転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第三章『年を経た友』

29 悪魔と魔術師

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 ひゅんひゅんと、矢が次々に撃ち込まれて来る。
 屈んだ男性魔術師とアニーを庇い、前に立ちはだかった僕の喉や顔、胸なんかにブスブスと矢が突き刺さった。
「ちょ、ちょっと、レプト君それ大丈夫なの?!」
 庇われながらも、僕の惨状に気付いたアニーが悲鳴のように問うが、僕は此れでも悪魔だ。
 あ、でもちょっと痛いな、なんだ此れ?
 ああ、鏃が魔力を帯びてるのか。

「うん、鋭化の魔術が掛かってるみたいだから、ホンのちょっと痛いね。でもまぁ、森を歩いてて枝葉でうっかり皮膚を切った位の痛みだよ。で、どうしようか、反撃する?」
 まあ此れ位は何でも無い。
 防いで良いなら防ぐし、其れとも反撃した方が良いなら反撃しよう。
 ただしどちらの場合も僕の脅威を相手に伝える事にはなるだろうから、僕は敢えて何も行動を取らずにアニーの選択を待っている。

「いいえ、大丈夫なら、……大丈夫よね? 目的も達したし逃げましょう」
 まだちょっと不安そうなアニーの言葉に、僕は頷く。
 出来れば笑みを浮かべてやりたいが、矢が刺さっててちょっと引き攣る。
 敵は倒れない僕に戸惑ってるのか、遠くから矢を撃って来るばかりだ。
 だが何時までも倒れなければ、そのうち攻撃魔術に切り替えるだろう。
 逃げるなら今だった。
 僕は屈むアニーと男性魔術師を引っ掴み、魔法で出した門の中へと飛び込む。


 僕がアニーに呼ばれてこの世界にやって来てから二ヶ月程が過ぎた。
 その間に、何者かの襲撃を受けて殺されそうになってる魔術師を十数人助けて、新たに切り開いた秘密の拠点に匿っている。
 流石にその何者か、魔術協会なのは周知であるが、まあ敵も此方の存在と動きに気付き、色々と策を練ってるらしい。
 今の待ち伏せは結構危なかったと思う。
 僕は兎も角、人間のアニーや、男性魔術師は下手な場所に矢を受ければ即死する事だってあり得るのだ。
 矢に鋭化の魔術が掛かってた辺り、敵に魔術師が居たのは確実なので、今回の件で僕の存在が相手に露見した可能性も僅かだがある。
 出来れば、矢の通じないゴーレムとか、アンデッド辺りだと誤解してくれていれば有り難いが、次からは精霊や悪魔への対策がなされてる事も考えて置こう。

 さっきの門魔法は、その秘密の拠点に直接飛ぶために開いた物じゃない。
 助けた男性魔術師が味方になると決断してくれるかどうかは未だわからないし、もしも彼に追跡の魔術が掛けられてたら、折角作った拠点が駄目になるからだ。
 勿論この体中に刺さった矢も同様で、僕は矢を一本一本抜きながら、追跡魔術が掛けられていないかを確認し、燃やす。
 その光景は人間から見ればさぞや異常に見えたのだろう。
「あ、アニー君、彼は一体?」
 助けた男性魔術師の僕を見る目は、少し恐怖が混じってる。

 男性魔術師の問い掛けにアニーは一つ頷き、
「彼はレプト。嘗てアークウィザード・グラモン氏のパートナーだった悪魔で、彼の存命中に知己を得、今は私が契約しています」
 安全をアピールする為か、僕の肩に手を置いた。
 うん、矢も抜いたし、穴も塞がったし、もう見た目は怖くないと思うよ。
「ご存知でしょう。グラモン氏が生前、多くの新魔術を発表して魔術協会に多大な貢献をした事を。彼は其の時の共同研究者で、えぇ、今は私達の希望なんです」
 アニーの言葉に、男性魔術師の僕を見る目が変わる。
 しかしグラモンさんってそんなに有名だったのか……。
 数十年前の人間なのに、今の時代の魔術師からも尊敬を受けてるなんて、流石は僕の師匠だ。

「……悪魔が希望になるとは、皮肉な話だね。いや、魔術師達が助け合う為に設立された協会でさえああなってしまったんだ。人間の方が余程闇が深いのかも知れんな」
 男性魔術師は首を振り、力なく呟く。
 しかし数秒後に顔を上げた彼の目には、力と理知の光が宿っていた。
 そして驚いた事に、男性魔術師は僕に向かって手を差し出す。
「助けてくれて有り難う。高名な重力魔術のレプトに会えて光栄だ。私はグレイ・アース。グラモン氏は、今は亡き我が師と同門でね。君には親近感を感じるよ。どうぞよろしく」
 僕は彼、グレイの言葉に、差し出された手を握る。
 悪魔との握手を躊躇わぬグレイに、僕は彼の評価を上昇させた。

 実際の所、僕とアニーの助け出した魔術師は誰もが骨のある人間だ。
 国に支配を受けていた魔術師を取り込み、肥大化した魔術協会に反対意見を言える度胸があるからこそ追われていたので、其れもある意味当然だけども。
 少しずつだが、優秀な人間が集まっている。
 敵は確かに此方に対応しつつあるが、其れでも反対者を支援するのが高位悪魔だとまでは、まだ想像出来ないだろう。
 僕はフットワークが軽いけど、他の高位悪魔は大体が悪魔王の近辺を固めていて、滅多に召喚には応じない。
 だからもう暫くは敵の裏をかける筈だった。

 でも僕はこの世界の魔術師を決して侮ってはいけないと知っている。
 僕が高位悪魔にまで登れたのは、一つは儂さん、悪魔王グリモルの存在を受け継いだ影響で僕自身の成長が異常に早かった事と、この世界でグラモンさんに悪魔として生きる為の、基礎的な力を付けて貰ったからだ。
 グラモンさんと同格の魔術師が複数いれば、僕の存在に気付けば必ず有効な対策手段を練って来る筈。
 其れまでに出来る限り多くの反対派の魔術師を集め、魔術協会を抑止出来る勢力を築く。
 それだけが、犠牲を出来る限り少なく戦いを止める、唯一の方法である。


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