすかさず突っ込む。

 「はい、今日は午後から…」


 「「いや何でお前は予定を知ってるんだよぉ!」」また突っ込む。


 「先程アンドレア様の部屋に入らせていただきました故…」

 「ふむ。日本人は忍者という職業じゃなくとも、みな素早い人種なのだな」


 「いや何その納得した顔」ルシアは冷めた声で言う。


 「まぁまぁ取り敢えず景千代さん、執事大変かもしれませんが、頑張ってください!」

 「ふえ…!!!」変な声を上げる遊馬。





 なんやかんやで夜がきた。


 「お疲れ様でした」

 ルシアと遊馬はルシアの部屋にいた。


 「はい、どうぞ」ホットチョコを遊馬に渡す。

 「ありがとうございます」

 
 「そういえば、ずいぶんとオリヴィアさんと仲良くなったようで」

 「はい。オリヴィアさんは可愛らしいかたですね」

 (えっ)ルシアはイヤな予感がした。

 
 「まぁ、そうですねぇ…」

 「えぇ。いつまでも愛でていたい…!」

 「いや、何いってんですか!あくまで私たちは仕事仲間ですよ!」


 「日本では職場結婚というものがありますが…?」

 「ここではありませんねぇ!」

 「そうですか…」遊馬は途端にシュンとした。


 「まぁ確かにオリヴィアさんは可愛いですが」

 「例えばどこですか?」

 「…え?笑顔、ですかね?」

 「たしかに!あの守りたくなる笑顔!」

 「まぁ、そうですね」

 「あのあどけなさ!可愛い声!すべてが可愛い!」

 「あの、変なことしないでくださいね」


 「変なこと?」

 「可愛さゆえに刀で殺すとか」

 「なっ!そんなことしませんよ!!ただ…」

 「ただ?」


 「髪を結ってあげたいですね…」

 「はぁ!?いやマジで付き合うきじゃん!絶対私の陰で告白しますよね!このタイプは!!」


 「あのー、付き合うとか、ありえませんよ?」

 「いや、あなたが!」


 「私はオリヴィアさんを妹として見ていますから」

 「…は?」


 「私には双子の妹がいます。彼女は遠い日本にいて…。一年に一度会えるかどうか。そんな彼女にオリヴィアさんは似ているんです。だから」

 「髪を結いたいと」

 
 「はい。あの子は不器用で髪を結べないんです。髪色は黒と茶色で違いますが、長さや艶、あのあどけない笑顔…全てがそっくりなのです。妹に会えない寂しさをオリヴィアさんは埋めてくれるんです!!」


 「うん。取り敢えず分かったから寝よう。…な?」


 「分かってくれますかルシアさん!彼女のあの耳!小さくてかわいい!そっくりだ!あの脚!細くて白くt」


 「はい、おやすみなさーい」

 ルシアは扉をバタンと閉めた。

 「寝顔!きっとあの子のように可愛いんだろうなぁ!!」


 まだ廊下で騒いでいる。


 「ったく、アンドレア様凄い人連れてきたわね…」

 ルシアはホットチョコを飲んでオリヴィアの顔を思い出した。

 「んまぁ、可愛いけど…」

 ルシアはベッドに横になって言った。


 「あぁフルコーデしてぇ…」

 結局ルシアもオリヴィアの事を愛でたいのであった。
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