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魔術と階級
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二千年前のある日、人類は不思議な力を手にした。
全ての人類に与えられた力を、人々は「魔術」と呼んだ。
灯りや熱を与える炎の魔術、身体を清めたり喉を潤す水の魔術、重いものを運んだり濡れたものを早く乾かす風の魔術。
生活に欠かせない3つの魔術を使い分けて、人々は不便を便利に変えて過ごしていた。
赤ん坊の頃に魔術テストを病院で受けて、魔術の強さを調べる事は義務付けられている。
そして3段階に分けられて、赤ん坊の頃から人生の半分は決まる事になる。
「強い」か「弱い」か「それ以外」か。
生活に必要な魔術の強さは1番下である「Aランク」の階級の人なら誰でも使える。
人類は皆、このAランク以上の魔術を必ず持っている。
Aランクの人達の人生は、心配もなく1番安定していると言われている。
庶民と呼ばれるAランクが1番人の数が多く、次の階級は「AAランク」と呼ばれる人達だ。
生活に使うほどの力しか持っていないAランクとは違い、AAランクは人と戦う力を持つ人がなる階級。
騎士と呼ばれた人達は、国を守る為に立ち上がり魔術で国民を守っている。
AAランクの魔術を持つ人達は、その力を国の為に使わなくてはならない。
命までも国に忠誠を誓う、Aランクの生活は決して望めない。
他と魔術が強いだけで命を捨てる覚悟をしなくてはいけない、しかし救いがないわけではない。
AAランクよりも上である「Sランク」になれば騎士にならなくても良くなる。
Sランクは貴族と呼ばれる人達で、魔術はAAランクと同じ。
ただ、貴族というだけで騎士よりも立場が上になる。
「騎士になりたくなければ貴族になれ」、この階級を決めた始祖の有名な言葉だ。
どの国でも階級やこの言葉は共通していて、人々の常識だ。
国の王様も貴族と同じSランクと言われている。
この世界では、地位よりも魔術によって変わっていく。
そして、その貴族よりも上の階級が存在していた。
それが「SSランク」と呼ばれる、AAランクよりも上の魔術を持った人達。
何百人もの人達が住まう1つの国に両手で数えるほどしか居ない力ある者は貴族とか関係なく、騎士団に入る。
SSランクに選ばれた人達は、騎士団に入りたくないという気持ちは1人も抱かなかった。
赤ん坊の頃から騎士になるために教育を受けて、国のために尽くす事が当たり前になっているからSSランクはその力で国を守ってきていた。
SSランクの人達のおかげで国は今も平和なんだ。
そして、そのSSランクの中でも特別な存在がいる。
全ての国は敵国から身を守るために、大きな結界を張っている。
とても強い結界はSSランクの人達が束になっても破る事が出来ない。
その結界は国の心臓部にあり、コアと呼ばれている。
コアは人が抱えきれないほどの魔力を持ち、コアを破壊された時、その国は一瞬にして滅びる力も持っている。
SSランクですらコアに触れる事が出来ないが、たった一人だけ触れる事が許された人物がいる。
コアの力を受け入れる器を持つ、特別な人が各国に存在する。
SSランクの人達から選ばれるその人は、命が尽きるまでコアの力を瞳に宿し、コアを守っている。
彼らを人々は神のように崇め、尊敬の眼差しを向けている。
正式な階級ではないが、いつしか誰かが呼んだ「Zランク」という言葉が他の国まで広まっていった。
終わりと最後の切り札という意味がある名は、特別な選ばれし者に相応しいのかもしれない。
この世界には東・西・南・北・中央の五つの国がある。
特別はそれぞれの国に一人いて、他の国のコアを破壊できるのもZランクだけだ。
他の騎士達はサポートをするために、共に戦場に立っていた。
今から3年前、1番大きな中央の国は危険な状態にあった。
他の国は1番大きな中央の国のコアを破壊して、自分達の国にすればさらに大きな国へと成長して、この世界で1番の権力を持つだろう。
今までにも何処かの国がコアを破壊しようと攻めてきた事が何度もあった。
中央にあるから、どの国とも距離が近くて簡単に手に入ると思っていたのだろう。
しかし大きな国だけあり、SSランクの人達の数が他の国よりも多くて中央の国は守られてきた。
しかし、あの日…他の4つの国が手を組んで中央の国に攻め入る計画を立てていた。
仲が悪い敵同士の国をどう丸め込んだのかは分からないが、まずは中央の国のコアを破壊しようと思ったのだろう。
その後は他の国同士の争いが始まるが、中央の国にとっては今が大変な時だった。
いくら中央の国のSSランクの騎士が多くても、4つの国の騎士が合わされば勝ち目なんてなかった。
負ける戦いだと分かっていても、行かなくてはいけない…行かなければ攻め入られてコアを破壊される。
国を滅ぼされたら、自分達も死んでしまうから震える足を引きずりながら戦場へと向かった。
「それで、どうしたの?負けちゃった?」
「負けてたら、この孤児院もなくなってるかな」
アイザックは身を乗り出して話に割り込んできた子供に答えていた。
勉強を小さな子供にも分かりやすいように、手作りの絵本で話してくれた。
決して上手い絵ではないが、俺もすんなり入ってきた。
勉強はAランクの魔術くらいの知識しかなかったから知らなかった。
母も俺もAランクだから、勉強しなくても日常的な事は分かっていた。
でも、やっぱり歴史とか階級とか知らないとな、何処で役立つか分からない。
周りの子供達は早くしろと言って急かしていた。
遮られたアイザックはわざとらしい咳払いをして、絵本を捲って続けた。
「負ける戦いに、国民達も死を覚悟しました…何処に逃げても他国に中央の国出身だと知られると殺される…ならいっその事コアと共に散る事を考えていた」
またページが捲られて、そこにいたのは黒い髪の人だった。
目が赤くなっていて、アイザックの絵だからか不気味に思えた。
実話だからそう思っちゃいけないんだけど、どうしてアイザックはホラー漫画みたいな絵の描き方をしているんだろう。
子供用の絵本のように作ってるから、グロテスクな場面は描いていないのに、なんでそう思うのか不思議だ。
アイザックは話に合わせて、大袈裟にリアクションをしている。
祈るように両手を合わせて、天井を見上げている。
周りの不満な声には全く聞こえていないんだろう。
俺もちょっとリアクションがうるさいな…と思っても、続きが気になるから黙って聞いた。
「たった一人だけ、帰ってきた騎士がいました…彼は確かに中央の国の騎士だった」
1番の最年少で戦場に立った5歳の少年は、騎士の服を赤く染めて歩いていた。
逃げ帰っても仕方ない年齢だと、彼を責める人は誰1人いなかった。
きっと責めても最悪な状況は変わらないと分かっていたからだ。
しかし、いくら待っても敵国が攻め入る気配はなかった。
まさかと思った国に残っていた騎士が生き残った少年の姿を見つめていた。
彼の瞳には、中央の国のコアと同じ緋色に染まっていた。
新しい中央の国のZランクは5歳の少年となった。
そして彼は、他の国の大勢いたSSランクの騎士達をたった1人で全滅させた。
「それからあの方の噂は全国に広まり、中央の国は3年間敵の攻撃を受けることなく平和なんだよ」
5歳というと、今は8歳か…歳が分からないのに俺とは大違いだな。
今日の勉強会は終わり、子供達は座っていた足を立たせて自由に時間を過ごしていた。
孤児院に来てからまだ数日しか経ってないけど、友達も出来て馴染んできた頃だ。
友達に庭で遊ぼうと誘われて、付いて行こうとした。
その時、誰かの声が聞こえてそちらに視線を向けた。
3人の体格がバラバラの子供達が大笑いしていた。
なにかを見ていて、なにが面白いのか分からず視線を追ってみた。
床に伏せている子がいて、リーダーのような目つきの悪い子供が持っていたゴミ箱をその子の上にひっくり返した。
「さっさといなくなれよ、厄災の子」
「お前がいなくても誰も困んねぇよ!だから両親に…」
「おい!やめろ!」
イジメなんて、そんなダサい事に我慢できなくて割って入った。
3人は突然入ってきた俺に驚いていたが、すぐに睨みつけてきた。
元は大人だからか、どんなに子供に睨まれても全然怖くない。
俺は後ろにいる少年の前にしゃがんで、ゴミを取る。
片目が銀色の前髪で隠れている、不思議な雰囲気の子だった。
全ての人類に与えられた力を、人々は「魔術」と呼んだ。
灯りや熱を与える炎の魔術、身体を清めたり喉を潤す水の魔術、重いものを運んだり濡れたものを早く乾かす風の魔術。
生活に欠かせない3つの魔術を使い分けて、人々は不便を便利に変えて過ごしていた。
赤ん坊の頃に魔術テストを病院で受けて、魔術の強さを調べる事は義務付けられている。
そして3段階に分けられて、赤ん坊の頃から人生の半分は決まる事になる。
「強い」か「弱い」か「それ以外」か。
生活に必要な魔術の強さは1番下である「Aランク」の階級の人なら誰でも使える。
人類は皆、このAランク以上の魔術を必ず持っている。
Aランクの人達の人生は、心配もなく1番安定していると言われている。
庶民と呼ばれるAランクが1番人の数が多く、次の階級は「AAランク」と呼ばれる人達だ。
生活に使うほどの力しか持っていないAランクとは違い、AAランクは人と戦う力を持つ人がなる階級。
騎士と呼ばれた人達は、国を守る為に立ち上がり魔術で国民を守っている。
AAランクの魔術を持つ人達は、その力を国の為に使わなくてはならない。
命までも国に忠誠を誓う、Aランクの生活は決して望めない。
他と魔術が強いだけで命を捨てる覚悟をしなくてはいけない、しかし救いがないわけではない。
AAランクよりも上である「Sランク」になれば騎士にならなくても良くなる。
Sランクは貴族と呼ばれる人達で、魔術はAAランクと同じ。
ただ、貴族というだけで騎士よりも立場が上になる。
「騎士になりたくなければ貴族になれ」、この階級を決めた始祖の有名な言葉だ。
どの国でも階級やこの言葉は共通していて、人々の常識だ。
国の王様も貴族と同じSランクと言われている。
この世界では、地位よりも魔術によって変わっていく。
そして、その貴族よりも上の階級が存在していた。
それが「SSランク」と呼ばれる、AAランクよりも上の魔術を持った人達。
何百人もの人達が住まう1つの国に両手で数えるほどしか居ない力ある者は貴族とか関係なく、騎士団に入る。
SSランクに選ばれた人達は、騎士団に入りたくないという気持ちは1人も抱かなかった。
赤ん坊の頃から騎士になるために教育を受けて、国のために尽くす事が当たり前になっているからSSランクはその力で国を守ってきていた。
SSランクの人達のおかげで国は今も平和なんだ。
そして、そのSSランクの中でも特別な存在がいる。
全ての国は敵国から身を守るために、大きな結界を張っている。
とても強い結界はSSランクの人達が束になっても破る事が出来ない。
その結界は国の心臓部にあり、コアと呼ばれている。
コアは人が抱えきれないほどの魔力を持ち、コアを破壊された時、その国は一瞬にして滅びる力も持っている。
SSランクですらコアに触れる事が出来ないが、たった一人だけ触れる事が許された人物がいる。
コアの力を受け入れる器を持つ、特別な人が各国に存在する。
SSランクの人達から選ばれるその人は、命が尽きるまでコアの力を瞳に宿し、コアを守っている。
彼らを人々は神のように崇め、尊敬の眼差しを向けている。
正式な階級ではないが、いつしか誰かが呼んだ「Zランク」という言葉が他の国まで広まっていった。
終わりと最後の切り札という意味がある名は、特別な選ばれし者に相応しいのかもしれない。
この世界には東・西・南・北・中央の五つの国がある。
特別はそれぞれの国に一人いて、他の国のコアを破壊できるのもZランクだけだ。
他の騎士達はサポートをするために、共に戦場に立っていた。
今から3年前、1番大きな中央の国は危険な状態にあった。
他の国は1番大きな中央の国のコアを破壊して、自分達の国にすればさらに大きな国へと成長して、この世界で1番の権力を持つだろう。
今までにも何処かの国がコアを破壊しようと攻めてきた事が何度もあった。
中央にあるから、どの国とも距離が近くて簡単に手に入ると思っていたのだろう。
しかし大きな国だけあり、SSランクの人達の数が他の国よりも多くて中央の国は守られてきた。
しかし、あの日…他の4つの国が手を組んで中央の国に攻め入る計画を立てていた。
仲が悪い敵同士の国をどう丸め込んだのかは分からないが、まずは中央の国のコアを破壊しようと思ったのだろう。
その後は他の国同士の争いが始まるが、中央の国にとっては今が大変な時だった。
いくら中央の国のSSランクの騎士が多くても、4つの国の騎士が合わされば勝ち目なんてなかった。
負ける戦いだと分かっていても、行かなくてはいけない…行かなければ攻め入られてコアを破壊される。
国を滅ぼされたら、自分達も死んでしまうから震える足を引きずりながら戦場へと向かった。
「それで、どうしたの?負けちゃった?」
「負けてたら、この孤児院もなくなってるかな」
アイザックは身を乗り出して話に割り込んできた子供に答えていた。
勉強を小さな子供にも分かりやすいように、手作りの絵本で話してくれた。
決して上手い絵ではないが、俺もすんなり入ってきた。
勉強はAランクの魔術くらいの知識しかなかったから知らなかった。
母も俺もAランクだから、勉強しなくても日常的な事は分かっていた。
でも、やっぱり歴史とか階級とか知らないとな、何処で役立つか分からない。
周りの子供達は早くしろと言って急かしていた。
遮られたアイザックはわざとらしい咳払いをして、絵本を捲って続けた。
「負ける戦いに、国民達も死を覚悟しました…何処に逃げても他国に中央の国出身だと知られると殺される…ならいっその事コアと共に散る事を考えていた」
またページが捲られて、そこにいたのは黒い髪の人だった。
目が赤くなっていて、アイザックの絵だからか不気味に思えた。
実話だからそう思っちゃいけないんだけど、どうしてアイザックはホラー漫画みたいな絵の描き方をしているんだろう。
子供用の絵本のように作ってるから、グロテスクな場面は描いていないのに、なんでそう思うのか不思議だ。
アイザックは話に合わせて、大袈裟にリアクションをしている。
祈るように両手を合わせて、天井を見上げている。
周りの不満な声には全く聞こえていないんだろう。
俺もちょっとリアクションがうるさいな…と思っても、続きが気になるから黙って聞いた。
「たった一人だけ、帰ってきた騎士がいました…彼は確かに中央の国の騎士だった」
1番の最年少で戦場に立った5歳の少年は、騎士の服を赤く染めて歩いていた。
逃げ帰っても仕方ない年齢だと、彼を責める人は誰1人いなかった。
きっと責めても最悪な状況は変わらないと分かっていたからだ。
しかし、いくら待っても敵国が攻め入る気配はなかった。
まさかと思った国に残っていた騎士が生き残った少年の姿を見つめていた。
彼の瞳には、中央の国のコアと同じ緋色に染まっていた。
新しい中央の国のZランクは5歳の少年となった。
そして彼は、他の国の大勢いたSSランクの騎士達をたった1人で全滅させた。
「それからあの方の噂は全国に広まり、中央の国は3年間敵の攻撃を受けることなく平和なんだよ」
5歳というと、今は8歳か…歳が分からないのに俺とは大違いだな。
今日の勉強会は終わり、子供達は座っていた足を立たせて自由に時間を過ごしていた。
孤児院に来てからまだ数日しか経ってないけど、友達も出来て馴染んできた頃だ。
友達に庭で遊ぼうと誘われて、付いて行こうとした。
その時、誰かの声が聞こえてそちらに視線を向けた。
3人の体格がバラバラの子供達が大笑いしていた。
なにかを見ていて、なにが面白いのか分からず視線を追ってみた。
床に伏せている子がいて、リーダーのような目つきの悪い子供が持っていたゴミ箱をその子の上にひっくり返した。
「さっさといなくなれよ、厄災の子」
「お前がいなくても誰も困んねぇよ!だから両親に…」
「おい!やめろ!」
イジメなんて、そんなダサい事に我慢できなくて割って入った。
3人は突然入ってきた俺に驚いていたが、すぐに睨みつけてきた。
元は大人だからか、どんなに子供に睨まれても全然怖くない。
俺は後ろにいる少年の前にしゃがんで、ゴミを取る。
片目が銀色の前髪で隠れている、不思議な雰囲気の子だった。
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