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てくてくと、街道を行く。
ここ半月程はほぼ毎日ルリスさんとクーリさん、見習い冒険者の二人と一緒に行動していたが、今日から暫くは久々に一人……と一匹のみでの行動だ。
とはいえ別にお役御免になった訳では無い。まあそろそろ教えれる事も残り少なくなっては来たけれど。
彼女達は今、冒険者ギルドでの講習を受けてる筈だった。
ある程度、僕と一緒に依頼をこなす事にも慣れて来た為、そろそろ正式に冒険者としての登録を行う事になったのだ。
座学や実技の講習を経て、更に試験を受け、それにパスすれば冒険者としての活動が許可される。
けれど資格収得までには数日程掛かるだろう。
ルリスさんもクーリさんも、僕が言えた事じゃないけれど年齢も若いし、貧民街の出なので町の住人としての登録がされていない。
なので冒険者としての一般常識の講習と試験が、通常よりも念入りに行われるだろう事が予測された。
彼女達にしてみれば少し業腹な話かも知れないが、仕方ない。
冒険者となれば、依頼中の身元の保証は冒険者ギルドが行う事になる。
故に問題の発生を少しでも下げる為、念入りに教育と審査を行おうとするのは、冒険者ギルドの立場としては当然だから。
分かれ道だ。一本は大きな、ミステン公国第二の町、オリガへと向かう道。
オリガは以前の商隊の護衛で訪れた、隣国であるアイアス公国との国境にも近いあの町だ。
そしてもう一本は、オリガに向かう其れに比べれば随分細くて整備もされてない道だった。
けれど僕の目的地、アクサナ村はこの道の先にある。
急に歩き難くなった道に、僕は少し溜息を吐く。ヨルムがまるで慰めるかの様に胸元から顔を出して来たので、指先でつつきながら、村を目指して地を踏み締める。
最近は忙しさから少なめだった、ヨルムとののんびりしたやり取りに頬が緩む。
僕が今回受けた依頼は、アクサナ近くの森でのとある魔獣、暴れ猿の間引き依頼だった。
ミステン公国は3つの城塞都市があり、そして3つの地域に分類される。
一つ目が公都ミステンのある北部地域。二つ目が城塞都市オリガの存在する南東地域。そして三つ目が僕も住む城塞都市ライサの在る南西地域だ。
アクサナ村が属するのは南東地域になり、此処は3つの地域の中でも最も出現する魔物が弱い場所になる。
尤もその分、関係のあまり良く無い隣国が近かったり、野盗等は出現し易かったりするのだけれど、今回の依頼には特に関係は無いので良しとしよう。
まあ要するに、魔獣の間引きと言っても然程難易度の高い依頼では無いのだ。
無論油断は禁物であるのだけれど、暴れ猿自体は個体の危険度は、武器を使わない分ゴブリンにも劣る魔獣である。
1匹程度ならば鍬や斧を持った村人でも充分に追い払えるし、或いは退治する事だって可能かも知れない。
とはいえこの魔獣の恐ろしさは群れる事と食欲、そして繁殖力にあった。
一匹一匹の力は例えゴブリン以下でも、此れが十、二十と集まって行動したなら、その危険度は大きく跳ね上がる。
暴れ猿は数が集まれば集まる程に強気になり、そして狂暴性を増すらしい。
100以上が集まった群れにもなれば、多少の犠牲を厭わずに数に任せて襲い掛かり、爪と牙で自分より格上の魔物を貪り喰い殺す事もあるそうだ。
其処までの数の群れになってれば、小さな村の防備等無関係に引き裂いて村人を獲物にもするだろう。
故にこのアクサナ村からは、毎年一定の時期になると暴れ猿を間引く為の依頼が出されるのである。
何でもオリガの領主様が村の防衛の為に資金を援助しているそうだ。
宿のおじさんが言うには、森の防波堤であるアクサナ村を守らないと街道の危険度が上がって交易に影響が出て不都合だからだとか何とか。
でも難しい話は良く判らなかったので、取り敢えずオリガの領主は、村人に優しい良い領主様なんだなと思う事に僕はしてる。
どんな事情があったとしても、村にとって有り難い支援なのは変わらないだろうから。
僕がアクサナ村に着いた時には、既に日は落ちて辺りは薄暗くなっていた。
早朝にライサの町を出発してから、ずっと歩き詰めだったので、歩く以外は何もしていないとは言え少し疲れは感じている。
村の入り口に居た村人……、一応は門番代わりなのだろう。に、依頼を受けて来た事を伝え、村長への挨拶と宿をどうすれば良いかを尋ねた。
アクサナ村は小さな村ではあるけれど、食堂を兼ねた小さな宿は一応あるそうだ。
村長への挨拶は明日で良いと言われたので、来訪を伝言する事だけお願いし、取り敢えず宿へと向かう事にする。
正直お腹もすいてたので、今から挨拶に向かわなくて良いのは素直に嬉しい。
村の中を歩きながら、服の上からヨルムを撫でた。宿が取れたら、食事は部屋で取るとしよう。
上手く個室が空いてたら良いのだけれども。
宿の扉を開けば、料理と酒の匂いと共に、幾つかの視線が飛んでくる。
大半は好奇に幾許かの警戒が混ざった、あまり気持ちの良い物でも無い、所謂村人が始めてみた余所者を見定めようとする視線だ。
けれど幾つか別種の、好奇に混じるのが警戒で無く、敵意の様な視線も感じた。
そちらをチラと見れば、成る程、同業者である。
恐らく同じ間引きの依頼を受けた冒険者達なのだろう。男性が一人に女性が二人。
見覚えの無い顔なので、もしかすればライサでは無くオリガの町の冒険者かも知れない。
装備や雰囲気を見る限り、まだ新米といった所だろうか。
そして彼等も僕に言われたくは無いだろうけど、随分と若い。全員が僕より3つ4つ、或いは多くて5つ上といった感じである。
今回の依頼は駆け出しに回される様な依頼では無かった筈なのだけど、オリガの町では違うのだろうか。
……何にせよ、関わらない方が無難かな。
そう判断し、視線を気にせず宿の、今は食堂の、主人の元へと向かう。
「間引きの依頼で来ました。個室を一部屋お願いします」
僕の言葉に、宿の主人はちらりと此方を、正確には僕の装備を確認し、一つ頷き鍵を渡してくれる。
冒険者を名乗るだけの食い詰め者では無いと見てくれたのだろう。
「個室は1泊銀一枚だ。2階の一番奥の部屋を使いな。夕食は付いてる。今日の分は今此処で食っていくかね? それとも部屋に持って上がるかね?」
宿の主人の言葉に、僕は巾着袋から銀貨を一枚、そして銅貨を数枚取り出してカウンターに置く。
チラと横目で村人達の食べてる皿を見れば、シチューに何らかの肉、更にパンと、珍しくは無いがそれなりに美味しそうな食事である。
主街道から逸れた村の宿は利用客が少なく、本業の片手間でしかない事が多いだけに、食事やベッドにもあまり期待できない事が多い。
けれどこの村では宿が食堂を兼ねているので、食事が美味しそうなのは素直に嬉しかった。
「食事は部屋で。あとはお湯をお願いします」
僕の出したコインを受け取り、宿の主人が湯と食事の用意に取り掛かる。
鍋からシチューがよそわれる良い匂いに、お腹の虫が騒ぎ出す。彼方此方を眺めてみても、掃除もキチンと行き届いていた。
良い宿だと言えるだろう。この分ならベッドの方にも充分に期待が出来そうだ。
依頼の間、数日ではあるが滞在する場所が良質である事に、自然と僕の頬が緩む。
「おい、お前。後からやって来た癖に挨拶も無しとは、どういう了見なんだ?」
けれど面倒で無粋な輩がやって来る。折角関わらないで置こうと思ったのに、向こうから来るとは本当に迷惑だ。
仕方なく其方を振り向けば、僕に文句を言って来ているのは先程の冒険者達の一人の、まだ少女と言って良い年齢の女性だった。
もう一人の女性はケラケラ笑いながら後ろで無責任に煽っており、唯一の男性は必死に絡んで来た女性を止めている。
……ちょっと意外で、珍しいパターンだ。
大体こういう場合に絡んで来るのは、酔って気が大きくなり、連れの女性に自分の力を誇示したがる男性が多いのだけど、少し驚いた。
とはいえ面倒な事には変わりがないので、女性を止めている男性に少しだけ会釈をして宿の主人の方へと向き直る。
「おいお前! 私を無視するな!」
まだ何か言っているが、僕の知った事では無かった。
この手の手合いは相手をすれば相手をしただけ、付け上がって色々と要求をして来たりする。
折角止めようとしてくれている人が居るのだから、彼に任せて置くのが一番良いだろう。
そう思ってたのだけれど、その女性は仲間の男性を振り解き、此方に向かってやって来た。
「おいアンタ。うちの宿で揉め事を起こすなら出てって貰うぞ」
騒ぎになる直前で、宿の主人の言葉が冒険者の女性の暴走を止める。
いや、さっきの言葉は彼女に対してだけでなく、僕に対しての制止でもあったのだろう。
僕はマントの下で固めた拳を解く。
冒険者の揉め事に割って入ろうとする胆力と言い、僕の行動を察した事と言い、この宿の主人は何者なのだろうか。
よく観察して見れば、所作にも一々隙が無い。引退した兵士か、元冒険者あたりかな……。
「なんだと、我々はこの村の依頼で態々やって来た冒険者なんだぞ。何で宿を追い出されなきゃならない」
しかし茹った頭の冒険者の女性は、その制止に今度は宿の主人に矛先を変えて絡み出す。
息が少し酒臭い。顔色は普通なのに、若しかしたら随分酔ってるかも知れない。
「関係ないな。うちの宿はちゃんとした客なら泊めるが、暴れる無法者に貸す部屋は無い。仲間の二人も、コイツを止めれないなら一緒に出て行け」
一喝に、仲間の二人が慌てて彼女を抑えに掛かった。
どうやら面倒事は去ったらしい。僕は宿の主人に頭を下げて、湯と食事を手にして階段を上がる。
ここ半月程はほぼ毎日ルリスさんとクーリさん、見習い冒険者の二人と一緒に行動していたが、今日から暫くは久々に一人……と一匹のみでの行動だ。
とはいえ別にお役御免になった訳では無い。まあそろそろ教えれる事も残り少なくなっては来たけれど。
彼女達は今、冒険者ギルドでの講習を受けてる筈だった。
ある程度、僕と一緒に依頼をこなす事にも慣れて来た為、そろそろ正式に冒険者としての登録を行う事になったのだ。
座学や実技の講習を経て、更に試験を受け、それにパスすれば冒険者としての活動が許可される。
けれど資格収得までには数日程掛かるだろう。
ルリスさんもクーリさんも、僕が言えた事じゃないけれど年齢も若いし、貧民街の出なので町の住人としての登録がされていない。
なので冒険者としての一般常識の講習と試験が、通常よりも念入りに行われるだろう事が予測された。
彼女達にしてみれば少し業腹な話かも知れないが、仕方ない。
冒険者となれば、依頼中の身元の保証は冒険者ギルドが行う事になる。
故に問題の発生を少しでも下げる為、念入りに教育と審査を行おうとするのは、冒険者ギルドの立場としては当然だから。
分かれ道だ。一本は大きな、ミステン公国第二の町、オリガへと向かう道。
オリガは以前の商隊の護衛で訪れた、隣国であるアイアス公国との国境にも近いあの町だ。
そしてもう一本は、オリガに向かう其れに比べれば随分細くて整備もされてない道だった。
けれど僕の目的地、アクサナ村はこの道の先にある。
急に歩き難くなった道に、僕は少し溜息を吐く。ヨルムがまるで慰めるかの様に胸元から顔を出して来たので、指先でつつきながら、村を目指して地を踏み締める。
最近は忙しさから少なめだった、ヨルムとののんびりしたやり取りに頬が緩む。
僕が今回受けた依頼は、アクサナ近くの森でのとある魔獣、暴れ猿の間引き依頼だった。
ミステン公国は3つの城塞都市があり、そして3つの地域に分類される。
一つ目が公都ミステンのある北部地域。二つ目が城塞都市オリガの存在する南東地域。そして三つ目が僕も住む城塞都市ライサの在る南西地域だ。
アクサナ村が属するのは南東地域になり、此処は3つの地域の中でも最も出現する魔物が弱い場所になる。
尤もその分、関係のあまり良く無い隣国が近かったり、野盗等は出現し易かったりするのだけれど、今回の依頼には特に関係は無いので良しとしよう。
まあ要するに、魔獣の間引きと言っても然程難易度の高い依頼では無いのだ。
無論油断は禁物であるのだけれど、暴れ猿自体は個体の危険度は、武器を使わない分ゴブリンにも劣る魔獣である。
1匹程度ならば鍬や斧を持った村人でも充分に追い払えるし、或いは退治する事だって可能かも知れない。
とはいえこの魔獣の恐ろしさは群れる事と食欲、そして繁殖力にあった。
一匹一匹の力は例えゴブリン以下でも、此れが十、二十と集まって行動したなら、その危険度は大きく跳ね上がる。
暴れ猿は数が集まれば集まる程に強気になり、そして狂暴性を増すらしい。
100以上が集まった群れにもなれば、多少の犠牲を厭わずに数に任せて襲い掛かり、爪と牙で自分より格上の魔物を貪り喰い殺す事もあるそうだ。
其処までの数の群れになってれば、小さな村の防備等無関係に引き裂いて村人を獲物にもするだろう。
故にこのアクサナ村からは、毎年一定の時期になると暴れ猿を間引く為の依頼が出されるのである。
何でもオリガの領主様が村の防衛の為に資金を援助しているそうだ。
宿のおじさんが言うには、森の防波堤であるアクサナ村を守らないと街道の危険度が上がって交易に影響が出て不都合だからだとか何とか。
でも難しい話は良く判らなかったので、取り敢えずオリガの領主は、村人に優しい良い領主様なんだなと思う事に僕はしてる。
どんな事情があったとしても、村にとって有り難い支援なのは変わらないだろうから。
僕がアクサナ村に着いた時には、既に日は落ちて辺りは薄暗くなっていた。
早朝にライサの町を出発してから、ずっと歩き詰めだったので、歩く以外は何もしていないとは言え少し疲れは感じている。
村の入り口に居た村人……、一応は門番代わりなのだろう。に、依頼を受けて来た事を伝え、村長への挨拶と宿をどうすれば良いかを尋ねた。
アクサナ村は小さな村ではあるけれど、食堂を兼ねた小さな宿は一応あるそうだ。
村長への挨拶は明日で良いと言われたので、来訪を伝言する事だけお願いし、取り敢えず宿へと向かう事にする。
正直お腹もすいてたので、今から挨拶に向かわなくて良いのは素直に嬉しい。
村の中を歩きながら、服の上からヨルムを撫でた。宿が取れたら、食事は部屋で取るとしよう。
上手く個室が空いてたら良いのだけれども。
宿の扉を開けば、料理と酒の匂いと共に、幾つかの視線が飛んでくる。
大半は好奇に幾許かの警戒が混ざった、あまり気持ちの良い物でも無い、所謂村人が始めてみた余所者を見定めようとする視線だ。
けれど幾つか別種の、好奇に混じるのが警戒で無く、敵意の様な視線も感じた。
そちらをチラと見れば、成る程、同業者である。
恐らく同じ間引きの依頼を受けた冒険者達なのだろう。男性が一人に女性が二人。
見覚えの無い顔なので、もしかすればライサでは無くオリガの町の冒険者かも知れない。
装備や雰囲気を見る限り、まだ新米といった所だろうか。
そして彼等も僕に言われたくは無いだろうけど、随分と若い。全員が僕より3つ4つ、或いは多くて5つ上といった感じである。
今回の依頼は駆け出しに回される様な依頼では無かった筈なのだけど、オリガの町では違うのだろうか。
……何にせよ、関わらない方が無難かな。
そう判断し、視線を気にせず宿の、今は食堂の、主人の元へと向かう。
「間引きの依頼で来ました。個室を一部屋お願いします」
僕の言葉に、宿の主人はちらりと此方を、正確には僕の装備を確認し、一つ頷き鍵を渡してくれる。
冒険者を名乗るだけの食い詰め者では無いと見てくれたのだろう。
「個室は1泊銀一枚だ。2階の一番奥の部屋を使いな。夕食は付いてる。今日の分は今此処で食っていくかね? それとも部屋に持って上がるかね?」
宿の主人の言葉に、僕は巾着袋から銀貨を一枚、そして銅貨を数枚取り出してカウンターに置く。
チラと横目で村人達の食べてる皿を見れば、シチューに何らかの肉、更にパンと、珍しくは無いがそれなりに美味しそうな食事である。
主街道から逸れた村の宿は利用客が少なく、本業の片手間でしかない事が多いだけに、食事やベッドにもあまり期待できない事が多い。
けれどこの村では宿が食堂を兼ねているので、食事が美味しそうなのは素直に嬉しかった。
「食事は部屋で。あとはお湯をお願いします」
僕の出したコインを受け取り、宿の主人が湯と食事の用意に取り掛かる。
鍋からシチューがよそわれる良い匂いに、お腹の虫が騒ぎ出す。彼方此方を眺めてみても、掃除もキチンと行き届いていた。
良い宿だと言えるだろう。この分ならベッドの方にも充分に期待が出来そうだ。
依頼の間、数日ではあるが滞在する場所が良質である事に、自然と僕の頬が緩む。
「おい、お前。後からやって来た癖に挨拶も無しとは、どういう了見なんだ?」
けれど面倒で無粋な輩がやって来る。折角関わらないで置こうと思ったのに、向こうから来るとは本当に迷惑だ。
仕方なく其方を振り向けば、僕に文句を言って来ているのは先程の冒険者達の一人の、まだ少女と言って良い年齢の女性だった。
もう一人の女性はケラケラ笑いながら後ろで無責任に煽っており、唯一の男性は必死に絡んで来た女性を止めている。
……ちょっと意外で、珍しいパターンだ。
大体こういう場合に絡んで来るのは、酔って気が大きくなり、連れの女性に自分の力を誇示したがる男性が多いのだけど、少し驚いた。
とはいえ面倒な事には変わりがないので、女性を止めている男性に少しだけ会釈をして宿の主人の方へと向き直る。
「おいお前! 私を無視するな!」
まだ何か言っているが、僕の知った事では無かった。
この手の手合いは相手をすれば相手をしただけ、付け上がって色々と要求をして来たりする。
折角止めようとしてくれている人が居るのだから、彼に任せて置くのが一番良いだろう。
そう思ってたのだけれど、その女性は仲間の男性を振り解き、此方に向かってやって来た。
「おいアンタ。うちの宿で揉め事を起こすなら出てって貰うぞ」
騒ぎになる直前で、宿の主人の言葉が冒険者の女性の暴走を止める。
いや、さっきの言葉は彼女に対してだけでなく、僕に対しての制止でもあったのだろう。
僕はマントの下で固めた拳を解く。
冒険者の揉め事に割って入ろうとする胆力と言い、僕の行動を察した事と言い、この宿の主人は何者なのだろうか。
よく観察して見れば、所作にも一々隙が無い。引退した兵士か、元冒険者あたりかな……。
「なんだと、我々はこの村の依頼で態々やって来た冒険者なんだぞ。何で宿を追い出されなきゃならない」
しかし茹った頭の冒険者の女性は、その制止に今度は宿の主人に矛先を変えて絡み出す。
息が少し酒臭い。顔色は普通なのに、若しかしたら随分酔ってるかも知れない。
「関係ないな。うちの宿はちゃんとした客なら泊めるが、暴れる無法者に貸す部屋は無い。仲間の二人も、コイツを止めれないなら一緒に出て行け」
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