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15歳の章
西方辺境伯領への出張二日目~2
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編んだ式に魔力を通す。発動した術式が世界のあり方を変えていく。
そして、爆発。キマイラの3つの頭部が等しく爆炎に包まれた。
実は僕はこの魔術を得意とする。爆破の魔術を詠唱無しで扱えるのは僕の密かな自慢なのだ。
この魔法には冒険中に何度も助けられた。
例えば遺跡等の探索で扉を開けて魔物とこんにちはしてしまった時。僕が即座にこの術式を部屋に放り込んで盗賊は扉を閉め、その扉をアイツが押さえる。
勿論こんな乱暴な方法を取ればその部屋の実入りは諦める事になるけれど、命は金貨よりも重いのだ。
そんな自信を秘めて放った爆破の魔法ではあったけど、爆炎を振り払ってこちらに突っ込んで来るキマイラの頭は予想通りに獅子のそれしか潰れて居なかった。
山羊の頭は毛が焼けて怒り狂っていたけれど、竜の頭に至ってはほぼ無傷にすら見える。
想定はしていたけれど、正直少しショックだった。けれどショックを受けている暇が無いのも事実だ。
クァッサーさんと部下の人が立ち上がりスラリと剣を抜き放つ。彼等の立場なら当然の行動なのだろう。
クァッサーさん達は護衛で僕を死なせる訳にはいかないのだから。寧ろ高位魔獣に対して怯む様子も見せないのはマルクス辺境伯領兵士団の練度の高さを示す物で、それは称賛されるべきだろう。
けど、ダメだ。
「下がってください。竜のブレスは鎧じゃ防げません!」
貴方達の仕事、立場、矜持よりも、どうか命を優先させてください。
ズン、と地に足が沈む程の踏み込みから繰り出される長剣の一撃は、けれども攻めではなく防御の其れだ。
ドグラに向かって振り下ろされんとしていたキマイラの前足が、先んじた長剣に依って斬られ、叩きつけられ、力のベクトルを変えられる。キマイラの体勢が大きく崩れる。
其れは対魔獣用の剣術だった。人の身体はランクの高い魔獣の膂力を受け止めれる様には出来ていないのだ。受けた衝撃を足裏から地に逃がしたり、受けた力を消し去るとか言う変態的な技量の持ち主も居なくはないがそれはあくまで例外に過ぎない。
だからこそ人の剣士が大型魔獣と相対する時は、攻撃によって魔獣の動きを制する事が必要だ。勿論時には盾や鎧の分厚い所で受けて流す等も必要にはなるが、理想は相手の動きを制する事にある。
ドグラは竜牙戦士、人造のゴーレムなので膂力や頑丈さに関しては、或いは人よりも魔獣に近しいのかもしれないが、その核に刻んだ技術は人の剣技だ。
故に僕は安心できる。人の剣技は魔獣に後れを取らない事を知っている。何時も通り、僕は魔術に集中できる。
サイズが大きいと言うのは物理的に強いと言う事だ。子供よりも絶対に大人が強い。小人よりも絶対に巨人が強い。
質量が大きければ含有する筋量もまた多い。質は決して軽視出来ないが、量もまた軽視出来ない力なのだ。
そして同じ様に手数の多さも強さに直結する。一人よりも二人が、二人よりも三人が強いのは当然である。
繰り返しになるが、量とは即ち力なのだ。
キマイラの強みはその量だった。
キマイラは古代に生み出されてより自分より大きなモノに出会った事が無い。存在する事は知っている。例えば自分の一部である竜の成体がそうだ。
キマイラは古代に生み出されてより自分より手数の多いモノにも出会った事が無い。存在する事は知っている。例えば自分が生み出された古代文明期よりももっと以前には百の手を持つ巨人が居たそうだ。
長年古代遺跡の守護者であったキマイラの知識の殆どは古代人に与えられた物のみである。
だからキマイラは理解できなかった。自分より小さい目の前の魔導生物を何故未だ壊せないのか。手数に劣る魔導生物が何故自分の動きを制し続けられるのか。
魔獣とはいえキマイラの知能は決して低くない。寧ろ人に近しい水準を持っている。だからこそ呪いの術も行使できるのだ。
従って魔導生物の後ろに控える小さな人間が呪文の詠唱を行っている事も理解している。
けれどそれを止める事は出来ないでいた。ブレスで焼かんと竜の口を開けば盾によるぶん殴りで向きを変えられたし、呪いを飛ばそうにも閃く長剣が集中する暇を与えてくれない。強引に突破を図れば何故か地面に転がされる始末だ。
尻尾の蛇で打ち据えてやったが、それでも魔導生物は平然と動き続けてこちらの傷を増やして来る。
キマイラの心を占める嫌気の割合は刻一刻と増えて行く。そもそもコボルト共が居ないのならばこんな場所に居る必要も無いのだ。
強者としてのプライドよりも、傷つけられた怒りよりも、理解しがたい手強さへの嫌気が遂に上回る。
しかしそれは既に手遅れで……、キマイラが身を翻して住処へ逃げ帰ろうとしたその時、魔導生物の後ろに控えていた銀髪の小さな人間、王国宮廷魔術師フレッド・セレンディルの渾身の魔術が放たれた。
そして、爆発。キマイラの3つの頭部が等しく爆炎に包まれた。
実は僕はこの魔術を得意とする。爆破の魔術を詠唱無しで扱えるのは僕の密かな自慢なのだ。
この魔法には冒険中に何度も助けられた。
例えば遺跡等の探索で扉を開けて魔物とこんにちはしてしまった時。僕が即座にこの術式を部屋に放り込んで盗賊は扉を閉め、その扉をアイツが押さえる。
勿論こんな乱暴な方法を取ればその部屋の実入りは諦める事になるけれど、命は金貨よりも重いのだ。
そんな自信を秘めて放った爆破の魔法ではあったけど、爆炎を振り払ってこちらに突っ込んで来るキマイラの頭は予想通りに獅子のそれしか潰れて居なかった。
山羊の頭は毛が焼けて怒り狂っていたけれど、竜の頭に至ってはほぼ無傷にすら見える。
想定はしていたけれど、正直少しショックだった。けれどショックを受けている暇が無いのも事実だ。
クァッサーさんと部下の人が立ち上がりスラリと剣を抜き放つ。彼等の立場なら当然の行動なのだろう。
クァッサーさん達は護衛で僕を死なせる訳にはいかないのだから。寧ろ高位魔獣に対して怯む様子も見せないのはマルクス辺境伯領兵士団の練度の高さを示す物で、それは称賛されるべきだろう。
けど、ダメだ。
「下がってください。竜のブレスは鎧じゃ防げません!」
貴方達の仕事、立場、矜持よりも、どうか命を優先させてください。
ズン、と地に足が沈む程の踏み込みから繰り出される長剣の一撃は、けれども攻めではなく防御の其れだ。
ドグラに向かって振り下ろされんとしていたキマイラの前足が、先んじた長剣に依って斬られ、叩きつけられ、力のベクトルを変えられる。キマイラの体勢が大きく崩れる。
其れは対魔獣用の剣術だった。人の身体はランクの高い魔獣の膂力を受け止めれる様には出来ていないのだ。受けた衝撃を足裏から地に逃がしたり、受けた力を消し去るとか言う変態的な技量の持ち主も居なくはないがそれはあくまで例外に過ぎない。
だからこそ人の剣士が大型魔獣と相対する時は、攻撃によって魔獣の動きを制する事が必要だ。勿論時には盾や鎧の分厚い所で受けて流す等も必要にはなるが、理想は相手の動きを制する事にある。
ドグラは竜牙戦士、人造のゴーレムなので膂力や頑丈さに関しては、或いは人よりも魔獣に近しいのかもしれないが、その核に刻んだ技術は人の剣技だ。
故に僕は安心できる。人の剣技は魔獣に後れを取らない事を知っている。何時も通り、僕は魔術に集中できる。
サイズが大きいと言うのは物理的に強いと言う事だ。子供よりも絶対に大人が強い。小人よりも絶対に巨人が強い。
質量が大きければ含有する筋量もまた多い。質は決して軽視出来ないが、量もまた軽視出来ない力なのだ。
そして同じ様に手数の多さも強さに直結する。一人よりも二人が、二人よりも三人が強いのは当然である。
繰り返しになるが、量とは即ち力なのだ。
キマイラの強みはその量だった。
キマイラは古代に生み出されてより自分より大きなモノに出会った事が無い。存在する事は知っている。例えば自分の一部である竜の成体がそうだ。
キマイラは古代に生み出されてより自分より手数の多いモノにも出会った事が無い。存在する事は知っている。例えば自分が生み出された古代文明期よりももっと以前には百の手を持つ巨人が居たそうだ。
長年古代遺跡の守護者であったキマイラの知識の殆どは古代人に与えられた物のみである。
だからキマイラは理解できなかった。自分より小さい目の前の魔導生物を何故未だ壊せないのか。手数に劣る魔導生物が何故自分の動きを制し続けられるのか。
魔獣とはいえキマイラの知能は決して低くない。寧ろ人に近しい水準を持っている。だからこそ呪いの術も行使できるのだ。
従って魔導生物の後ろに控える小さな人間が呪文の詠唱を行っている事も理解している。
けれどそれを止める事は出来ないでいた。ブレスで焼かんと竜の口を開けば盾によるぶん殴りで向きを変えられたし、呪いを飛ばそうにも閃く長剣が集中する暇を与えてくれない。強引に突破を図れば何故か地面に転がされる始末だ。
尻尾の蛇で打ち据えてやったが、それでも魔導生物は平然と動き続けてこちらの傷を増やして来る。
キマイラの心を占める嫌気の割合は刻一刻と増えて行く。そもそもコボルト共が居ないのならばこんな場所に居る必要も無いのだ。
強者としてのプライドよりも、傷つけられた怒りよりも、理解しがたい手強さへの嫌気が遂に上回る。
しかしそれは既に手遅れで……、キマイラが身を翻して住処へ逃げ帰ろうとしたその時、魔導生物の後ろに控えていた銀髪の小さな人間、王国宮廷魔術師フレッド・セレンディルの渾身の魔術が放たれた。
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