少年と白蛇

らる鳥

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 悩みがあると言えば大抵の人には心配される。
 僕だってそうするだろう。悩みって言葉には負のイメージがあるから。
 でも今僕が抱える悩みは幸せな物だった。
 先日の護衛依頼の報酬で、正確には吃驚する位の金額になった危険手当やボーナスや野盗退治の報奨金で、武器の新調が可能なだけの貯蓄が出来たのだ。
 そこで僕は高品質な複合弓か、高品質な鋼の小剣のどちらを買い求めるかで悩んでる。
 悩みじゃ無くて迷いだろうって?
 違う違う。迷いなんて軽い気分じゃ無くて、真剣な悩みだ。
 将来的にはどちらも必要になるものだけど、この選択で此れから暫く何を重視して依頼をこなすかが変わる。

 弓の威力や飛距離は張りの強さと大きさで決まる。大きな弓は当然威力や飛距離に優れるが、取り回しが悪い。
 張りの強い弓は引き絞る為に、射手にそれなりの膂力と技術を要求するのだ。
 どっちも一長一短で、その為に色んな種類の弓がある。
 複合弓とは複数の素材を組み合わせる事で張りを強化した弓だ。
 例えば木の弓に、動物の骨や角や腱等の素材を膠で張り合わせて作る。
 僕は冒険者としての訓練で膂力はそれなりにあるけれど、年齢のせいもあって身長や腕の長さ的に大きな弓を引く事は難しい。
 なので弓を新調するなら、扱いの難易度は今より段違いに上がるけど、複合弓の短弓を買い求めるのが一番良いと考えていた。

 一方小剣だが、此方は単純に品質と材質を良い物に変えようってだけだ。
 けれど大事な事である。質が良ければ信頼性が増す。
 受けるも攻めるも、武器への信頼度が高ければ思い切りよく行けるだろう。
 正直今の僕は剣の腕は大した事が無い。弓はそれなりに自信があるが、遠距離攻撃だけでは冒険者として行き詰まる。
 接近された時の戦闘手段はキチンと鍛えておかなければダメだ。
 他にも近接用の装備として軽盾を所持しているけど、此方はどの道買い替える。
 今使用している物が信頼出来なさ過ぎて、軽盾で止めずに小剣で受け止めてしまう位に使えてない。
 精々盾で殴って牽制するのに使ってる程度だ。
 幸い軽盾をマシな物に買い替えても然程懐は痛まないので、武器を買い求める際に一緒に購入してしまおうと思ってる。

 防具といえば、ベテランの冒険者に今の悩みを相談したら鎧や小手や兜なんかの防具を買えと言われるだろう。
 でも残念ながら今の僕は成長期なので、防具のサイズに悩む羽目になるのが見えてた。
 大き過ぎる防具は動きを阻害するし、小さ過ぎる防具は拘束具に近しい。
 精々マントをもっと頑丈な魔獣の革で出来た物にする位だが、魔獣素材を考え出すとピンキリ過ぎてキリがないのだ。
 知人の皮革職人、マーレンお爺さんが良い魔獣の革を入手したら教えてくれる事になってるので、それを待とうと思ってる。
 ……ほんと、どうしようかなあ。


 あまり悩んでても仕方ないので、やるべき事をやるとしよう。
 護衛で町を数日開けていた為に、指名依頼をこなせていないのだ。
 懐には余裕があるので焦る必要はない。
 けれど今現在お金に困ってないからと言って働かなければ、本当に困った時に仕事は巡って来ないだろう。
 信用も稼ぎ続けなければ目減りする。
 仕事をこなさない人間に仕事を回し続けてくれる人はいないのだ。
 普段と同じく宿での芋の皮剥きをこなしてから、指名依頼の手紙を確認していく。
 1つは薬草の採取依頼。何時も指名依頼を出してくれるエルロー薬店からの、今回は傷薬用の薬草と、同じく薬用の鉱石の採取依頼である。
 割と面倒な依頼だった。薬草は兎も角、鉱石は山に行かないと手に入らない。
 削って混ぜると薬効が劇的に高まるとかで、割合に希少な鉱石となる為に発見はそれなりに困難だ。
 本来僕程度の冒険者に依頼する代物じゃないのだけれど、一度持ち込んだ事があるのでもし可能であるならばといった所だろう。
 報酬も困難さに見合った物ではあるのだけど、遠出から帰った翌日には流石に受けたい依頼とは言えなかった。
 幸い猶予はあるし後日に回そう。エルローさんも早目に依頼を出してくれてるだけで、在庫に困ってた訳では無い筈。
 指名依頼の手紙はもう一枚あり、さて此方はと見れば二人の子供の子守依頼だった。
 依頼主はメーラさん。二児の母で、とある冒険者の妻である。
 この依頼は渡りに船だ。
 先ずこの町から出なくて良いのが嬉しい。その分報酬は大銅貨1枚と控え目だが、今の僕は懐に余裕があるので問題はないだろう。
 何よりこの依頼にはちょっとした余禄がついて来る。それが今の僕には有り難かった。
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