転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

文字の大きさ
87 / 129
オマケの章2

87 鋼を捨てたドワーフ(後)

しおりを挟む
 先ず最初に、ヴォーンには僕が此の世界の食材に慣れていない為、他の世界から持ち込んだ食材で調理する許可を取った。
 その上で、彼の料理の参考となりそうな品を、僕は少し悩んでから作る料理を選ぶ。
 少し大掛かりになるけれど、後でヴォーンに此の世界の食材で再現して貰ったら面白そうな気がしたので、僕は『牛テールカレー』の調理に取り掛かる。

 最初に行うのは、最も厄介で、且つ時間が掛かる牛テールの下ごしらえだ。
 圧力鍋か、或いは同様の働きをする魔法を使えば早く済むけれど、それじゃあヴォーンには何をしてるのかが伝わらない。
 だから今回は、時間を掛けて普通に下ごしらえを行う。
 先ずは牛テールを鍋に入れ、水を加えて下茹でをする。
 この時大事なのは、沸騰した湯に牛テールを入れるのではなく、水から茹でて行く事だ。
 少し茹でたらザルに上げ、茹で汁は捨て、牛テールを流水に晒しながら血が残らぬ様に指で良く洗っておく。
 同じ事をもう一度繰り返したら、次は鍋に香草も加え、本格的に長時間茹でながら灰汁を取る。
 この時の茹で汁はスープにも使えるが、今回はそのままカレーに使う。

 そして茹でる間に、スパイスの用意。
 今回はターメリックにクミン、赤唐辛子やコリアンダー、更にシナモンとクローブとナツメグを混ぜ合わせたガラムマサラ。
 他にも一杯スパイスはあるが、正直使いこなせないので此れ位にする。

 フライパンで玉葱と人参を炒めて行く。
 良く言われる飴色玉葱ってのになるまで確りと。
 其処に先程用意したスパイス、仕上げ用のガラムマサラ以外を加えて絡めて行く。
 牛テールの肉は骨から外して食べ易くする。

 肉と野菜をスープに戻し、更に灰汁を取りながら沸騰しない様に煮込んで行けば、……まあ大雑把な感じだが大体出来上がりだ。
 仕上げのガラムマサラも忘れずに加えよう。
 本当は一晩寝かした方が美味しいだろうが、ヴォーンが待ちきれないって感じの顔をしてるので皿によそって差し出す。
 ライスは此の世界に代替出来る物があるかどうかがわからないので省いたが、無いならパンでも良いだろう。

 ヴォーンは真剣な表情でスプーンを口に運び、次の瞬間、目を大きく見開いた。
「くはっ、なんだ此れは! 辛い? いや、美味い。力強いのに、単純で無く複雑且つ上品な味! 肉から出た旨みだけではない、此れが香辛料を混ぜ合わせた事で生まれる美味さか!!」
 僕はヴォーンが口を開いた瞬間に飛んで来る唾を予感し、カレーの入った鍋を抱えて守りながら逃げる。
 喜びは物凄く伝わって来るが、興奮の仕方が尋常ではない。
 もしかしたら此の世界にも、もっと南の方に行けば似たようなスパイスを混ぜ合わせて生み出す料理はあるのかも知れないが、少なくともヴォーンは知らない様だ。

「今回は家畜の尾の肉をメインの具にして煮込み料理にしたけれど、調合した香辛料に浸け込んだ肉を焼いた料理なんかもあるよ。此の世界の香辛料で再現すれば、より此の世界の人達の口に合う物に仕上がるんじゃないかな」
 僕の言葉にヴォーンは大きく頷いて、残りのカレーをガツガツを食べ出す。
 どうやら味だけでなく、彼の料理へのヒントとしても満足戴けた様である。
 ヴォーンに食べ尽される前に、僕も少し食べて置こう。


 さて、食べ終わった後に何やら空を睨んでブツブツと呟いていたヴォーンが、片付けを終えた僕を呼ぶ。
「オメェさんの料理、堪能させて貰った。いやぁ、面白い料理だった。是非オレも作ってみたい」
 目をキラキラと輝かせるヴォーンだが、ドワーフのおっさん顔で目を輝かされても暑苦しいだけである。
 でもこんなにも喜んで貰えた事は素直に僕も嬉しかった。
 まあ知らずにカレーを食べたなら、其れも当然かなとは思う。
 複数のスパイスに具材の旨みが加わって生まれる複雑な味は、味わいだけで立派な娯楽だ。

「でな、考えたんだが、折角オメェさんみたいな心強い助っ人が居るなら、材料にもこだわりてぇと思うんだ」
 おや、面倒事の前振りである。
 快く引き受けるかは兎も角、聞くだけは聞いてみよう。
 彼が求める物が此の世界で手に入る食材ならば、手伝う事はやぶさかじゃない。
「まず肉だが、さっきの料理に倣って、尾の肉を使う。最高級の尾の肉と言えばやっぱりドラゴンテールしかねぇだろう。アレなら竜を殺さずとも手に入るしな」
 やぶさかじゃないけれど、でもまさか、行き成りドラゴンの肉を求められるとは思わなかった。
 ワイバーンの尾じゃダメなのだろうか?
「駄目に決まってんだろ。ワイバーンの尾は毒があるだろうが! 毒抜きすれば確かに高級食材だが、ドラゴンテールには数段劣る。でな、スパイスだが、先ず世界樹の葉だろ? 次に……」

 次々に挙げられる厄介そうな食材の名前を、僕は頭の中にメモして行く。
 因みに世界樹の葉は、磨り潰すと激辛の香辛料になるらしい。
 なんでも食べさせれば、死人もびっくりして蘇るって伝説がある位の辛さだそうだ。
 此の世界の世界樹ってそんなのか……。
 辛けりゃ良いって物でもないのだが、まあ少量だけ使うそうなので多分大丈夫だろう。

 其れにしてもまさか竜の尾を要求して来るなんて、確実に僕が居なきゃ手に入らないだろう其れを欲しがるって事は、本気でヴォーンは一生僕に食材の調達を頼る気みたいだった。
 竜達には大変申し訳ないと思うけれども、まあ命までは取らないのだし、ヴォーンが生きてる間だけだと思って少し泣いて貰おうか。
 折角の機会でもあるのだし、この際だから僕も少し、プロに習って料理の腕を磨くとしよう。
 此の世界のドワーフの寿命は、人間と然して変わらない。
 僕がヴォーンに付き合うのは、そう、ほんの三、四十年の事なのだから。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...