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幕間の章2『派遣と、レプトの仲間達』
38 錬金術師と派遣の悪魔3
しおりを挟む僕とヴィラが錬金術師、ミットと共に錬金術の店を経営しはじめて一年程が経ったある日。
「レプトさん! 学園の最終試験で、私がパラスさんに勝てば、レプトさんに御師匠様が何か作ってくれるって本当ですか?!」
学園に今月分の課題提出に出掛けていたミットは、帰って来るなりそう言いながら僕に詰め寄った。
おぉ……、誰だよ。ミットにその話したの。
僕はグイグイと迫って来るミットを押し留めながら、宥める言葉を探す。
「うん、まあそう言う約束だけど、其れはオマケだからミットはそんなに気負わなくて良いよ。……ちなみに誰に聞いたの?」
嘘はあまり言いたくないので、話を流して誤魔化す為にも、逆に問い返す。
実は何となく想像は付くのだけれども。
「ザーラスさんです。今日学園でばったり会って、『レプト様もきっと作って欲しい物がある筈だから頑張って下さいね!』って応援してくれました」
ほらやっぱりそうだった。
僕が言うのもなんだけど、あの悪魔め!
ザーラスが完全に善意で其れを教え、尚且つ応援してくれたと思ってるミットには言っても無駄だろうけど、此れは彼女の精神への攻撃だ。
ミットの性格は非常にわかり易く、ベテラン悪魔であるザーラスからすれば手玉に取るのは容易いだろう。
友好的に接しながらも、目的の為には容赦なく蹴落としに掛かれるザーラスは、悪魔としては非常に正しい。
僕は割とザーラスと言う名の女悪魔にに、友情以外にも敬意を感じてる。
でも今は完全に敵なのだ。
しかし此れは同時に、僕が思う以上にミットと、ザーラスが担当するパラス・クックとの差が詰まって来てる事の証左でもあった。
圧倒的に優勢だと思っていたら、じわじわと差が詰められていたとなれば、焦るのも無理は無い。
だがそんな事を説明しても、ミットはきっと納得しないだろう。
「じゃあザーラスも応援してくれてるんだし、今日はまず冒険者ギルドの納品物からやろうか」
なので難易度の低い簡単な薬の量産作業から入らせ、徐々に集中力を高めさせて要らない事を忘れさせる作戦に出る。
実際に錬金術の仕組みを理解し、アドバイスするのはヴィラの仕事なので、僕がしているのは専ら護衛とマネージメントだ。
ミットを誘導する位は御手の物、と思いきや、僕の言葉にも彼女は動かず、ぷくぅと頬を膨らませた。
「いいえ誤魔化されませんよ! レプトさんが欲しい物あるなら、もっと先の課題やらなきゃパラスさんに勝てないじゃないですか!」
そんな風に言い募るミットだが、パンパンに膨らんだ頬で近寄られると、笑いがこみ上げて来るからやめて欲しい。
可愛らしいとは思うのだけど、年齢の割りに子供っぽ過ぎて少し心配になってしまう。
ザーラスの思う儘に動かされてるミットだが、まぁ其れも仕方が無い事だ。
ベテランの悪魔と年若い少女では、役者に違いがありすぎる。
しかしザーラスもミットに関して理解してない事が幾つかあった。
「別に今のままでも最終的には勝てるからそれで良いよ。と言うか行き成り先の事やっても出来ないでしょ。焦らなくて良いから、何時も通り楽しんでやりなよ」
ミットがどんくさいのはさて置いて、焦り易かったり気負い易いのは、自信の無さが原因だ。
では何故自信が無いのかと言えば、其れは今まで肯定よりも否定を多く受けて来たからだろう。
だがこの一年でミットは、数多くの成功を体験し、そして多くの人から感謝と肯定を受けて来た。
その経験は確実にミットの心を成長させている。
今のミットは、そう簡単には背負った物に潰されない。
「えっ、レプトさん、私がパラスさんに勝てるって、思ってくれてるんですか……?」
茫然とした表情のミットに、僕は頷く。
多分ザーラスも読み違えてるだろうけど、僕はミットが勝つと、本気でそう思ってる。
「負ける訳無いよ。……とまでは相手があっての勝負だから言い過ぎだけど、それでもミットは今まで通りにやれば多分勝つよ。ヴィラはどう思う?」
だから嘘偽りなく、不安がるミットを肯定出来るのだ。
口先の惑わし程度は恐れるに足りない……、が、でも次に会ったらザーラスには一つ仕返しをしてやろう。
「えぇ、My Lord. は言い過ぎだと仰いましたが、ヴィラは負ける訳が無いと言い切りましょう。Ms. ミットの此れまでの成長、そして私達の存在を考えれば、勝利は既に決まっています。後は過程をいかに楽しむかだと、ヴィラは強くアドバイスをしましょう」
自分で振って置いてなんだけど、ヴィラのセリフの方が格好が良い……。
僕も断言しとけば良かった。
恐らく強い肯定が嬉しかったのだろう。
目に大粒の涙を溜めるミットの姿に、僕は、今日の作業量は少し減らす事を決める。
どうせ暫くは泣き止まないだろうから。
「……ところで、レプトさんが御師匠様に作って貰いたい物って何なんですか?」
泣き止んだミットが、夕飯のスープを啜りながら、不意に僕に尋ねた。
うーん、言って良いものなんだろうか。
言ってまた気負われても嫌なのだけれど、でもこの流れで言わないのも少し気持ち悪い。
まぁ、良いかな。
「ん、ヴィラのボディだよ。やっぱり動けないのは不便そうだしね。君のお師匠なら自動人形の身体とかも作れるでしょ」
出来る限り軽い口調で言ってみるが、でもやっぱりミットはハッとした表情になり、其れにもまして机の上に置いたヴィラから驚きの感情が伝わって来た。
僕がヴィラを生み出した時、どうしても以前のAIだったエデンのイメージが強すぎて、球形の無生物の様な存在にしてしまったが、どう考えても此れは不便なのだ。
しかし質の良い人形を身体として得れば、内部に根を張り巡らせて、完全に己の肉と変える事も出来るだろう。
「は~わ~、じゃあ負けれませんね! あ、でももしもし負けても、その時は私がヴィラさんの身体を作りますよ!」
表情を引き締めるミットだったが、でも気負い過ぎた風には見えなかった。
矢張り、少しずつでも彼女は成長し続けている。
今日の出来事だって、また少し彼女を成長させたのだ。
……でも、
「ううん、ごめんね、ミット。幾ら僕達でも、残された時間で君のデザインの才能を人並みにする事はちょっと難しいかな……」
どうしようもない事も偶にはある。
ミットは既に形の決まった物を作る際には普通にこなすのだが、しかしオリジナルのデザインで物を作ろうとすると、何時も前衛的と言うか、名状し難い物を生み出してしまう。
「えぇ、Ms. ミット、どうかヴィラの身体の事は、どうか! お気になさらず! My Lord. にお任せしますから」
哀し気に首を振る僕と、大慌てで止めに掛かったヴィラに、ミットの頬はまたぷっくりと膨らんだ。
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