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第一章 駆け出し冒険者は博物学者
#35
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孤児院襲撃事件の翌日。
俺とアリシアさん、そしてセラさんは、冒険者ギルドに出向いた。事件の後始末について、ギルドから呼び出しがあったからである。
セラさんを連れて行きたい場所もあったので、丁度良かった。
「昨夜はご無事で何よりでした。怪我をした方とかはいらっしゃいませんか?」
「大丈夫よ、オードリー。ちょっと興奮しすぎて明け方まで寝られず、今やっとベッドに入った子ばかりだけど」
受付のお姉さん、オードリーさんっていうんだ。初めて知った。
「それで、犯人の生き残り三人についてですが。
うち1人は、既に息を引き取っていますが、残り2人は生きており、事情聴取に応じています。
孤児院が篤志家から莫大な寄付を受けているようなので、それが目当てだった、と。孤児院では大した警備はしていないから楽勝だと思ったけど、そんなことはなかった、と」
「その“篤志家”が、ここにいるガキんちょだってことは、連中は知っているのか?」
「取り調べの最中に知ったようです。自分たちと同じ仕事をして、その結果あれだけのことが出来るようになった。それも自分たちの三分の一の年齢の子供が、という事実を前に、抵抗する気力もなくしているようですね」
「で、彼らはどうなるのですか?」
「町役場に引き渡され犯罪奴隷とされます。装備と自身を売却して、その代金をまず被害の弁済に宛て、残りの三分の一を被害者に、三分の二を街がそれぞれ徴収します」
「今回のように事実上被害がない場合は?」
「いや、アレク。今回も迎撃準備にかなり金を使っているだろう? その代金を請求出来る。加えて壁の穴とか塀の疵とかもだ」
「そうですね。勿論それが妥当な請求額かどうかは精査させていただきますが」
「じゃぁ請求しない。あまり注目されたくないからね」
「成程……。色々あるようですね。深くは追及しませんが」
「そうしてくださると助かります」
「次にアリシアさん、アレクさん。貴方たち二人の銅札昇格試験についてですが」
「え? それは今この場で話すことなの?」
「はい。実は昨日の事件と関係がありまして」
「どういうこと?」
「単刀直入に結論から。試験は中止。無試験での昇格が認められることになりました」
「それはどういうことだい? 無試験合格なんていう話は、終ぞ聞いたことがないぞ?」
「そもそも、銅札昇格試験とはどのような意図があって行われるものか、ご存知ですか?」
「銅札に相応しい実力を持っているかどうかを判断する為に、じゃないのか?」
「厳密には違います。
銅札Cランクになると、商隊の護衛や盗賊団の討伐といった、人間相手の討伐依頼を受注することが出来るようになります。
が、多くの人は、魔物を討つことは出来ても、人間を殺すことには抵抗があります。例えば、この街に来たばかりの頃のアレク君のように。
だから、昇格試験として犯罪者――多くは盗賊です――の殺害をギルドは要求するのです」
「じゃぁ試験中止って……」
「事実上、昨夜の防衛戦が試験の代わりになったということです」
「……あまり喜べないな」
「そうですか?
貴方たちは、守りたいものを、守るべきものを、守る意志があり、守る力がある。それを証明出来たんです。それがあるとギルドに認められたんです。
それは、胸を張って喜ぶべきだと思いますが」
ま、そういう風に認識すれば、少しは慰めになるかな?
◇◆◇ ◆◇◆
これでひとまず落着。だが俺は、ついでとばかりにギルドに一つ質問をした。
「ねぇ、えっと、オードリーさん。教えてほしいことがあるんですが」
「何でしょう?」
「以前俺は、東の廃坑の権利を頂戴しましたよね? あれの書類関係って、どうなっているんですか?」
「ギルドで管理していますが、どうして?」
「実は、近々孤児院は幾つかの職人相手に商売を始めることになったんです」
「討伐した食用獣の食肉の卸ですか? それなら冒険者ギルドのギルドカードを持っていれば、特に手続きは必要ありませんよ。それに既にやっているでしょう?」
「いえ、食肉の卸ではなく、別の商売です。
で、その商売に廃坑の権利書を使う可能性があるんです」
「何を始める気か、ちょっと興味がありますが、それを聞くのはルール違反ですね。
わかりました。そういうことなら、書類はアレクさんにお返しします。
それから、経常的に職人や商人と取引をするのなら、商人ギルドに加盟した方が良いですね。加盟しなくても商売すること自体は出来るんですが、税金を毎日納めなければならず、且つ税率も高くなりますから、加入して損はありませんよ。
多量の現金はギルドに預けることも出来ますし」
「え? 何で預けるんだ?」
「アリシアさん、その目的は二つあるんです。
一つは防犯。昨日みたいなことがあったときも、現金が最小限しか手元になければ、被害も最小で済みますでしょ?」
「成程」
「もう一つは、為替です。
商人ギルドはこの街だけじゃないでしょうけど、余所の町で急にお金が必要になったとき、ギルドにお金を預けていれば、その預けたお金を担保にお金を借りれるんですよ。
返せなかったら預けたお金が没収されるだけ。結局自分のお金ですからね」
「アレクさん、よくご存じで」
金融システムの魁、という感じかな?
「有難うございます。冒険者ギルドと商人ギルド、両方に加入することに何か制限はありますか?」
「ええ。複数のギルドに加入することに制限はありません。紹介状も用意出来ます。
複数のギルドに加入した場合、最もギルドランクの高いギルドのカードを主として、それ以外のギルドのランクを主たるギルドカードに裏書きする、という形で統合されます。
アレクさんは今商人ギルドに加入すると、Eランク商人と認定されますから、うちのギルドカードにそう裏書されることになります」
◇◆◇ ◆◇◆
「そうか、やっぱり商人ギルドに登録する必要があるか」
アリシアさんとセラさんは、冒険者ギルドを出てから次の目的地である商人ギルドへ向かう道すがらその理由に思い至ったようだった。
「えぇ。【ミラの店】に服を卸し、鍛冶師ギルドには木炭を卸します。両方とも経常的な商取引ですからね。実は鍛冶師ギルドに対する商品は他にもあるんですが」
「何だ、また何か発明したのか?」
「厳密には、『発明』じゃなく『発見』です。それは昔からそこにありましたから」
「ほほお、それは一体?」
「今はまだ秘密。先にネタバレすると面白くないですから」
「って言っても、例の廃坑絡みの話だろう?」
「さすがにその程度はわかりますか」
「莫迦にしているのか?」
「はっはっはっ。イヤダナソンナコトアリマセンヨ」
「成程。莫迦にしているんじゃなく、莫迦だと確信しているのか」
「のーこめんとで」
「でも、私が同行しなきゃならない理由って、何?」
「そりゃぁ孤児院の取引です。孤児院の院長先生がいなければ話は始まりませんよ」
俺とアリシアさん、そしてセラさんは、冒険者ギルドに出向いた。事件の後始末について、ギルドから呼び出しがあったからである。
セラさんを連れて行きたい場所もあったので、丁度良かった。
「昨夜はご無事で何よりでした。怪我をした方とかはいらっしゃいませんか?」
「大丈夫よ、オードリー。ちょっと興奮しすぎて明け方まで寝られず、今やっとベッドに入った子ばかりだけど」
受付のお姉さん、オードリーさんっていうんだ。初めて知った。
「それで、犯人の生き残り三人についてですが。
うち1人は、既に息を引き取っていますが、残り2人は生きており、事情聴取に応じています。
孤児院が篤志家から莫大な寄付を受けているようなので、それが目当てだった、と。孤児院では大した警備はしていないから楽勝だと思ったけど、そんなことはなかった、と」
「その“篤志家”が、ここにいるガキんちょだってことは、連中は知っているのか?」
「取り調べの最中に知ったようです。自分たちと同じ仕事をして、その結果あれだけのことが出来るようになった。それも自分たちの三分の一の年齢の子供が、という事実を前に、抵抗する気力もなくしているようですね」
「で、彼らはどうなるのですか?」
「町役場に引き渡され犯罪奴隷とされます。装備と自身を売却して、その代金をまず被害の弁済に宛て、残りの三分の一を被害者に、三分の二を街がそれぞれ徴収します」
「今回のように事実上被害がない場合は?」
「いや、アレク。今回も迎撃準備にかなり金を使っているだろう? その代金を請求出来る。加えて壁の穴とか塀の疵とかもだ」
「そうですね。勿論それが妥当な請求額かどうかは精査させていただきますが」
「じゃぁ請求しない。あまり注目されたくないからね」
「成程……。色々あるようですね。深くは追及しませんが」
「そうしてくださると助かります」
「次にアリシアさん、アレクさん。貴方たち二人の銅札昇格試験についてですが」
「え? それは今この場で話すことなの?」
「はい。実は昨日の事件と関係がありまして」
「どういうこと?」
「単刀直入に結論から。試験は中止。無試験での昇格が認められることになりました」
「それはどういうことだい? 無試験合格なんていう話は、終ぞ聞いたことがないぞ?」
「そもそも、銅札昇格試験とはどのような意図があって行われるものか、ご存知ですか?」
「銅札に相応しい実力を持っているかどうかを判断する為に、じゃないのか?」
「厳密には違います。
銅札Cランクになると、商隊の護衛や盗賊団の討伐といった、人間相手の討伐依頼を受注することが出来るようになります。
が、多くの人は、魔物を討つことは出来ても、人間を殺すことには抵抗があります。例えば、この街に来たばかりの頃のアレク君のように。
だから、昇格試験として犯罪者――多くは盗賊です――の殺害をギルドは要求するのです」
「じゃぁ試験中止って……」
「事実上、昨夜の防衛戦が試験の代わりになったということです」
「……あまり喜べないな」
「そうですか?
貴方たちは、守りたいものを、守るべきものを、守る意志があり、守る力がある。それを証明出来たんです。それがあるとギルドに認められたんです。
それは、胸を張って喜ぶべきだと思いますが」
ま、そういう風に認識すれば、少しは慰めになるかな?
◇◆◇ ◆◇◆
これでひとまず落着。だが俺は、ついでとばかりにギルドに一つ質問をした。
「ねぇ、えっと、オードリーさん。教えてほしいことがあるんですが」
「何でしょう?」
「以前俺は、東の廃坑の権利を頂戴しましたよね? あれの書類関係って、どうなっているんですか?」
「ギルドで管理していますが、どうして?」
「実は、近々孤児院は幾つかの職人相手に商売を始めることになったんです」
「討伐した食用獣の食肉の卸ですか? それなら冒険者ギルドのギルドカードを持っていれば、特に手続きは必要ありませんよ。それに既にやっているでしょう?」
「いえ、食肉の卸ではなく、別の商売です。
で、その商売に廃坑の権利書を使う可能性があるんです」
「何を始める気か、ちょっと興味がありますが、それを聞くのはルール違反ですね。
わかりました。そういうことなら、書類はアレクさんにお返しします。
それから、経常的に職人や商人と取引をするのなら、商人ギルドに加盟した方が良いですね。加盟しなくても商売すること自体は出来るんですが、税金を毎日納めなければならず、且つ税率も高くなりますから、加入して損はありませんよ。
多量の現金はギルドに預けることも出来ますし」
「え? 何で預けるんだ?」
「アリシアさん、その目的は二つあるんです。
一つは防犯。昨日みたいなことがあったときも、現金が最小限しか手元になければ、被害も最小で済みますでしょ?」
「成程」
「もう一つは、為替です。
商人ギルドはこの街だけじゃないでしょうけど、余所の町で急にお金が必要になったとき、ギルドにお金を預けていれば、その預けたお金を担保にお金を借りれるんですよ。
返せなかったら預けたお金が没収されるだけ。結局自分のお金ですからね」
「アレクさん、よくご存じで」
金融システムの魁、という感じかな?
「有難うございます。冒険者ギルドと商人ギルド、両方に加入することに何か制限はありますか?」
「ええ。複数のギルドに加入することに制限はありません。紹介状も用意出来ます。
複数のギルドに加入した場合、最もギルドランクの高いギルドのカードを主として、それ以外のギルドのランクを主たるギルドカードに裏書きする、という形で統合されます。
アレクさんは今商人ギルドに加入すると、Eランク商人と認定されますから、うちのギルドカードにそう裏書されることになります」
◇◆◇ ◆◇◆
「そうか、やっぱり商人ギルドに登録する必要があるか」
アリシアさんとセラさんは、冒険者ギルドを出てから次の目的地である商人ギルドへ向かう道すがらその理由に思い至ったようだった。
「えぇ。【ミラの店】に服を卸し、鍛冶師ギルドには木炭を卸します。両方とも経常的な商取引ですからね。実は鍛冶師ギルドに対する商品は他にもあるんですが」
「何だ、また何か発明したのか?」
「厳密には、『発明』じゃなく『発見』です。それは昔からそこにありましたから」
「ほほお、それは一体?」
「今はまだ秘密。先にネタバレすると面白くないですから」
「って言っても、例の廃坑絡みの話だろう?」
「さすがにその程度はわかりますか」
「莫迦にしているのか?」
「はっはっはっ。イヤダナソンナコトアリマセンヨ」
「成程。莫迦にしているんじゃなく、莫迦だと確信しているのか」
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