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第一章 はじまり
#14
しおりを挟む依頼を終え、報告に戻ってくる冒険者達で心なしか賑やかさを増す時間帯。
街に鳴り響く三の鐘の音と共に護もまた戻ってきた。
「おかえり、マモル君。情報ではオーガが主って話だったけど、大丈夫だった? 怪我してない?」
もはや周囲にも完全に護担当(――一応言っておくが専属ではない)と認識されている受付嬢、ラーニャが護の全身を隅から隅まで注視する。
「だ、大丈夫です、ラーニャさん。どこも怪我してませんよ」
「それならいいけど…。オーガの討伐なんて普通はシルバー+のパーティーが受けるものよ? マモル君もシルバーではあるけどソロなんだから、いい加減ランクに合った依頼を受けるようにしなよ。依頼の達成率が高いのはよく知ってるけど、いつ何が起こるか分からないんだから。お金だってもう結構溜まってるでしょ?」
この世界に来た当日から二年間、ほぼ毎日護は自分のところに来るのだ、よく知ってるのも当然だろう。そして二年もあれば親しみも感じる。心配するのもまた、当たり前の事だろう。
「あう、え、っと、お金は溜まってますけど……」
「というか! 毎日毎日依頼ばっかりじゃない! ダンジョンの踏破を目指してるわけでもあるまいし、もう少しペース落としなよ」
「うぅん……」
護は一応最終目標として踏破を目指しているのだが、それを聞けば大部分の冒険者は現実的でないと一笑に付すだけだろう。それほどまでにダンジョンの踏破とは困難な事なのだ。
彼としてはようやく最近一般成人男性と同程度の魔力値になったところなので、それこそこれから更に最大魔力を高めるために連日ダンジョンに潜ろうと考えていたのだが、ラーニャが自身の身を案じて言ってくれている事も分かるので、どうにも煮え切らない返事を返してしまう。
「お金に余裕があるなら服でも買いに行きなよ。マモル君いつも似たような服着てるし。……あ、そうだ。なんなら今度私が選んであげようかっ」
さり気なくひきこもりがちな人間に大ダメージを与えかねない発言をしながら、人によってはデートの誘いにも聞こえる言葉を吐く。残念ながら本人にその気は無い。
「え…………、は!?」
女の子と一緒に買い物、という状況を考えた瞬間半ば思考が停止した護はそんな意味を想像することも出来ず、慌てて拒否しようとする。
「いやいや、その「あ、依頼の報告がまだだったわね。討伐証明の部位とギルドカード出してっ」あ、はい」
反射的に報告を完了する護。再度口を開こうとするも、長く話しすぎたようだ。列の後ろから急かす声が聞こえる。結局いつの間にか、数日後護は買い物に付き合ってもらうことになっていた。
「おは、ようございます」
話が決まってから待ち合わせの場所に到着するまで、どうにか話を無かった事にできないか。とひたすら考え続けていた護だが、事ここに至ってようやく諦める。
「おはよう、マモル君。よく眠れた……みたいだね。あははっ、寝癖ついてるよ」
ベッドで悩んでいたせいか、なんだかんだでしっかり眠れた護だった。
「さ、いこっかっ。お金はちゃんと多めに持ってきた? マモル君は影魔術使えるんだし、今日はいくつかお店を案内するつもりだけど、色々買っても大丈夫だよね。その代わりと言ったらなんだけど、お昼は私が奢ってあげるね!」
「あ、えと、はい。その、今日はよろしくおねがいします」
ラーニャの先導を受けて、いくつかどころではないたくさんの被服店をまわる護。数店舗ほどやたら高級なところもあったが、それ以外は今の貯金額からすればおおよそ手頃と言える値段だろう。
「あ、これなんか普段着にいいんじゃないかな。マモル君によく似合いそうだよ」
「どれどれ……って、高っ!?」
「ふふっ、まあそっちは冗談として、これなら値段も手頃だし、どうだろ?」
「これくらいなら、まあ……」
とはいえ、いくらなんでも服だけで未だそれほど大きくはない影の空間をいっぱいにするわけにもいかない。不満げなラーニャに必死に弁解して、護は厳選した数通りの衣類を手に入れたのだった。
「今日は中々いい服が買えて良かったね。……他にも色々いいのあったのになあ」
朝の三の鐘(午前七時)に待ち合わせて、今は八の鐘(正午)。露店の集中する中央広場周辺、約束通りラーニャの奢りでゆっくりと昼食を摂る二人の姿があった。
「あはは……。一応冒険者ですから、荷物を服だけでいっぱいにするわけにもいかないですよ。選んでくれたラーニャさんには申し訳ないですけど。」
「それは仕方ないかあ。なら次買い物する時までに『呑み込む影』大きくしといてね!」
「(え、次あるの……)ええと、……善処します。……んんっ。あの、ラーニャさん、今日はその、ありがとうございました」
「ううん、気にしないで。今はちょっと強引だったかなって思ってたの」
「そんな……」
「でもまあ、懲りずにまた誘うと思うから、その時もよろしくね?」
「……はい。こちらこそよろしくお願いします」
人との関わりを中々持とうとしない自分を気にかけてくれる、そんなラーニャの存在に、護は胸の内で深く感謝した。
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