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第一章 はじまり
#10
しおりを挟む門に近づく護に、慌てた様子のゲートルが駆け寄ってきた。
「おい、どうした!? 大丈夫か!」
遠目にも血で真っ赤になっているのが見えたのだろう、そのほとんどが返り血とは知らず、ゲートルは念入りに護の無事を確かめる。
その身を案じるゲートルに、護はぽつりぽつりと話し始めた。
すぐに薬草が見つからなかった事、探しているうちに考え事に夢中になった事、森に近づいた事に気付かず、そこで獣に襲われた事、なんとか勝ちを拾い、そして今帰ることができた事。
「……馬鹿野郎、だから森には近づくなと言ったろう。一歩間違えれば今頃獣達の腹の中だ。……だが、よく帰ってきた。全く、無茶しやがって、ぼろぼろじゃねえか」
自らの身を案じ、諭し、労わってくれる言葉に護は泣きそうになる。
「すみません。――ありがとうございます……!」
「ちょっとこっち来い。応急手当くらいならしてやれる。あとその血塗れの格好もどうにかしないとな。お前今かなり酷いぞ」
詰所に連れて行かれ、魔術で大雑把に洗い流された後に、手当をしてもらう。
手は骨にひびも入っておらず、後遺症もなく治るそうだ。
状態が酷ければ高価なヒーリングポーションを使わないと完治は難しかっただろう。
「治癒軟膏は持ってるな? それを塗るだけでも多少は治りが早くなる。ほれ、貸してみろ」
「本当にありがとうございました」
再三に渡り礼をいい、護は詰所を辞した。ひとまず依頼の報告に冒険者ギルドに向かう。
今は昼の鐘が鳴る少し前、といったところだろうか。この時間にギルドに用がある者はあまりいない。列に並ぶこともなく、真っ直ぐいつもの受付嬢の所へ。
受付嬢の仕事柄、今の護の様な状態の者も少なくないのだろう、ぼろぼろの姿を見ても、ラーニャは慌てずに応対した。
ただ、心配はしているのか、僅かに眉尻を下げている。残念な事に護は気付かないが。
「おかえりなさいませ。
『小治癒草の葉の採取』の報告ですね。1、2、3、……10、…………30、はい、問題ありません。こちらが報酬になります、お疲れ様でした」
報酬は500イース。午前中の稼ぎとすればまずまずだろう。
「……それで、一体その格好はどうしたんですか?」
人が少ない事もあり、心配からか彼女は事情を尋ねてきた。
「あ、その、すみません、実は……」
ゲートルにも話した事をもう一度話し、護は忠告を無視する形になってしまった事を詫びた。
「はぁ、まったくもう……。
いいですか、冒険者はまず自分の命を一番に考えないと長生きできない職業なんですよ。――そもそも戦闘経験はないのでしょう?――何か戦闘用の魔術は覚えているのですか? ――せめてスキルを身に着けてから冒険してください。――……。――……!」
それから二十分ほど、護に対する説教が続く。
もう十数年ぶりかの説教を頭に刻み込みながらも、他の受付嬢達から集まる視線に、その顔を恥ずかしそうに赤らめている。
「とにかく、今後はこんな事にならないよう、くれぐれも注意するんだよ! ……こほん。まあその、あれです、無事にご帰還できてなによりですわ。ほほほ」
「……ハイ、ありがとうございます。今後はこんな事がない様気を付けます。」
余談だが、その後しばらく彼女はこの事で他の受付嬢達にからかわれる事になった。
冒険者ギルドを後にした護は、まずは血染めの服をなんとかしようと、疲れた体を引きずって服屋を探す。……それとは別に着替えも買わなければいけない。
見つけた服屋でその格好を店員に驚かれながら、ぎりぎり血染めの服の替えだけを購入する事が出来た。……普段着はまた今度だ、思ってたより相場が高い。
それから、買ってから一日で壊してしまった手甲を防具屋へ持っていく。
「こりゃあまた、……一日で随分とぼろぼろになったもんだな」
「あはは……、すみません。でも、そのおかげで命拾いしました」
「ま、防具ってのはぼろぼろになって装着者の体を守るもんだ。それで助けになったんならなによりだよ」
手甲と、ついでに盾も修理してもらうことになった。これでまた財布はすっからかんだ。
二の鐘が鳴った頃、ようやく護は宿に帰り着く。
受付の子供に元気のない挨拶を返しながら、部屋に戻ってベッドに倒れこむ。
「はぁ、……疲れた」
その言葉を最後に、護は眠りに落ちた。
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