少年と白蛇

らる鳥

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 僕、ユーディッドはとある事情を抱えた冒険者だ。
 年齢は今13歳。母さんは小さい頃に死んで顔も覚えていないし、狩人だった父さんも二年前に村を襲った魔物と戦って死んだ。
 だから今の僕に家族は居ない。冒険者は食べる為にやっている。
 本当は父さんが村を守る為に死んだから、子である僕を引き取ろうとしてくれた村の人は居たのだけれど、そうすれば誰か一人が食べれなくなるから村を出た。
 ただでさえ豊かとは言えない村だったのに魔物に田畑を荒らされて、更に食糧難を乗り切る為に活躍すべき狩人が死んだのだ。
 村に余裕は全く無かった。父さんへの恩義の為に僕が村で養われたなら、代わりに誰かが奴隷に売られたかも知れない。
 そんな状況の村に甘えたら、父さんはきっと僕を褒めてくれないだろう。
 大きく治安の良い国なら魔物の災害で被害を受けた村には補助金が出るなんて夢みたいな話も聞くけれど、この小さなミステン公国にそんな制度は当然ない。
 でも冒険者になれた僕は幸運だった。
 魔物の討伐は無理でも、狩人の見習いとして父さんの仕込まれていた僕には山や森を歩く技術があったから、採取依頼等で食いつなぐ事は出来たのだ。
 食べて行く事に必死だったから、丁寧な仕事をする様に心掛けたら採取や雑用依頼では僕を指名してくれる人も増えた。
 依頼が無い時は冒険者の宿を手伝い、泊り客の人の好い冒険者に手解きを受けたりもしながら過ごした期間が二年間。
 今では弱い魔物が相手なら、刈り取る事も出来る様になった。勿論弱い魔物に限っての話だけれど。
 繰り返しになるが、僕は本当に幸運なのだ。周囲の人に恵まれて、少しずつ生きる為の手段を増やせているのだから。

 でも僕の抱えるとある事情、一番の幸運はまた別だ。
 僕の服の、ゆったりとした胸元から顔出した相棒、小さな白蛇のヨルムが頬を顔でつついて来る。
 じゃれついて来てる訳じゃ無い。僕に注意を促しているのだ。
 だとすれば……、居た。ヨルムが顔で指し示す方を注意深く探ってみれば、木の影の向こうに三匹のゴブリンの姿が見える。
 ゴブリンは小柄な人型の下位妖魔で、粗末な物だが人と同じく武器を使う。
 幸いな事に飛び道具を所持した個体は存在しないかった。
 それでも三匹……。少し悩む。三匹を同時に相手にする事になれば、今の僕には多少荷が重い。
 けれどアイツ等が依頼にあった、目撃されたゴブリンで間違いはないだろう。つまりアイツ等を倒さないと明日のご飯が食べれない。
 僕は弓に矢を番えながら、ヨルムに囁く。
「ごめんヨルム。一斉に来たら、ちょっとお願い」
 しゅるしゅると舌を鳴らして了解の意を伝えるヨルムの顔に、僕は自分の頬を押し付けた。
 本当は一人で依頼をこなしたかったが、自分の未熟さは知っている。今は無駄に危ない橋を渡る時じゃない。
 調子に乗った無謀と、勇気は別の物だと先輩冒険者に何度も何度も聞かされている。

 狙いを定める。呼吸をゆっくり、細く長く整えて行く。
 吸って、吐く、吸って、吐く、吸って、……止める。そして放つ。
 ヒョウと音を立てて矢が飛んで行く。空を割いた矢は狙い違わず、油断し切っていたゴブリンの喉に突き刺さった。此れで一匹。
 残る二匹が僕に気付いて騒ぎ出す。僕は弓を地面に捨てる。
 アイツ等が近付いて来る前にもう一射して射止める腕は僕には無い。向かってくる相手への速射には高度な技術と焦らぬ精神が必要で、僕はどちらも持ち合わせていないから。
 確実に倒せるよう、僕は小剣を腰の鞘から引き抜いた。
 刃渡り六十センチ程の小剣だ。スモールソードともいうらしい。
 名剣と言うには程遠い単なる鋳物の鉄剣だが、ゴブリンを一匹を相手にするなら充分な武器である。
 もう一匹?
 残る一匹はヨルムに任せる。僕の袖口から抜け出したヨルムが、見る見る間に体長5m程の巨体になって片方のゴブリンを頭を振るって弾き飛ばした。
 そう、僕のとある事情、一番の幸運とはヨルムだ。
 ヨルムはただの白蛇じゃない。そして魔獣でもない。ヨルムは幻獣と呼ばれる存在で、僕の召喚獣である。
 本当はゴブリン三匹なんてヨルムの相手じゃないけれど、それだと僕はずっとお荷物のままだから。
 僕は相手の振り下ろす剣を受け流し、体勢を崩したゴブリンに小剣を突き立てた。
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