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オマケの章2
87 鋼を捨てたドワーフ(後)
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先ず最初に、ヴォーンには僕が此の世界の食材に慣れていない為、他の世界から持ち込んだ食材で調理する許可を取った。
その上で、彼の料理の参考となりそうな品を、僕は少し悩んでから作る料理を選ぶ。
少し大掛かりになるけれど、後でヴォーンに此の世界の食材で再現して貰ったら面白そうな気がしたので、僕は『牛テールカレー』の調理に取り掛かる。
最初に行うのは、最も厄介で、且つ時間が掛かる牛テールの下ごしらえだ。
圧力鍋か、或いは同様の働きをする魔法を使えば早く済むけれど、それじゃあヴォーンには何をしてるのかが伝わらない。
だから今回は、時間を掛けて普通に下ごしらえを行う。
先ずは牛テールを鍋に入れ、水を加えて下茹でをする。
この時大事なのは、沸騰した湯に牛テールを入れるのではなく、水から茹でて行く事だ。
少し茹でたらザルに上げ、茹で汁は捨て、牛テールを流水に晒しながら血が残らぬ様に指で良く洗っておく。
同じ事をもう一度繰り返したら、次は鍋に香草も加え、本格的に長時間茹でながら灰汁を取る。
この時の茹で汁はスープにも使えるが、今回はそのままカレーに使う。
そして茹でる間に、スパイスの用意。
今回はターメリックにクミン、赤唐辛子やコリアンダー、更にシナモンとクローブとナツメグを混ぜ合わせたガラムマサラ。
他にも一杯スパイスはあるが、正直使いこなせないので此れ位にする。
フライパンで玉葱と人参を炒めて行く。
良く言われる飴色玉葱ってのになるまで確りと。
其処に先程用意したスパイス、仕上げ用のガラムマサラ以外を加えて絡めて行く。
牛テールの肉は骨から外して食べ易くする。
肉と野菜をスープに戻し、更に灰汁を取りながら沸騰しない様に煮込んで行けば、……まあ大雑把な感じだが大体出来上がりだ。
仕上げのガラムマサラも忘れずに加えよう。
本当は一晩寝かした方が美味しいだろうが、ヴォーンが待ちきれないって感じの顔をしてるので皿によそって差し出す。
ライスは此の世界に代替出来る物があるかどうかがわからないので省いたが、無いならパンでも良いだろう。
ヴォーンは真剣な表情でスプーンを口に運び、次の瞬間、目を大きく見開いた。
「くはっ、なんだ此れは! 辛い? いや、美味い。力強いのに、単純で無く複雑且つ上品な味! 肉から出た旨みだけではない、此れが香辛料を混ぜ合わせた事で生まれる美味さか!!」
僕はヴォーンが口を開いた瞬間に飛んで来る唾を予感し、カレーの入った鍋を抱えて守りながら逃げる。
喜びは物凄く伝わって来るが、興奮の仕方が尋常ではない。
もしかしたら此の世界にも、もっと南の方に行けば似たようなスパイスを混ぜ合わせて生み出す料理はあるのかも知れないが、少なくともヴォーンは知らない様だ。
「今回は家畜の尾の肉をメインの具にして煮込み料理にしたけれど、調合した香辛料に浸け込んだ肉を焼いた料理なんかもあるよ。此の世界の香辛料で再現すれば、より此の世界の人達の口に合う物に仕上がるんじゃないかな」
僕の言葉にヴォーンは大きく頷いて、残りのカレーをガツガツを食べ出す。
どうやら味だけでなく、彼の料理へのヒントとしても満足戴けた様である。
ヴォーンに食べ尽される前に、僕も少し食べて置こう。
さて、食べ終わった後に何やら空を睨んでブツブツと呟いていたヴォーンが、片付けを終えた僕を呼ぶ。
「オメェさんの料理、堪能させて貰った。いやぁ、面白い料理だった。是非オレも作ってみたい」
目をキラキラと輝かせるヴォーンだが、ドワーフのおっさん顔で目を輝かされても暑苦しいだけである。
でもこんなにも喜んで貰えた事は素直に僕も嬉しかった。
まあ知らずにカレーを食べたなら、其れも当然かなとは思う。
複数のスパイスに具材の旨みが加わって生まれる複雑な味は、味わいだけで立派な娯楽だ。
「でな、考えたんだが、折角オメェさんみたいな心強い助っ人が居るなら、材料にもこだわりてぇと思うんだ」
おや、面倒事の前振りである。
快く引き受けるかは兎も角、聞くだけは聞いてみよう。
彼が求める物が此の世界で手に入る食材ならば、手伝う事はやぶさかじゃない。
「まず肉だが、さっきの料理に倣って、尾の肉を使う。最高級の尾の肉と言えばやっぱりドラゴンテールしかねぇだろう。アレなら竜を殺さずとも手に入るしな」
やぶさかじゃないけれど、でもまさか、行き成りドラゴンの肉を求められるとは思わなかった。
ワイバーンの尾じゃダメなのだろうか?
「駄目に決まってんだろ。ワイバーンの尾は毒があるだろうが! 毒抜きすれば確かに高級食材だが、ドラゴンテールには数段劣る。でな、スパイスだが、先ず世界樹の葉だろ? 次に……」
次々に挙げられる厄介そうな食材の名前を、僕は頭の中にメモして行く。
因みに世界樹の葉は、磨り潰すと激辛の香辛料になるらしい。
なんでも食べさせれば、死人もびっくりして蘇るって伝説がある位の辛さだそうだ。
此の世界の世界樹ってそんなのか……。
辛けりゃ良いって物でもないのだが、まあ少量だけ使うそうなので多分大丈夫だろう。
其れにしてもまさか竜の尾を要求して来るなんて、確実に僕が居なきゃ手に入らないだろう其れを欲しがるって事は、本気でヴォーンは一生僕に食材の調達を頼る気みたいだった。
竜達には大変申し訳ないと思うけれども、まあ命までは取らないのだし、ヴォーンが生きてる間だけだと思って少し泣いて貰おうか。
折角の機会でもあるのだし、この際だから僕も少し、プロに習って料理の腕を磨くとしよう。
此の世界のドワーフの寿命は、人間と然して変わらない。
僕がヴォーンに付き合うのは、そう、ほんの三、四十年の事なのだから。
その上で、彼の料理の参考となりそうな品を、僕は少し悩んでから作る料理を選ぶ。
少し大掛かりになるけれど、後でヴォーンに此の世界の食材で再現して貰ったら面白そうな気がしたので、僕は『牛テールカレー』の調理に取り掛かる。
最初に行うのは、最も厄介で、且つ時間が掛かる牛テールの下ごしらえだ。
圧力鍋か、或いは同様の働きをする魔法を使えば早く済むけれど、それじゃあヴォーンには何をしてるのかが伝わらない。
だから今回は、時間を掛けて普通に下ごしらえを行う。
先ずは牛テールを鍋に入れ、水を加えて下茹でをする。
この時大事なのは、沸騰した湯に牛テールを入れるのではなく、水から茹でて行く事だ。
少し茹でたらザルに上げ、茹で汁は捨て、牛テールを流水に晒しながら血が残らぬ様に指で良く洗っておく。
同じ事をもう一度繰り返したら、次は鍋に香草も加え、本格的に長時間茹でながら灰汁を取る。
この時の茹で汁はスープにも使えるが、今回はそのままカレーに使う。
そして茹でる間に、スパイスの用意。
今回はターメリックにクミン、赤唐辛子やコリアンダー、更にシナモンとクローブとナツメグを混ぜ合わせたガラムマサラ。
他にも一杯スパイスはあるが、正直使いこなせないので此れ位にする。
フライパンで玉葱と人参を炒めて行く。
良く言われる飴色玉葱ってのになるまで確りと。
其処に先程用意したスパイス、仕上げ用のガラムマサラ以外を加えて絡めて行く。
牛テールの肉は骨から外して食べ易くする。
肉と野菜をスープに戻し、更に灰汁を取りながら沸騰しない様に煮込んで行けば、……まあ大雑把な感じだが大体出来上がりだ。
仕上げのガラムマサラも忘れずに加えよう。
本当は一晩寝かした方が美味しいだろうが、ヴォーンが待ちきれないって感じの顔をしてるので皿によそって差し出す。
ライスは此の世界に代替出来る物があるかどうかがわからないので省いたが、無いならパンでも良いだろう。
ヴォーンは真剣な表情でスプーンを口に運び、次の瞬間、目を大きく見開いた。
「くはっ、なんだ此れは! 辛い? いや、美味い。力強いのに、単純で無く複雑且つ上品な味! 肉から出た旨みだけではない、此れが香辛料を混ぜ合わせた事で生まれる美味さか!!」
僕はヴォーンが口を開いた瞬間に飛んで来る唾を予感し、カレーの入った鍋を抱えて守りながら逃げる。
喜びは物凄く伝わって来るが、興奮の仕方が尋常ではない。
もしかしたら此の世界にも、もっと南の方に行けば似たようなスパイスを混ぜ合わせて生み出す料理はあるのかも知れないが、少なくともヴォーンは知らない様だ。
「今回は家畜の尾の肉をメインの具にして煮込み料理にしたけれど、調合した香辛料に浸け込んだ肉を焼いた料理なんかもあるよ。此の世界の香辛料で再現すれば、より此の世界の人達の口に合う物に仕上がるんじゃないかな」
僕の言葉にヴォーンは大きく頷いて、残りのカレーをガツガツを食べ出す。
どうやら味だけでなく、彼の料理へのヒントとしても満足戴けた様である。
ヴォーンに食べ尽される前に、僕も少し食べて置こう。
さて、食べ終わった後に何やら空を睨んでブツブツと呟いていたヴォーンが、片付けを終えた僕を呼ぶ。
「オメェさんの料理、堪能させて貰った。いやぁ、面白い料理だった。是非オレも作ってみたい」
目をキラキラと輝かせるヴォーンだが、ドワーフのおっさん顔で目を輝かされても暑苦しいだけである。
でもこんなにも喜んで貰えた事は素直に僕も嬉しかった。
まあ知らずにカレーを食べたなら、其れも当然かなとは思う。
複数のスパイスに具材の旨みが加わって生まれる複雑な味は、味わいだけで立派な娯楽だ。
「でな、考えたんだが、折角オメェさんみたいな心強い助っ人が居るなら、材料にもこだわりてぇと思うんだ」
おや、面倒事の前振りである。
快く引き受けるかは兎も角、聞くだけは聞いてみよう。
彼が求める物が此の世界で手に入る食材ならば、手伝う事はやぶさかじゃない。
「まず肉だが、さっきの料理に倣って、尾の肉を使う。最高級の尾の肉と言えばやっぱりドラゴンテールしかねぇだろう。アレなら竜を殺さずとも手に入るしな」
やぶさかじゃないけれど、でもまさか、行き成りドラゴンの肉を求められるとは思わなかった。
ワイバーンの尾じゃダメなのだろうか?
「駄目に決まってんだろ。ワイバーンの尾は毒があるだろうが! 毒抜きすれば確かに高級食材だが、ドラゴンテールには数段劣る。でな、スパイスだが、先ず世界樹の葉だろ? 次に……」
次々に挙げられる厄介そうな食材の名前を、僕は頭の中にメモして行く。
因みに世界樹の葉は、磨り潰すと激辛の香辛料になるらしい。
なんでも食べさせれば、死人もびっくりして蘇るって伝説がある位の辛さだそうだ。
此の世界の世界樹ってそんなのか……。
辛けりゃ良いって物でもないのだが、まあ少量だけ使うそうなので多分大丈夫だろう。
其れにしてもまさか竜の尾を要求して来るなんて、確実に僕が居なきゃ手に入らないだろう其れを欲しがるって事は、本気でヴォーンは一生僕に食材の調達を頼る気みたいだった。
竜達には大変申し訳ないと思うけれども、まあ命までは取らないのだし、ヴォーンが生きてる間だけだと思って少し泣いて貰おうか。
折角の機会でもあるのだし、この際だから僕も少し、プロに習って料理の腕を磨くとしよう。
此の世界のドワーフの寿命は、人間と然して変わらない。
僕がヴォーンに付き合うのは、そう、ほんの三、四十年の事なのだから。
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