少年と白蛇

らる鳥

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 秀でた実力者は、他人の実力を測るのも上手い。
 トーゾーさんやパラクスさんは、間違いなく秀でた実力者で、彼等からのお誘いされる案件は僕にとって厳しくても、無理や無茶では無い程度の物だ。
 でも今回のお誘いは、些か、いや大分僕の許容範囲を超えているように思えた。
「もう一回聞きますけど、デススパイダーですよね?」
 念の為にもう一度問うてみるが、トーゾーさんもパラクスさんも、やはり首を縦に振る。
 その名前の重さに、思わず溜息が漏れた。
 デススパイダーとは、その名の通りに蜘蛛の魔物、魔蟲の一種。
 ランクは通常のサイズの物で6、この前遭遇したミノタウロスと同じで中位の最上にあたる。
 急成長した巨大変異種の場合は上位に食い込むランク7になるそうだ。
 トーゾーさんやパラクスさんなら相手をしても可笑しくない魔物なのかも知れないが、討伐に僕が混ざるには大物過ぎた。
「魔の森から出て来たデススパイダーが、とある森に巣食ったのは確実なんだ。魔の森に入らずにデススパイダーを狩れる機会なんて滅多にない」
 パラクスさんが取り出した紙に大きな円を描き、其処から矢印を引っ張って、その先に小さな円を描いた。
 魔の森とは魔物の住処の森である。
 このライサのある南西部地域で一番危険な場所は北ライサ山であるが、この国で一番危険な場所となるのがその魔の森だ。
 以前僕が出会ったキラータイガー等もそうであるが、この国で出会う場所に見合わぬ高ランクの魔物は、大体がその魔の森で生存競争に敗れて落ち延びて来た魔物だと言われていた。
 そもそもこのミステン公国の成り立ち自体にも、この魔の森は大きく関わりを持つ。 
 ミステン公国は昔、アイアス公国、シルバル公国と一つの国を成していた。
 結局その国は王家の正統が絶えた際に、3つの公家の争いによって3つの公国に分かれたのだが、その一つミステン公家は魔の森を抑える武の家として現在のこの公国が存在する地域に領を構えていたのだ。
 だから魔の森とミステン公国の公都は意外な程に距離が近い。森と公都の間には城壁やら砦やらがこれでもかって位に一杯あるけれど。 
「でも私達、特にトーゾーがデススパイダーとは相性が悪い。二人だけなら蜘蛛の罠を避けれない。そこで、森歩きに慣れた優秀な弓手がどうしても欲しいんだ」
 パラクスさんの言葉に、トーゾーさんが頷いた。
 確かにトーゾーさんは糸で罠を張って待ち構える魔蟲との相性は最悪だろう。
 基本的にパラクスさんとトーゾーさんのペアは対人間、或いは人型である妖魔との戦いに真価を発揮するのだから。
「ユー殿が未だ下級なのは、最近急成長した故にギルドの評価が追い付いておらんから、そして年齢的に実力が低く見積もられがちであるからに過ぎんよ。実力は充分にある」
 トーゾーさんの言葉に、今度はパラクスさんが頷く。
 ズルいと思った。二人が僕を買ってくれている事が、この上なく嬉しかったから。
 そもそも沢山の恩がある二人の誘いを、好んで断りたい訳じゃ無いのだ。
 ただ僕が期待される役割に足りなかった場合が怖いだけ。だから僕は参加に際して一つの条件を願い出る事にする。
「わかりました。じゃあ、カリッサさんも誘ってください。デススパイダーの毒や糸に対してあの人の力が必要だと思います」
 デススパイダーの毒は周りが早く、薬での解毒では間に合わなかったり、後を引く可能性が高いので、神聖魔法での解毒があると有り難かった。
 前衛としてもトーゾーさんだけでなくカリッサさんが居れば、多少の拘束ならお互いに糸を切ってのフォローが可能だ。
 そして何より困難な戦いに望むなら、信頼出来る彼女の存在は何よりも心強い。
 僕の言葉に、パラクスさんが頷き、トーゾーさんは笑みを浮かべる。
「では以前と同じチームの結成と言う事で、よろしく頼む。ユー殿」
 あれ、カリッサさんは僕が誘うの?
 僕がカリッサさんを誘おうと提案する所までも最初から見透かされてた様で、なんだか少し腹が立った。


 目的の森はこの町から数日北に行った場所にある村を拠点に、攻略するらしい。
 この辺りからはミステン公国の中でも北部にあたる地域だ。
 ミステン公国はおおよそ3つの地域に分類が出来、公都のある北部、ライサの町がある南西部、そしてオリガの町がある南東部。
 中でも北部地域は最も強い魔物が出現する地域となる。そしてその象徴たるのが魔の森なのだ。
 つまり目的の森も、何時も僕が出入りしている森とは段違いに危険な場所である事が予想された。
 とは言えトーゾーさんにパラクスさん、そしてカリッサさんと戦力は充分に揃っている。
 後は僕が皆を連れて森を踏破し、デススパイダーを発見出来るかどうか。
 ちなみにカリッサさんは誘ったら内容も聞かずにOKを出してくれた。
 信頼されてるのは嬉しいけれど、他の人にもそうだったら騙されないかと色々と心配になるので、もう少しちゃんと考えて欲しいなとは思う。
 そう言えばトーゾーさん達が何故デススパイダーの討伐を望むのかと言えば、もうすぐ完成する予定のドワーフが造る刀の為に、柄に巻く糸が欲しいのだそうだ。
 滑らず、切れず、丈夫なデススパイダーの糸が。
 デススパイダーの糸は素材として極上だそうなので、手に入ったなら僕も手袋とかを作りたい。
 何にせよ今回も気心の知れた人達との旅なので、気兼ねなくヨルムと食事を一緒に取れるし、上手く楽しめたら良いな。
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