少年と白蛇

らる鳥

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 打ち上げで飲み過ぎた冒険者は兎も角、僕の朝は休日でも早い。おはようございます。
 何故なら夜遅くまで起きてると、ランタンの油が勿体ないので早寝するからである。
 この宿は一泊や二泊の短期なら兎も角、僕みたいにほぼ住んでるのと変わらない滞在者は部屋の掃除と消耗品の補充は自前だ。
 宿のおじさん曰く、冒険者の良く泊まるこの宿では色々と自己責任にしてしまうこのやり方が、結局一番トラブルは少ないらしい。
 うんと思い切り伸びをすると、身体のあちこちが少し痛む。
 けれど軽い擦り傷や筋肉痛程度なので特に問題は無いだろう。昨日と一昨日はハードだったので、この程度の痛みは寧ろあって当然だ。
 ヨルムは……、体内に意識を集中すればお腹の辺りに気配があった。
 僕の身体の中で休む時は、ヨルムが入った場所に刺青の様な文様が出るので、あまり変な場所に入って眠られると稀に困る事がある。
 頬に文様が浮かんでたら、流石にイメージチェンジと言っても誤魔化されてくれないだろう。
 でもお腹なら服の下なので別に大丈夫。ヨルムは朝の寒さが嫌いなので、暫く起きる心算は無い筈だ。
 カーテンを捲って窓の外を覗けばまだ薄暗い。桶に溜めて置いた水で顔を洗って眠気を飛ばした。

 冷たい水の感触に意識が明瞭になって来ると、今日すべき事を思い出す。
 先ずは宿の手伝いを少しして、それから冒険者ギルドに行く。北山での出来事の報告や、素材の清算を未だ済ませて居なかった。
 依頼を終えて帰って来た冒険者の多い夕暮れのギルドで、僕が分不相応な魔獣の素材を売ろうとすれば少し目立つ。
 報告の内容も考えれば要らぬトラブルを招きかねないので、念の為に今日の朝に持ち越したのだ。
 冒険者ギルドの次は皮革職人のマーレンお爺さんにキラータイガーの毛皮を預けに行こう。
 マントが無いのはやはり色々と不便である。魔獣の革のマントは高級品だが、素材を持ち込めば大分安くに仕上がる筈。
 取り敢えず此処までを午前中に終わらせよう。
 エルロー薬店に賦活石を届けたりとかもあるけれど、まあ別にそれは急ぎじゃない。
 どうせマントが完成するまでは街中で雑用依頼でもして過ごす心算である。
 今日の午後くらいはのんびり食べ歩きでもして遊んでも良いかな……。
 冒険者キラータイガーの素材やら大量のオーク討伐部位やらで、纏まった金額が手に入る予定だ。
 装備を整えて金欠になったばかりなのに、たった三日で懐が温かくなるなんて思いもしなかった。
 といっても此処で調子に乗るときっと碌な事は無い。
 だから先ずは宿代節約の為に宿の手伝いを頑張ろう。


 宿の手伝いである芋の皮剥き終え、そしてゆっくりと朝食をとってから、冒険者ギルドへの道を行く。
 朝食の羊肉のスープはとても美味しく、ついついのんびり食べ過ぎてしまった。まだ朝なのにお腹が重い。
 マントが無いとヨルムが服の下に居る膨らみが目立つので、残念だけどヨルムには朝食後は再び僕の体内で待機して貰っていた。
 冒険者ギルドは前日に受け付けた依頼を整理分類し、翌日の朝に公開する。
 なので朝一番のギルドの受付は割りの良い依頼を求めた冒険者で少し混むが、逆に買取や報告用の窓口はガラガラだ。
 朝から依頼を求めて来る冒険者は大体が駆け出しか、直近の依頼で思った通りの収入が得られなかったか、或いは流れ者だろう。
 故に自分の事に一生懸命なので、今回は依頼を奪い合う相手では無い僕を気にする者は少ない。
 僕はギルドの報告用窓口で、先ず採取した賦活石を見せながら1日目に川熊、オーク、そしてキラータイガーに遭遇した事を報告する。
 キラータイガーに関しては恐らく他の魔物との戦いで傷付いており、瀕死だったので討伐出来たとの虚偽もちゃんと混ぜておく。
 2日目に全滅してると予測したオークの巣穴を漁り、女性冒険者の遺体を見つけて埋葬した事の報告と、遺品と思わしき装備品等の提出も行った。
 僕の報告を聞いたギルド職員の女性は僅かに眉根を寄せたが、彼女はベテランんなので妙に騒ぎ立てる事はしない。
 此れが先月から働き始めたばかりの新人だと、あれこれ質問しながらキャーキャー騒ぐので悪目立ちをしていたとこだろう。
 でもその新人職員は若くて可愛らしい容姿と人懐っこい性格から、男性冒険者からの人気がとても高いのだ。
「報告承りました。亡くなった冒険者の方への対応にギルドとして感謝します」
 ベテラン職員さんに丁寧に頭を下げられ、ちょっと戸惑う。
 遺体への対応が正しかった事はホッとしたが、あまり丁寧にお礼を言われると、何だか慣れて無くて恥ずかしい。
「ユーディッドさんを疑う訳ではありませんが、収穫したキラータイガーの素材とオークの耳を提出を……、勿論買取価格で買い取りますのでお願いします」
 勿論お金が貰えるのなら僕に否は無いけれど、キラータイガーの毛皮だけはマントにする予定なのでお断りをする。
 キラータイガーの魔石に、牙が上下合わせて上顎の大牙と下顎の小牙が2本ずつ、そしてオークの耳が20体分あまり。
 ベテラン職員さんは疑う訳では無いと言っていたけれど、実際に素材と耳を確認するその顔にはやはり少しの驚きがあった。
 もっと下位の虎魔獣とキラータイガーを僕が見間違えた可能性を考えて居たのだろうか?
「本当にキラータイガー……。ユーディッドさん、あまり無理をなさってはいけませんよ? では魔石は大銀貨3枚、牙は大が大銀貨3枚で小が1枚です。オーク討伐は一体に付き大銅貨3枚となりますので……」
 合計で金貨が1枚と大銀貨が1枚、そして銀貨が6枚が支払われる。
 想像していた金額の倍以上が財布に入り、驚きにちょっと眩暈がした。キラータイガーからの収穫が大き過ぎるのだ。
 緊張に動悸が早くなるが、平静を装って財布にお金を仕舞おうとして、ふと気付く。
「ごめんなさい。この後にマントを発注しに行くので、お金は大銀貨でお願いします」
 金貨で買い物なんて、皮革職人のマーレンお爺さんにお釣りで難儀させるだけである。
 それに持ち歩くなら大銀貨の方がまだ気楽だ。
 見つけた遺体の身元が判り、遺族が話を聞きたがった場合や、遺体の回収が依頼として出された場合等の協力を了承し、僕はギルドを後にした。
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