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44 黄金の魔王
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幻想魔術の力で空を飛びながら、大地を埋め尽くすパルミラ人類国軍を見下ろす。
総数十万。
口にするのは簡単だったが、いざ実際目の当たりにすると、やはりその数には些か圧倒されそうになる。
此れが東の人間領の全力かと思うと、少しばかり心が沸き立つ。思わず正面から挑みたくなってしまう。
だがそれは許されない。
流石の我も、旗手の勇者に率いられた十万の軍勢にはまともにやれば恐らく勝ち目は薄いのだ。
まあそれでも、一応二つほど勝てる手段は考えてあった。
空を飛ぶ我を見付けたのだろう。眼下の軍勢が俄かに騒がしくなって来る。
折角見つけてくれたのだから、キチンと名乗るのが礼儀だろう。
「勇者とパルミラ人類国軍の諸君、我は魔王、魔王アシールである」
声に魔力を乗せて全員に届く様に名乗ってやれば、驚き、戸惑い、そして敵意の感情が十万の軍勢より我に向けられた。
ああ、悪くない。
あそこに居るのが勇者だろうか。
「命が惜しくば帰れ等と野暮は言わぬ。勇者が出向いて来たのだから、魔王として見逃す事等出来はせぬ。此処で確実に命を貰おう」
我が言葉に不敵に笑んだ勇者の指示で、十万の軍勢が一斉に戦闘準備を整えた。
兵等の練度の高さと、象徴たる勇者の力が見て取れるその動きに思わず瞠目する。
……けれども、其れでも無意味だ。
我がこの位置に辿り着いた時点で、既に勝敗は決していた。
十万の軍勢に勝つ方法の一つは、『貯金』で溜め込んだ我が魔力だ。
ダンジョンであるラビスに魔力を注げば、大量の魔物を生み出せる。其れこそスタンピードが問題じゃ無いほどに大量の魔物を。
ラビスの入り口を敵軍近くに移動させ、大量の魔力を溢れさせ続ければ、例え強化された十万の兵であろうとも押し潰す事は容易だろう。
しかし今回、我はその方法を選ばない。
相手に勇者が居たからだ。我は勇者をこの目で確認しておきたかった。
この先幾度と無く戦うであろう、その存在を。
敵が総攻撃を仕掛ける前に、我が手を一振りすると、チャリチャリチャリンと十万の兵士目掛けて金貨の雨が降る。
「なんだ?」「き、金貨だ!」「本物だぞ!」
驚き、戸惑い、そして大きな喜び。
降ってきた金貨を受け止めた兵士等が、本物であることを確認して歓声を上げた。
殺すと殺害を宣言しながらも金貨を降らした我の行動に疑問を抱いた勇者が司令官達は、兵士等に金貨に触れるなと指示を出してる様子だが、まあ無理だろう。
金があれば食糧が買える。金があれば家族を養える。金があれば欲望の多くが満たせる。金があれば人は攻めよりも守りに入る。
金があれば無駄な危険を侵す必要は無い。
金貨の輝きは、人の心を惑わす魔力を秘めていた。
尤も、例え惑わされずとも空から雨の如く降る金貨の全てを避ける事なんて出来やしないのだけど。
さて、好評の様なのでもう一度手を振れば、金貨の出現量が増す。
先程までが小雨だったのが、今は普通の雨程度の量の金貨が降って居た。
この量の金貨になれば、当たれば少し痛いだろう。
金貨の重さは一枚おおよそ十グラム。百枚で一キロ、千枚で十キロ、万枚で百キロ、十万枚で一トンだ。
例え勇者の力で強化を受けていたとしても、一トンの重さを受け止めれば人間は潰れ死ぬ。
一人の兵士は金貨百万枚で殺せる。では十万人の兵士を殺すには?
更に一度我が手を振れば、金貨の量が雨から滝へと変わった。
そう、十万人のパルミラ人類国軍に勝つもう一つの手段とは『貯金』で溜め込んだ金貨の重みでの圧殺である。
十万人の軍勢は百億枚の金貨で殺せるのだ。
そしてこの金貨も、我が魔王銀行に溜め込んだ総量から比べれば、ほんの一欠けらに過ぎない。
……一トン位じゃ死なない人間も居るかも知れないので、念の為、百倍程度の金貨は撒いて置こう。
百倍強い人間は、もしかしたら居るかもしれないし。
地を埋め尽くしていた人間の軍勢の姿はもう存在しない。
視界内を満たすのは、黄金色の輝きのみだ。金貨の山、海、或いは大地と表現すべきか。
術を操り、金貨の大地へと降り立つ。
埋もれた人間達はほぼ全てが死んだだろう。勇者であろうと例外では無い。
特に旗手の勇者は、己自身が強い訳では無いのだから。
端に居た者は生き残ったかも知れないが、態々それを追いかけまわす趣味は我には無い。
その者は運が良かったのだろう。抱えれるだけの金貨を抱え、逃げたい所へ逃げれば良い。
足元の金貨に手を伸ばし、
「貯金」
一言呟く。
すると金貨はまるで我の掌に吸い込まれる様に収納されて行き、そして一枚残らず消えた。
後に残るは、大地を染めた赤黒い染み。
この日より我は、人間共から黄金の魔王と呼ばれ、恐れられる事になる。
総数十万。
口にするのは簡単だったが、いざ実際目の当たりにすると、やはりその数には些か圧倒されそうになる。
此れが東の人間領の全力かと思うと、少しばかり心が沸き立つ。思わず正面から挑みたくなってしまう。
だがそれは許されない。
流石の我も、旗手の勇者に率いられた十万の軍勢にはまともにやれば恐らく勝ち目は薄いのだ。
まあそれでも、一応二つほど勝てる手段は考えてあった。
空を飛ぶ我を見付けたのだろう。眼下の軍勢が俄かに騒がしくなって来る。
折角見つけてくれたのだから、キチンと名乗るのが礼儀だろう。
「勇者とパルミラ人類国軍の諸君、我は魔王、魔王アシールである」
声に魔力を乗せて全員に届く様に名乗ってやれば、驚き、戸惑い、そして敵意の感情が十万の軍勢より我に向けられた。
ああ、悪くない。
あそこに居るのが勇者だろうか。
「命が惜しくば帰れ等と野暮は言わぬ。勇者が出向いて来たのだから、魔王として見逃す事等出来はせぬ。此処で確実に命を貰おう」
我が言葉に不敵に笑んだ勇者の指示で、十万の軍勢が一斉に戦闘準備を整えた。
兵等の練度の高さと、象徴たる勇者の力が見て取れるその動きに思わず瞠目する。
……けれども、其れでも無意味だ。
我がこの位置に辿り着いた時点で、既に勝敗は決していた。
十万の軍勢に勝つ方法の一つは、『貯金』で溜め込んだ我が魔力だ。
ダンジョンであるラビスに魔力を注げば、大量の魔物を生み出せる。其れこそスタンピードが問題じゃ無いほどに大量の魔物を。
ラビスの入り口を敵軍近くに移動させ、大量の魔力を溢れさせ続ければ、例え強化された十万の兵であろうとも押し潰す事は容易だろう。
しかし今回、我はその方法を選ばない。
相手に勇者が居たからだ。我は勇者をこの目で確認しておきたかった。
この先幾度と無く戦うであろう、その存在を。
敵が総攻撃を仕掛ける前に、我が手を一振りすると、チャリチャリチャリンと十万の兵士目掛けて金貨の雨が降る。
「なんだ?」「き、金貨だ!」「本物だぞ!」
驚き、戸惑い、そして大きな喜び。
降ってきた金貨を受け止めた兵士等が、本物であることを確認して歓声を上げた。
殺すと殺害を宣言しながらも金貨を降らした我の行動に疑問を抱いた勇者が司令官達は、兵士等に金貨に触れるなと指示を出してる様子だが、まあ無理だろう。
金があれば食糧が買える。金があれば家族を養える。金があれば欲望の多くが満たせる。金があれば人は攻めよりも守りに入る。
金があれば無駄な危険を侵す必要は無い。
金貨の輝きは、人の心を惑わす魔力を秘めていた。
尤も、例え惑わされずとも空から雨の如く降る金貨の全てを避ける事なんて出来やしないのだけど。
さて、好評の様なのでもう一度手を振れば、金貨の出現量が増す。
先程までが小雨だったのが、今は普通の雨程度の量の金貨が降って居た。
この量の金貨になれば、当たれば少し痛いだろう。
金貨の重さは一枚おおよそ十グラム。百枚で一キロ、千枚で十キロ、万枚で百キロ、十万枚で一トンだ。
例え勇者の力で強化を受けていたとしても、一トンの重さを受け止めれば人間は潰れ死ぬ。
一人の兵士は金貨百万枚で殺せる。では十万人の兵士を殺すには?
更に一度我が手を振れば、金貨の量が雨から滝へと変わった。
そう、十万人のパルミラ人類国軍に勝つもう一つの手段とは『貯金』で溜め込んだ金貨の重みでの圧殺である。
十万人の軍勢は百億枚の金貨で殺せるのだ。
そしてこの金貨も、我が魔王銀行に溜め込んだ総量から比べれば、ほんの一欠けらに過ぎない。
……一トン位じゃ死なない人間も居るかも知れないので、念の為、百倍程度の金貨は撒いて置こう。
百倍強い人間は、もしかしたら居るかもしれないし。
地を埋め尽くしていた人間の軍勢の姿はもう存在しない。
視界内を満たすのは、黄金色の輝きのみだ。金貨の山、海、或いは大地と表現すべきか。
術を操り、金貨の大地へと降り立つ。
埋もれた人間達はほぼ全てが死んだだろう。勇者であろうと例外では無い。
特に旗手の勇者は、己自身が強い訳では無いのだから。
端に居た者は生き残ったかも知れないが、態々それを追いかけまわす趣味は我には無い。
その者は運が良かったのだろう。抱えれるだけの金貨を抱え、逃げたい所へ逃げれば良い。
足元の金貨に手を伸ばし、
「貯金」
一言呟く。
すると金貨はまるで我の掌に吸い込まれる様に収納されて行き、そして一枚残らず消えた。
後に残るは、大地を染めた赤黒い染み。
この日より我は、人間共から黄金の魔王と呼ばれ、恐れられる事になる。
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