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第九章『僕と彼女』
106 十七歳
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学院生と冒険者の二重生活を送りながらの二年間は、僕にとっては充実した日々だったと思う。
学院では週の半分程しか姿を見せず、また時折長期間外出しっぱなしの僕は、良くて変わり者扱い、悪ければ魔術の腕を鼻にかけて学院を軽視していると敵意を向けられたりもしたが、幾人かは親しい友が出来た。
豪商の息子のフューラルや、特待生枠で学院に通う平民のシュレ、公爵家の嫡子のマイトに、王位継承権五位の第四王子であるキュオーサ等。
まあ尤も、その全員と最初から上手くやれた訳じゃ無い。
下級貴族に絡まれてる所を助けたフューラルは最初から好意的だったが、能力を証明し続けなければ立場を維持出来ない特待生のシュレは僕に魔術勝負を挑んで来たのが出会いだ。
マイトはアーネに一目惚れしたらしく、学院で僕のフォローに回る彼女が可哀想だと怒って来て、決闘騒ぎにまでなった。
王位継承権争いで不利な状況にあるキュオーサが近付いて来たのは、少しの好奇心と己の陣営へのスカウト目的だっただろう。
けれどもシュレとは十数度に及ぶ勝負の中で少しずつ親しくなって行く。
正直な話、シュレの才能には少しどころでは無く驚いた。
彼が此のまま成長すれば、紛い物では無い、英雄と呼ばれる存在になるだろう。
シュレとの勝負は、親しくなった後も続いている。
マイトとは決闘の後に、アーネと一緒に少しだけ事情を話した。
僕と彼女はどうしても人目に触れない様にやらなきゃいけない事があって、其の為に僕は外で動き、学院ではアーネがフォローしてくれているのだと。
多分アーネが一緒になって説得してくれたからだろうけれども、マイトは其れ以上聞かずに、学院での僕のフォローに加わってくれる様になり、そしてやがて親しくなったのだ。
マイトにはフォローの礼として、時折異国の食糧品等を土産を持ち帰って渡している。
商人が運んで来る物よりもずっと新鮮な其れ等はマイトを毎回驚かせているが、何も聞かずにその場で懐に収めてくれる彼は本当に良い奴だと思う。
キュオーサに関しては、スカウトの際の彼の喋り方、おどけた口調の中に潜む、焦燥感と捨て鉢さが気になって探りを入れたのが友誼の切っ掛けだ。
無論王位継承争いは命懸けでもあるので、出遅れているキュオーサが焦燥しているのは当たり前なのだが、……少しばかり違和感があった。
探って行く間にわかったのは、キュオーサ自身が強く王座を望むのではなく、王子である以上は王座を得なければならない、勝たねば殺されるしか道は無いと周囲に思い込まされている事。
更に踏み込んで調べれば、王位継承争いを裏で煽る者の存在へと行き付く。
王位継承を裏で煽っていたのは、隣国から嫁いで来た王の側妃と、其の下で動く隣国と関係の深い貴族達。
まあ仮に彼等を隣国派と称するが、隣国派は其れなりに大きな派閥である。
此れを丸ごと排除するのは、単なる学院生の僕には到底かなわないが、しかしキュオーサの目を覚まさせたり、証拠を掴んで父を通じて王へと送る事位は可能だった。
否でも、此の件で活躍したのは、寧ろ僕より彼女だ。
外での活動にかなりの時間を割いてる僕より、王都に関してはアーネの方が耳は早いから。
返り討ちにした隣国派からの刺客の数も、僕より彼女の方が二倍近いから……、素直に負けは認めよう。
此の件を片付けた事で僕とアーネは少し注目を集めてしまったけれど、新たな友であるキュオーサが屈託なく笑える様になったのだから、其れ位はしょうがない。
本来の目的である神性、ミケーヤの捜索も順調に進み、この二年で大陸中を移動した僕は、既に樹海の最奥に在った秘匿された神殿を発見していた。
霊子と魔素を確認した所、神殿の中に隔離領域を確認したので、間違いなくミケーヤはその中で眠ってる。
と言っても発見した所で隔離領域のこじ開けや、更にミケーヤの打倒は、決して容易い事じゃない。
だから僕と彼女は、残された一年をフルに使って、其の為の準備を進める心算だった。
だがもう一つ、大陸中を旅した僕には気になってる事がある。
其れは此の大陸中に高まる戦乱の機運だ。
旅をしていれば色んな情報が集まって来るが、今の此の大陸には、短い期間の間に英雄と呼ばれる人間が次々に現れていた。
実際にその英雄とやらに会って確認した訳では無いけれど、話を聞いた限りの印象では、そのどれもが本物の英雄の資質は持たず、力だけを与えられた紛い物の様に感じられる。
そう、僕が以前に討ち取った、騎馬民族に生まれた英雄と同様に。
無論紛い物であっても、英雄と称される人間はそんなにポコポコと湧いては来ない。
例えば悪魔が干渉を行わない限りは。
英雄もどきの存在の出現は、人の欲に火を付けて、大陸の各地で既に小競り合いは始まっていた。
恐らくミケーヤを唆した黒幕と、英雄もどきを出現させているのは同一の存在である。
その狙いは未だ読めないが、ミケーヤの強化と無関係では無い筈だ。
しかし黒幕への対応は本体に任せるべき案件なので、僕は知り得た情報を手紙に記し、収納へと放り込んで置く。
僕から本体の収納に干渉する事は出来なくとも逆は可能だから、手紙はやがて本体の手に渡って調べてくれるだろう。
敵の狙いに関しても、一応の想像が出来ない訳じゃ無いのだが……。
「どうしたの? ぼんやりとして」
不意に投げ掛けられた彼女の言葉に、僕は我に返る。
二年間を振り返る間に、知らず知らず考えに没頭していたらしい。
僕は何と返事をしようかと少し考え、テーブルの上の皿に盛られたクッキーを一枚口に運ぶ。
「あ、美味しい」
頭の中で纏まりつつあった僕の返事は、サクリとした食感と共に口の中に広がった味に流された。
決して自己主張が強い訳では無いのだけれど、とても優しい甘さで、お茶があれば幾らでも食べれそうな味わいだ。
僕の言葉に、彼女はふんわりと、まるでこのクッキーの様に甘く優しい笑みを浮かべる。
「そう、良かった。貴方こういうの好きでしょう? 焼いてみた甲斐があったわ」
なんて風に彼女は言う。
……多分もう、本体である悪魔王レプトと、人間としての僕、マリアルは大分かけ離れた存在だ。
勿論ミケーヤを倒すって目的に変わりはない。
けれども其の理由は、彼女と生きる此の世界を、ミケーヤに壊されたくないからってのが大部分を占めてる。
マイトだけでなくキュオーサも、アーネに心惹かれてる事は知ってるけれど、僕は絶対に彼女を手放しはしないだろう。
何時か僕が死に、その魂が本体であるレプトの元へと還った時、彼は僕の生きた経験を取り込んで、一体どんな顔をするのだろうか。
決戦の時は、もうそれ程遠くない。
学院では週の半分程しか姿を見せず、また時折長期間外出しっぱなしの僕は、良くて変わり者扱い、悪ければ魔術の腕を鼻にかけて学院を軽視していると敵意を向けられたりもしたが、幾人かは親しい友が出来た。
豪商の息子のフューラルや、特待生枠で学院に通う平民のシュレ、公爵家の嫡子のマイトに、王位継承権五位の第四王子であるキュオーサ等。
まあ尤も、その全員と最初から上手くやれた訳じゃ無い。
下級貴族に絡まれてる所を助けたフューラルは最初から好意的だったが、能力を証明し続けなければ立場を維持出来ない特待生のシュレは僕に魔術勝負を挑んで来たのが出会いだ。
マイトはアーネに一目惚れしたらしく、学院で僕のフォローに回る彼女が可哀想だと怒って来て、決闘騒ぎにまでなった。
王位継承権争いで不利な状況にあるキュオーサが近付いて来たのは、少しの好奇心と己の陣営へのスカウト目的だっただろう。
けれどもシュレとは十数度に及ぶ勝負の中で少しずつ親しくなって行く。
正直な話、シュレの才能には少しどころでは無く驚いた。
彼が此のまま成長すれば、紛い物では無い、英雄と呼ばれる存在になるだろう。
シュレとの勝負は、親しくなった後も続いている。
マイトとは決闘の後に、アーネと一緒に少しだけ事情を話した。
僕と彼女はどうしても人目に触れない様にやらなきゃいけない事があって、其の為に僕は外で動き、学院ではアーネがフォローしてくれているのだと。
多分アーネが一緒になって説得してくれたからだろうけれども、マイトは其れ以上聞かずに、学院での僕のフォローに加わってくれる様になり、そしてやがて親しくなったのだ。
マイトにはフォローの礼として、時折異国の食糧品等を土産を持ち帰って渡している。
商人が運んで来る物よりもずっと新鮮な其れ等はマイトを毎回驚かせているが、何も聞かずにその場で懐に収めてくれる彼は本当に良い奴だと思う。
キュオーサに関しては、スカウトの際の彼の喋り方、おどけた口調の中に潜む、焦燥感と捨て鉢さが気になって探りを入れたのが友誼の切っ掛けだ。
無論王位継承争いは命懸けでもあるので、出遅れているキュオーサが焦燥しているのは当たり前なのだが、……少しばかり違和感があった。
探って行く間にわかったのは、キュオーサ自身が強く王座を望むのではなく、王子である以上は王座を得なければならない、勝たねば殺されるしか道は無いと周囲に思い込まされている事。
更に踏み込んで調べれば、王位継承争いを裏で煽る者の存在へと行き付く。
王位継承を裏で煽っていたのは、隣国から嫁いで来た王の側妃と、其の下で動く隣国と関係の深い貴族達。
まあ仮に彼等を隣国派と称するが、隣国派は其れなりに大きな派閥である。
此れを丸ごと排除するのは、単なる学院生の僕には到底かなわないが、しかしキュオーサの目を覚まさせたり、証拠を掴んで父を通じて王へと送る事位は可能だった。
否でも、此の件で活躍したのは、寧ろ僕より彼女だ。
外での活動にかなりの時間を割いてる僕より、王都に関してはアーネの方が耳は早いから。
返り討ちにした隣国派からの刺客の数も、僕より彼女の方が二倍近いから……、素直に負けは認めよう。
此の件を片付けた事で僕とアーネは少し注目を集めてしまったけれど、新たな友であるキュオーサが屈託なく笑える様になったのだから、其れ位はしょうがない。
本来の目的である神性、ミケーヤの捜索も順調に進み、この二年で大陸中を移動した僕は、既に樹海の最奥に在った秘匿された神殿を発見していた。
霊子と魔素を確認した所、神殿の中に隔離領域を確認したので、間違いなくミケーヤはその中で眠ってる。
と言っても発見した所で隔離領域のこじ開けや、更にミケーヤの打倒は、決して容易い事じゃない。
だから僕と彼女は、残された一年をフルに使って、其の為の準備を進める心算だった。
だがもう一つ、大陸中を旅した僕には気になってる事がある。
其れは此の大陸中に高まる戦乱の機運だ。
旅をしていれば色んな情報が集まって来るが、今の此の大陸には、短い期間の間に英雄と呼ばれる人間が次々に現れていた。
実際にその英雄とやらに会って確認した訳では無いけれど、話を聞いた限りの印象では、そのどれもが本物の英雄の資質は持たず、力だけを与えられた紛い物の様に感じられる。
そう、僕が以前に討ち取った、騎馬民族に生まれた英雄と同様に。
無論紛い物であっても、英雄と称される人間はそんなにポコポコと湧いては来ない。
例えば悪魔が干渉を行わない限りは。
英雄もどきの存在の出現は、人の欲に火を付けて、大陸の各地で既に小競り合いは始まっていた。
恐らくミケーヤを唆した黒幕と、英雄もどきを出現させているのは同一の存在である。
その狙いは未だ読めないが、ミケーヤの強化と無関係では無い筈だ。
しかし黒幕への対応は本体に任せるべき案件なので、僕は知り得た情報を手紙に記し、収納へと放り込んで置く。
僕から本体の収納に干渉する事は出来なくとも逆は可能だから、手紙はやがて本体の手に渡って調べてくれるだろう。
敵の狙いに関しても、一応の想像が出来ない訳じゃ無いのだが……。
「どうしたの? ぼんやりとして」
不意に投げ掛けられた彼女の言葉に、僕は我に返る。
二年間を振り返る間に、知らず知らず考えに没頭していたらしい。
僕は何と返事をしようかと少し考え、テーブルの上の皿に盛られたクッキーを一枚口に運ぶ。
「あ、美味しい」
頭の中で纏まりつつあった僕の返事は、サクリとした食感と共に口の中に広がった味に流された。
決して自己主張が強い訳では無いのだけれど、とても優しい甘さで、お茶があれば幾らでも食べれそうな味わいだ。
僕の言葉に、彼女はふんわりと、まるでこのクッキーの様に甘く優しい笑みを浮かべる。
「そう、良かった。貴方こういうの好きでしょう? 焼いてみた甲斐があったわ」
なんて風に彼女は言う。
……多分もう、本体である悪魔王レプトと、人間としての僕、マリアルは大分かけ離れた存在だ。
勿論ミケーヤを倒すって目的に変わりはない。
けれども其の理由は、彼女と生きる此の世界を、ミケーヤに壊されたくないからってのが大部分を占めてる。
マイトだけでなくキュオーサも、アーネに心惹かれてる事は知ってるけれど、僕は絶対に彼女を手放しはしないだろう。
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