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幕間の章2『派遣と、レプトの仲間達』
39 錬金術師と派遣の悪魔4
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ある日、僕とザーラスが大錬金術師ヴァーミッションに学園に呼び出され、此れまでの進展報告を行った帰り道。
僕は相談があると言うザーラスに呼び止められ、学園の屋上で彼女の話を聞いていた。
「うん。つまり『君の担当のパラス・クック』が、最近どうもスランプ気味だから、僕に一回見て欲しいって?」
何言ってるんだ此奴的な意味を込め、わざと区切って強めに発声して話を要約してみたが、ザーラスはその通りと言わんばかりにウンウンと頷く。
見た目はいかにも悪魔然としているザーラスだが、その仕草は妙にコミカルで、僕は思わず毒気を抜かれそうになる。
「一応僕等って競争中じゃなかったっけ? この間、ミットに教えなくて良い事を教えたりしてくれてたよね」
だが其れでも今の立場は、互いにお互いの担当者を通じて競い合う関係だ。
精一杯の威圧を込めて、目を細めてザーラスを見やる。
でも彼女は僕の視線にまるで拝む様に顔の前で手を合わせ、
「いえ其処は申し訳なかったと思います。けれどパラスさんも頑張ってらっしゃるのに躓いてて、影でこっそり目に涙を溜めてるのが見てられないんですよ。レプト様、如何やったのかは知りませんが、知の悪魔を連れてらっしゃるじゃないですか。どうか此の通り、知恵をお貸しくださいませんか」
頭を下げた。
……思わず溜息が出そうになる。
ザーラスに対してじゃ無い。
競争中であろうとも、友誼を感じる相手にそう言われてしまえば、何とか力になりたくなる僕自身に対しての溜息だ。
「……はぁ、まあじゃあ、お互いのパートナーに話して、OKが出たら、2週間ほど交代してみる?」
パッと顔を上げ、嬉しそうに何度も頷き礼を言うザーラス。
ミットに何て言おうか、今から少し頭が痛い。
見捨てられるとでも勘違いして凹む可能性があるので、事情は一切隠さずに誠心誠意説得しよう。
「あとね、しないとは思ってるけど、この前の事があるから一応ね。ミットは本当に良い子だから、今回、彼女の心に浸け込もうとしたら、僕はザーラスに友誼を感じてるけど、其れでも塵も残さず消し飛ばすからね」
近付いて顔を寄せ、一言一言、噛んで含める様に言い聞かせると、ザーラスは額から汗を流しながら了承する。
あんな悪魔然とした見た目でも、冷汗ってかけるものなんだね。
案の定泣きそうになるミットを説得し、ヴィラには少し呆れられ、改めてザーラスと連絡を取って交代が決まったのは、相談から二日後の事。
そして今まで遠目に見た事はあっても、此れまで関わりの無かったパラス・クックと、僕は初めて顔を合わせる。
実際に会い、言葉を交わして見た彼女は、……何と言うか一生懸命過ぎて壊れそうな少女だった。
「貴方が少しの間交代するって言ってた相手ね。なんだか、随分と普通に人間っぽいわね……。わざわざ来てくれてありがとう。でも期間の間は楽にしてて良いわよ。こんな不調位、ちゃんと自分で如何にかするわ」
少し早口に、最後の方はまるで自分に言い聞かせる様なその言葉に、僕はザーラスが助けて欲しいと言い出した理由を理解する。
此の子、パラスは、優秀であろうと、周囲の期待に応えようとし過ぎる子だ。
なまじ自分が優秀な為に、手の抜き方、弱音の吐き方、他人への頼り方を知らず、一人で限界まで頑張ってしまう。
顔色もあまり良くは無く、出来れば休息が必要に見えた。
けれど其れを言っても、パラスは恐らく素直に受け入れない。
だから今は、黙って彼女が錬金術で調薬を行っている所を観察する。
と言っても、僕は彼女が何を作ってるのかさえ良くわからないけど、ヴィラなら多分理解してるだろう。
鍋をコンと杖で叩き、反応を起こし、大鍋に残った液体を瓶に詰め……、眉を顰めるパラス。
ミットを見守る時の癖で、何時でも防御魔法を展開出来るように準備してたが、やっぱり爆発ってそんなに頻繁には起きないんだね……。
まあでもミットも、ここ数ヶ月は初めて作成しようとするアイテムでも滅多に爆発は起こさなくなったし、ちゃんと成長は目に見える。
「ヴィラ」
此方を気にして無い風のパラスだったが、此のままの状態では話が進まない。
故に僕は、パラスの調薬を見ていたヴィラに問い掛ける。
「Yes, my lord. ヴィラのみた所、彼女、Ms. パラスの上級回復薬作成での失敗点は一つ。抽出反応促進時の魔力量が少しばかり多い事です」
その言葉にパラスは此方を振り返り、僕の手の中に在る深紅の球体、ヴィラを注視した。
中々素直な反応でとても良い。
「上級の薬は此れまでと違い、より多くの素材から、其の素材の良い部分だけを抽出して使用します。なので今回は抽出反応を促進させ過ぎ、素材から良質でない部分まで使用してしまったのでしょう」
うん、全然意味がわからない。
何其れ、錬金術って勿体ない事するんだねって感じである。
でもパラスはヴィラの言葉に何か考えるところがあったらしく、直ぐにまた調薬へと取り掛かった。
「……ヴィラ、此処は任せるよ。僕はご飯作って来るから、今の所はサポートしてあげて」
僕はヴィラの了承を確認してから机の上に置き、キッチンを目指す。
あの様子だと食事も軽視してそうだし、保管してる食材にはあまり期待出来ないかも知れない。
まあ其れでも、出来るだけ消化に良い、暖かい物を作ってあげよう。
その後、キリの良い所を見計らって食事だと声を掛けたら、案の定食事なんかよりとか言い出したので、ヴィラを取り上げる。
ヴィラのサポートが欲しければ僕の言う事は聞きなさいと伝えれば、パラスは非常に不本意そうに席に着く。
だが一口シチューを啜ってからは、一度目を丸くした後に猛然と匙を動かし、空になるタイミングを見計らって御代わりが必要かを聞けば、少し悩んだ後に黙って器を差し出した。
こっそりと入れた食欲増進のスパイスは、ちゃんと効果を果たしたらしい。
僕は錬金術は意味がわからないけれど、長年振る舞い続けたので料理には少しだけ自信があるのだ。
「何で悪魔が料理なんてしてるのよ……。美味しかったわよ、御馳走さま」
食後にその言葉がちゃんと出て来る辺り、色々と抱え込んではいるが根は素直な子なのだろう。
さてこの様子なら食事を定期的に取らせる事は多分難しくない。
次は睡眠で、その次は休暇を取らせる。
ヴィラを餌に、何処まで出来るかやってみよう。
一度其れ等を取ったなら、休養をキチンと取る方が、効率は上がる事には気付く筈。
元より賢く優秀の評価を受けるパラスなら、気付かせてさえやれば後は自分で軌道修正も出来そうだ。
……なら元劣等生の評価を受けてたミットがどうなってるのかは、少しと言わず大分気になるけれど、まあ彼女は一緒にキッチンに立つ事もちょいちょいあるので、ご飯は多分大丈夫。
ザーラスが付いていれば身の安全に不安は無いし、意外とお喋りな二人は多分気も合うだろう。
でもそれでも二週間と言う時間は、パラスの生活を完全に改善するには短く、ミットを任せっぱなしにするには長過ぎると言う、少し微妙な期間設定だった。
僕が自分で言い出した期間だけど、もう少し調節した方が良いかも知れない。
例えば数日に一回は僕はミットの様子を、ザーラスはパラスの様子を見る為に交代して、期間は一旦二週間で終わりにするにしても、もう一度か二度は交代するとか。
後でザーラスに連絡を取ってみよう。
何と言うか僕は、一度関わると気になって仕方なくなるタイプなのだ。
状況を知り、人柄を知れば、もうパラスを単なるミットの競争相手としては見られない。
取り敢えずは、どうやってパラスに明後日休暇を取らせるか、その方法でも考えるとしようか。
僕は相談があると言うザーラスに呼び止められ、学園の屋上で彼女の話を聞いていた。
「うん。つまり『君の担当のパラス・クック』が、最近どうもスランプ気味だから、僕に一回見て欲しいって?」
何言ってるんだ此奴的な意味を込め、わざと区切って強めに発声して話を要約してみたが、ザーラスはその通りと言わんばかりにウンウンと頷く。
見た目はいかにも悪魔然としているザーラスだが、その仕草は妙にコミカルで、僕は思わず毒気を抜かれそうになる。
「一応僕等って競争中じゃなかったっけ? この間、ミットに教えなくて良い事を教えたりしてくれてたよね」
だが其れでも今の立場は、互いにお互いの担当者を通じて競い合う関係だ。
精一杯の威圧を込めて、目を細めてザーラスを見やる。
でも彼女は僕の視線にまるで拝む様に顔の前で手を合わせ、
「いえ其処は申し訳なかったと思います。けれどパラスさんも頑張ってらっしゃるのに躓いてて、影でこっそり目に涙を溜めてるのが見てられないんですよ。レプト様、如何やったのかは知りませんが、知の悪魔を連れてらっしゃるじゃないですか。どうか此の通り、知恵をお貸しくださいませんか」
頭を下げた。
……思わず溜息が出そうになる。
ザーラスに対してじゃ無い。
競争中であろうとも、友誼を感じる相手にそう言われてしまえば、何とか力になりたくなる僕自身に対しての溜息だ。
「……はぁ、まあじゃあ、お互いのパートナーに話して、OKが出たら、2週間ほど交代してみる?」
パッと顔を上げ、嬉しそうに何度も頷き礼を言うザーラス。
ミットに何て言おうか、今から少し頭が痛い。
見捨てられるとでも勘違いして凹む可能性があるので、事情は一切隠さずに誠心誠意説得しよう。
「あとね、しないとは思ってるけど、この前の事があるから一応ね。ミットは本当に良い子だから、今回、彼女の心に浸け込もうとしたら、僕はザーラスに友誼を感じてるけど、其れでも塵も残さず消し飛ばすからね」
近付いて顔を寄せ、一言一言、噛んで含める様に言い聞かせると、ザーラスは額から汗を流しながら了承する。
あんな悪魔然とした見た目でも、冷汗ってかけるものなんだね。
案の定泣きそうになるミットを説得し、ヴィラには少し呆れられ、改めてザーラスと連絡を取って交代が決まったのは、相談から二日後の事。
そして今まで遠目に見た事はあっても、此れまで関わりの無かったパラス・クックと、僕は初めて顔を合わせる。
実際に会い、言葉を交わして見た彼女は、……何と言うか一生懸命過ぎて壊れそうな少女だった。
「貴方が少しの間交代するって言ってた相手ね。なんだか、随分と普通に人間っぽいわね……。わざわざ来てくれてありがとう。でも期間の間は楽にしてて良いわよ。こんな不調位、ちゃんと自分で如何にかするわ」
少し早口に、最後の方はまるで自分に言い聞かせる様なその言葉に、僕はザーラスが助けて欲しいと言い出した理由を理解する。
此の子、パラスは、優秀であろうと、周囲の期待に応えようとし過ぎる子だ。
なまじ自分が優秀な為に、手の抜き方、弱音の吐き方、他人への頼り方を知らず、一人で限界まで頑張ってしまう。
顔色もあまり良くは無く、出来れば休息が必要に見えた。
けれど其れを言っても、パラスは恐らく素直に受け入れない。
だから今は、黙って彼女が錬金術で調薬を行っている所を観察する。
と言っても、僕は彼女が何を作ってるのかさえ良くわからないけど、ヴィラなら多分理解してるだろう。
鍋をコンと杖で叩き、反応を起こし、大鍋に残った液体を瓶に詰め……、眉を顰めるパラス。
ミットを見守る時の癖で、何時でも防御魔法を展開出来るように準備してたが、やっぱり爆発ってそんなに頻繁には起きないんだね……。
まあでもミットも、ここ数ヶ月は初めて作成しようとするアイテムでも滅多に爆発は起こさなくなったし、ちゃんと成長は目に見える。
「ヴィラ」
此方を気にして無い風のパラスだったが、此のままの状態では話が進まない。
故に僕は、パラスの調薬を見ていたヴィラに問い掛ける。
「Yes, my lord. ヴィラのみた所、彼女、Ms. パラスの上級回復薬作成での失敗点は一つ。抽出反応促進時の魔力量が少しばかり多い事です」
その言葉にパラスは此方を振り返り、僕の手の中に在る深紅の球体、ヴィラを注視した。
中々素直な反応でとても良い。
「上級の薬は此れまでと違い、より多くの素材から、其の素材の良い部分だけを抽出して使用します。なので今回は抽出反応を促進させ過ぎ、素材から良質でない部分まで使用してしまったのでしょう」
うん、全然意味がわからない。
何其れ、錬金術って勿体ない事するんだねって感じである。
でもパラスはヴィラの言葉に何か考えるところがあったらしく、直ぐにまた調薬へと取り掛かった。
「……ヴィラ、此処は任せるよ。僕はご飯作って来るから、今の所はサポートしてあげて」
僕はヴィラの了承を確認してから机の上に置き、キッチンを目指す。
あの様子だと食事も軽視してそうだし、保管してる食材にはあまり期待出来ないかも知れない。
まあ其れでも、出来るだけ消化に良い、暖かい物を作ってあげよう。
その後、キリの良い所を見計らって食事だと声を掛けたら、案の定食事なんかよりとか言い出したので、ヴィラを取り上げる。
ヴィラのサポートが欲しければ僕の言う事は聞きなさいと伝えれば、パラスは非常に不本意そうに席に着く。
だが一口シチューを啜ってからは、一度目を丸くした後に猛然と匙を動かし、空になるタイミングを見計らって御代わりが必要かを聞けば、少し悩んだ後に黙って器を差し出した。
こっそりと入れた食欲増進のスパイスは、ちゃんと効果を果たしたらしい。
僕は錬金術は意味がわからないけれど、長年振る舞い続けたので料理には少しだけ自信があるのだ。
「何で悪魔が料理なんてしてるのよ……。美味しかったわよ、御馳走さま」
食後にその言葉がちゃんと出て来る辺り、色々と抱え込んではいるが根は素直な子なのだろう。
さてこの様子なら食事を定期的に取らせる事は多分難しくない。
次は睡眠で、その次は休暇を取らせる。
ヴィラを餌に、何処まで出来るかやってみよう。
一度其れ等を取ったなら、休養をキチンと取る方が、効率は上がる事には気付く筈。
元より賢く優秀の評価を受けるパラスなら、気付かせてさえやれば後は自分で軌道修正も出来そうだ。
……なら元劣等生の評価を受けてたミットがどうなってるのかは、少しと言わず大分気になるけれど、まあ彼女は一緒にキッチンに立つ事もちょいちょいあるので、ご飯は多分大丈夫。
ザーラスが付いていれば身の安全に不安は無いし、意外とお喋りな二人は多分気も合うだろう。
でもそれでも二週間と言う時間は、パラスの生活を完全に改善するには短く、ミットを任せっぱなしにするには長過ぎると言う、少し微妙な期間設定だった。
僕が自分で言い出した期間だけど、もう少し調節した方が良いかも知れない。
例えば数日に一回は僕はミットの様子を、ザーラスはパラスの様子を見る為に交代して、期間は一旦二週間で終わりにするにしても、もう一度か二度は交代するとか。
後でザーラスに連絡を取ってみよう。
何と言うか僕は、一度関わると気になって仕方なくなるタイプなのだ。
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