宮廷魔術師のお仕事日誌

らる鳥

文字の大きさ
32 / 74
16歳の章

帰還と夢の中の追憶4

しおりを挟む
 結局馬車の件に関しては、一番安く付く手段である職人を連れて来て修理して貰うを取った為に、想定の5日よりももう少し長く村に留まる事になる。
 そしてセラティスはあの後、僕に素直に今後の事に関しての相談を願って来た。
 勿論そうして欲しかったからこそ彼女に付き合い遠出をしたわけで、僕に否やは無い。
 チャリクルやキールが村に帰ってくるまでは森の動物を相手に狩りと戦い、そして追跡の練習をして注意力を養った。短い時間じゃ基礎の基礎しか出来なかったけど。
 更には帰って来たチャリクルからは投擲術を、キールからは近接戦闘における鎧の活用法を教わっていた。
 何でも軽装の鎧を用いる場合でも、所々を分厚くしたり金属での補強をしておく事で、避け得ぬ咄嗟の場合に其処で受けて被害を減らすと言う技術があるそうだ。
 近距離で殴り合わなきゃいけない戦士の方は本当に大変である。真似は到底できないし、勿論真似する気も毛頭無いけど。
 だがそれも数日の間だけだ。馬車が直れば村を立つ日がやって来る。

「本当に乗って行かないの?」
 見送りのセラティスに僕は問う。
 結局彼女は僕の勧め通りに王都の冒険者ギルドで1から学ぶ事を選んだ。
 自分を知り、敵を知り、境遇に意固地になっていた事を恥じたセラティスは実に素直だった。
 多分もう大丈夫だろう。後は彼女の持つ、冒険者としての運次第だ。
「いいの、そこまでして貰ったらずっと甘えてただけになっちゃうから。私は私の力で王都を目指すよ」
 そう言って笑うセラティス。彼女の笑顔はやっぱり明るい。
 数日間の訓練に付き合ってたチャリクルとキールは心配げだ。
 どうやら情が移ったらしい。実にお人よしの過保護である。あとは本人次第なのだから、心配しても仕方ないのに。
 馬車に誘ったのも向かう先が同じならと、ついでだったからに過ぎない。ホントだよ?
「それに師匠にこの短剣を返さなきゃだし、父さんの剣も返してもらわないとだから、頑張らないと」
 そう、結局あの後短剣は彼女に取られたままだ。そうなる気は薄々してたけど、でもちょっと悲しい。
 だが今の自分には長剣が身の丈に合わない事に気づいた彼女に渡せる武器は他に無かったので、本当に仕方が無かったのだ。
 いつかこの、やっぱり父の形見だったらしい長剣を扱えるまでに自分を鍛えれたら取りに行くからと、彼女はそれを僕に預けた。
 僕は何も言ってないのに、僕は短剣を返して貰おうと思ってたのに!
 それがセラティスにとって最善の道である事も判るし、何時か返して貰えるのも楽しみに出来るから良いけれど。
 でも師匠呼びに関しては解せない。僕に剣を教える事は不可能なのだ。
 惜しみながらも、馬車はゆっくり動き出す。
「師匠、何時か一人前になってその剣を使えるようになったら、また私と組んでよ。今度はお試しじゃなくて正式に……」
 別れ際に言われた最後の言葉は……、僕に宮廷魔術師を止める予定は全然ないので非常に困ったものだった。


 …………うぇ。
「はっ、……うぇ、寝てた?」
 口元を拭ってベッドから身を起こせば、そこは馬車じゃなくて王城にある僕の私室だ。
 窓から入る光は既に赤みがかかっている。
 そして頭を振って眠気を払いながら部屋を見渡せば、そこには椅子に座って本を読んでいるエレクシアさんが居た。
「おはよう、フレッド。少し痩せたわね。寝るのは良いけど鍵はちゃんとかけなさい。不用心だわ」
 膝の上の本を閉じ、こちらを見たエレクシアさんは久しぶりに見るエレクシアさんで、やっぱりいきなり説教をされる。
 頭がよく回っていない。
 ……不用心なのは不用心だけど、何でエレクシアさんが居るんだろう?
 部屋の鍵をかけずに寝てたから?
 なるほど、確かに不用心だ。んんん、何かがおかしい?
「まだ寝ぼけてるのね。ほら、入れてあげるから水を飲みなさい」
 いつの間にか用意されてた水差しからグラスに水を移し、エレクシアさんが渡してくれた。
 水を飲む。美味しい。熱に包まれていたような感覚が、少しだけすっきりとして来る。
 ああ、お土産渡さないと。階層ボスの魔石を1種類ずつ貰って来たのだ。特にヒューマンスコルピオの魔石は珍しいからエレクシアさんもきっと喜ぶはず。
「後良いから、落ち着くまでゆっくりしなさい。あと久しぶりの再会ならもう少し気の利いた事も言いなさい」
 でもこの優しく叱られる感じも久しぶりで、何だか少し嬉しい。
 帰ってきた感じがする。
「何でニヤニヤしてるのよ。遠出の間に可笑しくなったの? ああ、でも私も言い忘れてたわね。フレッド、お疲れ様と、お帰りなさい」
 ああ、うん、やっぱり帰って来たんだ。王都に。
 ただいま、エレクシアさん。ただいま、皆。
 フレッド・セレンディル、只今王都に帰還しました。



 本日のお仕事自己評価0点。きもちよくねむれました。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...