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第一章 駆け出し冒険者は博物学者
#34
銅札への昇格試験の通知が来た頃、俺は、というか孤児院は、別の問題を抱えていた。
先日可能性を指摘された騒動が、どうやら現実味を帯びてきたようなのだ。
相手がただのこそ泥なら、まだ良い。けど、どうやら冒険者崩れ(または現役の冒険者)だという。
更に拙いことに、先日の犬鬼討伐戦で、【Childrenof|Seraph《こどもたち】はその戦闘力を以もって結構名を売ってしまった。となると、襲撃は十中八九、力押しになる。
一方こちらは守るものが多すぎる。
孤児院の子供たちは当然として、その施設や財産その一切は子供たちのものである。無粋な襲撃者たちに毛一筋ほどの傷も付けさせる訳にはいかない。
よって、積極的に防衛を考える必要が出てきたのである。
◇◆◇ ◆◇◆
最初に行ったのは、ボイラーの設計変更。
これは単独で価値あるものとなるので、浴場の建物と一体化させ、専門の道具を使用して解体しなければ動かせないようにしたのである。
次に、隣接する炭焼き小屋と食料貯蔵庫・解体作業場を改造し、要塞化させる。
これは、現在の孤児院で価値のあるものは貯蔵庫内の獲物と木炭であるから、ここに子供たちの避難場所を作り、守るべきものを一か所に纏める計画である。ついでに子供たちの作品である服などの保管場所も作り、木炭で食肉の匂いが移らないように脱臭する。解体作業場は迎撃拠点とする。
院内の塀の内側や、建物回りなどの多くの場所に、砂利を敷き詰めた。これは音で侵入者を察知する仕掛けだ。
そして何より頭を悩ませたのは、迎撃兵器の設置である。
◇◆◇ ◆◇◆
「……これ、本気で言っているの?」
「ええ。シンディさんなら簡単に作れるでしょ? 耐久性は追求しないで良いです。一発撃てれば良いですから」
「一発で良いって、二発目が必要になったらどうするの?」
「だから、物自体の数を多く作ってもらう必要があるんです。どちらにしても、実戦中に再装填する暇はないでしょうから」
迎撃兵器として選んだのは、弩である。
これは中・近距離で使用する際命中率が高く、威力も絶大であり(ちょっとした鎧ならあっさり貫通する)、拠点防衛には最適な武器なのである。
が、当然利点と欠点がある。
欠点は、一発撃った後の再装填に時間がかかること、物自体が大きくて持ち歩きに不便であること、機構が複雑で製造が難しく且つ故障し易いこと。
そして、欠点にして利点は。
「撃つだけなら簡単。それこそ女子供でも撃てる。
これを使えばセラ院長や子供たちも戦力になる。
それは、かなり危険なことじゃないの?」
誰でも戦力になる。これは戦力が増えるという利点である一方、守るべき女子供が前線で危険に曝されるという欠点でもある。
「おっしゃる通りです。でも二つの意味でこれを導入することを選びました。
一つは、少なくとも今回は俺とアリシアさん以外の人間に戦わせるつもりはありません。数を用意するのは、再装填の手間を省く為です。
二つ目は、俺は生涯に亘って孤児院にいられる訳じゃぁ有りません。いつかは孤児院を離れる日が来ます。だから、俺がいなければ守れない、というのでは困るんです。
子供たちに戦わせたくはない。けど、子供たちに“自分たちの居場所”を守る気概を持ってほしい。だから、『使わせない』と言いながら使い方を教えますし、必要ならいつでも使えるように子供たちの手の届く場所に置いておきます。
どちらにしても、襲撃が行われれば、子供たちの生活の場は血で染まることが明らかなのですから、今更その手を汚させたくないなどと綺麗事を言うつもりはないです」
結局、用意した弩は20丁。矢弾も、同じく20本。
また、解体作業場の窓に格子状の板を張り付け、銃眼とする。
そうして準備を整えながら、並行して何度か避難訓練(予告なしのものを含む)を行い、その時に備えた。
◇◆◇ ◆◇◆
そして、ある日の深夜。
塀の上に仕掛けたワイヤーが引かれ、室内で鳴子が音を立てた。侵入者だ。
速やかに子供たちを起こし、班ごとに静かに炭焼き小屋奥の避難部屋に移動した。
俺とアリシアさん、セラさんと助手に志願した子供(ミリアの弟分でライ、という名前だ)が解体小屋に入った。
解体小屋と貯蔵庫は、その目的上天井が高い。
屋根裏まで登ったライは、本人が自慢する視力で侵入者を探った。
そのうち。
本館(子供たちの勉強部屋や院長の執務室のある建物)近くの砂利が鳴った。
火魔法を封入している照明は高くて買えない。だから獣油のランプを明り取りに使っているのだが、その淡い光の中、黒装束の男が6名。リーダーは……、おそらく砂利を踏んだ男の、すぐ後ろにいる男。
砂利の鳴らす音が警報装置である可能性に至り、即座に足を止めさせたのだ。だが、警報装置ならすぐに警備担当者が駆け付ける筈。それがないのはどういうことか、考えていることだろう。
だけど、結論を出す余裕など与えない。
〔穿孔投擲〕の魔法で撃ち出される鉄串は、見えていれば必中なのだから!
最初の一撃で確実に1人仕留め、同時にアリシアさんが弩を撃つ。命中。
すかさずセラさんがアリシアさんに次の弩を渡し、二発目を撃つ。これは外れ。
ライは最早静寂を守る必要はないからと、アリシアさんの弩をよけた男がどこに逃げたかを声に出して報告し、その声に従って俺はもう一本鉄串を、建物の壁越しに撃ち込む。鉄串は壁を二枚貫通した上で、侵入者の後頭部を貫いた。
戦闘開始からわずか10秒足らずで3人が死傷し、残り3人は恐慌状態になったようだ。射線からこちらの居場所を特定する余裕もなく(もっとも壁を貫通しての攻撃を思えば、方向だけ特定出来てもあまり意味はない)、叫び声をあげながら剣を振り回した。けどそれは、こちらにとっては狙いを付ける余裕を与えてくれているのと同じこと。
アリシアさんはその後3発撃って2発命中させ、俺は得物を苦無に持ち替え、〔投擲〕で残り1人の足を吹き飛ばした。
終わってみれば、戦闘時間1分程度。孤児院側に怪我人はなし。
襲撃者は即死3名、重傷3名(うち1名は夜明けを待たずに息を引き取った)。
夜のうちに冒険者ギルドに報告をし、生存者を引き取らせたのであった。
☆★☆ ★☆★
この夜、孤児院防衛で使われた弩の運用方法(射手1人と、助手が装填済みの弩を射手に渡すやり方)は、のちに装填担当者を加え、所謂【長篠三段撃ち】方式で、後年ハティスの街の防衛戦で侵略者に対して甚大じんだいな被害を生じせしめた。
しかしこの防衛戦はそれに従軍したハティスの戦士たちにとって、それに先立つカランの村でのゴブリン兵による迎撃戦と同じく、一般市民を避難させる為の時間稼ぎに過ぎず、1人も降伏せず果敢に戦い、また最後には街に火を放ち、全てを灰燼に帰した。
だからこそ侵略者たちは、弩で連続攻撃を可能とした戦術を解き明かすことが出来なかった。
このことから、この世界に於ける【長篠三段撃ち】は、【ハティス方式】と呼ばれるようになる。
先日可能性を指摘された騒動が、どうやら現実味を帯びてきたようなのだ。
相手がただのこそ泥なら、まだ良い。けど、どうやら冒険者崩れ(または現役の冒険者)だという。
更に拙いことに、先日の犬鬼討伐戦で、【Childrenof|Seraph《こどもたち】はその戦闘力を以もって結構名を売ってしまった。となると、襲撃は十中八九、力押しになる。
一方こちらは守るものが多すぎる。
孤児院の子供たちは当然として、その施設や財産その一切は子供たちのものである。無粋な襲撃者たちに毛一筋ほどの傷も付けさせる訳にはいかない。
よって、積極的に防衛を考える必要が出てきたのである。
◇◆◇ ◆◇◆
最初に行ったのは、ボイラーの設計変更。
これは単独で価値あるものとなるので、浴場の建物と一体化させ、専門の道具を使用して解体しなければ動かせないようにしたのである。
次に、隣接する炭焼き小屋と食料貯蔵庫・解体作業場を改造し、要塞化させる。
これは、現在の孤児院で価値のあるものは貯蔵庫内の獲物と木炭であるから、ここに子供たちの避難場所を作り、守るべきものを一か所に纏める計画である。ついでに子供たちの作品である服などの保管場所も作り、木炭で食肉の匂いが移らないように脱臭する。解体作業場は迎撃拠点とする。
院内の塀の内側や、建物回りなどの多くの場所に、砂利を敷き詰めた。これは音で侵入者を察知する仕掛けだ。
そして何より頭を悩ませたのは、迎撃兵器の設置である。
◇◆◇ ◆◇◆
「……これ、本気で言っているの?」
「ええ。シンディさんなら簡単に作れるでしょ? 耐久性は追求しないで良いです。一発撃てれば良いですから」
「一発で良いって、二発目が必要になったらどうするの?」
「だから、物自体の数を多く作ってもらう必要があるんです。どちらにしても、実戦中に再装填する暇はないでしょうから」
迎撃兵器として選んだのは、弩である。
これは中・近距離で使用する際命中率が高く、威力も絶大であり(ちょっとした鎧ならあっさり貫通する)、拠点防衛には最適な武器なのである。
が、当然利点と欠点がある。
欠点は、一発撃った後の再装填に時間がかかること、物自体が大きくて持ち歩きに不便であること、機構が複雑で製造が難しく且つ故障し易いこと。
そして、欠点にして利点は。
「撃つだけなら簡単。それこそ女子供でも撃てる。
これを使えばセラ院長や子供たちも戦力になる。
それは、かなり危険なことじゃないの?」
誰でも戦力になる。これは戦力が増えるという利点である一方、守るべき女子供が前線で危険に曝されるという欠点でもある。
「おっしゃる通りです。でも二つの意味でこれを導入することを選びました。
一つは、少なくとも今回は俺とアリシアさん以外の人間に戦わせるつもりはありません。数を用意するのは、再装填の手間を省く為です。
二つ目は、俺は生涯に亘って孤児院にいられる訳じゃぁ有りません。いつかは孤児院を離れる日が来ます。だから、俺がいなければ守れない、というのでは困るんです。
子供たちに戦わせたくはない。けど、子供たちに“自分たちの居場所”を守る気概を持ってほしい。だから、『使わせない』と言いながら使い方を教えますし、必要ならいつでも使えるように子供たちの手の届く場所に置いておきます。
どちらにしても、襲撃が行われれば、子供たちの生活の場は血で染まることが明らかなのですから、今更その手を汚させたくないなどと綺麗事を言うつもりはないです」
結局、用意した弩は20丁。矢弾も、同じく20本。
また、解体作業場の窓に格子状の板を張り付け、銃眼とする。
そうして準備を整えながら、並行して何度か避難訓練(予告なしのものを含む)を行い、その時に備えた。
◇◆◇ ◆◇◆
そして、ある日の深夜。
塀の上に仕掛けたワイヤーが引かれ、室内で鳴子が音を立てた。侵入者だ。
速やかに子供たちを起こし、班ごとに静かに炭焼き小屋奥の避難部屋に移動した。
俺とアリシアさん、セラさんと助手に志願した子供(ミリアの弟分でライ、という名前だ)が解体小屋に入った。
解体小屋と貯蔵庫は、その目的上天井が高い。
屋根裏まで登ったライは、本人が自慢する視力で侵入者を探った。
そのうち。
本館(子供たちの勉強部屋や院長の執務室のある建物)近くの砂利が鳴った。
火魔法を封入している照明は高くて買えない。だから獣油のランプを明り取りに使っているのだが、その淡い光の中、黒装束の男が6名。リーダーは……、おそらく砂利を踏んだ男の、すぐ後ろにいる男。
砂利の鳴らす音が警報装置である可能性に至り、即座に足を止めさせたのだ。だが、警報装置ならすぐに警備担当者が駆け付ける筈。それがないのはどういうことか、考えていることだろう。
だけど、結論を出す余裕など与えない。
〔穿孔投擲〕の魔法で撃ち出される鉄串は、見えていれば必中なのだから!
最初の一撃で確実に1人仕留め、同時にアリシアさんが弩を撃つ。命中。
すかさずセラさんがアリシアさんに次の弩を渡し、二発目を撃つ。これは外れ。
ライは最早静寂を守る必要はないからと、アリシアさんの弩をよけた男がどこに逃げたかを声に出して報告し、その声に従って俺はもう一本鉄串を、建物の壁越しに撃ち込む。鉄串は壁を二枚貫通した上で、侵入者の後頭部を貫いた。
戦闘開始からわずか10秒足らずで3人が死傷し、残り3人は恐慌状態になったようだ。射線からこちらの居場所を特定する余裕もなく(もっとも壁を貫通しての攻撃を思えば、方向だけ特定出来てもあまり意味はない)、叫び声をあげながら剣を振り回した。けどそれは、こちらにとっては狙いを付ける余裕を与えてくれているのと同じこと。
アリシアさんはその後3発撃って2発命中させ、俺は得物を苦無に持ち替え、〔投擲〕で残り1人の足を吹き飛ばした。
終わってみれば、戦闘時間1分程度。孤児院側に怪我人はなし。
襲撃者は即死3名、重傷3名(うち1名は夜明けを待たずに息を引き取った)。
夜のうちに冒険者ギルドに報告をし、生存者を引き取らせたのであった。
☆★☆ ★☆★
この夜、孤児院防衛で使われた弩の運用方法(射手1人と、助手が装填済みの弩を射手に渡すやり方)は、のちに装填担当者を加え、所謂【長篠三段撃ち】方式で、後年ハティスの街の防衛戦で侵略者に対して甚大じんだいな被害を生じせしめた。
しかしこの防衛戦はそれに従軍したハティスの戦士たちにとって、それに先立つカランの村でのゴブリン兵による迎撃戦と同じく、一般市民を避難させる為の時間稼ぎに過ぎず、1人も降伏せず果敢に戦い、また最後には街に火を放ち、全てを灰燼に帰した。
だからこそ侵略者たちは、弩で連続攻撃を可能とした戦術を解き明かすことが出来なかった。
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