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第一章 はじまり
#11
しおりを挟むじくじくとした手の痛みに護は目を覚ます。時刻は夜十二時、部屋の中は真っ暗だ。
「っつう……! 軟膏塗りなおした方がいいかな…」
暗い中手探りで荷物を探す。……中々見つからない。が、ふと魔術の存在を思い出す。
(そうだ、光魔術の中に灯りを出すのがあったよな)
「――『照らせ』うおっ、まぶしっ!?」
それも当然、本来は一部の灯りの無いダンジョンで広範囲を照らすために頭上に発生させて使う魔術だからだ。
部屋を照らす程度であれば、生活魔術に丁度いい光量のものがある。
闇に慣れた目に唐突な閃光をくらい、チカチカした目の回復を待つ護。
「うぐう……。――……ん、回復? って、ああ! 回復魔術取ってたじゃないすかー、やだー……」
間抜けなことに戦闘後から今の今まで完全に忘れていた。
回復魔術を両手にかけて、巻いてもらっていた包帯を外す。綺麗に完治したようだ。
魔術の効果に感嘆していると、グルルルル……。と、盛大に音を立てて腹が鳴る。朝食以降何も食べずに寝てしまったのだから当然だ。
とはいえ、とっくに七の鐘は鳴り終わっている。宿での食事は出来そうにない。護は仕方なく初日に支給された保存食を食べる事にした。
味気ない食事で腹を満たしながら、護は昼間の戦闘とも言えないような一戦を思い返していた。
何故気配察知や空間把握がうまく機能しなかったのか、戦闘がうまくいかなかったのはどうしてか。
冷静になった今考えてみると、取得時に試した時こそ周囲の気配を感じる事が出来たが、他の事に意識を逸らしてからは気配を感じた覚えがない。空間把握についても似たようなものだ。
武具戦闘スキルはギルド内で試すわけにもいかなかったので、ぶっつけ本番だった。
その効果を確かめるように、小剣を抜いて軽くいくつかの型を試す。うるさくして他の宿泊客に迷惑をかけるわけにもいかない。
ややぎこちないが、ほとんど触ったことの無い小剣をしっかり振れている。
だが、あの時のように混乱した状態でも同じように振れるかと聞かれれば、素直に頷くことは出来ないだろう。
要するに、やり方を知り、それを理解はしたが、『身について』いない。咄嗟に、反射的に、無意識のうちに行えるほどの経験がないのだ。
その事に気付いた護は、翌日から日銭をまかなえる程度に依頼を受け、残りの時間は宿の裏庭でスキルを身につけるべく練習をさせてもらうようになった。
「う゛あ゛ー……」
その翌日には筋肉痛でへろへろ状態だったが。
いくら体の動かし方が分かっていても、そのための筋肉がついているわけでもない。そうなるのは自明の理だっただろう。
更に翌日からは魔力操作の練習も始めた。
魔力が増えれば肉体はより活性化し、理想の肉体への近道となるだろう。
そんな日々の中、護は一つの指針を立てる事にした。
戦闘スタイルだ。
物理攻撃特化か、攻撃魔術特化か、支援魔術特化か、防御特化か、回避特化か。あるいは複数か。
どれもある程度こなせるようになるつもりだが、いつかパーティーに入れるなら何か一つ、光るものが欲しい。と儚い希望からの考えだ。……想像するのは自由である。
いくつかの候補の中からこれだ!と思うものを選択し、護はその日から目標に至るべくスキルを揃え、鍛錬を重ねる日々を繰り返す事となった。
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