少年と白蛇

らる鳥

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「しょ、少年君、ちょっとそろそろきついです……」
 教えた振り方をひたすら繰り返し、姿勢が少しでもずれればその都度矯正していく。
 当たり前の話だけど、1日教えた位で魔術師のアーチェットさんがいきなり剣を振れるようにはならない。
 僕が教えてるのは、時間があれば1人でも練習を行える様にと基礎の振り方のみ。
 此れを身体に染み込ませ、何日も1人で練習をして貰って、時折歪みが無いかをチェックする。
 そして次の段階に進めると判断したら、また次を教えるのだ。
 アーチェットさんの弱音に、僕は優しく笑みを浮かべた。
「限界が近そうですね。じゃあ後10本、丁寧に振って下さい。ずれたら10本追加なので、ゆっくりで良いから確実に」
 とても優しい指導だと思うけど、告げられたアーチェットさんの表情は悲痛に歪む。
 アーチェットさんは雑用依頼で駆け回っていただけあって基礎体力はあるのだけど、武器を振る筋肉が出来ていない。
 慣れない動作の繰り返しは、辛いのが当然だ。
 でも辛いだけだと嫌になるので、休憩を入れた後は少し遊ぶ感じで打ち込んで貰おう。
 10本を終えたアーチェットさんにOKを出すと、彼女はべったり地面にへたり込む。
 胸元から顔を出したヨルムが、心配そうにアーチェットさんを見てる。
 僕はそんなヨルムの喉を撫でながら、荷物から水筒を取り出した。
 水筒を差し出すと、受け取ったアーチェットさんは水を口に含み、喉を湿らす。

 他の訓練場の使用者達からのアーチェットさんを見る目は暖かい。
 都市中が酒漬けになった翌日だけあって、訓練場の使用者の数は少ないのだが、そんな中で敢えて身体を動かしに来ているのは勤勉な人ばかりだ。
 多分闘技会を見て刺激を受けた人達なのだろう。
 訓練の内容は其れなりにレベルが高かった。
 そんな中でまるっきりの初心者であるアーチェットさんの姿はかなり目立つのだが、真面目に頑張ろうとしてる彼女を馬鹿にする人は居ない。
 逆に軽く声援を飛ばして来る人はいたけれど。
 良い雰囲気の訓練場である。
 今いる人達はちゃんと武を重んじる人達ばかりなのだろう。
 アーチェットさんがへたり込んでる間に、話しかけて来る人達が何人か居たので少しお喋りに興じる。
 弓を扱う事への助言を求められたり、普段の練習の話や、仕留めた獲物の話等。
 中には僕等のチームには如何すれば参加出来るのかを聞いてきた人も居たけれど、他国の冒険者であると話せば素直に引き下がってくれた。
 そうこうしてると、アーチェットさんが起き上がって来たので、頭を下げると周りも頷き散って行く。
「アーチェットさん大丈夫です? 基礎の振り方はさっきの通りだから、時々練習して下さい。でもそればっかりだとつまらないと思うし、今日は後は軽く打ち合いして遊びましょう」
 
 アーチェットさんの打ち込みを、軽く受け流して打ち込み返す。
 何とか身体を捻って回避するアーチェットさんだけど、大きく体勢は崩れてる。
 でも追撃はしない。本人も今のが大きな隙である事はわかってるから。
 だったら一々咎めずに、打ち合いと止めずに続ける方がお互い楽しい。
 スモールソードは軽いが丈夫なので、斬る事も出来る。けれど最も威力を発揮するのは刺突時だ。
 如何に刺突を繰り出せる流れに持って行けるかを意識して貰い、またそう動けるように僕も誘導していく。
 割合にアーチェットさんは器用なタイプなようだった。
 指摘に納得して理解した事は、確実にちゃんと修正出来てる。
 身体が付いて行かないのは仕方無いにしても、繰り返しを怠らなければ多少身を守れる程度の技は充分に身に着く筈。
 彼女の本分は魔術なのだから、今の所はそれで充分だ。
 アーチェットさんの刺突を胸で受け、お互いに礼をして打ち合いを終えた。
 疲労の色は濃いけれど、楽しそうな充実感のある顔をしてるので成功で良いだろう。
 後は基本的には自分で素振りをして貰い、時折チェックと打ち合いの相手をする感じになる。
 ミステン公国に帰ったら、ルリスさんとクーリさんを紹介する心算だし、見ててあげれる期間もきっとそんなに長くは無い。
 エルロー薬店やパオム商会、アーチェットさんの力を借りたいと思う人はライサの町には多く居る。
 新しい環境も気に入ってくれる事を、切に願う。
 まあ駄目なら駄目で、別の何かは勿論考えるけれども。
 一度抱え込んだ以上、途中で投げ出す事はしたくない。
 剣を教える事もそうだけど、教えるなら上手くなって欲しいし、役立てても欲しいのだ。

 打ち合いを終えると、さっき話していた人達がまたやって来る。
 何でも一度、弓を売って見せて欲しいと彼等は言う。
 的に射る事位は何でもないけど、改まって言われると少し恥ずかしい。
 弓を手に取り、意識を集中する。
 別に知らない人たちの視線はあまり気にならないけど、何だかアーチェットさんが妙に期待した目で僕を見てるし、ミスったら恥ずかしいな。
 魔術師である彼女に弓は必要な技術じゃ無い筈だけど、でもとても熱心に見て貰えてるから、何だか少しくすぐったい。
 少し張り切って射った矢は、狙い違わず的の真ん中を貫いた。
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