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しおりを挟む割と当たり前の事だけど、単独では手に負えない仕事をこなす為に応援を呼んだ時、応援が来たからと全てを任せて押し付けてしまうような人間は信用を無くす。
此れはもっと話を大きく、国規模にしても同様だ。
ミステンを救う為に他国からの援軍が来たからって、全てを任せてしまう訳には当然いかない。
死者を兵とする外道に手を出したアイアスは、近隣諸国全てにとって敵となったが、それでもミステンには前に立って戦う責任がある。
勿論全ての戦場で先頭に立つなんて事は現実的じゃないけれど、出来る限りを行おうとする姿勢を見せる必要はあった。
……例えば物見働き等を進んで派遣する等の。
斥候が必要とされるのなら、僕は当然の様に駆り出される。
まあ得意分野だし仕方ない。
通常の戦でも敵軍の動きや規模を知る事は非常に大事だが、今回は情報の重要度が更に高い。
何故なら相手の位置を特定して昼間に強襲出来るか否かが、そのまま勝敗を決定するからだ。
今現在、ミステン軍と各国の援軍の一部は、アイアス側の町であるアーグニヤに入ってる。
アーグニヤの町には、アンデッドもアイアスの兵も、そして一般市民も人っ子一人存在しなかった。
罠の類は確認する限り発見されなかったが、されど敵地の町故に抜け道や城壁の弱点等は疑い出せばキリが無い。
何より無人の町はとても不気味だ。住民達の末路も皆が理解している。
仮にあの町に籠った状態でアンデッドに攻められれば、恐らく苦戦は免れないだろう。
いや、きっとあんな状態になった町はアーグニヤだけじゃない筈だ。
この先の、アイアス国内の町の全てが、アーグニヤと同様の状態である可能性は非常に高かい。
故に敵軍把握は今最優先の急務だった。
そしてもう一つ、アンデッド軍以外にも僕等斥候が見付けなきゃいけない存在がある。
其れはアンデッド以外の敵の存在だ。
オリガを防衛していた時、幾人もの工作員が町へと侵入して来た。
彼等は恐らく、元はアイアスが抱えた諜報員や、或いはアイアス国内の盗賊ギルドの人間だろう。
術による洗脳と薬等の二重の手段で縛られて、アンデッド以上に人間らしさの無い、まるで人形染みた相手にされていたけど、それでも彼等は生きた人間である。
ならば当然食料やその他の物資が必要の筈で、生身の人間である以上、アンデッド軍に混じって行動してた訳でも無い。
別に活動拠点や、指示を下す側の人間は存在すると思われた。
今現在、ミステンと同盟はアンデッド軍を打倒する為の戦術を取っている。
具体的には夜の交戦を徹底して避け、昼間にアンデッドの籠る拠点を強襲する作戦だ。
しかし此処で敵側に、纏まった数の生きた人間の戦力があったなら、其れは厄介な障害となりかねない。
故に僕達斥候は其のアンデッド以外の敵の存在、或いは痕跡を見付け、規模と動きを掴む必要があった。
焚火で炙っていた、串に刺した肉を回収して、一口齧る。
焼けて熱を持った肉汁が口の中で暴れるが、その感触も心地良い。塩加減も良好だ。
そして胸元から出て来たヨルムに与える為に、もう一口を齧り取る。
「ヨルム、ん」
口元に咥えた肉を、ヨルムが浚う。
久しぶりの野外活動は少し楽しい。此処最近は町に籠っての防衛戦がずっと続いてたから、気分が少し鬱屈としてた。
モグモグと、再び齧り付いた肉を咀嚼しながら、僕は懐から地図を取り出す。
この周囲は敵を発見できず、異常も無し。
ヨルムの目まで借りて見て回ったのだから、探査結果には自信があった。
僕は地図を仕舞い、代わりに発煙剤の入った小袋を取り出すと、そのまま焚火に投げ込んだ。
小袋が燃え尽きて中身に火が移ると大量の煙が発生するので、僕はその場から避難する。
白い煙がモクモクと天へと昇って行く。
勿論単に煙を出して遊んでる訳じゃ無くて、此れは狼煙だった。
一本だけの白煙は、後方に居るサポートチームに『この地点は敵も異常も発見出来ず。次の地点の探索に移る』と知らせる為の合図だ。
でも本当に異常が無いかと言えるかは、少しばかり微妙だ。
この地点だけの話では無いのだが、僕はアイアス国内に入ってから一度も魔物に遭遇してない。
大多数で行動しているなら兎も角、今の僕はヨルムは一緒に居るが一応単独行動で、尚且つ草原や森にも侵入した。
アイアスはミステンに比べて魔物の数が少ない事は知ってるけれど、それでも気配すら感じないのはおかしいと思う。
「そういえば鳥も獣もみないしね」
僕は肉の最後の一切れを、ヨルムの口に押し込む。
ヨルムのごくりと喉が動き、食塊が流れて行くのを見やって、僕は座り込んでた腰を上げた。
そう魔物以外の鳥や獣も見かけない。
狩りをすれば食糧の足しになるかとも思っていたが、アテが外れた形になる。
もしかして逃げたのだろうか。
鳥も、獣も、魔物さえもが、アイアス国内に居る何かを恐れて。
とても馬鹿げてるけど、あり得ない話じゃない。
そもそも今の現状、アイアスの国民達がアンデッドと化して周辺国に攻め込んだって状況が、本来ならば既にあり得ない話なのだから。
死者をアンデッドと化す術は、本来ならば数十、多くても数百に行使するのが精々なんだそうだ。
もし今回のアンデッド軍を全て術で生み出したのなら、今のアイアスには邪教の神官が数百人規模で存在する事になる。
あらゆる国で教えを禁止され、発見されれば刃を持って追われる存在である邪教徒の、それも神官がそんなに大勢存在し得る訳がない。
だったら誰ならその存在し得ない大勢の邪神官の代わりが出来るのかなんて、答えは一つしかなかった。
あまり考えても仕方のない事だろう。
大量の捧げ物をした信者の祈りに神が応えたなんて話は、まあ途轍もなく珍しくとも、無くはないのだ。
でもその神が力を振った後もそのまま其処に居座ったなんて事は聞いた事がない。
もし仮に、万に一つ、そのあり得ない聞いた事も無い事態が起きてしまったら、でもそれはもう唯人に何かが出来る規模の話じゃないのだし。
その時はきっと御伽噺の勇者か、この前見た様な大いなるドラゴンか、それこそ神様たちの出番だろう。
森を越え、草原を越え、小高い岩山を登る。
見晴らしの良いこの場所から見下ろせば、アイアス公国第二の町マルファが遠目に一望出来た。
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