転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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幕間の章2『派遣と、レプトの仲間達』

33 先輩悪魔の助言

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「成る程、今回の召喚はそんな風に終わったのか」
 悪魔王グラーゼンが口に含んだのは、持ち帰ったばかりの七つの月の世界、大陸北東部のお茶だった。
 僕のお気理入りの銘柄の、一つ上のランクの物である。
 どうやらグラーゼンもお気に召した様で、ピクリと眉を上げた後、口元を緩めて微笑んだ。
「しかし友よ。君は困難を打破する時に、拠点を造って安全を確保し、時間を掛けて解決するのだな。少女を弟子にする所まで、前回と同じだぞ?」
 ……言われてみればそうかも知れなかった。
 多分其れは状況がそうさせたと言うより、僕の癖だ。
 別にそれ自体が悪いって訳では無いが、グラーゼンには其処から僕の全体的な傾向が見えるのだろう。

 例えば戦いの際にも、遠距離で先手を取ったり奇襲が可能な場合以外は、僕は先ず防いだり相手を弱めて、状況的に安全を確保してから攻撃に移る。
 でも僕がそうすると相手にバレていたなら、或いは逆手に取られる事もあるかも知れない。
「弟子に関しては偶然だけどね。そんな傾向はあるかな。あぁ、今回天使と揉めたけど、派遣召喚で鍛えられてた御蔭で何とかなりました。本当にありがとう」
 お礼の意味合いも兼ねて焼き菓子を皿に盛って出し、ついでに僕も一つ摘まむ。
 今の段階では、僕の癖を其処まで見抜いてるのはグラーゼンしか居ない。
 尤も僕もグラーゼンの陣営に関しては、派遣として加わって内情を知ってるのでお互いさまである。

 其れにグラーゼンは、なんと僕が人間だったアニー・ミットに、七つの月の世界に召喚されてから帰って来るまで、この魔界で帰りを待ってた位に僕が好きな様なので、暫くの間は揉める事はないだろう。
 と言うか正直驚いた。
 例えるならば、取引先の大企業の社長が仕事から帰ったら家で待ってたみたいな感じなのだ。
 確かに二年は悪魔が召喚される期間としては短いとは言え、流石にずっと待ってるとは僕も思わない。
 何せグラーゼンは大派閥の長である。
 こなすべき仕事は幾らでもあるだろうし、此処からでも指示は出せなくもないだろうが、ふらふらと自分の魔界を空けっ放しにして良い立場では無いだろう。
 ちょっと彼の考える事は理解しがたいが、兎に角、好かれているのは実感した。
 勿論、真の友は戦いの果てに友情を結ぶべきとか言い出さないとも限らないので、完全に油断はしないけど、少なくとも今の戦力差で戦いを吹っかける事は無いと断言できる。

「ふむ、私も友の役に立てたのなら望外の喜びだ。友よ、彼等が君の新しい仲間か」
 グラーゼンの言葉に、僕も後ろを振り返った。
 けれども、ベラも、ピスカも、そしてアニスも、グラーゼンの持つ気配に圧倒されたのか、身を縮こまらせて平伏している。
 ……彼等は割と怖いもの知らずだと思っていたが、流石に悪魔王グラーゼン程の相手ともなれば気圧されるのかと、少し可笑しく思ってしまう。
「そうだよ。ベラにピスカ、アニスって名前。ごめんね、なんだか皆、君に緊張してるみたいで。僕も最初はこんな感じだったのかな」
 最初にグラーゼンと会った日の事を思い出す。
 今ではすっかり慣れたけど、突然出くわす大物は、ちょっと心臓に悪い物だ。
 しかしグラーゼンは僕に少し呆れた様な視線を向け、首を横に振った。
「いや、友程立ち直りが早く、しかも私をお茶に誘って来る様な豪胆な者は、永き時を振り返っても他には居ない。友は変わり者だよ。そして友の仲間も、友が選んだだけあって中々に尖った資質の者ばかりだな」
 グラーゼンはそう言って、再び視線を、ベラ、ピスカ、アニスへと向け、彼女等を観察……、正確にはその資質を測り始める。
 まあ別にそんな事を意図して選んだ訳じゃ無いけれど、彼女達の能力に偏りがあるのは確かだろう。

「魔獣の悪魔、ベラだったかな。戦闘を得手とする悪魔は多く居るが、その子はそれらと比較しても特に近接戦闘に特化した資質を持っている。驚嘆に値する才だ。友に最も欠けた資質の持ち主故に、成長すれば彼女が必要とされる場面は多いだろう」
 暫くすると、グラーゼンによる僕の仲間達の評価が始まった。
 当然ある程度は僕も仲間達の力は知っているけど、それでも敢えて解説するのは、その先に何か僕に教えたい事があるのだろう。
 グラーゼンによるベラの評価は順当に高い。
 だが尖った資質の持ち主と評されるだけあって、ベラは遠距離攻撃を苦手とする。
 魔術特訓を経て、霊子と魔素の操作の会得し、魔法を使えるようになっても其処に大きな変化は無かった。
 何せベラの攻撃魔法は、元々吐けた炎のブレスが威力を向上させ、他に右の首が氷、真ん中の首が闇、左の首が雷と、他属性のブレスも吐ける様になったのみ。
 そのブレスも射程距離が他の悪魔と遠距離で魔法の打ち合いを行うには些か物足りず、射程が長めの中距離攻撃と言った立ち位置だ。

「次に小悪魔ピスカだが、特に感知能力が高く、次いで身を隠す能力も高い。斥候としては申し分ないだろう。更に攻撃魔法を操る才も持ち合わせており、友とは別の意味でベラとの相性が良い筈だ」
 ピスカの評価も高く、……その言葉に彼女は顔を上げ、ちょっと嬉しそうにニヤついた。
 三人の中で一番状況への順応が早いのも、ピスカの特徴だと思う。
 ピスカの最大の欠点は僕と同様に近接戦闘能力に欠ける事……、では無く、もっと致命的に不味いのがその耐久度の低さである。
 僕はこう見えて頑丈なので、他の悪魔との魔法戦。砲撃のし合いにも耐え得るが、ピスカの場合は其れも難しい。
 隠れ潜みながら敵を見付け、撃っては隠れて移動する、スナイパーの様な戦い方か、或いはベラに乗って射手となるのが良いだろう。

「最後にアニスは、レアな悪魔と言って良い。実力が低い間から人型と成れたのは、生み出した友の思い入れだろうが、其れとは別に移動、転移への適性が素晴らしい。此れはもう悪魔としての特性と呼ぶべきで、成長すれば召喚無しでも、仲間を連れて自在に世界を渡り歩けるだろう」
 力ある悪魔王、儂さんやグラーゼンは自分の魔界からなら他の世界へ移動出来るが、今の僕は未だ力が足りて無い。
 だがアニスは僕よりずっと力の少ない状態でも、世界の移動を可能にするだろうとの事だった。
 普通に、グラーゼンがアニスを物欲しそうに見ていて少し驚く。
 何でもグラーゼンの様に軍団を率いる悪魔王の場合、移動能力のある悪魔が居ると、自分の率いる本隊以外に別動隊を編成出来るのだそうだ。
 他の悪魔王との戦争、他の魔界への侵攻の際、別動隊の存在はとても有利に働くらしい。
 勿論、今の僕には全く関係の無い話である。
 将来的には、アニスには世界を渡り歩いて商売をし、この魔界に必要な物資を集めて貰うのが良いだろう。
 ちなみにアニスの他の資質は並程度だそうだ。


「さてこの様に友の仲間は非常に偏った才の持ち主ばかりで、優秀だがある程度成長するまでは単独で対価を稼ぐ事は、時に難しいだろう」
 グラーゼンの言葉に、僕は頷く。
 そう、例えば護衛としてベラが召喚されたなら、彼女は問題無くその役割を果たすだろう。
 しかしその時召喚されたのがピスカなら、求められる役割を果たすのは多分些か難しい。
 逆の場合も同様で、異性の心を手に入れる為に召喚された時は、ピスカなら上手くこなすだろうが、ベラにはどう考えても不可能だ。
「勿論、この場に居る人数程度なら友と同じく派遣を利用してくれて構わない。だが友が将来本格的に軍団を抱えるなら、少しずつでもその枠組み作りは必要となる」

 グラーゼンの言う枠組みとは、召喚に対して適切な悪魔を割り振る方法だけでなく、召喚対象としてより多く自分の陣営を選んで貰う方法、得た対価の取り扱い等も含むのだとか。
 多くの悪魔王は、己の配下が得た対価から一部を徴収し、後は好きにさせるシステムを取っているのだそうだ。
 だが其れでは今は弱くとも特殊な才のある悪魔が育ち難い。
 故にグラーゼンの軍団では一度全てを徴収し、給与の様な形で評価に応じて分配する方式を取っている。
 だが勿論此れにも欠点はあり、先ず集めた対価の管理をする人材が必要になるし、主な稼ぎ手の悪魔達からしたら自分の取り分が少なくなる為、不満だって溜まるだろう。
 グラーゼンの所は彼自身のカリスマ性や、寧ろ人手が足りない位の豊富な召喚先の確保でそういった不満を和らげているが、……当然僕にその真似は出来ない。
 だから僕は自分なりの方法を、今から少しずつでも模索して行く必要があった。

「そうせねば、友を選んで付いて来た彼女達も報われない。まぁ私は、我が友ならその程度の事は軽くこなせると思っているがね」
 相変わらずグラーゼンからの僕に対する評価が妙に高いけど、でも彼の言う通りだ。
 ベラ、ピスカ、アニスの三人、僕が悪魔にした彼女達の未来は、僕の手で決まる。
 と言っても今すぐどうこうなる話でも無いのだし、先ずはお言葉に甘えて派遣召喚をこなしながらゆっくり考えるとしよう。




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