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15歳の章
灯台守の一夜
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海を行く事は冒険だ。海は様々な危険に満ち溢れている。
手強い水棲モンスターばかりでなく、全ての自然現象が船乗りへの試練となるのだ。
例えば嵐。強い雨風の前には帆を畳まねば船は引っ繰り返るだろう。高い波も船を打ち砕かんと殴りつけて来る。
逆に全く風が無くなる凪も怖い。凪が起きれば船が動かず、長き足止めは飢えと渇きを船員に齎すだろう。
強すぎる日差しは体力を奪うし、波の合間に隠れ潜む岩礁にだって注意は必要だ。時には風土病すらが襲い来る。
そして夜。夜の海は昼の其れより尚恐ろしい。
吸い込まれそうな暗き海に、万一本当に呑まれてしまえば、昼間と違い人は殆ど助からないだろう。
波の合間に隠れ潜む脅威に気付く難易度も昼間とは桁違いだ。
けれどそんな船乗り達を導く光もある。それは天に輝く星の並びだったり、陸の存在を示す人の手による光を湛える灯台だったり。
灯台は船乗りにとっての命綱と言えるだろう。
だから真っ当な海賊……、真っ当な海賊と言う言葉は可笑しいので言い換えるなら、程度のマシなら海賊ならば灯台には手を出さない。
海賊であろうと守ろうとする海の仁義が存在するのだ。
此処、王国南部海洋伯領にも幾つもの灯台が設置されている。やってくる船を導く為に。
けれど陸の船乗りの仁義など、海洋種族にはとっては何の重みもありはしない。
そんな訳で僕こと王国宮廷魔術師、フレッド・セレンディルは海洋伯領の灯台の一つにお邪魔しています。
此処はとっても海風が肌寒いので割と辛い。しかし前の任務の後始末で海洋伯に借りを作ったのは僕自身なので、ここはぐっと我慢の子である。
昨日の情報収集や、その後の大立ち回りに関しては、海洋伯は僕に拍手と喝采をくれた。
大らかで人情に篤い海の男と言った風情の海洋伯は、僕が船に殴りこむ事になった経緯と心境に大いに共感してくれたのだ。
けれども、僕は些かやりすぎた。
起きた騒ぎに根回し通り、海洋伯の手の物が船へと踏み込んだその時には、メインマストは全て圧し折れて甲板も穴だらけと言う、浮かんでるだけの木材の塊寸前まで僕が破壊し尽くしていた。
僕が壊しさえしなければこの船は、堂々と接収されて海洋伯の物になった筈なのに、である。
海の男は人情に篤いし大らかだが、金勘定は割と細かい。
行いを褒めてくれる事は大いに褒めてくれたが、それは別として仕事を頼まれれば、まあ非常に断り難かった訳だ。
任務の報告書自体は海洋伯の部下の方がキチンと王都に届けてくれるそうだし、エルフの幼子も仕事が終わるまで預かってくれている。
ならば僕はいつも通りに、目の前の仕事をこなすだけだった。
僕は樫の木で造った人型に式を刻みながら、ただ只管に夜を待つ。
太陽が海の向こうの切れ目に沈み、夜がやって来る。
ここ最近、マーマンに灯台が襲われている。夜闇に紛れて上陸し、灯台守を殺して灯台を壊して、海を照らす灯りを消す。
海洋伯領に所属する兵士が取り返しに来れば、戦わずに海に逃げ、灯台が直ればまたやって来る。
流石の海洋伯にも、全ての灯台に大量の護衛を張り付けるのは不可能だ。けれど灯台の灯りを絶やす訳には決して行かない。
実に厭らしく、海洋伯領の弱みを突いた『陽動』である。要するにこれは前回の件と連動した、マーマン達による海洋伯の注意を引き付ける為の動きなのだ。
とは言え放っておく訳にはいかない。これはあまりに効果のある嫌がらせだから。
マーマン達に大きな被害を与えてこの行為を中止させねばならない。
でも対処できる程の兵士を配置すればそもそもマーマン達は襲って来ないので、僕が来たのだ。
そして空気が変わる。灯火に惹かれて奴等が海からやって来た。
気配は続々増えていく。爛々と光る眼が、獲物を探してぎょろついている。
やはり想像していた通りに、いや思った以上に数が多い。
数を頼みに攻められたなら、ドグラだけじゃ食い止めきれないだろう。マーマン達に僕まで辿り着かれたら無残なゲームオーバーが待っている。
陸上では動きの鈍るマーマンなら一体位は何とかなる気もするが、楽観視はやめよう。
正面からぶつかって困難を打破する事を強さだと言うなら、僕は然程強くない。
魔術に対する無知や驚きを利用した精神的な奇襲、或いは本当に奇襲して最初に魔術の火力を活かす事で相手を削り動きを封じる。
はたまた術的な罠を仕掛けたり、魔術で人手を増やしたり、兎に角、勝利の為の条件を予め揃えておくのが僕が勝つ為の戦い方だ。
そんな僕が此処でずっと待っていたのだから、当然準備は済ませていた。時間は十分にあったのだ。
もうこの灯台は既に僕の要塞と化している。
押し寄せんとしたマーマンの一体が踏んだ魔法陣が、バチリと雷を発し、身体を痺れさせた彼は地に伏せた。
けれど攻め気に逸ったマーマン達はその程度では止まらずに、次の罠に嵌る。爆破の魔法陣が発動し、血と肉と鱗が辺りに飛び散った。
次々と発動する魔術トラップに、彼等の先頭は大混乱に陥っている。
だが数とは恐ろしい物だ。マーマン達は出血を強いられながらも強引に、やがて罠を押し破るだろう。
だから此方にも攻めを追加する必要がある。
取り出した樫の木で造った人型を、僕は杖で突っつく。
刻んだ術式が発動し、巨大化してサーバントと化す。樫の樹で出来た時間制限付きの簡易ゴーレム、オークサーバントである。
オークと言っても魔物種族である豚人とは無関係だ。樫の木を別の言葉でオークと呼ぶからこの名前になるだけの事。
樫の木は魔力の通りの良い基本的な魔術触媒で、師が弟子に最初に贈る杖もこの樫の木の杖、オークスタッフが多かった。
昨今ではあの豚人を連想させるのでオークスタッフも嫌われがちなのだそうだけど。
まあそんな事はさて置き、さてあの罠に混乱するマーマン達は、何体のオークサーバントを突っ込ませたら崩れるだろうか?
多分10体近くは必要だろう。だから、倍プッシュだ。必要数の倍を用意して突撃させる。
二度と灯台に手を出したくなる様に、奴らの心を圧し折ろう。
魔力負担の肩代わりをする道具は豊富に持って来ている。全ての経費は海洋伯持ちだ。
君たちが敵対した、海都の財力を思い知れ。
本日のお仕事自己評価65点。ぶなんです。すぽんさーがいるとらくですね。
手強い水棲モンスターばかりでなく、全ての自然現象が船乗りへの試練となるのだ。
例えば嵐。強い雨風の前には帆を畳まねば船は引っ繰り返るだろう。高い波も船を打ち砕かんと殴りつけて来る。
逆に全く風が無くなる凪も怖い。凪が起きれば船が動かず、長き足止めは飢えと渇きを船員に齎すだろう。
強すぎる日差しは体力を奪うし、波の合間に隠れ潜む岩礁にだって注意は必要だ。時には風土病すらが襲い来る。
そして夜。夜の海は昼の其れより尚恐ろしい。
吸い込まれそうな暗き海に、万一本当に呑まれてしまえば、昼間と違い人は殆ど助からないだろう。
波の合間に隠れ潜む脅威に気付く難易度も昼間とは桁違いだ。
けれどそんな船乗り達を導く光もある。それは天に輝く星の並びだったり、陸の存在を示す人の手による光を湛える灯台だったり。
灯台は船乗りにとっての命綱と言えるだろう。
だから真っ当な海賊……、真っ当な海賊と言う言葉は可笑しいので言い換えるなら、程度のマシなら海賊ならば灯台には手を出さない。
海賊であろうと守ろうとする海の仁義が存在するのだ。
此処、王国南部海洋伯領にも幾つもの灯台が設置されている。やってくる船を導く為に。
けれど陸の船乗りの仁義など、海洋種族にはとっては何の重みもありはしない。
そんな訳で僕こと王国宮廷魔術師、フレッド・セレンディルは海洋伯領の灯台の一つにお邪魔しています。
此処はとっても海風が肌寒いので割と辛い。しかし前の任務の後始末で海洋伯に借りを作ったのは僕自身なので、ここはぐっと我慢の子である。
昨日の情報収集や、その後の大立ち回りに関しては、海洋伯は僕に拍手と喝采をくれた。
大らかで人情に篤い海の男と言った風情の海洋伯は、僕が船に殴りこむ事になった経緯と心境に大いに共感してくれたのだ。
けれども、僕は些かやりすぎた。
起きた騒ぎに根回し通り、海洋伯の手の物が船へと踏み込んだその時には、メインマストは全て圧し折れて甲板も穴だらけと言う、浮かんでるだけの木材の塊寸前まで僕が破壊し尽くしていた。
僕が壊しさえしなければこの船は、堂々と接収されて海洋伯の物になった筈なのに、である。
海の男は人情に篤いし大らかだが、金勘定は割と細かい。
行いを褒めてくれる事は大いに褒めてくれたが、それは別として仕事を頼まれれば、まあ非常に断り難かった訳だ。
任務の報告書自体は海洋伯の部下の方がキチンと王都に届けてくれるそうだし、エルフの幼子も仕事が終わるまで預かってくれている。
ならば僕はいつも通りに、目の前の仕事をこなすだけだった。
僕は樫の木で造った人型に式を刻みながら、ただ只管に夜を待つ。
太陽が海の向こうの切れ目に沈み、夜がやって来る。
ここ最近、マーマンに灯台が襲われている。夜闇に紛れて上陸し、灯台守を殺して灯台を壊して、海を照らす灯りを消す。
海洋伯領に所属する兵士が取り返しに来れば、戦わずに海に逃げ、灯台が直ればまたやって来る。
流石の海洋伯にも、全ての灯台に大量の護衛を張り付けるのは不可能だ。けれど灯台の灯りを絶やす訳には決して行かない。
実に厭らしく、海洋伯領の弱みを突いた『陽動』である。要するにこれは前回の件と連動した、マーマン達による海洋伯の注意を引き付ける為の動きなのだ。
とは言え放っておく訳にはいかない。これはあまりに効果のある嫌がらせだから。
マーマン達に大きな被害を与えてこの行為を中止させねばならない。
でも対処できる程の兵士を配置すればそもそもマーマン達は襲って来ないので、僕が来たのだ。
そして空気が変わる。灯火に惹かれて奴等が海からやって来た。
気配は続々増えていく。爛々と光る眼が、獲物を探してぎょろついている。
やはり想像していた通りに、いや思った以上に数が多い。
数を頼みに攻められたなら、ドグラだけじゃ食い止めきれないだろう。マーマン達に僕まで辿り着かれたら無残なゲームオーバーが待っている。
陸上では動きの鈍るマーマンなら一体位は何とかなる気もするが、楽観視はやめよう。
正面からぶつかって困難を打破する事を強さだと言うなら、僕は然程強くない。
魔術に対する無知や驚きを利用した精神的な奇襲、或いは本当に奇襲して最初に魔術の火力を活かす事で相手を削り動きを封じる。
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そんな僕が此処でずっと待っていたのだから、当然準備は済ませていた。時間は十分にあったのだ。
もうこの灯台は既に僕の要塞と化している。
押し寄せんとしたマーマンの一体が踏んだ魔法陣が、バチリと雷を発し、身体を痺れさせた彼は地に伏せた。
けれど攻め気に逸ったマーマン達はその程度では止まらずに、次の罠に嵌る。爆破の魔法陣が発動し、血と肉と鱗が辺りに飛び散った。
次々と発動する魔術トラップに、彼等の先頭は大混乱に陥っている。
だが数とは恐ろしい物だ。マーマン達は出血を強いられながらも強引に、やがて罠を押し破るだろう。
だから此方にも攻めを追加する必要がある。
取り出した樫の木で造った人型を、僕は杖で突っつく。
刻んだ術式が発動し、巨大化してサーバントと化す。樫の樹で出来た時間制限付きの簡易ゴーレム、オークサーバントである。
オークと言っても魔物種族である豚人とは無関係だ。樫の木を別の言葉でオークと呼ぶからこの名前になるだけの事。
樫の木は魔力の通りの良い基本的な魔術触媒で、師が弟子に最初に贈る杖もこの樫の木の杖、オークスタッフが多かった。
昨今ではあの豚人を連想させるのでオークスタッフも嫌われがちなのだそうだけど。
まあそんな事はさて置き、さてあの罠に混乱するマーマン達は、何体のオークサーバントを突っ込ませたら崩れるだろうか?
多分10体近くは必要だろう。だから、倍プッシュだ。必要数の倍を用意して突撃させる。
二度と灯台に手を出したくなる様に、奴らの心を圧し折ろう。
魔力負担の肩代わりをする道具は豊富に持って来ている。全ての経費は海洋伯持ちだ。
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