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しおりを挟むトーゾーさんは準決勝まで、然したる苦戦も無く勝って来た。
と言うよりも大体の試合はほぼ一瞬で斬って終わりな為、強さを見せつけつつも実力は隠している状態だ。
それでも闘技会の観客達、トルネアスの民衆は皆、五将が1人であるトルネアスの大盾の勝利を信じて疑ってないだろう。
彼等の気持ちは良くわかる。五将の実力は間違いなく高い。
弓姫であるフィオさんと接し、羅将とカリッサさんの戦いを見て、其れはとても良くわかった。
でもだからこそ断言できる。勝利するのはトーゾーさんだと。
トルネアスの民衆が五将を信じるのと同じ様に、あるいはそれ以上に、僕と仲間達はトーゾーさんの力を信じている。
パラクスさんは良くわからないけど、僕もカリッサさんも、自分達を対象にした賭博には手を出していないが、トーゾーさんの優勝にはそれなりに大きな金額を賭けていた。
それ位に、僕等にとってのトーゾーさんは強さの象徴だ。直ぐに人を斬ろうとする物騒な人でもあるけれど。
ちなみに武器部門の賭博の倍率は物凄い。
闘技会で一番華のある部門である事と、五将が2人参加してるから一強状態では無いので、かなりの人が剣聖かトルネアスの大盾に賭けている。
他の部門なら弓姫と羅将の一強状態なので、手堅過ぎて倍率が付かないのだ。
だから武器部門に参加していて、この国では無名のトーゾーさんが優勝した時の倍率は、少し恐ろしい事になって居た。
舞台に上がるトーゾーさんは、どこか楽しそうに見える。
対するトルネアスの大盾は、油断はしてい無い様だけど、でもその意識がトーゾーさんに集中してるとは言い難い。
弓姫のフィオさんも羅将もそうだったけど、彼等は対戦相手と対峙しながらも、観衆の視線、トルネアスの民の目を非常に気にしてた。
彼等五将にとってこの大会は、民に息抜きの娯楽を提供し、尚且つ己たちの武威を国威として示威する場なのだ。
大会が盛り上がる様に、相手の力を引き出して、その上で自分達の実力で塗り潰す。五将の戦い方は大体がそんな感じだった。
そしてトルネアスの大盾にとって、一番の関心事はやはり次の試合でぶつかる剣聖なのだろう。
本来なら此れは、トーゾーさんにとって面白く無い出来事の筈である。何せ対戦相手がちゃんと自分を見て居ないのだ。
なのにトーゾーさんは楽しそうな表情のままである。まるで悪戯を目論む悪ガキの様な……。
ふと思い出したが、トーゾーさんは昨日僕に対して、『部門は違うとはいえ同じ五将に、多少の意趣返しはして進ぜよう』って言っていた。
多分トーゾーさんは何かをする心算なのだ。意趣返しとなる様な、自分だけを見てない対戦相手に、多分開始直後に其れは起きる。
開始の合図が告げられる前、トーゾーさんは2度、3度、大きく深呼吸をした。
トーゾーさんがどんな人なのかを知らずに見てれば、それは有名人にして巨大な実力者を前にした緊張を解そうとしている行為に見えたのかも知れない。
けれど違う。僕は知ってる。トーゾーさんはそんな繊細な神経をしてる人では無いのだ。
あの仕草には覚えがあった。デススパイダーとの戦いの時に一度だけ見せてくれた、己の肉体の能力を上げる術。
飲食物から得られる水穀の精と、呼吸で得られる気を胸で混ぜ合わせ、身体を動かす力を生み出す。
その力を全身に流す事を、確か気血を巡らすって言ってたっけ。教えられた言葉の意味は解らなかったが、僕がもう少し腕を上げたら身体に教えてくれるらしい。
身体で覚えれば頭は要らないからわからなくても大丈夫なんだそうだ。
開始の合図と共に、トーゾーさんの姿が消える。
次の瞬間、カチンと刃を鞘に納める音を、僕は確かに聞いた気がした。
そう、つまりはもう決着だ。
そしてトルネアスの大盾の両膝の裏から、大量の血が噴出して、彼は石舞台の上に崩れ落ちる。
重厚な鎧を身に纏っても、全身の防御力が等しく上昇する訳じゃ無い。
肘の内側、脇の下、膝の裏側等の関節の内まで固めてしまえば、腕も肩も足も動かない人形になってしまうから、どんなに頑強な鎧も無敵では無いのだ。
だが実際にそんな小さく狭い部分を狙うのはとても難易度が高い事である。
ましてや相手はこの国で五将の1人に数えられる実力者で、尚且つ巨大な盾も持っていた。
あ、盾が邪魔だったから、後ろから膝裏を斬ったのか。
どちらにせよとんでもない離れ業には違いない。
観客も、審判の係員も目の前の現実が受け入れられずに静まり返っている。
トーゾーさんは、少しだけ気怠そうな顔をしながら動けないトルネアスの大盾に近づいて、何かを問う。
多分降伏するかを聞いたのだ。
しかし自分の置かれた現実を受け入れられて居ないトルネアスの大盾はもがきながら何とか立ち上がろうとして、次は両肘が寸断された。
観客達から悲鳴が上がる。大慌てで審判が、試合終了を叫ぶ。
トーゾーさんは舞台の上から、大混乱の観客席を見まわして何かを探す。
勿論探していたのは剣聖だった。目的の人物の姿を見付けたトーゾーさんは、其方の方に刀の切っ先を向けてから、悠々と僕等の席へと退場して来る。
アレは、きっと、お前はちゃんと自分を見て戦えって言う、トーゾーさんからのメッセージだ。
何と言うか本当に、トーゾーさんの振る舞いはまるで悪役の様であるが、それが妙にしっくりと似合っているのが、もう何とも言い難い。
でもそれが格好良いと僕は思う。
だって言った通りにちゃんと、手痛い意趣返しを行ってくれたし、こんな大舞台でもトーゾーさんは自分の流儀を腕一本で押し通した。
一日でトーゾーさんはこのトルネアス国で最大の悪役になったけど、僕にとっては変わらず憧れる英雄だ。
後で嫌って程に賛辞を送ろう。でもお酒は飲ませない。
明日の決勝だって、絶対に勝って貰わないと嫌だもの。
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