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第四章『主を遺す老臣』
49 四天王の悪巧み
しおりを挟むさて、ツェーレが敵も味方も被害の大きくなる無謀な戦いを続けていた理由は、勇者を引き摺り出す為だった。
正確には傷付き動けなくなった今の勇者では無く、力を受け継ぐ次の勇者をだ。
ツェーレが言うには、現状魔界に攻め込んで来ている人族は、五国家による連合軍らしい。
そしてその五国家の盟主となるローフェン国が、以前魔界に攻め込んだ勇者が所属する国家なのだとか。
今現在、勇者はローフェン国に保護されて静養している。
しかし魔界に侵攻中の連合軍の損害が広がれば、他の四国は新しい勇者を求めるだろう。
何せ今、ローフェン国が盟主の座にあるのは魔王を討った勇者の所属国だからだ。
今の勇者を始末すれば、次は自分の国の誰かが勇者の力を得るかも知れない。
魔王が存命の頃は一致団結して最強の勇者を生み出そうとした人族も、魔王を始末した今となっては、己の国の利益を最大限に考えて当然である。
故にツェーレは味方の損害を顧みず、連合軍の被害を重視した戦いを行っていのだ。
前の勇者は、英雄の素質と勇者の力が掛け合わさった化け物だった。
しかし次の勇者はそうじゃない。
だが其れでも次の勇者を得た国は、自国の発言力を増す為に勇者を戦地に送るだろう。
そして前線に出て来た勇者を殺し、命と引き換えにその力を封印するのがツェーレの目的で、其の為の封印術は生前の先代魔王より受け継いでいたそうだ。
そう、先代魔王も命と引き換えに勇者の力を封じようとしていて、あまりに強すぎた勇者を殺し切れずに失敗したのである。
勇者さえ何とかすれば、一度力を合わせる事を覚えた魔族は決して負けないと、そう信じて。
「もうね、僕そう言うのホント嫌い」
気の許せる仲間達、ベラ、ピスカ、アニス、ヴィラを集めて、僕は思わずそう溢す。
僕の言葉に、アニスが思わずと言った風に苦笑いを浮かべた。
でもだってそうである。
自己犠牲って、本当に好きじゃない。気持ちはわかるけれども、好きじゃない。
何せ僕は、自分が死ぬのが嫌で悪魔になった位なのだ。
勿論あの時と違い、今は命と天秤に掛ける位に大切なモノは増えた。
でもあの時死ぬ事を拒んだからこそ、大切なモノが出来たと思う。
だから命を懸けるなとまでは言わないけれど、せめてもう少し周囲にも頼ったり、色々模索してからにして欲しい。
「そだねー、私も嫌い。だって暗いもん。でもでも、じゃあ具体的にどうするの?」
僕の頭の上に飛んで来たピスカが、至極当然の疑問を問うて来た。
そう、結局は勇者を何とか出来なければ、僕は口先だけで非難をしている事になる。
まぁ考えは勿論あるのだけれど……。
「勇者を直接見ないと確実とは言えないかな。だからアニスとピスカ、君達には人族の領域に忍び込んで、ローフェン国に保護されてる勇者の元への転移を可能にして来て欲しい。今の勇者が殺される前に」
何せ今の勇者は、先代魔王との戦いで負った傷により戦闘能力を失っているのだ。
観察し、弄り回すなら、此れ以上の良い状態は望めない。
問題は前回、僕等が人族の軍を相手に大勝利してしまった事だろう。
勇者を保護してるローフェン国は兎も角、他の四国は次の侵攻軍を編成する前に、新しい勇者を得たいと考えるのが当然だった。
とは言え、何せ魔王を討ち取った勇者の始末だ。そう簡単には行えない。
連合軍自体も、国家の垣根を越えた軍の為、其の編成には時間が掛かる。
常人とは移動速度が桁違いのアニスと、高い隠密能力を持つピスカのペアならば、恐らく間に合う筈。
「もういっそ見つけ次第に浚っちゃう?」
そんな事を聞いて来るピスカは、元妖精だ。
妖精が人間を浚う話は、色んな世界に存在する。
確かに悪い案じゃ無い。
此処に連れて来てしまえば、煮るなり焼くなり好きに出来るだろう。
「そうだね。でも自害されても拙いから、やるなら僕が行った時だ。先ずは道を作って来て」
頷き、ピスカが僕の頭の上から、アニスの胸元へと移動した。
小さなピスカは、大きなアニスの胸元になら、すっぽりとその身を埋めれる。
……ちょっと少しだけ、小さなピスカの身体が羨ましい。
アニスは僕の視線に気付いたのか少し笑うと、シュッと自分とピスカの身を転移させた。
多分、以前にツェーレの拠点があった場所に飛んだのだと思う。
魔界では、あそこが一番人族の領域に近い場所だから。
「ヴィラ、多分あの二人なら数日の間に戻るから、邪魔の入らない場所の確保を。後は勇者が来たら解析を手伝って。ベラは、ミューレーンとツェーレに付いてて」
僕が連れてこようとしてる勇者は、ミューレーンとツェーレにとっては父親の仇だ。
理性では僕等の行動を見守るべきだと理解しても、感情が暴発しないとは限らない。
何せ魔王の一族は何かと自分の内に溜め込むタイプなので、その辺りはちょっと油断しない方が良いだろう。
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