悪役貴族と緋色の騎士

MIMO

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9年後

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10年掛かると言われたけど、9年で言われた勉強を全て終わらせた。
俺の平均的な頭脳では1年短縮するのがやっとだった。

でも、これでもうここから出る事が出来る。

両親には一度も会えなかったが、何度か手紙を渡された。
日常会話の手紙なんて、俺には必要ない。

ペンダントを直して、服の中に隠した。
まずは孤児院に顔を出して、それから今後の事を考えよう。
この年齢ではもう孤児院に住めないから一人暮らしをする。
まずは就職先を探して…と今後の事を考える。

扉を叩いて近くにいる見張り役に声を掛けた。

「もう終わった、これでいいだろ…早く出してくれ」

「……」

俺と会話をするのは、最初に会った使用人だけだ。
一度も見張り役の男達の声を聞いた事がない。
今日も相変わらず何も喋らないが、何処かに行く足音が聞こえた。
使用人でも呼びに行ったのだろうと、しばらく待ってみるとまた足音が響いた。

扉がカチャカチャと音がして、開いた。

いつもなら家庭教師が来る時しか開かなかったが、今の俺にはもう必要がない。
てっきり使用人が来るのかと思っていたが、目の前に現れた人に驚いた。

あれから一度も俺と合わなかった義父だった。

「久しぶりだな、シャルロット」

「は、はい」

「勉学を終わらせたようで、さすがあの二人の子だ」

養子であるから、この人は俺の義父だ。
その関係も、きっと今日で終わる。
元々俺の本当の両親が迎えに来るまでの期限付きだった。
もう9年も経ったんだ、俺に両親は会ってくれるよな。

周りを見渡すと、両親らしき人は廊下にいなかった。
俺に会いたくないなら、なんで監禁してまで俺に連れてきたんだ。

ずっと感情を押し殺して勉強ばかりしていたから、怒りの感情が爆発しそうだ。

廊下にいたのは義父と見張り役と、見た事がない少女だった。
いや、何処かで見た事がある…何処だったっけ。

「お義父様」

「すまなかった、紹介が遅れたな…私の息子のシャルロットだ」

「初めまして、シャルロットと申します」

義父の知り合いか?でも「おとうさま」って言っていた。
娘がいたのか?一度もそんな話を聞いた事がない。
誰も話してくれないから、知らないのは当然だ。

本当の娘なら、俺を息子って紹介するのはどうなんだ?
期間がある養子関係なのに…

少女は俺を睨み付けていたが、変な自己紹介をしたからではなくずっとだった。
まるで俺を敵視しているようだ。

初対面なのに、なんでこんなに睨まれなきゃいけないんだ?

それにこの顔…孤児院とかで見たんじゃない、もっと前…生前の頃見た…

『自分ですら知らなかった本当の私を、見つけて』

「あっ!!」

「な、何?」

「ごめん、何でもない」

いきなり大声を出して驚かせてしまった。
こんな話、きっと信じないだろうから笑って誤魔化した。

少女は特に興味がなかったのか「マリアンヌよ」と自己紹介した。
クリーム色の髪がウェーブしていて腰まで長い、何処かのお嬢様のようだ。
そして少女が名乗った名前、やっぱりそうだ。

生前の俺が死ぬ間際に聞いた、あの漫画のCMに出ていた少女そのものだった。
ただの偶然か?でも、なんか魔法を使っていたシーンもあったような…
もっと真剣にCMを見ていれば良かった。

それこそ漫画のような世界あり得ないと言いたいが、魔術があるから説得力がない。
もう一人、この少女の相手の男を見つけるまでは漫画の世界だって信じられない。

そう思うと、瞳が赤かった相手の男ってZランクではないだろうか。

黙ってしまった俺と少女に義父はわざとらしい大きな咳をした。

「シャルロット、君とマリアンヌは婚姻関係を結んだ」

「………は?」

考え事をしたが、義父がとんでもない話をしていたから顔を上げた。
マリアンヌは知っているのか、驚きはしなかった。

意味が分からない、なんで本人に何も言わずにそんな勝手な事を決めるんだ?
それに期間限定の養子なのに、両親は知ってるのか?

頭が追いつかず、俺は声を振り絞るように「嫌です」としか言えなかった。

生前知っていたとはいえ、よく知りもしない女性といきなり婚姻関係なんて言われても、受け入れられるわけがない。
それにマリアンヌはあのCMの男と付き合うんじゃないのか?

俺に全く似ていない美しい黒髪の男だった。
名前と容姿は同じでも、CMの内容は違うのか?

マリアンヌも、睨みつけるほど嫌なら断ればいいのになんで何も言わないんだ?

「もう決まった事だ、お互いの両親も了承済みだ」

「俺は、何も知りませんでした」

「言う必要はない、これはお互いの両親の問題だからな」

俺の結婚なのに、俺の問題じゃないのか?

この場合のお互いの両親は、俺の本当の両親って意味だよな。
俺には会わずに、何勝手に決めてんだよ。

マリアンヌが何処の家柄とか、政略結婚とかどうでもいい。
俺が何を言っても義父は「お前には関係ない」と言っていた。

俺の話の筈なのに、遠い何処かの話のような気がしてきた。
義父は言いたい事だけ言って、マリアンヌを連れて廊下を歩いていった。

大きなため息しか出なくて、俺は義父達と反対方向を歩いた。
久々の部屋以外の場所なのに、モヤモヤした気持ちになる。

やっと見張りがなくなる生活が出来ると思ったのに、まだここにいないといけないのか。

確かに俺を部屋から出るとは言ったが、養子縁組を解消するとは言っていなかった事を思い出して、再び大きなため息を吐いた。

考え事をしていたから、なにかにぶつかって痛かった。
廊下に何を置いているんだと、全てにイラついている今の俺は物にも怒りをぶつけそうだ。

廊下の端に四角いものがあり、中を覗くとゴミが置いてあった。
ゴミ回収の箱か、こんなところに放置しとくなよ。

ため息を吐きながら、離れようとしたらなにかが見えた。
ただのゴミだろうけど、何となくそれを手にした。

この場をマリアンヌに見られて婚約解消されたらいいな。
俺が言っても、婚約解消してくれないから…

手にしたものを見て、そんなふざけた考えは一瞬で吹き飛んだ。
血の気が引いて、それを見つめた。

これ、このペンダント……俺が持っているペンダントとデザインが似ている。
首に下げていたペンダントを出して、見比べてみた。
同じひし形のペンダントで、唯一違うのは俺のペンダントにはキラキラ虹色に光る砂が入っている事だ。
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