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しおりを挟む調薬の手伝いを午前中で終え、僕は昼食を求めて町をうろつく。
有り難い事にエルローさんは昼食を誘ってくれたのだけど、かといって調理するのは奥さんなのだ。
仕事にありつけなくて飢え気味の時なら兎も角、今の僕は懐に余裕があるので、あまり身重の奥さんに迷惑をかける気にはなれない。
すると必然的にどこかの食事処に入るか屋台で軽食を買い求める事になるのだが、……屋台にしよう。
食事処も行き付けの場所以外だとヨルムと一緒に食べるのが難しい。
余程混んで無ければこそこそと食べさせる事も出来るが、今日はそんな気分じゃ無かった。
ちなみに何時も泊まってる宿でも昼食はお金を払えば出て来るが、朝も食べて夜も食べる予定なので、流石に三食同じ場所はどうかと考えたのだ。
僕は屋台で大きな鳥の足とリンゴのパイを買い求めると、木々の生えた広場の茂みに踏み入る。
此処ならば外からはそんなに目立たないだろう。
実の所、屋台の軽食はあまりヨルムと食べるのには向いてない。何故なら切り分ける事が出来ないからだ。
なので一緒に食べるとなると、あまり品の無い食べ方になってしまう。
ヨルムは普段からあまり人目につかないようにしているが、今は猶更見られたくない。
木を背もたれに座り込むと、僕は懐から取り出した水筒で口を濯いで湿らせる。
ヨルムも胸元から顔を出して来た。
パンやパイも食べない事は無いのだが、それでもやはりヨルムは肉を好む。
なので先ずは鳥から行こう。何の鳥かは知らないが、骨付きの鳥の足は串焼きよりも御馳走だ。
だって皮付きの肉である。タレがたっぷりかかっており、かぶり付く一口目、つまり外側はタレの味と肉の旨みを絡めて楽しめる。
僕は大きく肉を噛み千切ると、それを咀嚼せずに咥えたまま突き出す。
「ん」
するとヨルムがするすると僕の顔の前に上がって来て、僕の口から肉を奪った。
ごくりと一口で飲み込む。
白蛇であるヨルムは食べ物を噛み千切れない。一口で飲み込むだけである。
だから切ったり千切ったりと、分けれない食べ物を一緒に食べるにはこうやって僕が齧り取るより他に無い。
次は自分の分の一口だ。大きく噛み付き、食い千切る。
うん、やはり皮付きの鳥肉を大口で頬張るのは満足度が大きいと思う。
噛むと肉の弾力が、噛み応えが心地よい。タレも美味しいし、焼き加減もいい具合である。
ヨルムがチロチロと僕の口の端を下で舐めた。此れは次を要求してる訳じゃ無く、タレで汚れてるから拭えって意味だ。
良いんだよ。どうせ次の一口でまた汚れるんだから。
そう思いながらも僕は鳥を持たない方の手で懐を探り、手拭い用の布を取り出して口を拭う。
昔はこんな物を持つ習慣は無かったが、町でその存在を知って携帯する様になった。
忘れたまま部屋から出そうになると、ヨルムがぺチぺチと叩いて教えてくれるから携帯し忘れる事も少ない。
鳥肉をあらかた食べ尽すと、骨はヨルムが飲み込んだ。骨なんか食べて美味しいのだろうか?
ヨルムが骨を食べてる間に、僕はリンゴのパイを戴く事にする。
水を飲んで口の中に残る鳥肉とタレの余韻を消してから、リンゴのパイに齧り付く。
サクサクとした生地とリンゴの甘味がとても楽しい。焼いたリンゴの甘味は、何故だか優しさを感じられる。
半分よりも少し多めに僕が食べ、残りをヨルムが大口を開けて飲み込む。
パイは生地のサクサクした感じが良いのに、その食べ方はどうなんだろうと思わなくもない。
何にせよ今日の昼食は贅沢をした。何故ならこの後、先日手に入れた鹿皮を売りに行くので少し収入が入る予定なのだ。
僕は冒険者だけど先日の様に狩りに出る事も多い。なので皮革職人とは少しばかりの付き合いがある。
「ユーは良いよな。あんな獲物仕留めれてよ。あー、俺も冒険者になりてー」
そして目の前でぼやいてるのが、その付き合いのある皮革職人の孫のモーレンだ。
ブンブンと剣を振るポーズを僕に懸命に披露してくれる彼は、3つ年下の友人だった。
祖父である皮革職人のマーレンお爺さんが皮の査定をする間、僕の相手をしてくれている。
「冒険者って言ってもやってる事は雑用が殆どだけどね。あと剣で鹿を狩るのは難しいと思うよ。逃げられるし、皮もボロボロになるし」
剣で殺した獣の皮では然程の値打ちが付かないだろう。
此れが魔獣相手なら、相手もあまり逃げないし、多少の痛みがあっても種によっては貴重品として扱われる。
だが今の僕に魔獣の相手は難しい。下位の魔物の中でもほんの一部を漸く相手に出来る様になったばかりだ。
「ロマンがわかってねえなー。駄目だぜユー。それじゃあ凄い冒険者に何てなれないって。なあ、俺にも剣を教えてくれよ。それで俺と冒険しようぜ」
モーレンの言葉に僕は苦笑いを浮かべざる得ない。
確かにロマンは大事だけれど、日々の糧を得れる事はもっと大事だと僕は思う。
ロマンはもっと生きる事に余裕が出来てから求めれば良い。地に足の着かない状態で先走るのは、勇気じゃなくて無謀だろう。
僕だって色んな冒険に憧れが無い訳じゃ無いが、先ずは日々をちゃんと生きる事が重要だ。
その後は小剣を鋼製の物に変えて、弓も小型の合成弓が欲しいし、マントの素材を魔獣の革製にだってしたい。
冒険者としてのロマンはその後の話である。世の中は詩人の語る冒険物語よりも些か世知辛いのが現実だから。
「こらっ、アホな事を言ってユーディッドを困らせるんじゃない」
査定を終えたのであろうマーレンお爺さんが、出て来てモーレンの頭に拳骨を落とす。
痛みにうずくまるモーレンだが、まあ仕方ない。モーレンにロマンを求める余裕があるのは、マーレンお爺さん達が働いているからこそだ。
拳骨位は我慢した方が良いと思う。
「ええ鹿皮だったよ。一発で仕留めてたしの。解体も腕を上げたようだし、買い取りには色を付けとくとしようか」
マーレンお爺さんはそう言い、王国銀貨五枚を渡してくれた。本当に随分とサービスしてくれている。
報酬は嬉しい。弓や解体の腕を褒められた事もだが、金銭という評価に自然と口元がにやけてしまう。
また目標に一歩近づいた。
この大陸で貨幣を発行してる国は西の大国マイレ王国、南西の大国ヨルルム共和国、北東の大国ローレン教国、中央の大国ロイド帝国だ。
西は中立神を祀る国が多くて、東は秩序の神を崇める国が多い。北は山脈に遮断されてるけど、その向こうには魔領と呼ばれる地域があって魔族が居るって言われてる。
ミステン公国は王国と共和国と帝国の中間にある西側小国家群の一つで、一番近いのがマイレ王国だ。
流れてくる貨幣は王国か共和国か帝国の物が多いが、でも面倒な事にそれぞれの貨幣の価値は微妙に違うのだ。
例えば銀貨1枚の値段の買い物をする時に、共和国銀貨で買い物をしようとしたら大銅貨数枚を余分に要求される事が多い。
共和国は国内にある銀鉱山の数が少ないので、銀貨は純度が低いからだそうだ。
ただでさえ面倒臭い計算が、余計にややこしくなるので本当にやめて欲しい。
ミステン公国で買い物をする際の基本は王国銀貨になるので、使い易い貨幣での支払いは少し嬉しかった。
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