悪役貴族と緋色の騎士

MIMO

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逃げ場のない牢獄

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俺が全て罪を背負ったら罪人奴隷になるって分かっていた。
それでも俺はマリアンヌを恨んではいないし、むしろ感謝をしている。

地下での事を考えると、先にマリアンヌが怪しい研究について突き止めた。
義父達はそこで、俺に罪を被せる事を思いついた。
そうすれば義父達がやってきた事は誰も咎める事はない。

それに俺が罪人奴隷だと何をしても罪にはならない。
殺しでも何でもやりたい放題だろう。
でも、首謀者が義父なら帰ってきてから実行すると思う。

この国は牢獄に入った人には面会は出来ない。
事前に何か使用人に命令してるならなにかするだろうけど、孤児院に自分の足で来た事を考えると義父がいるところでなにかするだろう。
俺の処刑より早くに何とかして牢獄から出てくると思う。

貴族の出身には騎士団も何も言えないしな。

俺を生かすのは、今は殺さないというだけで助けるとかいう話ではない。
そういえば義父達は人を使って実験をしていたんだよな。

俺も実験をするために生かされているのかもしれない。
でも、その実験で何人も死んでいるなら俺も安全ではない。

まだ何も分からないが、これだけは分かる。

マリアンヌがいなかったら、俺は何も知らぬまま実験かなにかで早めに死んでいた。
1年で俺は両親が死んでも守ろうとしたペンダントの真相を暴く。
きっと、その先に俺の冤罪を晴らす証拠も手に入ると信じている。

義父の企みなんかは俺の想像でしかないが、そこまで大きく間違っていない。
義父達がペンダントを欲していたのも、俺が死刑になった時に同じ裁判所にいた義父の笑みは忘れない。

周りの人は死刑宣告をされた俺の顔しか見ていなかった。
俺が泣き叫ぶと思っているのか、今は精神がすり減るほど怖いけど…

人のいる道を避けながら、建物の裏の道を歩く。
外はもうすっかり暗くて、あまり出歩く人がいないのが幸いだ。

1年生き延びる事が大切だが、使用人達に注意する事も大切だ。
使用人の何人かは騎士から逃げていて、まだ屋敷とか何処かに潜んでいる。
義父の命令とか関係なく、これがバレたら血眼になって俺を探す筈だ。

服の上からペンダントに触れると、少し温かい気持ちになって一人じゃないと思える。

使用人が俺から奪ったのは、あの時ゴミ回収の箱から見つけたもう一つのペンダントだ。
中身を見られたら嘘がバレるとずっとヒヤヒヤしていた。

でも幸いな事に地下室に入ってきたマリアンヌ達に気を取られて確認はしなかった。

今頃気付いて大騒ぎだろう。

もし俺に命令出来る奴がいたら、俺は抗う事も出来ずに本物のペンダントを渡してしまう。
向こうもそれを分かっているから、俺を見つけたらアイツらの勝ちだ。

このペンダントは今、俺が残された唯一の手がかりだ…失うわけにはいかない。
何処も安全ではないが、何処か野宿出来るところを探そう。
国の外に夜出歩く事は出来ない、魔物が彷徨いているからな。

国を出ても何も変わらない、何処に居ようとも義父達は探し出す…ペンダントに対しての執着を考えたら安易に想像出来る。
だったら、この国に残った方が見つけづらいのかもしれない。
一番危険な場所が、一番安全だという事もある。

灯りを避けて暗がりを歩いていたら、人とぶつかった。

「あっ、ごめんなさ…」

「テメェ、何処見て歩いているんだ!俺を誰だと思っていやがる!」

大柄の男は怒鳴りながら近付いてくる。
幸いな事に、暗がりで首輪は見えていないみたいだ。
それでも至近距離で見られたら、首輪をしているのがバレる。

俺はもう一度「ごめんなさい!」と謝って、来た道を引き返した。
後ろから声が聞こえたが、反応する事なく走り続けた。
相手がAAランク以上なら俺の人生はここで終わったようなものだ。

結局、俺は近くの馬小屋の中で過ごす事になった。
屋根も付いてるし、意外といいかもしれない。
馬小屋の持ち主が入ってくるのは多分朝早くだから、それまでお邪魔する事にした。

孤児院の事も頭をよぎったが、マザー達は俺の味方ではなかったと別の住む場所を探す事を考えた。
宿屋とかは首輪が付いていたら無理だから、やっぱり野宿か。
いや、首を隠せば誤魔化せるかもしれない。

服を引っ張って隠せるか試していたら、いろいろな事が起きすぎて疲れてしまった。
藁の上に寝転がり、目蓋を閉じた。

今日の出来事が全部夢だったら、どんなに良かったか。
俺の誕生日プレゼントだって、孤児院の皆が笑っている映像が脳内に再生された。
瞳を伝う涙は、俺の寂しさや辛さまでは流してはくれなかった。






ーーーーー
ーーー


人の足音が聞こえて、すぐに目が覚めた。
馬小屋の持ち主が来る前に行く予定だったのに寝過ごしてしまった。

馬に餌を与えに来たみたいで、馬に声を掛けている。
一頭一頭話しかけていて、こちらに来るのは時間の問題だ。

藁を抱えて、なるべく自分の姿が見えないように積み重ねた。
相手はお爺さんみたいだし、もし気付かれても走って逃げれば追いつけない。
貴族には見えないから大丈夫だ、引退した騎士だったら終わりだけど…

いや、大丈夫だって思わないと生き残れない、ポジティブに考えよう。

そう思っていたら、お爺さんは馬小屋から出て行った。
とりあえずやり過ごせて良かったけど、早くここから出ようと馬小屋から走って出た。

建物に寄りかかり、全速力で走ったから息が荒くなってしまい整える。
ずっと監禁されていたから運動不足だな。
こんなにすぐに疲れていたら、追い付かれてしまう。

そう頭では分かっていても身体が追いつかず、座り込んだ。

もうそろそろ街の人達が外に出る時間だろうか。
ペンダントに触れて、俺は小さく微笑んだ。

「誕生日おめでとう、俺」

孤児院にいた時は毎年お祝いしていた。
監禁されてからは、誰も祝ってくれないからせめて自分は祝おうと思った。
誕生日は俺だけじゃない、俺を産んでくれた両親に感謝する意味もあった。

20歳の誕生日を迎えた俺は、残された時間は1年となった。

立ち上がって、そろそろ行こうと思っていた俺に大きな影が重なった。

「探したぞ」

その声に聞き覚えがあり、後ろを振り返ったら首を掴まれた。
強い力で首を絞める男は声からして、昨日ぶつかった男だ。

俺の首をへし折る勢いの男はおもちゃを見つけたように歪んだ笑みを浮かべていた。
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