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第三章『年を経た友』
30 決戦、魔術協会
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七つの月の世界への二度目の召喚から、もうすぐ一年半になる。
今日は、此の世界の未来を決める重要な日になるだろう。
この一年半で僕とアニーが集めた魔術師の数はおよそ八十人。
ある者は窮地を救い、ある者は理を説いて、少しずつ協力者を集めて来た。
此れだけの数の人間が集まれば、魔術協会から隠れ潜み続ける事もそろそろ難しい。
今までとは逆に自分達の存在を主張し、魔術協会への抑止となる時が来たと、僕等は遂に判断を下す。
アニーと八十人の魔術師達は、今日、魔術党の結成を表明する。
そして同時に、今の魔術協会はその理念を失い暴走していると非難の宣言も行う。
元々魔術協会は、国の管理、支配を嫌った魔術師達が互いを助け合う為に生まれた物だ。
決して魔術師以外の人間を支配する為に在る物じゃなく、ましてや戦いに反対する魔術師を抹殺する為の組織何かでは絶対に無い。
彼等はそう訴えかける心算だった。
其の宣言にどれだけの効果があるのかは、果たして謎である。
だが元々の魔術協会を知る者や、続く戦いに疲れ果てた者の心には、きっと何かしらの影響を与えるだろう。
けれどだからこそ、其の宣言を存在ごと潰す為、魔術協会は今日、結成される魔術党への大規模攻撃を行う事は確実だった。
当然魔術党側とてむざむざと潰される心算は毛頭ない。
迎え撃つ準備は既に整っている。
勿論、僕とその仲間もだ。
「来た」
魔術党の拠点周囲に膨れ上がる魔力反応の全てに、僕は探査を走らせた。
全方面から押し寄せる敵の全てを僕と仲間だけで食い止める事は不可能だし、その必要もないだろう。
この拠点に籠る魔術師達は皆、戦う意思を決めた力有る者達だ。
しかし其れでも出来る限りの犠牲は減らしたいと思うから、厄介な敵は僕等で引き受ける。
「正面の天使の群れは多分僕対策だよね。僕が相手するよ。ベラは南に、中位の悪魔が一体いるから其れを潰して。ピスカはアニーとレニスの所へ。彼女達を守って」
指示に従って散る二人を見て、僕の覚悟も決まった。
僕は霊子と魔素を操作して、闇をその手に集め出す。
相手は決して雑魚じゃ無い。
天使の攻撃は僕に通じるのだ。正直怖いし、痛い思いもするだろう。
でも其れでも、最終的には僕が勝つ。
そう心に決めて、決戦の火蓋を切って落とした。
先制の遠距離魔法攻撃に、巻き込めたのはたったの三体。
十数体居る天使達は、その大半が魔法に素早く反応し、散開して其れを避ける。
けれども巻き込まれた三体の運命は悲惨だった。
直撃せずとも、掠めた部分から彼、または彼女達の身体は黒く染まり、シュウシュウと音を立てながら爛れて溶け落ちて行く。
それからほんの僅かな時間で、三体の天使は大地の黒い染みと化す。
「なんたる邪悪で」「強大な悪魔」「必ず我等が滅さねば」
一際大きな力を持つ三体の天使が慄く様に、震えながら、しかし怒りを込めて、そう言った。
まあ邪悪と言われても仕方ないだろう。
僕自身も、自分の放った魔法の効果ながらドン引きしたのだから。
だが其れでも退く気が無いのなら、目の前の天使の全てを同じ目に合わせるより他に無い。
先程喋った三体の天使の手に、光、炎、雷が宿り、残る天使の全てが一斉に僕に向かって襲い掛かって来る。
そして完成した三種の攻撃魔法、光、炎、雷が槍となり、僕目掛けて放たれた。
実に嫌な展開だ。
全員が光の槍でも放ってくれれば、闇の盾の一枚でも張って防ぐ事が出来るのに、全て属性が違うので、一度に防ぐには大きな魔法を使うしかない。
しかし其れを行ってしまえば、今僕に向かって来る天使達、恐らくは下位の天使達に取り付かれてしまう。
下位天使達の悲壮な表情と力の集まり具合から見て、彼等の役割は僕に取り付いての自爆であった。
後ろの三体、中位の天使達は指揮官で、下位の天使は中位の天使に逆らえないのだと思われる。
僕は覚悟を決めて両腕に力を集中させ、飛んで来る三本の槍、光を右手で叩き落とし、炎を左手で殴り潰し、最後の雷を両腕をクロスさせて受け止めた。
痛い! 熱い! ついでに痺れる! っていうかやっぱり痛い!!!
以前に受けた魔力の籠った矢程度とは、痛みの桁が三つは違った。
中位の天使の攻撃でこんなに痛いのだ。例え仮に高位の天使と出会っても、絶対に戦わないようにしようと僕は密かに心に誓う。
けれども、此処に居るのは所詮中位の天使で、僕を滅ぼすには未だ甘い。
痛みをこらえながらも僕はドンと足を踏み鳴らし、襲い来る下位の天使達に向けて、この世界では何故か僕の代名詞になってるらしい重力魔法をフルパワーで発動させる。
僕に取り付く処か、僕に近づく事さえ出来ずに地に落ち、動きを封じられる下位天使達。
彼等の立てた作戦は、決して悪い物じゃない。
天使達の戦力で高位悪魔たる僕を滅ぼそうと言うのなら、他に手は無かったとも言える。
下位天使達の自爆を喰らい、弱った僕なら中位天使でも充分に勝てる可能性は高かっただろう。
しかしだ。
足りなかったのは中位天使達の覚悟だった。
本気でこの作戦を成功させる心算なら、三体の中位天使のうち一体は、下位天使と共に自爆に参加すべきである。
もしそうされていたらこんな広範囲の魔法では中位天使を止め切れず、中位天使を止める為に他の魔法を使用すれば下位天使への対処が間に合わず、僕は自爆を喰らっただろう。
だけど中位天使は配下の下位天使のみに自爆を強要し、自らを賭けなかったのだ。
故に彼等はたった一つの勝機を逃し、僕にその存在を滅せられる。
次の魔法で動けぬ下位天使達が全滅し、手駒を失った中位天使達は一体ずつ削られて、最後の一体の中位天使が顔を恐怖に引き攣らせながら黒い染みと化したのは、それから程無くの事だった。
そして魔術協会の送り込んだ最大戦力である天使の群れが、魔術党側の最大戦力である僕に敗北した事で、此の戦いの勝敗は決したと言えよう。
ベラは僕の予想通りに難なく、自分より遥かに悪魔歴の長い中位悪魔の首を狩ったし、ピスカも魔術党の魔術師達を暗殺せんと送り込まれた姿なき影の魔物、シャドウの侵入を見抜いて倒したそうだ。
元妖精のピスカは、元々高かった感知能力が悪魔化してより磨かれている。
並大抵の存在では、彼女の感覚を誤魔化せない。多分僕でもちょっと難しいと思う。
勿論魔術党の面々も、ゴーレムや精霊等、支配下に置いた使い魔を前面に出し、拠点に籠りながら激しく応戦したと聞く。
中でも、魔術党の中では圧倒的に若年者であるレニスも、怯む事無く勇敢に戦って多くの魔物を倒したそうだ。
彼女は戦いの緊張の中でも魔術の制御を失わず、効率的に魔術を使って最後まで息切れせずに戦い抜いた。
熟練揃いの魔術党の魔術師達もレニスの奮戦には勇気付けられたと、戦いの後に彼女を褒め称える。
レニスの成長にはアニーも甚く喜んでいたし、僕だって鼻が高い。
何にせよ決戦は魔術党の勝利に終わり、その存在と共に魔術協会への、今回の襲撃も含めた非難は全世界へと発信された。
この世界に長く続いた戦いを終わらせる為の一歩が、今踏み出されたのだ。
今日は、此の世界の未来を決める重要な日になるだろう。
この一年半で僕とアニーが集めた魔術師の数はおよそ八十人。
ある者は窮地を救い、ある者は理を説いて、少しずつ協力者を集めて来た。
此れだけの数の人間が集まれば、魔術協会から隠れ潜み続ける事もそろそろ難しい。
今までとは逆に自分達の存在を主張し、魔術協会への抑止となる時が来たと、僕等は遂に判断を下す。
アニーと八十人の魔術師達は、今日、魔術党の結成を表明する。
そして同時に、今の魔術協会はその理念を失い暴走していると非難の宣言も行う。
元々魔術協会は、国の管理、支配を嫌った魔術師達が互いを助け合う為に生まれた物だ。
決して魔術師以外の人間を支配する為に在る物じゃなく、ましてや戦いに反対する魔術師を抹殺する為の組織何かでは絶対に無い。
彼等はそう訴えかける心算だった。
其の宣言にどれだけの効果があるのかは、果たして謎である。
だが元々の魔術協会を知る者や、続く戦いに疲れ果てた者の心には、きっと何かしらの影響を与えるだろう。
けれどだからこそ、其の宣言を存在ごと潰す為、魔術協会は今日、結成される魔術党への大規模攻撃を行う事は確実だった。
当然魔術党側とてむざむざと潰される心算は毛頭ない。
迎え撃つ準備は既に整っている。
勿論、僕とその仲間もだ。
「来た」
魔術党の拠点周囲に膨れ上がる魔力反応の全てに、僕は探査を走らせた。
全方面から押し寄せる敵の全てを僕と仲間だけで食い止める事は不可能だし、その必要もないだろう。
この拠点に籠る魔術師達は皆、戦う意思を決めた力有る者達だ。
しかし其れでも出来る限りの犠牲は減らしたいと思うから、厄介な敵は僕等で引き受ける。
「正面の天使の群れは多分僕対策だよね。僕が相手するよ。ベラは南に、中位の悪魔が一体いるから其れを潰して。ピスカはアニーとレニスの所へ。彼女達を守って」
指示に従って散る二人を見て、僕の覚悟も決まった。
僕は霊子と魔素を操作して、闇をその手に集め出す。
相手は決して雑魚じゃ無い。
天使の攻撃は僕に通じるのだ。正直怖いし、痛い思いもするだろう。
でも其れでも、最終的には僕が勝つ。
そう心に決めて、決戦の火蓋を切って落とした。
先制の遠距離魔法攻撃に、巻き込めたのはたったの三体。
十数体居る天使達は、その大半が魔法に素早く反応し、散開して其れを避ける。
けれども巻き込まれた三体の運命は悲惨だった。
直撃せずとも、掠めた部分から彼、または彼女達の身体は黒く染まり、シュウシュウと音を立てながら爛れて溶け落ちて行く。
それからほんの僅かな時間で、三体の天使は大地の黒い染みと化す。
「なんたる邪悪で」「強大な悪魔」「必ず我等が滅さねば」
一際大きな力を持つ三体の天使が慄く様に、震えながら、しかし怒りを込めて、そう言った。
まあ邪悪と言われても仕方ないだろう。
僕自身も、自分の放った魔法の効果ながらドン引きしたのだから。
だが其れでも退く気が無いのなら、目の前の天使の全てを同じ目に合わせるより他に無い。
先程喋った三体の天使の手に、光、炎、雷が宿り、残る天使の全てが一斉に僕に向かって襲い掛かって来る。
そして完成した三種の攻撃魔法、光、炎、雷が槍となり、僕目掛けて放たれた。
実に嫌な展開だ。
全員が光の槍でも放ってくれれば、闇の盾の一枚でも張って防ぐ事が出来るのに、全て属性が違うので、一度に防ぐには大きな魔法を使うしかない。
しかし其れを行ってしまえば、今僕に向かって来る天使達、恐らくは下位の天使達に取り付かれてしまう。
下位天使達の悲壮な表情と力の集まり具合から見て、彼等の役割は僕に取り付いての自爆であった。
後ろの三体、中位の天使達は指揮官で、下位の天使は中位の天使に逆らえないのだと思われる。
僕は覚悟を決めて両腕に力を集中させ、飛んで来る三本の槍、光を右手で叩き落とし、炎を左手で殴り潰し、最後の雷を両腕をクロスさせて受け止めた。
痛い! 熱い! ついでに痺れる! っていうかやっぱり痛い!!!
以前に受けた魔力の籠った矢程度とは、痛みの桁が三つは違った。
中位の天使の攻撃でこんなに痛いのだ。例え仮に高位の天使と出会っても、絶対に戦わないようにしようと僕は密かに心に誓う。
けれども、此処に居るのは所詮中位の天使で、僕を滅ぼすには未だ甘い。
痛みをこらえながらも僕はドンと足を踏み鳴らし、襲い来る下位の天使達に向けて、この世界では何故か僕の代名詞になってるらしい重力魔法をフルパワーで発動させる。
僕に取り付く処か、僕に近づく事さえ出来ずに地に落ち、動きを封じられる下位天使達。
彼等の立てた作戦は、決して悪い物じゃない。
天使達の戦力で高位悪魔たる僕を滅ぼそうと言うのなら、他に手は無かったとも言える。
下位天使達の自爆を喰らい、弱った僕なら中位天使でも充分に勝てる可能性は高かっただろう。
しかしだ。
足りなかったのは中位天使達の覚悟だった。
本気でこの作戦を成功させる心算なら、三体の中位天使のうち一体は、下位天使と共に自爆に参加すべきである。
もしそうされていたらこんな広範囲の魔法では中位天使を止め切れず、中位天使を止める為に他の魔法を使用すれば下位天使への対処が間に合わず、僕は自爆を喰らっただろう。
だけど中位天使は配下の下位天使のみに自爆を強要し、自らを賭けなかったのだ。
故に彼等はたった一つの勝機を逃し、僕にその存在を滅せられる。
次の魔法で動けぬ下位天使達が全滅し、手駒を失った中位天使達は一体ずつ削られて、最後の一体の中位天使が顔を恐怖に引き攣らせながら黒い染みと化したのは、それから程無くの事だった。
そして魔術協会の送り込んだ最大戦力である天使の群れが、魔術党側の最大戦力である僕に敗北した事で、此の戦いの勝敗は決したと言えよう。
ベラは僕の予想通りに難なく、自分より遥かに悪魔歴の長い中位悪魔の首を狩ったし、ピスカも魔術党の魔術師達を暗殺せんと送り込まれた姿なき影の魔物、シャドウの侵入を見抜いて倒したそうだ。
元妖精のピスカは、元々高かった感知能力が悪魔化してより磨かれている。
並大抵の存在では、彼女の感覚を誤魔化せない。多分僕でもちょっと難しいと思う。
勿論魔術党の面々も、ゴーレムや精霊等、支配下に置いた使い魔を前面に出し、拠点に籠りながら激しく応戦したと聞く。
中でも、魔術党の中では圧倒的に若年者であるレニスも、怯む事無く勇敢に戦って多くの魔物を倒したそうだ。
彼女は戦いの緊張の中でも魔術の制御を失わず、効率的に魔術を使って最後まで息切れせずに戦い抜いた。
熟練揃いの魔術党の魔術師達もレニスの奮戦には勇気付けられたと、戦いの後に彼女を褒め称える。
レニスの成長にはアニーも甚く喜んでいたし、僕だって鼻が高い。
何にせよ決戦は魔術党の勝利に終わり、その存在と共に魔術協会への、今回の襲撃も含めた非難は全世界へと発信された。
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