14 / 72
第一章 はじまり
#10
しおりを挟む門に近づく護に、慌てた様子のゲートルが駆け寄ってきた。
「おい、どうした!? 大丈夫か!」
遠目にも血で真っ赤になっているのが見えたのだろう、そのほとんどが返り血とは知らず、ゲートルは念入りに護の無事を確かめる。
その身を案じるゲートルに、護はぽつりぽつりと話し始めた。
すぐに薬草が見つからなかった事、探しているうちに考え事に夢中になった事、森に近づいた事に気付かず、そこで獣に襲われた事、なんとか勝ちを拾い、そして今帰ることができた事。
「……馬鹿野郎、だから森には近づくなと言ったろう。一歩間違えれば今頃獣達の腹の中だ。……だが、よく帰ってきた。全く、無茶しやがって、ぼろぼろじゃねえか」
自らの身を案じ、諭し、労わってくれる言葉に護は泣きそうになる。
「すみません。――ありがとうございます……!」
「ちょっとこっち来い。応急手当くらいならしてやれる。あとその血塗れの格好もどうにかしないとな。お前今かなり酷いぞ」
詰所に連れて行かれ、魔術で大雑把に洗い流された後に、手当をしてもらう。
手は骨にひびも入っておらず、後遺症もなく治るそうだ。
状態が酷ければ高価なヒーリングポーションを使わないと完治は難しかっただろう。
「治癒軟膏は持ってるな? それを塗るだけでも多少は治りが早くなる。ほれ、貸してみろ」
「本当にありがとうございました」
再三に渡り礼をいい、護は詰所を辞した。ひとまず依頼の報告に冒険者ギルドに向かう。
今は昼の鐘が鳴る少し前、といったところだろうか。この時間にギルドに用がある者はあまりいない。列に並ぶこともなく、真っ直ぐいつもの受付嬢の所へ。
受付嬢の仕事柄、今の護の様な状態の者も少なくないのだろう、ぼろぼろの姿を見ても、ラーニャは慌てずに応対した。
ただ、心配はしているのか、僅かに眉尻を下げている。残念な事に護は気付かないが。
「おかえりなさいませ。
『小治癒草の葉の採取』の報告ですね。1、2、3、……10、…………30、はい、問題ありません。こちらが報酬になります、お疲れ様でした」
報酬は500イース。午前中の稼ぎとすればまずまずだろう。
「……それで、一体その格好はどうしたんですか?」
人が少ない事もあり、心配からか彼女は事情を尋ねてきた。
「あ、その、すみません、実は……」
ゲートルにも話した事をもう一度話し、護は忠告を無視する形になってしまった事を詫びた。
「はぁ、まったくもう……。
いいですか、冒険者はまず自分の命を一番に考えないと長生きできない職業なんですよ。――そもそも戦闘経験はないのでしょう?――何か戦闘用の魔術は覚えているのですか? ――せめてスキルを身に着けてから冒険してください。――……。――……!」
それから二十分ほど、護に対する説教が続く。
もう十数年ぶりかの説教を頭に刻み込みながらも、他の受付嬢達から集まる視線に、その顔を恥ずかしそうに赤らめている。
「とにかく、今後はこんな事にならないよう、くれぐれも注意するんだよ! ……こほん。まあその、あれです、無事にご帰還できてなによりですわ。ほほほ」
「……ハイ、ありがとうございます。今後はこんな事がない様気を付けます。」
余談だが、その後しばらく彼女はこの事で他の受付嬢達にからかわれる事になった。
冒険者ギルドを後にした護は、まずは血染めの服をなんとかしようと、疲れた体を引きずって服屋を探す。……それとは別に着替えも買わなければいけない。
見つけた服屋でその格好を店員に驚かれながら、ぎりぎり血染めの服の替えだけを購入する事が出来た。……普段着はまた今度だ、思ってたより相場が高い。
それから、買ってから一日で壊してしまった手甲を防具屋へ持っていく。
「こりゃあまた、……一日で随分とぼろぼろになったもんだな」
「あはは……、すみません。でも、そのおかげで命拾いしました」
「ま、防具ってのはぼろぼろになって装着者の体を守るもんだ。それで助けになったんならなによりだよ」
手甲と、ついでに盾も修理してもらうことになった。これでまた財布はすっからかんだ。
二の鐘が鳴った頃、ようやく護は宿に帰り着く。
受付の子供に元気のない挨拶を返しながら、部屋に戻ってベッドに倒れこむ。
「はぁ、……疲れた」
その言葉を最後に、護は眠りに落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる