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しおりを挟む恐らく尾行している人達は、人通りの少ない場所に出たら僕を取り囲む心算だったのだろう。
でも逆に僕が中央通りへとやって来た事で、彼等の気配に動揺が走った。
彼等の反応は遅くて鈍い。追跡を諦めるならもっと早く、或いは取り囲む場合でも、チャンスは何度かあっただろうに。
この中央通りは日が暮れても暫くは仕事を終えた人達で人通りが途絶えない場所である。
此処でなら大丈夫。人目があればお互いに武器を抜く可能性は低くなるだろう。
「3人とも、ついて来てるのは知ってます。御用があるならそろそろ伺いますよ」
僕は後ろを振り返り、逆に彼等に向かって歩み寄ると、追跡者達に声をかけた。
覚悟を決めたらしく僕を取り囲む3人の事は、顔だけは知っていた。
ギルドで何度か見かけた冒険者だ。勿論興味は無いから名前は知らないけど。
しかし本当に何の用だろう。
確かに討伐をしないで雑用依頼ばかりをしていた頃は、揶揄い半分に絡まれた事もある。
でもそんな輩も態々尾行してまで絡んで来る程、暇な人は居なかった。
それに数で勝るとはいえ、ランクが上の相手に絡むって、結構勇気が必要なんじゃないだろうか。
或いは僕に中級の実力なんて無いと考えてるのかも知れない。
「そ、そんな態度を取ってて良いのか。知ってるぞ! お前が取り入ってる『人斬り』は今この町に居ないだろ!」
その言葉に、僕は頷く。
うん、確かにトーゾーさんは居ない。ドワーフの国に念願の刀を取りに行ってるからだ。
取り入ってるかどうかは兎も角、彼等が僕に実力が無いと考えてるのは良くわかった。
別に今トーゾーさんが居ないからって、後でこんな事があったよって言えば同じなんだけど、この人達は其れには考えが及ばないんだろうか?
勿論そんな血生臭い結末になるのがわかって、敢えてトーゾーさんに言ったりはしないけど。
「トーゾーさんに御用ですか? ドワーフの国に行ってるので帰りは暫く後ですが、でも決闘を挑むとかならやめた方が良いですよ。新しい刀を持って帰って来るから、嬉々として試し切りされます」
でも彼等も一応トーゾーさんは怖い様子だったので、脅しをかけてみた。
怖れて諦めてくれるなら僕も楽が出来て嬉しい。出来れば用件だけは聞いて置きたい気もするけれど。
「違う! アイツじゃ、……あの人じゃない。お前だユーディッド! お前は嫌がらせをしてリズィちゃんが受付に出なくなったんだろうが!」
言い直す眼前の冒険者の様子に、僕は頑張って笑いを噛み殺す。
その怯え方は一寸卑怯だ。でも此処で僕が笑えば、馬鹿にされたと思った相手は激高しかねない。
いや別に最悪それでも構わないが、折角事情を話し始めてくれそうな気配なので此処は我慢の一手である。
しかしそれにしても困るのは、
「えっと、リズィさんって、どなたでしょう?」
僕にそのリズィさんとやらの心当たりがない事だった。
……うん、成る程。納得した。
割と親切にリズィさんの説明をしてくれた3人組に、僕は頷き礼を言う。
3人組の説明は詳細でプロフィールや好きな食べ物にまで及んでたけど、要するにリズィと言うのはギルドの新人受付嬢の事だった。
僕とカリッサさんに嫌がらせで依頼を受けさせまいと頑張っていたあの女性である。
彼等はどうやら、あのリズィって名の受付嬢のファンらしい。
ちゃんと話し合う態度を見せてくれているので、一応あの時あった事は説明したのだが、人は自分の信じたい物を信じる生き物だ。
そしてこの場合、彼等の信じたい物とは件の受付嬢、リズィちゃんであった。
「お前がランクに見合わない依頼を受けようとしたのが悪いんだろう」
「リズィちゃんは俺達みたいな冒険者に頑張って欲しくて、依頼を取られないようにしようとしてくれたんだ」
「お前等は非を認めてくれれば、リズィちゃんも受付に復帰出来るんだよ」
と言うのが彼等の言い分である。
何というか、彼等もお人好しなんだろうなって思う。
多分泣き言をちらっとこぼされて、義憤に燃え上がったんじゃないだろうか。
話を聞く限りではお願いされた訳じゃ無く、どうやら自主的に動いてる様なのだ。
「えっと、確かにあの人は懇意の冒険者に引き受けて貰うからって、僕に依頼書を返してくれませんでしたが」
少し言い淀む僕に、我が意を得たりとばかりに頷く3人。
まあ問題は、彼等がどんなに信じたくても件の受付嬢の行動が穴だらけな事なのだが。
そもそもどんな目的があったとしても、依頼書を取り上げる時点でおかしいのだし。
「その依頼アタックボアの群れの討伐で12頭居たんですよね。報酬は村が貧乏なので銀貨2枚。……えっと、懇意の冒険者の方だと思うんですけど、受けました?」
僕の言葉に、途端に3人は黙り込んだ。
多分彼等があの依頼を受けてたら、例え達成できたとしても一人か二人は大怪我を負うか、或いは命に関わる事態になってただろう。
其れは彼等も充分に承知している様だった。
必死に何か言葉を探している様子なのは、リズィちゃんとやらを擁護する言葉を探しているのだろう。
でも彼等もわかってる筈だ。あの依頼は放置されたに違いないと。そして放置された分だけ、依頼を出した村が困る事になっただろうとも。
僕は彼等の事はそんなに嫌いになれそうにない。勿論そのリ……、受付嬢の事は嫌いだけど。
うん、そろそろ新人受付嬢の名前が頭から消えそうだ。余りに興味が無さ過ぎる。
取り敢えず返答が無いので、もう少し畳みかけてみるとしようか。
「ギルドも受ける人は居ないとの判断でした。それに此れまでも似た苦情が幾つもあって、僕の件は切っ掛けに過ぎないそうなので、例え非を認めてもギルドからの処分は変わらないかと」
そう告げると、3人組のうち2人はガクリと項垂れた。
けれど最後の1人は、寧ろその言葉に敵意を燃やした様で、叫ぶ。
「いや、待て。コイツはギルドや実力者に取り入ってランクを上げた嘘つき野郎だってリズィちゃんは言っていた。騙されるな!」
仲間の叫びに、2人は戸惑ったように顔を上げた。
僕の話の整合性と、新人受付嬢の継ぎ接ぎの話と、どちらを信じて良いのか迷っているのだろう。
でも、よし、良い感じの台詞が出て来た。
此れで漸く拗れた話を、腕力で穏便に解決出来る。
「わかりました。じゃあ僕に中級相当の実力があれば嘘じゃないって事になりますよね。ギルドの訓練場はまだ空いてる筈です。じゃあ、行きましょうか」
訓練場での結末は、まあ順当な物だった。
派手な血は流れなかったし、多分遺恨も残らないだろう。
彼等から今回の件が他の冒険者にも伝われば、事態も落ち着くかも知れない。
一応訓練場とは言えギルド内で派手目にやったので、職員に事情は問われたので説明はしておいた。
3人組にも事情は聞くとの事だったけど、彼等は自主的に動いただけだろうし、ギルドが新人受付嬢に何らかの処分を下すのは難しいと思う。
まあもう少し、何かあるのは覚悟しておくのが無難かな。
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