王様とメイド

立花すずな

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8  甲斐性なし

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 「その前に、俺の部屋に来てほしい」


 気持ちは決まってるけど、やっぱり少し緊張…。
 夕食の準備を少ししてから、アンドレア様の部屋へ向かう。


 「足取り重いなぁ…」いつもより廊下が短く感じる。ずっと続いていてよ。


 「ふぅ…よし!」
 「失礼します!」ドアを開けると、アンドレア様は窓から外を見ていました。


 「おお、来たか。話したいことがある」





 よし、俺頑張れ、言うんだ!

 「なんでしょうか…?」

 「あぁ、そこへ座ってくれ」と取り合えず座らせる。よし、ここからが本題だ。


 「あの…早めにしていただけませんでしょうか。今日はいつもより夕食を作る時間が遅いんです」

 「ああ、すまん。早めに終わらせる」

 今の言葉が少し心に突き刺さった。いつもはこんな事言わないはずだ。


 「あのな…」と沈黙。俺はなんでこう言えないんだ。

 それから3分…5分…と、時間が経っていく。アンドレア、流石に沈黙長すぎ。

 「あの、アンドレア様、今日はやめませんか?簡単に話せることじゃなさそうなので。明日でも構いませんので」と。


 「そ、そうか?ならば、そうしよう…」

 「では、失礼します」

 さっさとオリヴィアは部屋を出ていく。

 「なんで俺はいつもこうなんだ…!」


 すると、電話が鳴る。「だれだ、こんな時に」

 ムッとしながら受話器をとると、『よっ!』とイーサンの声が。

 『切らないでくれよ!』切ろうとしたときにこれだ。


 「…なんだ?俺は忙しいんだ」

 『またまたぁ。忙しいのは仕事じゃないだろ。心はきっと焦ってるはずだ』

 「…だまれ」


 『はは~ん、やっぱり言えなかったのか。お前はいつもこうだ』

 「だからなんだっていうんだよ」

 『一度決めたことなんだろ?だったら、成功させろよな』

 「できたらやってる…」


 『はぁ。オリヴィアちゃんが可哀そうだ』

 「あいつは、冷たくなった」

 『…は?それって、もしや、お前が言いたいことを分かってたんじゃないのか?』

 「…え?」いや、それはないだろう。


 『もしや、サルファがまた変なことを口走ったんだな?はぁ…アイツといいお前といい。本当にバカだなぁ…』電話越しで嫌そうな顔をしているのが分かる。

 「ということは、俺がアイツを気にしているのを知っているのか?」

 『そうだな。ついでに言っておくが、気にしてるのではなく好きだということをな』

 「俺はわざと回りくどく言ったんだ」

 『はは。知ってるさ。顔が真っ赤だろう?』と嘲笑うかのように言う。

 「っ、なわけ!?」鏡を見たら、真っ赤だった。

 『真っ赤なんだな?はぁ…だったら、俺がオリヴィアと結婚しようかな』

 オリヴィアと結婚……!


 「なっ、何を言っている!」

 『冗談だよ。というか、俺は結婚するだろう?』

 「いや初耳」

 『許嫁がいたじゃないか。あの子とだよ』あぁ、確かに。変な赤髪の奴か。

 『お前の方が何か月か俺より早く生まれたのになw先を越されるとはw』

 とてもうざい…!

 「そうだな。おめでとう」

 『お前が言えないなら、俺が言ってやる』

 「は?」

 『お前は言えない、これからもずっとだ。お前をずっと見てきた俺が言うんだぞ?』

 「それは…」

 『図星だろ?俺が言ってやるからさ。な?』

 「いや…」


 『それ以上言ったらオリヴィアを俺の下僕にする』

 「よろしくお願いいたしますぅ!」

 『…よし!』



 つい、冷たく言い放ってしまった。あまりにも心臓が持たなかった。

「はぁ。どう顔合わせればいいのよぉ…」

 サルファ様があんなことを言ったのを聞いてから、アンドレア様の目を見られない。いや、全部だな。心臓が張り裂けそう。こんなの初めて。

 「さっ、忘れて、夕食の準備しないと!」


〇〇〇

 「はぁ、甲斐性なし」

 「イーサンくんはご立腹だぞ!」プンプン!と言っていると、「何してるんですか」と後ろにいたサルファが冷たく言い放つ。

 「それはそうと、お前、オリヴィアに変なこと吹き込んだろ!そのせいで、アンドレアが言えなかっただろうが!どうしてくれんだ!」と怒りを思いっきりぶつける。

 「私が何も言わなくても、アンドレアは言えなかったと思うけど?」と冷たく言う。

 「まぁ、そうなのだが…」

 「そうだ、あなたも、まだ例の許嫁の方に何も言えてないのでしょう?人に言えないじゃないの」

 「そうだった…。最近は会ってもいない…」

 「ふっ、偉そうに」とバカと言わんばかりにとてもウザく言ってくる。


 「いや、待てよ?そういえばお前も好きなヤツがいたよな?確か庭師だったような…」

 すると、「それ以上言わないでよ!!」と赤面しながら言う。


 「アイツとはどうなんだ?仲良くやってるのか?」

 「そりゃ、やってるわよ。毎日話しかけてるわよ」

 「あっそ。早く結婚してくれよ?アンドレアが焦るからな」

 「そっちこそ」



 「俺たちも甲斐性なしだったんだな」

 「ええ…人に偉そうに言えなかったわね」

 二人は目の前の現実に目を背けるのであった。

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