転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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オマケの章2

88 魔界での一日

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 地球でも場所によって時差や季節が違う様に、世界が変われば矢張り時差や、時には一日や一年の長さが大きく違う世界だってある。
 因みに僕の魔界には朝も昼も夜も無いから一日って区別すら曖昧だ。
 基本が何も無い暗黒空間なのだから当然だろう。
 
 でも僕は自分の魔界に居る間、出来るだけ一日に七時間半程度は睡眠を取る様にしている。
 悪魔にとって睡眠は娯楽でしかないけれど、けれどこうやって寝る事に慣れていれば、召喚された際、召喚主に生活のリズムを合わせ易いから。
 なので気持ち的には僕が目覚めた時が朝なのだ。
 そして目が覚めたら、此れも気分の問題なのだが顔を洗って歯を磨く。
 今日はやけに静かである。
 普段なら僕が住処にしてる石造りの塔には誰かしらが居るのだが、皆出払っているのだろうか。

 朝食は、軽くトーストを焼いて齧った。
 此れも悪魔は食事を必要としないので、ちょっと贅沢な娯楽だ。
 うちの陣営にはアニスが居て、定期的に大量の物資を仕入れて来てくれるからこそ、此の魔界でも消費活動が行える。
 まあ僕も普段から収納には意識的に色々と溜め込んでいるが、此れをあまり使うといざって時に困りかねない。
 前回の様に半年間閉じ込められても生活が成り立ったのは、僕の溜め込み癖があったからこそなのだから。


 さて食器を洗えば塔を出る。
 僕が塔から出た途端、入り口で眠っていたベラが顔を上げた。
 駆け寄って来るベラの頭を一つ、まあ元ケルベロスの頭は三つあるので三つ撫で、僕は自分の魔界を歩き出す。
 ベラも後ろをついてくるけど、多分散歩の心算なのだろう。

 向かう先は実験区。
 以前にグレイとイリスが人間だった頃、巧といろはとして魔界に連れて来た事があるが、その時は人間でも此の魔界で生存出来るように環境を調節した。
 けれども大気成分や魔力の濃度等を其のままにするのは、維持にコストが必要だったので、一部の区域以外は元に戻したのだ。
 つまり其の生存可能状態を維持したままの場所が、此れから向かう実験区と言う訳である。
 僕の魔界内なので一瞬で移動する事も容易いが、折角機嫌良くベラが付いて来てくれているのだから、移動は歩く。

 時折ベラに他愛も無い事を話し掛けながら、僕等は環境維持の為の隔離結界を抜け、実験区内へと入った。
 隔離領域内の空は明るく、暖かい。
 どうやら今は実験区域の時間も昼になっている様だ。
 地面にも運んで来た土が敷かれており、人間が住む世界と大体近しい環境に整えてある。
 そして更に進むと到着するのが、僕の一つ目の目的地である畑。

「あ、レプト様! こんにちは、今日も水遣りにいらしてくれたんですか?」
 畑にやって来た僕を出迎えてくれたのは、下級悪魔のシャーレ。
 彼女はグレイの連れて来た魂を僕が悪魔にした子で、元は農村生まれの娘らしい。
 何でそんな娘が悪魔召喚を、と思われるかも知れないが、別に決して珍しい話では無いのだ。
 日照りが続いて水が枯れ、村全体が飢えて死なない為には、密かに伝えられた方法で悪魔を呼び、村人の誰かを生贄にして状況を打破しようとするなんて事は。

 まあその状況で召喚されたグレイが、どうしてシャーレに惚れられたのかはさっぱりわからないが、他人の色恋沙汰を詳しく問いただす気も無いので別に構わない。
 ただ残念ながら彼女は悪魔としての能力はあまり高く無かった。
 そりゃあ普通の農村の娘が、行き成り悪魔になった所で、余程の適正が無ければ上手く行こう筈がないだろう。
 故に僕はこの畑を造り、シャーレに其の管理を任せたのだ。
 悪魔として土地の管理に携わっていれば、何れは其れに適した特性に目覚めるだろうし、その間にゆっくり魔法の訓練も行えるから。

 先程の様な、追い詰められて悪魔に縋る村なんてのは其れこそどんな世界にでもある話なのだから、彼女がそんな召喚に応じるエキスパートになれば良いと僕は思う。
「うん、管理は君任せだから、水遣り位は手伝おうかなってね。そうそう、この前持ち帰った種は芽吹いた?」
 勿論水も、適当に撒けばそれで良いって作物ばかりではないので、シャーレの指示に従って、魔法で散水する。
 一応彼女に対する魔法の見本も兼ねているが、直接指導してしまってはシャーレがグレイに甘える口実を一つ潰してしまう事になるので、聞かれない限りは僕は何も言わない。
 グレイを慕う部下の女悪魔は非常に数が多いので、その辺りには気を遣うのだ。

 一方ベラは畑に入る事無く、地に寝転がって大きな欠伸をしていた。


 水遣りを終えれば次に向かう先は、やはり同じ実験区内の公園である。
 公園と言っても所謂子供の遊び場になる遊具の置かれた公園では無く、自然公園の方がより近いだろうか。
 此処は僕等が訪れた先の世界で、其の世界には居られなくなった、或いは居られなくなるだろうが、排除するには心苦しい存在を一時、或いは長期避難させる領域として開放していた。
 まあ例えば、現代社会の水準近くまで人類の文明が発展してしまった世界で、眠りに付いて居た竜が目覚めれば、互いに不幸しか起こらない。
 別に関わりの無い世界なら知った事では無いのだけれど、事態の打開の為に竜に召喚されてしまえば、僕としては此処への一時移住を勧める。
 尤も竜なんて存在は、生まれたての神代の世界なんかじゃ引く手数多なので直ぐに貰われて行くけれど、そうでない存在だって当然いるのだ。

 此処の管理人は悪魔では無く、年老いた樹精のモーラス老。
 公園は結構広い場所を確保してあるので、全体の把握が出来ているのはモーラス老とヴィラだけだろう。
 僕としてはモーラス老には其のまま悪魔になって貰い公園の管理を続けて欲しいが、勿論其処は彼の意思次第だ。

 流石に広く木々だらけの公園内を徒歩で見回るのは時間を喰うので、僕はベラの背中に乗せて貰って移動する。
 何せ世界に置いておけなかった存在をちょいちょい抱え込んでる場所なので、互いに喧嘩でもされると少し面倒臭い。
 だからこうして定期的に見て回り、威圧って訳じゃ無いけれど、あまり好き勝手にしないよう牽制するのだ。
 住人としての悩み相談を受けるのは、モーラス老の役割なので僕の出る幕じゃないだろう。


 実験区域には他にも、金銀銅等の通貨が使えるちょっとした売店や、喫茶店なんかも設置していて、多分僕の魔界の中でも最も悪魔が集まる場所である。
 此の場所は悪魔達の、特に成り立ての子達の心のケアに役立っていた。
 悪魔になったばかりで暗黒空間でぼんやりしてると、非常に気が滅入るのは僕も体験して知っているから、今後も施設は増やして行きたい。
 必要な物資をどうやって持ち込むかの問題や、此の場所を維持する為のコストの問題は無論ある。
 けれど其れでも、折角此処の住人となった以上は少しでも楽しく暮らして欲しいと、僕は此の魔界の王として思う。
 何故なら僕の幸せは配下の皆に貰った物だから、その幸せは分かち合いたい。

 見回りを終えれば、僕は其のまま塔へと戻る。
 一日付き合ってくれたベラを、礼を言って労い、存分に撫でまわす。
 後は身を清めて夕食を取れば、其れが僕にとっての夜なのだ。
 少しのんびりして時間を潰し、そうして眠りに付くとしよう。
 明日は何をして過ごそうか?
 今日の様に魔界内を見て回っても良いし、他の世界を覗いても良い。
 誰かが戻ってくるかもしれないし、或いは召喚が掛かる可能性だってあった。

 何にせよ、明日を楽しみに眠りに付ける僕は、今日も幸せなのだと思う。
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