転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

文字の大きさ
69 / 129
第五章『約束の人』

69 巧といろはが歩む道

しおりを挟む

「友よ、随分と酷い戦いだったな」
 グラーゼンは何故だか、物言いたげな目で僕を見るが、知った事では無い。
 僕は戦いにロマンを求めるタイプでは無いのだ。
 戦いとは互いの利益の相反が故にやむなく生じる物で、出来れば避けた方が良いと言うのが僕の考えである。
 ただし避けるべく努力をするのが自分だけである場合は、速やかに相手を滅した方が楽なのもまた真理だが。
「大事な物を失いたくなかったからね。じゃあ予定通り、紡ぎの女侯の魔界は、グラーゼンに移譲するよ」
 僕の言葉に、グラーゼンは不承不承頷いた。
 彼としては此れを機に、僕に勢力を拡大して欲しかったのだろうが、魔界が増えると管理がとても面倒臭い。
 何しろ僕は、未だ暫くは巧といろはの世界で過ごす心算なのだから。

「対価は後で届けよう。それで、その二人が例の、話に聞いていた友の自慢の召喚主達か。ふむ、実に良いな」
 グラーゼンが僕の後ろの二人、巧とイーシャに興味を示したので、僕は二人の保護を更に強める。
 並の人間がまともにグラーゼンの姿を見、声を聞けば、其れだけで存在が消し飛びかねない。
 故に僕が保護を掛けてるが、保護越しでももしかしたら何らかの影響はあるかも知れなかった。
「グラーゼン、人間相手に、君は強すぎるよ。ちょっと抑えるか、話し合いはまた後日にしてくれる?」
 つれない僕の態度にグラーゼンはほんの少し寂しそうにし、だが僕が巧とイーシャを優先したがってるのを察したのか、微笑みを浮かべると其の姿はスッと消える。

 ふと気付いて観察すれば、紡ぎの女侯との契約の残滓が、イーシャの魂からは完全に消えていた。
 グラーゼンショックに洗い流されたのか……。
 成る程、あの友人は、やっぱり思う以上に僕に対して親切らしい。
 戦争の観客をしていたのも、万一の際に自分の存在を紡ぎの女侯にちらつかせる為だろうし、ちょっと過保護過ぎる気はするが、感謝の気持ちは改めて。


「レプトッ、虫の良い事を言ってるのは承知の上だけど、私を、貴方の悪魔にしてっ!」
 さて帰ろうか。
 そう言い掛けた僕の腰に、しがみ付いたイーシャは言う。
 僕は彼女の頭を一つ撫で、
「良いけど、ちゃんと人間として大きくなってからね。折角時間の猶予が出来たんだし、もうちょっと色々体験して、いろはとしての人生を歩んでから決めて。今度は置いてったりしないからさ」
 そう告げる。
 悪魔王同士の戦争にまで発展したが、僕にイーシャを責める気はあまり無い。
 だって向けられた感情は好意なのだから、其れは僕には喜びだ。
「レプトが、僕の友達を口説いてる……」
 巧が僕を半眼で睨むが、別に口説いてないよ?!
 僕はイーシャを撫でる逆の手を、巧の頭の上に置く。
「巧も一緒に来て良いよって言いたいけど、前の君には一回振られてるからなぁ。無理強いはしないよ。でも僕以外の悪魔と契約するのは絶対にやめてね。今回初めて気づいたけど、僕って結構嫉妬深いみたいだから」
 男女比的にも切実に。
 何せベラでさえ女の子なのだから、揉め事になった時は全員が敵に回るのだ。
 是非同性の味方が欲しい。
 勿論巧が相手だからこそ、僕はそう思うのだけれど。


 そうして、僕等は巧といろはの世界の、住処とする一軒家のリビングに戻る。
 僕等が魔界で戦ってる間に、此の世界では数日が過ぎてた様で、巧といろはは小学校を数日休んでしまっていた。
 幸いと言うべきか、いろはの両親は悪魔に憑りつかれていた影響からか、未だいろはを行方不明だと届け出ておらず、暗示を掛ける必要もなく謝罪と説得で事は済んだ。
 ニュースは仕切に、発射された核や其れの消失を取り上げていたが、まあ其れもどうせ暫くしたら落ち着くだろう。
 此の国のニュースは真実を伝える事よりも、耳目を集める事と世論の操作に忙しい。
 新鮮味の無くなった話を、何時までも語りはしないのだ。


 次の年、六年生になった巧といろはは、初めてクラスが別になった。
 其れはもう、彼等の運命に僕等以外の悪魔の影響が無くなった証で、僕は其れを密かに喜ぶ。
 いろはにはイーシャの記憶が戻っているが、其れでも彼女はいろはである。
 精神は肉体の影響を受け、今まで積み重ねた記憶は、過去の記憶にだって塗り潰されやしない。
 だからほんの少しだけ、僕は巧といろはの関係が、恋人同士になるんじゃないかと思ってた。
 他の誰かじゃ無く、巧が相手なら、僕は其れを喜んだだろう。
 人としての幸せを掴んでくれるなら、別に悪魔になる道を選ぶ必要なんてない。
 そんな道は来世でも、そのまた次でも何時でも選べる。

 なのに二人は、仲の良い友人同士ではあったけれど、それ以上に関係が発展する事は無かった。
 やっぱり僕等の存在が影響を与え過ぎたのかとも思ったが、高校に上がった巧が非常にモテ出し、浮名を流し始めた辺りで僕は気にするのを止める。
 そう言えば以前グラモンさんが、自分は若い頃はとてもモテた自慢をしてたけれど、アレってもしかしたら真実だったのかも知れない。
 巧も、もう桐生家に対するこだわりはないそうだ。
 僕等の経営する会社を継ぐのが今の所の目標らしいので、もう少し色々手を広げて置こうと思う。
 まあ主に頑張るのはヴィラとアニスなのだけれども。

 そんな風にゆるゆると、此の世界での時間は流れて行く。
 巧が、いろはが、己の道を選び、己が足で立つ力を手に入れる時まで。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...