少年と白蛇

らる鳥

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 突然だけど僕は学が無い。文字は大分読めるようになったが書く方は未だ苦手だ。
 前に僕は頭が悪いと言ったら、宿のおじさんにお前は学が無いだけだと叱られた。
 僕には学が無い事と頭が悪い事の違いはイマイチ判らないけど、それ以降は学が無いって言うようにしている。
 数の計算もそれなりに覚えたけれど、判らない事もまだまだ多い。
 例えば、そう、前に宿のおじさんに教えて貰ったのだが、指名依頼は貰えるお金が増える。
 ミステン公国で依頼を受けると、通常依頼の報酬は実は3割が引かれているのだそうだ。
 依頼書に書いてある報酬額はこの3割が既に引かれた数字なので、冒険者の多くは満額を貰っている気分になるらしい。
 教えられた時に、僕も此処までは理解出来た。
 その3割の内訳は、税金が1割でギルド手数料が2割。
 指名依頼の場合はギルド内での斡旋が行われないので、その手数料が半分になり、浮いた分が冒険者の報酬になる。
 うん、良く判らないけど多分指名依頼はお得って事で良いんだと思う。

 どちらの場合も税金を支払っているが、此れがギルドを介さない直接依頼の場合は話が異なり報酬は10割満額だ。
 此れを聞いた時に僕が直接依頼が一番得だねと言ったら、宿のおじさんは溜息を吐いた。
 直接依頼の場合はギルド手数料も税金も払ってないので、イザって時にギルドからも領主からも保護を受けられないそうだ。
 だから本来は余程信頼出来る依頼主以外からしか直接依頼は受けるなと言いたかったらしい。
 でも僕はその話をイマイチ理解出来なかったので、直接依頼は一切受けるなと言われた。
 一番得なのに損をするからダメとは、町の事情はとても不思議だ。

 ちなみに村では畑からの収穫の半分が領主に徴収されていた。
 けれど収穫の計算できない狩人の持って帰る肉や、採取する森の恵みは徴収されないので村にとってはとても重要な物である。
 隠し畑は色々と危険が多かったのでやめたらしいが、取り敢えず村では一番得な事が大事だ。
 この町と村の違いは未だに僕にはピンと来ない。
 宿のおじさんは、村人は村長以外は学が無い方が生き易いが、町ではそうも行かないから少しずつ学べと色々教えてくれる。
 ヨルムはこの手の話は聞いても一切教えてくれないので、おじさんの話はとても有り難い。
 何時か僕に学と呼べる物が備われば、おじさんの言う事も理解出来るのだろうか?


 理解出来る日に期待して、僕は今日も指名依頼を受けていた。
 相手は何時もの薬屋の店主さん。名前はエルローさんで、店の名前もエルロー薬店。
 とても優しい人で、今はお腹が少し膨らんだ奥さんも居る。赤ん坊の誕生がとても楽しみだ。
 店主さんに関しては、おじさんと呼んで良いのかお兄さんと呼んで良いのか、割と微妙な年頃なので僕はエルローさんと呼んでいた。
 今日頼まれたのは先日取って来た薬草の葉の処理である。
 すり鉢に葉を入れ、ごりごりと磨り潰す。この時に乱暴にガリガリやってはいけない。
 多少潰れ難くても、円を描く様に丁寧にしつこくやるのがコツなのだ。
 ある程度磨り潰せたら、そこに別の薬草の煮汁を少量加え、またごりごりする。
 暫くそうしていると粘り気のある灰色のスライムみたいな物に変わるので、また更に刻んだ別の薬草を加えてかき混ぜて行く。
 最後に加えた薬草は粒が残る程度に残す。それを瓶に詰めれば出来上がりだ。

 根気の要る単純作業だからと他の冒険者には人気が無いらしいこの薬屋さんの手伝いだが、僕は割合にこの作業が好きである。
 ごりごりする棒を持ち上げれば、粘々がびよんと伸びるのとかが面白い。
 鼻歌交じりに作業を進めれば、ヨルムも胸元から顔を出し、鼻歌に合わせて首を左右に振っている。
 エルローさんとも付き合いが長いので、ヨルムの事は知っていた。
 宿のおじさんと同じく変わったペット位に思っているらしい。だから此処ではヨルムも安心して顔を出す。
 今日は保存庫に用意されていた薬草の量があまり多くなかった。
 採取に行った僕が鹿狩りを優先していたので当然なのだけど、此れならば午前中で終わってしまうだろう。
 もっと取ってくれば良かったかなと、今更になって思うが、本当に今更なので益体も無い戯言である。

 ちらと横目でエルローさんを見れば、額に汗をしながら鹿の角をゴリゴリとヤスリで削って粉にしていた。
 どう見てもあちらの方が体力を使いそうなのに、何故雇った僕に其方をさせないのかとても不思議だ。
 一応は冒険者の僕の方が、エルローさんよりは体力がある筈。此方の作業が終わったら僕から手伝いを申し出ようか。
 何でも鹿の角は強壮剤の原料になるらしい。以前に強壮剤が何かと聞くと、エルローさんは困った様に笑ってから、元気が出る薬だと言っていた。
 元気が出る薬なら冒険者の依頼にも便利そうだと思ったのだけれど、若い間からこの手の薬に頼るのは後々良くないらしい。
 その時は代わりにとちょっとした傷に使う軟膏の作り方を教えて貰った。
 村から出たばかりの頃は出来る事が少なかったけど、今では色々出来る様になってる。
 此れも宿のおじさんが言う学が身に付くって奴なのだろうか?
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