悪役貴族と緋色の騎士

MIMO

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マザーに手を引かれて、応接室と書かれた部屋の前に立った。

特別な日にしか入れないと言われていたから、孤児院にいる子はまだ誰も入った事はない。
今日がその特別な日ということなのだろうか。

マザーを見上げると、いつものように優しい顔は何処にもなかった。
怖い顔をして、応接室の扉を見つめていた。

マザーの顔からして、特別な日は楽しいものではない事が分かる。
扉を数回ノックをして、中に入った。

向かい合わせに置かれたソファーにはアイザックとフレイの兄妹が先に来て座っていた。
マザーの顔を見て慌てて立ち上がった。

2人だけじゃない、もう1人ソファーに座っている人が見えた。
強面の顔に大柄で、高そうな貴族の服を着ている男性が俺の方をまっすぐ見つめていた。
その瞳はまるで品定めをするように、足のつま先から頭のてっぺんまでジロジロ見られて、いい気はしない。

思わずマザーの後ろに隠れて避難しようと思ったけど、背中を押されて無理矢理男性の前に立った。

ソファーから立ち上がると、さらに大きく見える姿に息をするのも忘れるほどに身体を硬直させた。
男性はしゃがんで俺と目線を合わしてきた。

なんだろう、俺になにか用なのか?こんな人知らない。

「君はお母さんにそっくりだ」

「……えっ」

「お母さんに頼まれて、君を引き取りにきたんだ」

男性はそう言うと、俺に向かって手を伸ばしてきた。

条件反射で1歩後ろに下がったが、男性は気にしていない様子だった。
母に頼まれたんなら、母の知り合いって事なのか?
確かに俺は母が迎えに来てくれるのを待っていた、でも…なんで知らない人が迎えに来るんだ?

この人には悪いけど、信用出来ない…まだ何も証拠を見せてもらっていない。

母と知り合いなら、1つくらい証拠がある筈だ。

「証拠は?」

「コラ!シャルロット!失礼ですよ!」

アイザックがいつもと違う敬語で怒っていて、違和感でしかない。
アイザック達が頭が上がらない人という事は貴族のSランクか。

ますます知らない、俺達家族はAランクだったんだから…

不信感ばかりが増えていき、この人に苦手意識が芽生えてくる。
男性に謝るアイザック達に「子供の言う事ですから」と言っていた。
口元に笑みを浮かべているが、目は冷たく笑っていなかった。

男性は持っていたカバンから紙を取り出して、俺に見せてきた。

この世界には写真は存在しないが、子供が生まれた時に記念として絵を描いて記念にする人が多い。
両親は同じ絵をお守りのように持っているのを子供の時見た事がある。

それはその時に描くから後から複製してもオリジナルには適わず、別人の顔になってしまう。
だからこれは母が持っていた俺が生まれた時病院で描いた絵そのものだった。

「君のお母さんに借りたんだ、君もこれで信じるからと」

「……本当に、お母さんが?」

「君のお父さんも早く会いたがっていたよ、でも会う前にいろいろしてもらわなくてはいけないんだ」

俺の父はあの嵐の日の数日前から家に帰ってきていない。
元々あちこち飛び回る仕事をしていたから、俺と母の2人暮らしのようにいつも思っていた。

会えないのは寂しかったが、いつの間にか慣れてしまっていた。

絵の中では、両親が赤ん坊の俺を優しく見つめている。

父にも会えるなら、会いたい。

久しぶりに見た両親の姿に気持ちが溢れてくる。
孤児院の人達も大切で家族だ、だけど…本当の家族も俺にとって大切だ。

男性は父と同じ仕事をしていると言って、絵をカバンの中に戻してしまった。

「…本当に会えるの?お父さんとお母さんに」

「あぁ、そのために教育を頼まれたんだ」

「教育?」

「勉強だよ、一応君は一時的に私の養子になるから知識を身に付けてもらわなくてはいけない、勉強は無駄ではない、再会した時にきっとご両親は喜んでくれるよ」

両親が迎えに来るまで、この人の養子になるのか。
養子にならないと孤児院から引き取れないし、両親にも会えないのか。

両親は今、この人の研究所で仕事をしていて迎えに行ける状態ではないらしい。
なるべく早く俺に会いたいから、この人に頼んだと言っていた。

両親の顔を見るまで、完全には信用出来ないが俺も両親に会いたい。

両親を知っているのは、あの絵を持っている事からして本当だ。

男性を見ると、俺をまっすぐに見つめていた。

もう5年も待ったんだ、この機会を失うと後何年待てばいいんだ?

「シャルロット、こんないい話は後にはないわ…由緒正しい家柄のお方よ」

「…マザー」

マザーがそこまで言うなら、大丈夫…かな。

男性の顔をもう一度見つめて、やっぱり怖いなと下を向いた。
でも、見た目で判断しちゃいけない…いじめっ子達と同じになる。

俺は男性に向かって「よろしくお願いします」と頭を下げた。

男性はこれから手続きとかがあるから、俺だけ応接室から出た。

廊下には、ヨシュアが立っていて下を向いていた顔を上げた。
顔が明るくなり、俺に抱きついてきて頭を撫でる。

孤児院を出るって事は仲良くなったヨシュアともお別れしなきゃいけない。

「ヨシュア、話があるんだ」

「ん?何?」

ここで立ってする話ではないと思って、勉強部屋に向かった。
今は勉強の時間じゃないから、勉強部屋には誰もいなかった。

ヨシュアも俺が呼び出された理由が分からなくて、知りたそうな顔をしていた。
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