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16歳の章
王都を離れて3
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幸いだったのはこの辺りが平野部である事だ。
これが山地だったなら使える手段の選択肢が大幅に減少していた所である。
僕は村と森がぎりぎり視認できる程度に近い空き地に陣取り、迎撃の為の準備をしていく。
この場所なら、仮にオーガが逃げた村人達を追いかけようとしてもその動きを見逃す恐れはないだろう。
確かにオーガの群れは村程度は軽く喰らい尽す、悪夢のような災厄だ。しかしそれでも所詮は村を喰らい尽す程度の災厄でしかない。
状況はあのスタンピードの時に比べれば遥かにマシだった。あの時は百を遥かに超える魔獣の群れを殲滅する事になったのだから。
今回のオーガは高々二十かそこらだそうだ。見間違いの可能性を考えても、五十には届かない。
小規模魔法陣で大規模魔法陣を囲むように、多層の術式を地に描く。更に砕いた魔石の粉を上から撒いた。
誘導用のオーガを此方へ誘導する為のサーバントの準備ももうすぐ終わる。後は大きな火でも炊いてオーガの注意を引き付ける位だ。
一番拙いのは準備中に襲撃を受ける事だったのだが、幸いかなオーガの姿はまだ見えない。恐らくは日が暮れてからの襲撃となるだろう。
セラティスとパトリーシャは残りたがったが、それは丁重にお断りさせて貰った。
避難する村人達に対する脅威はオーガだけじゃない。他の魔獣や魔物だって村人を襲ってくる可能性はある。
出来るだけ護衛の戦力は多い方が良いのだ。此方に居たからと言って、彼女達に出来る事は殆ど無い。
それにこの多層構造の魔法陣、大型の術と小型の術を複数組み合わせて大規模な複合魔術を行使する手法は秘匿している切り札なので、あまり見られるのは嬉しくない。
秘匿している理由が戦争などに利用した場合、大きな被害を生み出すからだ。
例えば火の気を濃くし、風で圧迫して空間を密閉し、大規模な爆破の術をかけてやれば、爆発の質が変化して尋常でない大きな破壊力を生み出す。
遺跡等で密室に爆破の術を放り込んだ際、明らかに術の規模より大きい破壊力を発揮する事が幾度かあった。
その現象の再現を試みた結果、僕の想像よりも大きな殺傷力を持った術が完成したのだ。
これが『殲滅』と呼ばれる様になった切っ掛けの、スタンピードの別動隊を壊滅させた術である。
今回引き起こす現象は、その殲滅とは別だけど、此方も使い方次第では危険極まりない事に変わりは無い。
術を連動させる複合の魔法陣は複雑で、宮廷魔術師並の知識でも無ければ見ても解析出来ないだろうけど、それでもあまり見せびらかしたくはない代物だ。
別に大き過ぎる力を人に対して使わない等の倫理的な問題じゃない。
味方の犠牲を減らす為なら、僕はこれ等の術を戦争で使う可能性は大いにある。
でも万が一にも僕の考えた術が解析されて利用され、逆に僕の仲間達を傷つける事になるのは絶対に避けたい。それだけが秘匿の理由だ。
そろそろ日暮れだ。僕は組んだ篝火に火を灯す。
身を包む緊張感が心地良い。正直此処最近は何かと背負い込む事が多かったので、単純に敵を倒せば良いと言うシンプルな状況はとても気が楽だった。
その意味では今回一番大変なのはマルトスだろう。怯える村人達をの避難を実質的に指揮しているのだ。その責任の重さと心労は計り知れない。
ただやはり、こう言った時にはセラティスの存在は心強いように思える。持ち前の明るさで村人達を元気付けていた。
最初に彼女とであった時に感じた、ムードメーカーになれる素質は本物だったのだ。
火の明るさにオーガ達も此方に気づいたのだろうか、森から咆哮が響いて来る。
元気そうで何よりだ。此処で慎重になられても面倒臭いし。
杖で突けば、樫の木の人型が大きくなってオークサーバントと化す。
この術は便利だが、使用の際は大体使い捨ての兵力を必要としての事が多いので、必然的に触媒も使い捨てになる。
偶にナイフで削っていて出来の良い、気に入った人型等も出来るだけに、ちょっと勿体ない気分になるのは仕方が無いだろう。
真の魔術の達人は単なる木の枝からでもオークサーバントを作れると言うが、僕はまだその域に無い。
どうしても人型からでなければ、手足の動くオークサーバントをイメージしにくいのだ。
ずらりと並べたオークサーバントの半分に、森に向かっての突撃を命じた。
すると時を同じくして、邪魔な森の木々を打ち砕きながら姿を見せたオーガの群れが、此方に向かって突撃して来る。
オーガの身長は人間の約五割増し程だが、体重は二倍どころの話では無い。
それが二十、よりも少し多い、三十弱、一斉に走って向かってくるのだ。地響きが起こり地面が僅かに揺れていた。
中々の迫力で、壮観とも言える光景だ。突撃させたオークサーバントの大半が足止めの役にしかたっていない。
想定通り群れのオーガは上位種なのだろう。頭一つ飛び抜けた巨体の持ち主が混じってる。
巨大な拳で殴られては体の一部を砕かれて、オークサーバント達は原形を留めぬ程に破壊されて行く。それでも樫の木の従僕達は目的を果たしてくれた。
彼等は寄せ餌であり、そして足止めの壁でもある。
あの勢いのままに突撃されていれば、仕掛けた魔法陣を突破される可能性が多少あった。
足止めの時間は僅かでも問題が無い、一度でも交戦の為に足を止めてさえくれればそれで充分である。
僕が制御用の魔法陣に入り集中を始めると、ゆっくりと風が起こり始めた。
そして次は残るオークサーバント達が、今度は起こるであろう魔術の効果範囲内で戦い始める。
彼等は決死隊だ。魔法陣の効果が発動するまでそこに敵を張り付けて、そして術の巻き添えなって燃え尽きてしまう。
オーガ達の目指す地点は僕だろう。奴等が僕に辿り着いたなら、まあドグラが居るから多少の数なら何とかなるが、大勢来たならそこまでだ。
しかしオークサーバント達は執拗に粘り、オーガ達を前に進ませない。
吹く風がどんどん勢いを増していく。唸り、捻じれ、そして何時しか戦場を覆う竜巻がその姿を現した。
高位の魔術である竜巻を、魔法陣で規模を拡大させて出現させた物である。
竜巻は多数の敵を相手取る時にしばしば使われる術だが、タフで重いオーガ達は恐らくこの術に耐える筈。
吹き飛ばして落下させる際のダメージが得られなければ、竜巻の術の殺傷能力は低目になるからだ。
どちらかと言えば魔物や魔獣相手より、人間相手に効果を発揮する術だと言えるだろう。
故に当然僕の術の仕掛けはこれで終わりでは無かった。竜巻の魔法陣を囲む小魔法陣のうち三つが、仕込まれた術、炎の嵐の効果を発動する。
炎の嵐は周辺を火と熱で焼き尽くす、これまた集団向けの術であるが、今回は近くで発動する竜巻の規模が大きい為に炎が風に食われていく。
竜巻に食われていくとは言え、三つもの魔法陣から発生した火と熱の量は大量だ。その火力は食われながらも、竜巻自体を浸食しながら燃やし始める。
やがて風と炎は完全に融合し、炎の竜巻が完成した。風と炎は釣り合ったなら、相互に強化し合う関係にある。
燃え上がる大きな炎は風邪を呼ぶし、火事が風に煽られれば燃え広がり、鍛冶場の炉の温度はふいごで空気を送れば上がるのだ。
更に、残る魔法陣が竜巻の回転方向に向かって風を送りこみ、炎の竜巻の威力と規模を強化していく。
竜巻の中の温度は恐ろしい事になっているだろう。中の様子は悲鳴すら聞こえない。まあオーガの悲鳴なんて聞いた事も無いけれど。
少し離れた制御陣の防御の中に居る僕でさえ、風と熱の影響で結構辛い。眼前で炎の竜巻が荒れ狂う様は、自分でやって置きながら正直恐怖すら感じている。
だが此処で制御を手放せばどんな挙動を始めるか知れた物では無いので、術の手綱を握る手を緩める訳には決して行かない。
とは言え流石にそろそろ良いだろう。
この術に耐え切れるオーガは居ない筈だ。例えそれが上位種であろうとも。
万一火力に耐えれていても、此れだけの時間を中で過ごせば呼吸が出来ずに死んでいる。
そもそも高位の魔物や魔獣でさえこの術の火力の前には生存が難しいので、あまり窒息効果が発揮される機会は無いけれど。
周囲から風を送り込んで居た魔法陣から一つずつ停止させて行く。慎重に、慎重に。
この術は発生よりも寧ろ制御と停止に気を使う。複雑に絡み合っていた風の術を一つずつほどいて行けば、炎は最後に自然と消える。
そしてやがて静寂が帰って来る。動くものは何もない。立つ姿も、僕とドグラ以外には存在しない。
眩暈によろけた僕を、咄嗟にドグラが支えてくれた。熱に煽られ過ぎたからだろうが、汗が酷い。
集中と発汗で酷く体力を消耗している。けれどまだ倒れる訳には行かなかった。
焼け残った魔法陣を消さねばならないし、オーガは……、皆炭になっているが運が良ければ魔石位は取れるだろう。
勿論焼かれた地の熱が冷えてからにはなるけれど、もう時間は夜である。夜の風が吹けば地面が冷めるのにも然程の時間はかからない。
まあつまりは勝利であった。後片付けに悩むのは、生きて勝ち残った者の、ある意味で特権だろう。
けれど僕はそこで一つの問題にぶつかった。
僕はどうやって逃げた人達に勝利を、彼等の不安の元が焼失した事を伝えれば良いのだろう?
その手段を何も考えて居なかった事に今更気付いたのだ。
ま、まあ仕方が無い。少し考えてみたが、どうやっても連絡手段は存在しなかった。
暫くの間は、恐らくそう遠からず偵察に来るだろう斥候あたりに発見されるまで、村の建物を借りるとしよう。
セラティスやパトリーシャ、マルトスはメリエも、恐らく心配してくれているだろうけども、連絡の取りようが無いのは仕方が無い。
取り敢えず片付けをしよう。早く汗を拭いたいし、何より眠い。
三日後にやって来たゴートレック男爵領からの斥候は懐かしい顔で、僕はその彼、ベテラン冒険者のチャリクルに連れられてオーガ討伐隊へと合流する。
無駄足を踏んだ討伐隊からは多少の愚痴と、心配していたらしい四人組の冒険者からは文句の言葉をそれぞれ戴いたが、皆無事を喜んでくれた。
と言うか討伐隊は無駄足でもそれなりに賃金出るらしいので手間が省けた分だけ得だと思うのだ。
何にせよ、僕はこうして懐かしのゴートレック男爵領へと辿り着く。
本日のお仕事自己評価80点。ほのおのたつまきはやまかじなどでまれにみられるげんしょうです。
これが山地だったなら使える手段の選択肢が大幅に減少していた所である。
僕は村と森がぎりぎり視認できる程度に近い空き地に陣取り、迎撃の為の準備をしていく。
この場所なら、仮にオーガが逃げた村人達を追いかけようとしてもその動きを見逃す恐れはないだろう。
確かにオーガの群れは村程度は軽く喰らい尽す、悪夢のような災厄だ。しかしそれでも所詮は村を喰らい尽す程度の災厄でしかない。
状況はあのスタンピードの時に比べれば遥かにマシだった。あの時は百を遥かに超える魔獣の群れを殲滅する事になったのだから。
今回のオーガは高々二十かそこらだそうだ。見間違いの可能性を考えても、五十には届かない。
小規模魔法陣で大規模魔法陣を囲むように、多層の術式を地に描く。更に砕いた魔石の粉を上から撒いた。
誘導用のオーガを此方へ誘導する為のサーバントの準備ももうすぐ終わる。後は大きな火でも炊いてオーガの注意を引き付ける位だ。
一番拙いのは準備中に襲撃を受ける事だったのだが、幸いかなオーガの姿はまだ見えない。恐らくは日が暮れてからの襲撃となるだろう。
セラティスとパトリーシャは残りたがったが、それは丁重にお断りさせて貰った。
避難する村人達に対する脅威はオーガだけじゃない。他の魔獣や魔物だって村人を襲ってくる可能性はある。
出来るだけ護衛の戦力は多い方が良いのだ。此方に居たからと言って、彼女達に出来る事は殆ど無い。
それにこの多層構造の魔法陣、大型の術と小型の術を複数組み合わせて大規模な複合魔術を行使する手法は秘匿している切り札なので、あまり見られるのは嬉しくない。
秘匿している理由が戦争などに利用した場合、大きな被害を生み出すからだ。
例えば火の気を濃くし、風で圧迫して空間を密閉し、大規模な爆破の術をかけてやれば、爆発の質が変化して尋常でない大きな破壊力を生み出す。
遺跡等で密室に爆破の術を放り込んだ際、明らかに術の規模より大きい破壊力を発揮する事が幾度かあった。
その現象の再現を試みた結果、僕の想像よりも大きな殺傷力を持った術が完成したのだ。
これが『殲滅』と呼ばれる様になった切っ掛けの、スタンピードの別動隊を壊滅させた術である。
今回引き起こす現象は、その殲滅とは別だけど、此方も使い方次第では危険極まりない事に変わりは無い。
術を連動させる複合の魔法陣は複雑で、宮廷魔術師並の知識でも無ければ見ても解析出来ないだろうけど、それでもあまり見せびらかしたくはない代物だ。
別に大き過ぎる力を人に対して使わない等の倫理的な問題じゃない。
味方の犠牲を減らす為なら、僕はこれ等の術を戦争で使う可能性は大いにある。
でも万が一にも僕の考えた術が解析されて利用され、逆に僕の仲間達を傷つける事になるのは絶対に避けたい。それだけが秘匿の理由だ。
そろそろ日暮れだ。僕は組んだ篝火に火を灯す。
身を包む緊張感が心地良い。正直此処最近は何かと背負い込む事が多かったので、単純に敵を倒せば良いと言うシンプルな状況はとても気が楽だった。
その意味では今回一番大変なのはマルトスだろう。怯える村人達をの避難を実質的に指揮しているのだ。その責任の重さと心労は計り知れない。
ただやはり、こう言った時にはセラティスの存在は心強いように思える。持ち前の明るさで村人達を元気付けていた。
最初に彼女とであった時に感じた、ムードメーカーになれる素質は本物だったのだ。
火の明るさにオーガ達も此方に気づいたのだろうか、森から咆哮が響いて来る。
元気そうで何よりだ。此処で慎重になられても面倒臭いし。
杖で突けば、樫の木の人型が大きくなってオークサーバントと化す。
この術は便利だが、使用の際は大体使い捨ての兵力を必要としての事が多いので、必然的に触媒も使い捨てになる。
偶にナイフで削っていて出来の良い、気に入った人型等も出来るだけに、ちょっと勿体ない気分になるのは仕方が無いだろう。
真の魔術の達人は単なる木の枝からでもオークサーバントを作れると言うが、僕はまだその域に無い。
どうしても人型からでなければ、手足の動くオークサーバントをイメージしにくいのだ。
ずらりと並べたオークサーバントの半分に、森に向かっての突撃を命じた。
すると時を同じくして、邪魔な森の木々を打ち砕きながら姿を見せたオーガの群れが、此方に向かって突撃して来る。
オーガの身長は人間の約五割増し程だが、体重は二倍どころの話では無い。
それが二十、よりも少し多い、三十弱、一斉に走って向かってくるのだ。地響きが起こり地面が僅かに揺れていた。
中々の迫力で、壮観とも言える光景だ。突撃させたオークサーバントの大半が足止めの役にしかたっていない。
想定通り群れのオーガは上位種なのだろう。頭一つ飛び抜けた巨体の持ち主が混じってる。
巨大な拳で殴られては体の一部を砕かれて、オークサーバント達は原形を留めぬ程に破壊されて行く。それでも樫の木の従僕達は目的を果たしてくれた。
彼等は寄せ餌であり、そして足止めの壁でもある。
あの勢いのままに突撃されていれば、仕掛けた魔法陣を突破される可能性が多少あった。
足止めの時間は僅かでも問題が無い、一度でも交戦の為に足を止めてさえくれればそれで充分である。
僕が制御用の魔法陣に入り集中を始めると、ゆっくりと風が起こり始めた。
そして次は残るオークサーバント達が、今度は起こるであろう魔術の効果範囲内で戦い始める。
彼等は決死隊だ。魔法陣の効果が発動するまでそこに敵を張り付けて、そして術の巻き添えなって燃え尽きてしまう。
オーガ達の目指す地点は僕だろう。奴等が僕に辿り着いたなら、まあドグラが居るから多少の数なら何とかなるが、大勢来たならそこまでだ。
しかしオークサーバント達は執拗に粘り、オーガ達を前に進ませない。
吹く風がどんどん勢いを増していく。唸り、捻じれ、そして何時しか戦場を覆う竜巻がその姿を現した。
高位の魔術である竜巻を、魔法陣で規模を拡大させて出現させた物である。
竜巻は多数の敵を相手取る時にしばしば使われる術だが、タフで重いオーガ達は恐らくこの術に耐える筈。
吹き飛ばして落下させる際のダメージが得られなければ、竜巻の術の殺傷能力は低目になるからだ。
どちらかと言えば魔物や魔獣相手より、人間相手に効果を発揮する術だと言えるだろう。
故に当然僕の術の仕掛けはこれで終わりでは無かった。竜巻の魔法陣を囲む小魔法陣のうち三つが、仕込まれた術、炎の嵐の効果を発動する。
炎の嵐は周辺を火と熱で焼き尽くす、これまた集団向けの術であるが、今回は近くで発動する竜巻の規模が大きい為に炎が風に食われていく。
竜巻に食われていくとは言え、三つもの魔法陣から発生した火と熱の量は大量だ。その火力は食われながらも、竜巻自体を浸食しながら燃やし始める。
やがて風と炎は完全に融合し、炎の竜巻が完成した。風と炎は釣り合ったなら、相互に強化し合う関係にある。
燃え上がる大きな炎は風邪を呼ぶし、火事が風に煽られれば燃え広がり、鍛冶場の炉の温度はふいごで空気を送れば上がるのだ。
更に、残る魔法陣が竜巻の回転方向に向かって風を送りこみ、炎の竜巻の威力と規模を強化していく。
竜巻の中の温度は恐ろしい事になっているだろう。中の様子は悲鳴すら聞こえない。まあオーガの悲鳴なんて聞いた事も無いけれど。
少し離れた制御陣の防御の中に居る僕でさえ、風と熱の影響で結構辛い。眼前で炎の竜巻が荒れ狂う様は、自分でやって置きながら正直恐怖すら感じている。
だが此処で制御を手放せばどんな挙動を始めるか知れた物では無いので、術の手綱を握る手を緩める訳には決して行かない。
とは言え流石にそろそろ良いだろう。
この術に耐え切れるオーガは居ない筈だ。例えそれが上位種であろうとも。
万一火力に耐えれていても、此れだけの時間を中で過ごせば呼吸が出来ずに死んでいる。
そもそも高位の魔物や魔獣でさえこの術の火力の前には生存が難しいので、あまり窒息効果が発揮される機会は無いけれど。
周囲から風を送り込んで居た魔法陣から一つずつ停止させて行く。慎重に、慎重に。
この術は発生よりも寧ろ制御と停止に気を使う。複雑に絡み合っていた風の術を一つずつほどいて行けば、炎は最後に自然と消える。
そしてやがて静寂が帰って来る。動くものは何もない。立つ姿も、僕とドグラ以外には存在しない。
眩暈によろけた僕を、咄嗟にドグラが支えてくれた。熱に煽られ過ぎたからだろうが、汗が酷い。
集中と発汗で酷く体力を消耗している。けれどまだ倒れる訳には行かなかった。
焼け残った魔法陣を消さねばならないし、オーガは……、皆炭になっているが運が良ければ魔石位は取れるだろう。
勿論焼かれた地の熱が冷えてからにはなるけれど、もう時間は夜である。夜の風が吹けば地面が冷めるのにも然程の時間はかからない。
まあつまりは勝利であった。後片付けに悩むのは、生きて勝ち残った者の、ある意味で特権だろう。
けれど僕はそこで一つの問題にぶつかった。
僕はどうやって逃げた人達に勝利を、彼等の不安の元が焼失した事を伝えれば良いのだろう?
その手段を何も考えて居なかった事に今更気付いたのだ。
ま、まあ仕方が無い。少し考えてみたが、どうやっても連絡手段は存在しなかった。
暫くの間は、恐らくそう遠からず偵察に来るだろう斥候あたりに発見されるまで、村の建物を借りるとしよう。
セラティスやパトリーシャ、マルトスはメリエも、恐らく心配してくれているだろうけども、連絡の取りようが無いのは仕方が無い。
取り敢えず片付けをしよう。早く汗を拭いたいし、何より眠い。
三日後にやって来たゴートレック男爵領からの斥候は懐かしい顔で、僕はその彼、ベテラン冒険者のチャリクルに連れられてオーガ討伐隊へと合流する。
無駄足を踏んだ討伐隊からは多少の愚痴と、心配していたらしい四人組の冒険者からは文句の言葉をそれぞれ戴いたが、皆無事を喜んでくれた。
と言うか討伐隊は無駄足でもそれなりに賃金出るらしいので手間が省けた分だけ得だと思うのだ。
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