転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第九章『僕と彼女』

108 悪魔王の戦い、鏡が割れる時

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 回廊を覆い尽くすは、幾千幾万の骨の群れ。
 無数の骨の槍を突き刺されて地に伏した巨人を、骨の軍団が踏み越えて行く。
「かははははっ、実に脆いですな。戦いで物を言うのは骨の強さ。諸君等には其れが足りませぬ」
 高笑いを上げているのは、骨の群れの長である序列五位『死の大公』バルザー。
 その高笑いの意味はさっぱり分からないけれど、彼が久方ぶりの悪魔王戦争で高揚している事は良くわかる。
 僕から見たバルザーは実直だが気の良い骨だった。
 けれどもその本質は、『死の大公』の名通りに、戦争を司る悪魔王なのだ。
 バルザーの悪魔軍は、其の兵の全てをバルザーが己を割いて生み出しており、彼の一部と言えるだろう。
 故にバルザーは指先一つの動きで戦場を完全に支配する。
 時にバルザーは、冥府の軍神として畏れ、崇められる事すらあるらしい。

「やあ、ご機嫌だね」
 グレイとイリス、更にヴィラを伴って彼の魔界に現れた僕は、近付く前にバルザーに声を掛ける。
 戦争中の彼に隙なんてある筈が無いので、僕の来訪にもとっくに気付いていただろうけれども、一応の礼儀だ。
 此方を振り向くバルザーの骨の眼窩は虚ろだが、でも僕には彼の発する喜びが感じ取れていた。
「おお、暴虐の。いやいやどうして、虚飾は中々の相手ですな。此れだけの力があるのなら、コソコソとせずに堂々と振る舞えば良かった物を」
 僕と話しながらもバルザーの腕が一振りされると、ザッと彼の軍団は陣形を変えて、出て来る敵に対応して行く。

 今行われている戦争は、『虚飾の鏡』アウルザルを撃滅する為の戦いである。
 悪魔狩りの神性、ミケーヤを唆し強化を企んだ黒幕は、矢張りアウルザルだった。
 強引な強化を施し、尚且つミケーヤの守護する世界を、その世界の住人自身に大きく破壊させる事で、神性としての在り方を変えて世界の軛から解き放つ。
 そうして生まれる対不滅存在用の兵器を、グラーゼンを盟主とする同盟にぶつけるのが、アウルザルの計画だったそうだ。

 しかし今回はその計画を偶然天使の一派、それも幸いにも穏健派に属する者が察知し、対不滅存在用の兵器に対処する為、僕等に一時的な同盟を持ち掛けた。
 今頃は、僕の一部から生み出した化身と、穏健派天使の長の化身が一緒にミケーヤへと挑んでいるだろう。
 強引な強化を施された神性は、完全に其れが完了する前は寧ろ弱っていると予測される。
 人間である化身達でも、準備を万全に整えた以上は、充分な勝ち目がある筈だ。
 勿論黒幕であるアウルザルの介入が無ければの話だが。

 尤も複数の悪魔王に同時に攻められているアウルザルに、彼方側に介入する余裕などあろう筈がない。
 化身達の動きに合わせて、僕等もまた動いているのだ。
 黒幕が悪魔王であった以上、其方の始末に天使の手は無用である。

 アウルザルと同盟を組んでいたらしい他の悪魔王等が救援にやっては来たけれど、其方には序列四位『幾千万の子を産みし母』シュティアールと、序列十二位『不出来な暴食』マーマールが対処に当たっていた。
 シュティアール自身の力は、同盟に属する悪魔王の中では然程強い方では無い。
 けれども彼女の真価は、生みし子等が成す軍団にある。
 シュティアールの軍団数は、同盟内ではグラーゼンを除けば最多の八十五軍団。
 そして其れを率いる幹部格の高位悪魔は、彼女が他の悪魔王等の間に創った子供達だ。
 其の力は強大で、木っ端な悪魔王如きでは到底相手にならないだろう。
 シュティアールがバルザーよりも高い序列に居るのは、決して伊達では無い。 

 では序列の最も低い、十二位のマーマールはどうなのか。
 彼女が序列を最下位に置かれている理由は、マーマールが只の一人も己の配下を持たぬが故である。
 否、正確には持てないのだ。
 何故なら、マーマールが己の配下を生み出した所で、其の配下は直ぐに彼女に食べられてしまうから。
 其れも配下自身から食べられる事を望んで。
 一見幼い少女の様にしか見えないマーマールは、その実は、誰よりも化け物と呼ばれるに相応しい存在だった。

 僕の知る限り、マーマールに最も近しい存在は、バルザーの魔界に封じられた『アレ』である。
 他の次元より飛来した概念体が、一つの世界を喰らい尽して出来上がってしまったアレ。
 バルザーも同じ見解の様だが、恐らくマーマールは、アレの元となった概念体が、此の次元に生まれたモノなのだろう。
 まあ其れでも、マーマールは僕の友達なのだけれども。

 ……マーマールがグラーゼンの同盟に属するにあたって、望んだ条件は一つ。
『自分に食べられてしまわない友達が欲しい』
 と言う、とても可愛らしい物だった。
 マーマールは無意識に周囲を喰らってしまう。生み出した配下は、自分から彼女の中に戻りたがる。
 故に生まれてからずっと、マーマールは孤独だったのだ。
 実際、マーマールと常に傍に居ても食われずに済むだろう相手は、僕やグラーゼン位だろう。
 シュティアールは母性故に、孤独なマーマールを気にかけている様だが、彼女では寄り添うだけの力が足りない。
 マーマールが自分から噛み付こうとするのは僕やグラーゼンに対してのみ。
 食べてしまう心配が絶対にない相手だと理解しての、彼女なりの甘え方なのだ。

 僕とグラーゼンは、時折マーマールの魔界へと遊びに行く。
 其処で茶を飲み、料理を食べさせ、ゆっくりと過ごす。
 茶器や皿は食べ物では無く、中身のみを食べる様に言い聞かせながら。
 その甲斐あってか、永い時を必要とはしたが、マーマールは徐々に己の食べる力、本能を制御出来る様になりつつある。
 二つ名である『不出来な暴食』が別の名に変わる日も、きっとそう遠くない。

 だが力の制御には其れなりのストレスもある様で、時には発散する必要もあった。 
 今日の彼女には、敵は存分に喰らい尽しても構わないと言い聞かせてある。
 今頃は、彼女に相対した悪魔王は、全てを貪り食われる恐怖を思い知ってる事だろう。


「そろそろですな」
 バルザーがポツリと呟いた。
 冥府の軍神とさえ呼ばれる彼なのだ。
 戦いの潮目を見逃そう筈は無い。
 真っ当に戦えば、バルザーがアウルザルに負ける事は無いだろう。
 しかしアウルザルの性格からして、盤面をひっくり返す為の切り札位は当然用意してる筈だ。
 だからこそ、僕は此処に居る。
 グラーゼンの同盟に参加する十二の悪魔王の中で、アウルザルに最も性質が近いだろう僕が。

「ヴィラ、観測と分析を開始して。グレイとイリスは僕の増幅準備を。カウンター掛けるよ」
 確かに言われてみれば、バルザーの言葉通りに敵の雰囲気が少しばかり変化していた。
 この局面で相手が打って来そうな手の方向性は、おおよその想像は付く。
 相手の手を一つ一つ潰して、確実に詰めて行こう。
 随分と色々と動き回ってくれたけれども、虚飾の鏡が割れる時は、もうそう遠くない。

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