宮廷魔術師のお仕事日誌

らる鳥

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15歳の章

王都での休日『ゴーレムメイカー』&おまけ

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「フレッド、ちょっと待ちなさい」
 西方辺境伯領への出張より帰還した翌日、僕は城の廊下で一人の女魔術師に呼び止められていた。
 僕を呼び止めた彼女はエレクシア・フィネル女史。『ゴーレムメイカー』の二つ名を持ち、宮廷魔術師第五席を預かる才媛で、つまりは僕の先輩だ。
 女性なので年齢を詳しくは知らないが、10も上じゃ無かった筈。
「貴方の報告書を読んだのだけど」
 眼鏡の良く似合う知性的な美人のお姉さんといった風情で城勤めの方々から大層な人気のある彼女だが、何故か今は不機嫌そうに綺麗な眉根をしかめていた。
 と言うか何でエレクシアさんが僕の報告書読んでるんだろう?
 ちなみに僕は彼女との仲は割と良い方の筈である。家名で無くファーストネームで呼ぶことを許される程度には。
 七席になったばかりの時に僕は一応全ての宮廷魔術師と顔を合わせてはいるのだが、彼等の多くは何の成果も出していない新人よりも自らの研究や仕事にしか興味が無いと言った風情であった。
 けれど最初から好意を示してくれた例外も少ないながらには居て、そのうちの一人がエレクシアさんである。
 尤も彼女の場合は僕じゃなく、ドグラを見て好意的になった様な気もするけど。
「あんまり危ない事するんじゃないわよ。魔術が使えても高位の魔獣に食われたら幾らアンタでも死ぬのよ? そもそもなんで視察にいってキマイラなんかに出くわすのよ」
 高位じゃなくても魔獣に食われたら僕は死にます。というかその辺の経緯は報告書に書いたよ!
 まあでも要するに、エレクシアさんは遠出していた僕を心配してくれてたという事なのだろう。
 仕方ない。その気持ちは嬉しいし、お説教には素直に甘んじる事にする。口答えしたら長引きそうだからとかでは決してなく……。


「それでキマイラ一匹まるごと西方辺境伯に引き渡したの? 気前が良いと言うか、勿体ないわね」
 お説教の後、僕はエレクシアさんに招かれお茶と菓子を御馳走になっていた。
 今日は出張からの帰還翌日と言う事で仕事は休みを戴いてるのでサボリじゃないです。
 キマイラに関してはどう頑張っても王都に持ち帰るのは難しかったし、無駄にするよりは点数稼ぎに使った方が良かったのだ。
 僕が点数を稼いだ分だけ、引継ぎの人員達が仕事をやり易くなってるだろうし。
「逆に王都から派遣される人員に対する西の期待の基準がアンタになってないと良いわね。滅茶苦茶ハードル高いわよ」
 自らの艶のある長い黒髪を弄りながら、エレクシアさんが呟く。
 ははは、いやそんなまさか。……ないよね?
 あちらでお世話になった護衛騎士のクァッサーさんや、帰還前の挨拶の際にやたら引き留めて来たマルクス辺境伯の顔を思い出し、僕は首を横に振る。
 うん、考えない事にしよう。あ、このクッキー美味しい。
 僕が昨日提出した報告書を基に選抜される、新たに西方辺境伯領に派遣される人員は護衛も含めれば50名近い大所帯になる予定だと聞かされた。
 王宮付きの偉い学者の方を筆頭に知識人達が派遣されるらしいので、多分何とかする筈だ。

「ところでその例のキマイラの魔石、まだ使ってないでしょう? ちょっと試したい事があるから良かったら譲って欲しいのだけど」
 話がひと段落したタイミングで切り出されたエレクシアさんのお願い。
 彼女には宮廷魔術師になった頃から何かとお世話になっている。
 例えば内政作業に追われながらの、自分の魔術研究を行う時間の作り方を教えてくれたのは他ならぬエレクシアさんだ。
 与えられた書類を全て片付ける事に躍起になっていた僕に、近日中に決裁が必要な物だけを先ず選別しろと教えてくれた。
 内務官の人達は魔術師が研究にどの位の時間を必要とするのか知らないのが当然だ。
 渡された物を僕が全て片付けて居れば、キャパに余裕があるのだと考えてしまう。悪意でなく、相互の不理解故に彼等の持ってくる仕事は多いのだと。
 その辺りにも理解のあるバナームさんが補佐に付いてくれてからは随分と楽になったけど、それまでは本当に大変だったのでエレクシアさんの教えは有り難かった。
 それに今こうやってお菓子を戴いているように、何かと気にかけお茶等に誘ってくれるのも嬉しいし。
 何より譲った魔石が僕が使用するよりも有効活用される事も判っているので、それを譲る事自体は吝かではないのだ。
 でも少し、僕が思うに彼女には一つの欠点があって……、
「別に構いませんけど、エレクシアさんは対価に僕に何をくれるんです?」
 尋ねる僕に、彼女は一瞬呆気にとられた顔をする。
 言われるまで、対価の事等考えても無かったという顔を。
「あっ、そうね。えーと何が良いかしら?」
 彼女の名誉の為に擁護するなら、別にエレクシアさんはケチでも無いしあくどい人間でも無い。
 寧ろ対価をちゃんと要求すれば気前の良い、良き取引相手となる。
 ただ単に彼女が物を欲しがれば、周りの男性陣がホイホイあげて対価も要らないと見栄を張るので、その辺りの事を考えない癖がついてしまっているのだろう。
 美人って得だねって話なのだけど、大人がそれはどうなのかなって僕は密かに思ってる。
 本当はこのクッキーで充分なのだけど、たまにこうしてその癖を指摘するのだ。
 気安く接してくれる大事な先輩だからこそ。

「あ、そうだ。ドグラの整備してあげるわよ。大型魔獣とぶつかったりしたのに西方辺境伯領なんかじゃ碌に整備出来てないでしょ。ね、そうしなさいよ」
 しかし駄目だ。それは許されない。ドグラの整備は僕の役目である。
 そもそも呼び止められなかったら今頃は整備中だった筈なんだ。
 何だったらキマイラの魔石を嵌め込んだ魔力剣を造って持たせても良い。あ、そうだそうしよう。
「いーやーでーすー。それってエレクシアさんがドグラ弄りたいだけですよね。絶対ダメですー。あ、こうしましょう。キマイラが階層ボスで沸く迷宮教えますからご自分で取りに行けば良いじゃないですか」
 迷宮でのモンスター素材は剥ぎ取りじゃなくてドロップ頼りになるのだが、運が悪くても10回も倒せば魔石も多分出る筈。
 僕は損しない、エレクシアさんも損しない、そしてドグラを触らせなくて良い完璧なアイディアだ。
「出来る訳ないでしょ! アンタと違って私は研究者タイプの魔術師なの! 良いからさっさとよこしなさいよ!!」

 ……結局キマイラの魔石はお譲りしました。お返しは期待していなさい、だそうです。
 何でも悪路の走破性を高めた多脚式ゴーレムの制御コアに、複数部位を同時に動かせるキマイラの魔石が向いてる可能性があるのでその研究の必要なのだと言われました。
 エレクシアさんはやっぱり優秀な先輩で嬉しいけれど、何だかちょっと悔しいな。



 本日のお仕事自己評価??点。わりとたのしいきゅうじつでした。



 おまけ

 エレクシア・フィネル女史に聞く、フレッド・セレンディルってどんな人?
「誤解が生まれないように最初に言うけど、私はあの子に悪感情は持ってないわ。でもその上で言わせてもらうけど、『異常』ね」
 異常、ですか。
 割と激しい言葉ですよね。
「ええ、そうね。まずその能力の高さが、そして性格も。あと自己評価が割と低いわね」
 異常と言われるほどにですか?
「そうよ。例えば私ってありていに言えば天才なのだけど」
 アッ、ハイ。
「なによ。まあ、いいわ。私は8歳で魔術師養成機関、『学園』に入って16歳で卒業、その後研究成果が認められて20で宮廷魔術師になったの。周りは私を天才だと言うし、私自身もそう思ってる」
 王国でのゴーレム研究第一人者だと伺っております。
 学園は20歳を超えても在籍してる人が珍しくない機関ですね。
「でもあの子は13歳で『学園』を卒業、冒険者として功績を上げてだから褒賞の意味もあるから純粋に能力のみを認められてとは言い難いけど、15で宮廷魔術師よ」
 確かに経歴を見れば異常ですね。
 でもそれだけの経歴があれば自己評価が低い事なんて無いと思うのですが……。
「私は宮廷魔術師になって数年経ってるし研究者としてはあの子より上よ。例えばあの子付きの補佐官が内政官としては能力が上であるようにね」
 経験や年齢を考えれば当然の事ですね。
 そもそも比較対象が出来る人ですし。
「でもあの子は私やその補佐官と比較して自分はまだまだとか、大した事ないって言うのよ。素直なのもあるけど、多分なまじ能力が高いから周囲が大人ばかりだったのね」
 確かにちょっと歪ですね。
 決してそれが悪いとは言い切れませんが。
「あと何であんなに枯れてるのかしら? あの年頃って胸とかお尻を凝視する猿みたいなのばっかりだと思うんだけど、勿論鬱陶しいからそうなって欲しくはないのだけど、心配ね」
 アッ、ハイ。
 では結局フィネル女史から見たセレンディル氏を一言でいうと?
「出来る良い子よ。嫌いじゃないわ。でも心配ね」
 最後に、フィネル女史の仰る異常な能力への嫉妬とかは無いのですか?
「羨ましいのは無くはないわよ。でも自分より出来ない事を厭うても、出来る事は嫌う理由にならないわ。それは自分が足りないだけだもの。簡単に抜かれる気はないし、あとやっぱり良い子だからね」
 本日はありがとう御座いました。
 セレンディル氏よりもフィネル女史の性格の方が判ったような気も致しますが、お疲れ様でした。
「お疲れ様」

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